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Houzzツアー:京都・歴史街道沿いの築100年の古民家を、重厚な和モダン住宅に
歴史ある西国街道に面し、1世紀以上の時を刻む木造家屋の実家を、建築家が両親と家族のためにリノベーション。旧家の趣と職人の技をモダンに取り入れた家と、風情のある庭のハーモニー。
Miki Anzai
2016年10月14日
京都駅から東海道・山陽本線で3駅ほど南西に下った向日町(むこうまち)駅から少し西へ向かうと、京都の東寺から下関までを結ぶ西国街道(さいごくかいどう)が走っている。幅およそ4.5mのこの道沿いには、今も長岡京跡、寺や神社、町屋など多くの史跡や建造物が残されている。建築家の中村昌彦さんの実家も、この歴史街道に面して建っており、現在は両親が高校生の弟と3人で暮らしている。
祖父母の代は麹造りをしていた中村家。広大な敷地内には、増改築を繰り返した築100年を超す木造家屋や、複数の倉庫が建てられていた。そこを、「北側は賃貸マンションに、南側は駐車場に、中央の母屋部分を、画家である父・孝平さんが絵画制作をするアトリエを兼ねた家族3人で暮らせる住宅」に再編した。このプロジェクトを担当したのが、長男で一級建築士の昌彦さんと、妻の菜穂子さんが主宰するデザイン事務所〈koyori(こより)〉だ。隣接するマンションも、昌彦さんが仲間と設立した〈DATT一級建築士事務所〉が設計したため、マンションと中村邸の外観は連続性が保たれ、モダンでありながら、京都の趣ある景観にしっくりと溶け込んでいる。
祖父母の代は麹造りをしていた中村家。広大な敷地内には、増改築を繰り返した築100年を超す木造家屋や、複数の倉庫が建てられていた。そこを、「北側は賃貸マンションに、南側は駐車場に、中央の母屋部分を、画家である父・孝平さんが絵画制作をするアトリエを兼ねた家族3人で暮らせる住宅」に再編した。このプロジェクトを担当したのが、長男で一級建築士の昌彦さんと、妻の菜穂子さんが主宰するデザイン事務所〈koyori(こより)〉だ。隣接するマンションも、昌彦さんが仲間と設立した〈DATT一級建築士事務所〉が設計したため、マンションと中村邸の外観は連続性が保たれ、モダンでありながら、京都の趣ある景観にしっくりと溶け込んでいる。
西国街道に面したファサードは、「父が希望した和のテイストを取り入れながら、新しい京都を提案できるように心がけました」と昌彦さん。左官仕上げのシンプルですっきりとした色調の外壁、街道に沿って水平ラインに揃えた建物の軒、木製の大きな引き戸が、和の趣を感じさせてくれる。この扉から、施主である父・孝平さんのアトリエに出入りできる。住居の玄関は、コンクリート擁壁の裏側に配した。
どんなHouzz?
所在地:京都府向日市
住まい手:夫婦(60代)と息子(高校生)
主体構造:木造一部RC造(増築棟:木造)
延床面積:238.36平方メートル(39.78平方メートル増築棟)
リノベーション竣工:2016年1月
設計監理:koyori(こより)、DATT一級建築士事務所
構造:金子武史構造設計事務所
庭・外構:造景房吉(岩村陽一郎)
写真:吉田祥平
どんなHouzz?
所在地:京都府向日市
住まい手:夫婦(60代)と息子(高校生)
主体構造:木造一部RC造(増築棟:木造)
延床面積:238.36平方メートル(39.78平方メートル増築棟)
リノベーション竣工:2016年1月
設計監理:koyori(こより)、DATT一級建築士事務所
構造:金子武史構造設計事務所
庭・外構:造景房吉(岩村陽一郎)
写真:吉田祥平
もともとは麹造りの工具を置いていた土間を、数十年前に居間に改修していたが、「天井が低く、薄暗かったため、吹抜けとトップライトをつくることで、閉塞感を取り除きました」と昌彦さん。立派な梁や柱はできるだけ補修し、新しく補強した部分は、明るい色のヒノキに入れ替え、「あえて新旧の木材がもつ、色のコントラストを出した」という。
庭と駐車場を仕切る焼杉の外壁板(写真奥)と、街道側のコンクリート壁(1つ前の写真)は、どちらも150mmピッチで揃えている。素材は違うが、均等幅で連続性のあるL字型壁面が建物を囲っている。
庭と駐車場を仕切る焼杉の外壁板(写真奥)と、街道側のコンクリート壁(1つ前の写真)は、どちらも150mmピッチで揃えている。素材は違うが、均等幅で連続性のあるL字型壁面が建物を囲っている。
コンクリート壁の割り付けサイズに合わせてつくった、ニレ材突き板仕上げの靴箱。 床は墨モルタル仕上げで「モダンになり過ぎないように配慮しました」と昌彦さん。「和室はいらないが、障子は欲しい」という父の願いを叶え、玄関からリビングに続く扉は、障子戸にしている。
障子の上の空間には、ペアガラスがはめこんである。これも、「寒い京都の冬を、暖かく過ごしたい」という父のリクエストに応え、リビングに床暖房を入れたため、高気密性を保ちつつ結露を防ぐように工夫したものだ。
障子の上の空間には、ペアガラスがはめこんである。これも、「寒い京都の冬を、暖かく過ごしたい」という父のリクエストに応え、リビングに床暖房を入れたため、高気密性を保ちつつ結露を防ぐように工夫したものだ。
写真右奥の棚に、仏壇を収納している。中央扉の奥は、2012年のリフォーム時につくった高校生の弟の部屋。弓道の稽古に励み、和風のテイストを好む弟のために、「木造建築特有の障子や梁を残しつつ、壁と天井は、和紙職人のハタノワタルさんに依頼して、黒谷和紙を使用しました」と昌彦さん。今回のリノベーションで唯一、手を加えなかった空間だ。
オープンキッチンとダイニングテーブル、浴室と寝室は、左官職人の植田俊彦さんに依頼。研ぎ出し仕上げや、樹脂系の左官材料を採用している。同材で、植田さんが「炊飯釜もつくってくれた」と夫人もたいそう喜んでいる。
〈フロス〉の照明をはじめとして、造作家具以外のインテリアは、昌彦さんの妻でインテリアデザイナーの菜穂子さんが担当した。ダイニングチェアはボーエ・モーエンセンのシェーカーチェア。
浴室もキッチンと同じく、植田さんの手による左官仕上げ。湯船につかりながら、窓の外の中庭を眺められる。
洗面台の下の収納棚は、「圧迫感がなく、掃除のしやすい程度の隙間を空けてつくりました」と昌彦さん。壁は、〈リビエラ〉の大理石モザイク。
思っていたより傷んでいた家屋はいったんスケルトンにして、「既存木構造を鉄筋コンクリートの耐力壁と緊結させて耐震補強を施し、それから要望に応じて空間を構成していきました」と昌彦さん。また、「既存の木構造がつくり出す空間の本質を引き継がせるよう心がけた」のだという。
写真奥に見えるのは軽く2メートルを超える200号クラスのキャンバス画で、ここはその絵を制作する孝平さんの専用アトリエだ。
写真奥に見えるのは軽く2メートルを超える200号クラスのキャンバス画で、ここはその絵を制作する孝平さんの専用アトリエだ。
孝平さんは、この大空間のアトリエで「光と影、生と死、有在と無在」などを題材とした作品の制作に専念している。この部屋にも床暖房を入れているので、冬場も心地よい環境で制作に打ち込めるという。
2階は、夫人が専用で使っているプライベートルーム。ガラスの外が、リビングの吹き抜け空間になっている。
渡り廊下の両脇に、緑あふれる庭が計画されている。ガルバリウム鋼板の屋根は、日本建築の伝統的な屋根の葺き方の様式、平板葺きのひとつである、高級感漂う一文字葺き。
渡り廊下の先に、増築された寝室がある。この漆喰壁にも、左官職人の技が光り、目にした孝平さん夫妻は驚きを隠せなかったという。「布で模様をきれいにつくって仕上げる技術は実に見事でした」。
庭は、造園会社〈造景房吉〉を2015年に設立した岩村陽一郎さんが、「西国街道を行き交うヒトやモノが、過去から現在、そして未来へと、絶えず折り重なり続けるさまを、川や水の流れに見立てて造形した」のだという。「解体で出た旧屋の屋根瓦をそのまま残して、庭で活用してほしい」という孝平さん夫妻の希望をくみとって、瓦を積み上げて瓦垣とし、写真奥の寝室前には、旧家時代からある灯籠やつくばいを配して、日本庭園のような趣のある小スペースをつくり出した。
この庭は、奥へ進むほどに植物の密度を増やしている。渡り廊下をはさむ奥の中庭には竹を植栽し、藪の中の渡り廊下を歩くワクワク感を演出しているのだそう。
この庭は、奥へ進むほどに植物の密度を増やしている。渡り廊下をはさむ奥の中庭には竹を植栽し、藪の中の渡り廊下を歩くワクワク感を演出しているのだそう。
この波間模様は、瓦と砂利を使って表現した。瓦の小端(側面)を縦にして埋め込む「小端立て」という手法を用いている。庭の中央部に植栽したイロハモミジの根株から這い出る根が、西国街道に向かってその姿を水の流れへと変貌させ、「昏々と折り重なりながら流れていくイメージでつくった」と岩村さん。「瓦は切るよりも砕く方が、さまざまな細かい表情を見せてくれるのを発見できたのが収穫でした」と語る。「枯山水的な観賞用スペース」として、孝平さん夫妻もお気に入りの場所だ。
古来、京から西へ行く唯一の大路で、江戸時代には参勤交代にも利用された西国街道。ヒトやモノ、文化が往来したこの街道沿いに、1世紀以上の歴史を刻む中村邸。長い間、この家を力強く支えてきた木の梁や柱は残しながら、コンクリート壁でしっかりと補強した「和風モダン」の住宅は、旧家時代の面影を偲びつつも、新たな息吹を歴史ある街にもたらしていた。
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