Houzzツアー:天然の冷房効果で涼しく過ごせる、新しい土づくりの家
オーストラリア西部の灼熱の大地で働く牧場労働者のためにつくられた、エコで涼しい版築壁の家をご紹介します。
Joanna Tovia
2016年8月7日
ヨーロッパ人の入植以来、牛を追い羊の毛を刈る牧場の労働者たちが暮らしたのは、焼けるような暑さのトタン屋根の住居だった。〈ルイージ・ロッセッリ・アーキテクツ〉は、このプロジェクトにおいて、新しい形のエコロジカルな住宅を開発。12戸からなる、土を突き固めた版築壁の集合住宅を砂丘に埋め込むように設計したのだ。砂丘から掘り出した砂や近くの川から採った土と砂利を壁に使っているため、室内は自然に涼しく保たれるため、牧場で働く人々が西オーストラリア北部の暑く過酷な気候をしのげるスマートな住宅だ。
どんなHouzz?
居住者:家畜を集める季節に牧場で働く人が数ヵ月間滞在
所在地:オーストラリア、西オーストラリア州ピルバラ地方
規模:ひとつながりの版築壁がファサードとなった12戸の集合住宅
どんなHouzz?
居住者:家畜を集める季節に牧場で働く人が数ヵ月間滞在
所在地:オーストラリア、西オーストラリア州ピルバラ地方
規模:ひとつながりの版築壁がファサードとなった12戸の集合住宅
全長230メートル、オーストラリア一長い版築壁が、砂丘の端に沿ってうねるように続き、土づくりの12戸の住宅を支えている。鉄分が豊富で砂土を近くの粘土層から運び、川床から採掘した小石や砂利とあわせて土壁に使用しており、完成した壁の色は、景観の中にすっかり溶け込んでいる。砂丘の上に立つパビリオンはチャペル兼集会所だ。
町や集落から遠く離れた地域での建設作業は簡単ではない。建材を運ぶにせよ、建築期間中に作業員を現場近くに滞在させるにせよ、手間と労力が必要になる。となれば、その土地にあるものを利用するのが賢明だ。「地元の土を壁に利用したおかげで、建設にかける時間もエネルギーもずいぶん節約できたと思います」と設計を手がけたルイージ・ロッセッリさんは話す。
各戸の裏側の壁は砂丘の下に埋まっている。「エネルギー資源をあまり使わずに土壁の建設ができた点と、気温が高い地域でありながら空調を使わずにすむ点は、すばらしい成果です」とロッセッリさん。
各戸は地下にあり、他の住戸からは見えない。
この先、木々や植物が成長して豊かに茂れば、この家はさらに景観に溶け込んでいくだろう。各戸の前庭と屋上庭園は〈ティム・デイヴィス・ランドスケーピング〉が設計。
楕円形のチャペルからは、小さな墓地と、川岸に生えたゴーストガムやリバーガムと呼ばれるユーカリの木立が見える。
この住宅プロジェクトは最近、テラ・アワード(土の建築賞)(ユネスコが後援する、土を使った優れた現代建築に与えられる国際的な賞)を受賞した。このほか、建築情報サイト「ArchDaily」の「ビルディング・オブ・ザ・イヤー」、国際的な建築賞「Architizer A+ Award」(アーキタイザーA+アワード)を合わせると3つの賞を受けている。
屋根付きのベランダをもつ各戸は雁行しており、プライバシーが確保される。各戸を室内から行き来できるドアはない。
深いひさしは日中の暑い時間帯の遮光を考えた設計だが、夕方から夜にかけて、涼しい風に誘われて外の空気を楽しむのにもうってつけだ。仕事を終えたあと、ドリンクを片手にここで過ごしたくなりそうだ。
ひさしには耐候性の高いコールテン鋼を使用した、強風にも強い構造。床部分はコンクリートスラブで、地域の川から採った砂利や小石を使っているため、ポリッシュ仕上げによる表面が赤土色をしている。
版築壁の北端は、先に向かって細くなる形状の建物につながる。以前からある建物で、共用ラウンジとして使われている。古い掘削パイプを生かしたパーゴラの影が、地面に格子模様を描いている。
厚さ45センチの版築壁と、砂丘の下に1メートル埋め込まれた構造の効果により、室内は涼しく快適だ。トーンを抑えたナチュラルで丈夫な素材と家具を取り入れ、全体をまとめている。
当然のことながら、ここに滞在した牧場労働者は、みなこの住まいを気に入り、離れたくなくなるそうだ。オーストラリアの農村地域に見られる標準的な住まいにくらべると、かなり進化した形の住まいだといえる。
当然のことながら、ここに滞在した牧場労働者は、みなこの住まいを気に入り、離れたくなくなるそうだ。オーストラリアの農村地域に見られる標準的な住まいにくらべると、かなり進化した形の住まいだといえる。
砂丘の上にたたずむチャペル。当初は屋外に開いた構造にする予定だったが、砂嵐対策を考えて、ガラスの引き戸を入れる設計に変更した。ガラス戸はサイクロンのような強風にも耐える強度を備える。チャペルの下には100年前からある墓地が広がり、動物が入らないよう柵を設けている。
チャペル兼集会所の屋根はアルマイト加工を施した金色のアルミニウムをはった。
屋根はコールテン鋼を斜円錐形にし、最も高い位置に天窓を設けた。屋根部分は別の場所で成形し、2分割して現場へ運んだ。ガラスをはめた頂上の天窓は東を向いている。ローマの神殿、パンテオンからインスピレーションを受けたデザインだ。
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