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Houzzツアー:車椅子でも快適に暮らせる、五つ星ユニバーサルデザインの家
障害コンサルタント、建築家、施工業者の3人兄弟が力を合わせて実現した、車椅子でもまったくストレスなく暮らせる家をご紹介します。
Catherine Smith
2016年7月27日
全国規模の障害者サポート団体で委員をつとめ、障害コンサルタントとしても活動するステュー・セクストンさん。車椅子で生活する人にとって使いやすい空間については、それなりに知識があった。妻のドリーンさんと暮らす、海にほど近い年季の入ったコテージのリノベーションを考えたときに取り入れたのが、〈ライフマーク〉が提案する、ユニバーサルデザイン指針を取り入れた独自の住宅評価認定だった。計画には、それぞれのフィールドで活躍するステューさんの兄弟、設計者のアンドリューさんと施工業者のリチャードさんが加わった。3人の兄弟はタッグを組み、夫婦がこの先も長く住み続けられる家を造りあげた。自信をもって完成にこぎつけたスタイリッシュな家は、〈ライフマーク〉が定める基準の五つ星認定を獲得し、この制度を活用した「最善例」となる住まいになった。
どんなHouzz?
居住者:障害コンサルタントのステュー・セクストンさん、妻で会計士のドリーンさん
所在地:ニュージーランド、ウェリントンのイーストボーン地区
規模:180平方メートル。ベッドルームx2、バスルームx2
注目ポイント:ユニバーサルデザインのガイドラインに沿った、車椅子で生活がしやすい住宅
どんなHouzz?
居住者:障害コンサルタントのステュー・セクストンさん、妻で会計士のドリーンさん
所在地:ニュージーランド、ウェリントンのイーストボーン地区
規模:180平方メートル。ベッドルームx2、バスルームx2
注目ポイント:ユニバーサルデザインのガイドラインに沿った、車椅子で生活がしやすい住宅
ステューさんとドリーンさんは長年、イーストボーンの丘の近くに立つ古いコテージに暮らしながら、どこをどう解決すれば暮らしやすくなるのかを考えてきた。16年間、不都合な点を受け入れながら暮らしてきたのち、ついに2、3年をかけて建築家のアンドリュー・セクストンさんと一緒に構想を練り、家の設計を検討していった。ステューさんの兄弟の1人で、建築作業見習い中の若者を指導しているリチャードさんが、1年半におよぶ施工を担当した。
この地域ではよくあることだが、敷地面積720平方メートルのうち、平地は90平方メートルしかない。目の前は道路で、反対側のすぐ後ろには丘がそびえる。眺めはすばらしいが、ウェリントン名物の強風が吹きつける場所だ。
この地域ではよくあることだが、敷地面積720平方メートルのうち、平地は90平方メートルしかない。目の前は道路で、反対側のすぐ後ろには丘がそびえる。眺めはすばらしいが、ウェリントン名物の強風が吹きつける場所だ。
〈ライフマーク〉の基準を取り入れた設計自体は簡単だった、とステューさんは振り返る。アンドリューさんは車椅子を使うステューさんと一緒に育ったため、ステューさんに何が必要かをわかっていたからだ。それでも、設計与件整理は細部におよんだ。まず欠かせなかったのが、車のあるガレージに屋内から直接アクセスできること。車椅子がターンできる十分なスペースと、幅に余裕のある廊下も必要だった。玄関ロビーは階段へ続くようにし、廊下の突き当たりには水力で動くエレベータを設けた。家の中でここだけがカーペット敷きだ。家の一部は後ろの丘に沿うように変則的なくさび形になっていて、この部分を1階は中庭、2階はデッキにした。
計画当初から、1階はプライベートな空間にすることで意見が一致していた。1階はゲストルーム、ランドリー、バスルーム、そしてマスターベッドルーム(主寝室)。2階は生活スペースと仕事用のスペース。大きな引き戸で、車椅子での出入りもスムーズだ。
バスルームは病院のような雰囲気にはしたくないが、使い勝手の良さはゆずれない、とステューさんは考えていた。さしあたって、シャワーブースやトイレには手すりをつけないことにし、トイレも通常のタイプを導入。ただ、壁にスタッドを入れておき、必要に応じて後から手すりを取り付けられるようにした(現在、スマートなデザインのものを探し中だそう)。
バスタブまわりはラグジュアリーなスパのような外観だが、ステューさんが腰掛けてスムーズにシャワーブースへ移動できるつくりになっている。シャワーブースの床には段差はない。トイレも洗面台も通常タイプのものだが、車椅子に乗ったままで快適に使える。
変則的なくさび形のスペースもアンドリューさんの巧みな設計により最大限に活用。ガラス扉の外は洗濯物を干せる中庭だ。隣のクローゼットには床から1メートルの高さに服をかけるラックがある。自分の服を自分でかけられるようになったのがステューさんはうれしいという。
家と道路がかなり近いため、平行に板を張った羽目板張りの壁の板を一部外し、マスターベッドルームの窓をよろい戸風にしてある。ガレージのドアも羽目板を張って溶け込ませている。
生活スペースである2階は、できるだけオープンにして光を採り込み、車椅子で動きやすいようにドアや狭い廊下は排除した。代わりにアンドリューさんが考案したのが、パーティション状の建具で部屋を区切り、いくつかのスペースに分ける方法だ。いちばん高さのあるスペースには、エレベータのほか、食料を収納するパントリー、冷蔵庫、さらにはピアノを置くスペースが収められている。
設計の鍵になったのが、海と夕日がのぞめるガラス壁だった。風の強さを考えれば、あまり使わないデッキをここに設けてスペースを無駄に使うよりは、リビングを広くとって、二重ガラスの引き戸にすることにしたのだ。全面ガラスの扉の内側にガラスの手すりをつけ、風の穏やかな日は開け放つことができる。風を直接受けない家の裏側に小さなデッキを設け、ここでバーベキューや菜園での野菜づくりを楽しめる。
柱のないひと続きの広い空間を支えるため、鉄筋で躯体を補強しているが、室内は家具のような外観のタスマニア産トネリコ材を用い、洗練された仕上がりに。ステューさんにはプロのシェフの顔もあり、パンや菓子を焼くのが好きなため、キッチンの設計には意見をかなり出したという。
アンドリューさんが工夫したのが、中央のアイランド型キッチン。片側は完全にオープンで、ステューさんの車椅子がぴったり収まり、調理用のカウンターからダイニングテーブルへ楽に移動できる。食器棚はアイランドの奥に並び、ラインが美しい換気扇は彫刻のような存在感を放つ。アンドリューさんは空間を広く感じさせるために、南側の壁の端から端まで横長に鏡を取り付けた。部屋の反対側を映し出し、奥行きを感じさせる効果がある。
IHクッキングヒーターとカウンターの間は完全にフラットで、鍋などをスムーズに移動できる。ステューさんは本当はガスコンロの方が好みだが、説得されてIHにした。視力が弱い人にはIH調理器のパネルは見にくいと思う、とステューさんは指摘する。
IHクッキングヒーターとカウンターの間は完全にフラットで、鍋などをスムーズに移動できる。ステューさんは本当はガスコンロの方が好みだが、説得されてIHにした。視力が弱い人にはIH調理器のパネルは見にくいと思う、とステューさんは指摘する。
収納をメインにしたエリアにはシンクがもう1つと、ステンレス製のカウンターとはねよけ、カウンター下には電子レンジが組み込まれている。取っ手が外に出ていない形を希望したのは、車椅子で通るときにぶつからないようにするため。引き出しも奥まで手が届きやすいよう、開け閉めしやすいものを選んだ。〈フィッシャー&パイケル〉社のオーブンは出し入れできる棚板がついていて、熱いトレーを扱うときの安全性に配慮している。ステューさんとドリーンさんが一緒に料理できるレイアウトになっている。
天窓のおかげで、キッチン奥のコーナーと、左側にあるピアノ用スペースにも自然光が入る。
夫妻はどちらも自宅で仕事をしている。ホームオフィスは、パーティションの高さを半分までにし、作り付けの収納をたっぷり設けることで、隣りあった2人の机からは海が見える一方、リビング側からは仕事場が見えない構造になっている。
トネリコ材の壁が印象的なコーナーは、建物が丘に沿ってくさび形になっている部分。写真の右奥にはデッキに続くドアが見える。
壁にはゲスト用のベッドが収められているという巧みなしかけ。
エレベータの脇にはピアノを置くスペースも。
「何かできないことがあっても、何とかして別のやり方を見つけますからね」と話すステューさん。これまでも自分のことはすべて自分でやってきたが、新しい家のおかげで暮らしやすくなったという。車から降りたあとに雨にぬれずに家に入れるし、コンセントの差し込み口やスイッチ類を床から50センチの位置にしたため、無理にかがみ込んだり車椅子から転げ落ちたりするとこともなくなった。「誰にとっても住みやすい家だといえますね」とステューさんは話す。
「何かできないことがあっても、何とかして別のやり方を見つけますからね」と話すステューさん。これまでも自分のことはすべて自分でやってきたが、新しい家のおかげで暮らしやすくなったという。車から降りたあとに雨にぬれずに家に入れるし、コンセントの差し込み口やスイッチ類を床から50センチの位置にしたため、無理にかがみ込んだり車椅子から転げ落ちたりするとこともなくなった。「誰にとっても住みやすい家だといえますね」とステューさんは話す。
「私が暮らしやすいだけでなく、他の人にとっても利点があると思います。空間が広ければ人を招いて楽しめますし、作業台や調理台の高さもたいていの人にとって使いやすいのではないでしょうか。」
ステューさんが〈ライフマーク〉の評価基準を取り入れた家を手がけたのは自宅が初めてだが、今後、依頼があったときに意識したい点がいくつかわかった。エレベータ用のスペースをとること、車椅子の向きを変えるスペースをゆったり確保すること、部屋の中を移動するときにスムーズに動けるようにすることだ。ここを意識すれば、年齢を重ねたり身体が弱くなったりしたときにも、暮らし続けることができる家になる。
ステューさんの設計は〈ライフマーク〉の基準で五つ星認定を獲得した。とはいえ、この家の特徴といえる要素はどんな家にも応用できるうえ、構造上必要とされる点は1パーセントに満たないとステューさんは考えている(たとえばエレベータの動力として使う水圧ポンプは地下3メートルの掘削で可能)。「この家は誰にでも住みやすいと思います。団塊の世代にも、子どもたちにも。私は死ぬまでここで暮らすつもりですよ」。
「Houzzツアー」の記事で日本と世界の素敵な住まいを知る
教えてHouzz
ユニバーサルなデザインの家、いかがでしたか? ご感想をお聞かせください。
ステューさんが〈ライフマーク〉の評価基準を取り入れた家を手がけたのは自宅が初めてだが、今後、依頼があったときに意識したい点がいくつかわかった。エレベータ用のスペースをとること、車椅子の向きを変えるスペースをゆったり確保すること、部屋の中を移動するときにスムーズに動けるようにすることだ。ここを意識すれば、年齢を重ねたり身体が弱くなったりしたときにも、暮らし続けることができる家になる。
ステューさんの設計は〈ライフマーク〉の基準で五つ星認定を獲得した。とはいえ、この家の特徴といえる要素はどんな家にも応用できるうえ、構造上必要とされる点は1パーセントに満たないとステューさんは考えている(たとえばエレベータの動力として使う水圧ポンプは地下3メートルの掘削で可能)。「この家は誰にでも住みやすいと思います。団塊の世代にも、子どもたちにも。私は死ぬまでここで暮らすつもりですよ」。
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