Houzzツアー:築50年の元「検番」をリノベして、人が集まる"居場所"のある住まいに
長い歴史を誇る名湯・城崎温泉。温泉街に立つ築50年の元「検番」の建物を、いつも人が集まるにぎやかで楽しい家にリノベーションした事例をご紹介します。
Tetsu Takeba
2016年8月18日
Houzzコントリビューター。
出版社勤務を経て、編集事務所「Nect」設立。
建築・建設分野を中心に、
書籍や雑誌等の編集を手掛けております
平安時代から続く名湯で、江戸時代には「海内第一泉」と呼ばれた日本有数の温泉地である兵庫県の城崎温泉。近年、日本では地域おこし活動がさかんに行われているが、芸術監督に劇作家の平田オリザ氏を迎えた城崎国際アートセンターの活動は、その成功例として広く知られている。アートセンターは、舞台芸術にフォーカスした滞在型の創造活動(アーティスト・イン・レジデンス)拠点として、作品制作を支援し、多彩なイベントを開催。ここを中心に、アートを通じて人が出会い交流できる魅力的な地域づくりが行われており、町への訪問客数が大幅に伸びている。
今回ご紹介する《城崎の家》は、東京から城崎にUターン移住し、このアートセンターの活動に深く関わることになったご主人とそのご家族が暮らす住まいだ。この家もまた、人が集い、交流する、気持ちのいい場所になっている。
今回ご紹介する《城崎の家》は、東京から城崎にUターン移住し、このアートセンターの活動に深く関わることになったご主人とそのご家族が暮らす住まいだ。この家もまた、人が集い、交流する、気持ちのいい場所になっている。
東京の都心で暮らしていた一家が、ご主人の故郷である兵庫県にUターンし、歴史あるこの街に居を構えることになったのは、今から数年前のこと。
東京時代も、家にはいつも友人や知人が誰かしら訪ねてきて、みんなで食事やお酒をともにし、おしゃべりに花を咲かせるのが日常だった。人との交流を大切にし、楽しんできた一家は、この地でもそんな生活を実現する理想の家を探していた。
写真は《城崎の家》の前を流れる小川の風景。
東京時代も、家にはいつも友人や知人が誰かしら訪ねてきて、みんなで食事やお酒をともにし、おしゃべりに花を咲かせるのが日常だった。人との交流を大切にし、楽しんできた一家は、この地でもそんな生活を実現する理想の家を探していた。
写真は《城崎の家》の前を流れる小川の風景。
兵庫へのUターン直後は山間の別荘地の一軒家で暮らしていたが、縁があって、築50年ほどの風情ある建物と出会う。温泉街のメインストリートから1本奥に入ったところにあり、前面に小川、背面に竹林が迫る建物は、元は「検番」、つまり温泉で働く芸者さんたちの寄合所だった。
写真はリノベーション前の建物のようす。当然のことながら、通常の住宅とはかなり異なる、独特の佇まいと空間構成の建物だ。だが、そこに魅力を感じた一家は、城崎での生活拠点をここに置くことを決意。長年の友人で、東京時代に自宅マンションのリノベーションを手がけてもらった〈PUDDLE Inc.〉の加藤匡毅さんに、今回も仕事を依頼した。
写真はリノベーション前の建物のようす。当然のことながら、通常の住宅とはかなり異なる、独特の佇まいと空間構成の建物だ。だが、そこに魅力を感じた一家は、城崎での生活拠点をここに置くことを決意。長年の友人で、東京時代に自宅マンションのリノベーションを手がけてもらった〈PUDDLE Inc.〉の加藤匡毅さんに、今回も仕事を依頼した。
写真は、階段を上りきったときに広がるLDKの景色。建物は3階建てだが、採光や居心地を考えて、3階に生活の中心となるLDKを置き、2階に個室やバスルーム、トイレを集約。1階は収納スペースとして利用している。
LDKの大空間の中で、板張りの梁と端正なキッチンが存在感を放っている。
どんなHouzz?
住まい手:夫婦+子ども1人
所在地:兵庫県豊岡市
設計:PUDDLE Inc.
施工:袖長建設
規模:地上3階
構造:木造
敷地面積:274.27平方メートル
延床面積:276平方メートル
竣工:2015年12月(1期)/2016年2月(2期)
写真:西山円茄
このキッチンは、Houzz Japanが実施した「“キッチンで暮らす” 施工事例コンテスト」で審査員賞の金賞を受賞した。
とても気持ちのいい、広がりのあるLDK空間だが、設計を手掛けた建築家、PUDDLE Inc.の加藤匡毅さんは「住まい手のライフスタイルをそのままかたちにしたら生まれたのが、この家のデザインなんです」と話す。
この家には、遠方からも近所からも、多くの友人・知人が日々訪れ、立ち寄っては、アートや人生について語り合う。そこで、中央のキッチンアイランドのまわりやテーブル、小上がりの部分など、人がふと集い、心地よくくつろげる“居場所” が、さまざまにデザインされているのだ。
どんなHouzz?
住まい手:夫婦+子ども1人
所在地:兵庫県豊岡市
設計:PUDDLE Inc.
施工:袖長建設
規模:地上3階
構造:木造
敷地面積:274.27平方メートル
延床面積:276平方メートル
竣工:2015年12月(1期)/2016年2月(2期)
写真:西山円茄
このキッチンは、Houzz Japanが実施した「“キッチンで暮らす” 施工事例コンテスト」で審査員賞の金賞を受賞した。
とても気持ちのいい、広がりのあるLDK空間だが、設計を手掛けた建築家、PUDDLE Inc.の加藤匡毅さんは「住まい手のライフスタイルをそのままかたちにしたら生まれたのが、この家のデザインなんです」と話す。
この家には、遠方からも近所からも、多くの友人・知人が日々訪れ、立ち寄っては、アートや人生について語り合う。そこで、中央のキッチンアイランドのまわりやテーブル、小上がりの部分など、人がふと集い、心地よくくつろげる“居場所” が、さまざまにデザインされているのだ。
“居場所” のデザインは、平面図を見るとよくわかる。大きなワンルーム空間が、小上がりやキッチンアイランド、家具の位置によって、ゆるやかにゾーニングされている。
たとえば、3階はもとは芸者さんたちが舞踊の稽古をしていた大広間で、部屋の南端には練習用の舞台も設けられていた(写真は改修前の3階の内観。練習用舞台は手前の板張りのスペース)。自然光が入らないため、室内は昼間も蛍光灯で煌々と照らしていた。
加藤さんは、舞台があった部分の床の高さが面白いと考え、舞台の奥行きを半分ほどにして、小上がり的な “居場所” (写真奥)をつくった。小上がりの手前にはソファを置き、ここもまた “居場所” になっている。
小上がりスペースをサイドから見たところ。このあたりはお子さんと友人たちのの絶好の遊び場になっているという。
家族だけで過ごすプライベートな時間も、気分に合わせて好きな “居場所” でお茶や食事が楽しめる。
例えば、キッチンアイランドの対面にあるグリーンのテーブル(長坂常さんのデザイン)で食事をとったり、窓際の丸いテーブルセットでお茶の時間を楽しんだり。もちろん、大きなキッチンアイランドもだんらんやおしゃべりの場になる。
例えば、キッチンアイランドの対面にあるグリーンのテーブル(長坂常さんのデザイン)で食事をとったり、窓際の丸いテーブルセットでお茶の時間を楽しんだり。もちろん、大きなキッチンアイランドもだんらんやおしゃべりの場になる。
3階の北側の角にある、この家でいちばん眺めのよい空間を、家で仕事をする奥様の仕事場にした。窓からは街や小川の眺めが広がる。ここは、いわば、奥様の仕事のための “居場所” である。
リビングとオープンにつながりつつも、少し奥まったスペースとしてデザインされている。家族の気配を感じながら仕事に集中できる空間だ。
リビングとオープンにつながりつつも、少し奥まったスペースとしてデザインされている。家族の気配を感じながら仕事に集中できる空間だ。
“居場所” に加えて注目したいのが、この空間の「センス」をつくりだしているディテールのデザインだ。
コンテストでも審査委員が「とてもセンスがいい」と評したLDK空間だが、その「センス」の秘密はディテールに宿っている。例えば、色使いについても、安易にワントーンにせず、キーカラーのグレーのトーンを微妙にアレンジしている。壁面、キッチンアイランド、天井、そして輻射暖房システムにトーンの微妙に異なるグレーを配色することで、梁の存在を際立たせると同時に、空間に奥行きを与えている。
コンテストでも審査委員が「とてもセンスがいい」と評したLDK空間だが、その「センス」の秘密はディテールに宿っている。例えば、色使いについても、安易にワントーンにせず、キーカラーのグレーのトーンを微妙にアレンジしている。壁面、キッチンアイランド、天井、そして輻射暖房システムにトーンの微妙に異なるグレーを配色することで、梁の存在を際立たせると同時に、空間に奥行きを与えている。
3階の大空間の中でひときわ目を引く、大きな板張りの梁も「センス」に貢献している。リノベーションの手始めに天井板を外したところ、小屋裏に隠れていたこのワイルドな梁が姿を見せた。
この板張りは、見た目のデザインではなく構造強度のためのもの。踊りの稽古のための見通しを確保するためには、短手方向を柱のない空間にする必要がある。そこで、これだけのスパンを支えるため、側面に板を張って梁の強度を補強していたのだと思われる。
この板張りは、見た目のデザインではなく構造強度のためのもの。踊りの稽古のための見通しを確保するためには、短手方向を柱のない空間にする必要がある。そこで、これだけのスパンを支えるため、側面に板を張って梁の強度を補強していたのだと思われる。
「天井を剥がしてこの梁が見えたとき、側面に張られた板がつくる模様がすばらしいと思いました。それで、『よし、このディテールをそのまま活かした空間にしよう!』と考えたのです。梁を露出させた上で、さらにその存在感を引き立てるように照明を計画しました」と加藤さん。
LDKは広いけれども、北向きで決して明るい空間ではないため、窓際以外はしっかりとした照明が必要となる。梁の上から天井や壁に当てた間接光やダウンライトによって、ナチュラルな光で空間を充たしている。
LDKは広いけれども、北向きで決して明るい空間ではないため、窓際以外はしっかりとした照明が必要となる。梁の上から天井や壁に当てた間接光やダウンライトによって、ナチュラルな光で空間を充たしている。
長手方向から見ると、上の写真のように梁が連なってインパクトがあるが、近づくとその間に気持ちのよい「抜け」が感じられる。
「空間デザインにおいては、気積がとても重要だと思っています。気積がゆったりとしていれば、豊かな空間になる。この空間ではそれが実現できたように思います」と加藤さんは話す。
「空間デザインにおいては、気積がとても重要だと思っています。気積がゆったりとしていれば、豊かな空間になる。この空間ではそれが実現できたように思います」と加藤さんは話す。
これだけの気積に加え、この地方の冬の気候やこの家の日当たりを考えれば、暖房もしっかりとしたものが必要だ。築年数のかさんだ木造であること、小さな子どもがいることによる安全性や、リノベーションにおける施工性を考えて、〈ピーエス〉の輻射暖房システムを導入した。写真の左手にストライプのように見えるパイプのシステムだ。温水パイプにより、空気を汚すことなく、やさしく部屋の空気を暖める。
2階には個室を集約している。中央にバスルームがあり、その周りを回遊する廊下に沿って、諸室を配置している。
2階の玄関。1階の玄関から建物の中に入って階段をのぼり、2階のこの玄関から先が居住空間になる。窓から入る光を遮らないためにも、ここはガラス扉にして開放感のあるデザインにした。
改修する前、2階は全体的に暗い空間で、しかも崖に近い南側は光がまったく入らない状態だった。そこで今回のリノベーションでは、上階や壁面からの光を活かす工夫をした。
2階の廊下の一部はあえて幅の広いスペースをつくっている。ここも “居場所” の1つとして、お子さんと友だちの遊び場になっている。
主寝室の壁は、ラワンベニヤで一部がモルタル塗り。天井の梁の間と壁の2面は珪藻土で仕上げた。
珪藻土を塗った理由は、湿気対策という意味ももちろんだが、それだけではない。「今回の工事を手掛けた施工会社さんは、施主の高校時代の友人の方。私とは初仕事だったのですが、この仕事の前にわざわざ京都まで行って私が手がけたプロジェクトを見て、今回のプロジェクトでどんなことができるだろうかと考えてくださっていました。それで、いろいろと話してみると、もとは左官を専門とする工務店さんだったとのこと。それならば、左官の技をぜひ活かしていただきたいと考え、2階についてはいろいろな部分で “塗る” という方法で仕上げることにしたんです」と加藤さんは話す。
珪藻土を塗った理由は、湿気対策という意味ももちろんだが、それだけではない。「今回の工事を手掛けた施工会社さんは、施主の高校時代の友人の方。私とは初仕事だったのですが、この仕事の前にわざわざ京都まで行って私が手がけたプロジェクトを見て、今回のプロジェクトでどんなことができるだろうかと考えてくださっていました。それで、いろいろと話してみると、もとは左官を専門とする工務店さんだったとのこと。それならば、左官の技をぜひ活かしていただきたいと考え、2階についてはいろいろな部分で “塗る” という方法で仕上げることにしたんです」と加藤さんは話す。
2階の洗面台。洗面台はラワンべニヤにFRPをコーティングして仕上げている。
「洗面台も “塗り” というコンセプトを活かした部分。左官職人さんに透明樹脂を塗り込んでもらいました。木でつくった、とても薄いシンクです。」
「洗面台も “塗り” というコンセプトを活かした部分。左官職人さんに透明樹脂を塗り込んでもらいました。木でつくった、とても薄いシンクです。」
写真は子供部屋。天井はお子さんの好きなピンク色に彩られている。
2階の個室の扉や床には、改修前に野地板などとして用いられていた材を再利用しているが、部屋によって異なる張り方をして、それぞれの部屋の個性をつくりだしている。
2階の個室の扉や床には、改修前に野地板などとして用いられていた材を再利用しているが、部屋によって異なる張り方をして、それぞれの部屋の個性をつくりだしている。
トイレの壁の色はニュアンスのあるブルーを選んだ。
「空間が狭くなるほど、その空間には個性があった方が面白いと思います。個室の個は個性の個。だからこの家も、3階の大空間は落ち着いたテイストですが、奥さんの仕事場や2階の諸室などのコンパクトな空間にはそれぞれを印象付ける色を差しています。1つのコンセプトで住まいを統一的にデザインするという方法もありますが、一方で空間ごとに異なった印象を備えた家も楽しいのではないでしょうか。3階のシンプルな大空間と2階の個性的な個室空間というコントラストが、この家の印象となり、ここを訪れた人の記憶に刻まれるとうれしいですね」と加藤さんは話す。
「空間が狭くなるほど、その空間には個性があった方が面白いと思います。個室の個は個性の個。だからこの家も、3階の大空間は落ち着いたテイストですが、奥さんの仕事場や2階の諸室などのコンパクトな空間にはそれぞれを印象付ける色を差しています。1つのコンセプトで住まいを統一的にデザインするという方法もありますが、一方で空間ごとに異なった印象を備えた家も楽しいのではないでしょうか。3階のシンプルな大空間と2階の個性的な個室空間というコントラストが、この家の印象となり、ここを訪れた人の記憶に刻まれるとうれしいですね」と加藤さんは話す。
建物は2階以上は木造で、1階は鉄筋コンクリート造となっている。1階部分は、現在のところは主に収納スペースとして利用している。
今回のリノベーションでは、施主のリクエストで、家にユニークな仕掛けを1つつけた。1階の玄関脇と3階の奥さんの仕事場をつなぐダムウエーターだ。ベニヤ板とウインチなどを利用して、加藤さんと施工会社が協働でオリジナルとしてつくりあげた。大きな買い物やビールケース、そして宅配便なども、楽に3階まで運べる。
リノベーション終了後の外観。ファサードはほとんど手を加えてはいないが、3階の窓は気持よく外に開くようになった。窓からの明かりとともに談笑の声が聞こえてきそうな佇まいの家になっている。
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