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世界のHouzzから:アボリジニの伝統に根ざした女性アーティストたちがつくる新しいデザイン
先住民であるアボリジニの文化を受け継ぐオーストラリアの女性アーティストたちが、伝統に現代的なアレンジを加えて、家具、テキスタイル、照明など、美しいデザインを生み出しています。
Susan Redman
2016年7月22日
オーストラリアのアボリジニの文化においては、5万年も前から、芸術とデザインがコミュニケーションと教育のツールとして使われてきた。そして今では、何世紀もかけて進化してきた伝統的な美術工芸と、現代的なデザインのコンセプトが補完し合うようになっている。先住民族を祖先とするデザイナーが数多く登場したが、オーストラリア人の新たなアイデンティティを作りだす一端を担っている。そんな動きをリードする女性テキスタイル職人のグループと、そのほか4名のデザイナーたち(こちらもみんな女性)をご紹介しよう。
写真/Rhett Hammerton
エルチョ島のテキスタイル職人たち
ラッセル・コスケラさんと共同でシドニーの小売・デザイン会社〈コスケラ〉を創業したサシャ・ティッチコスキーさん。彼女は7年前、オーストラリア北部特別地域にあるアーネムランドの芸術センター〈エルチョ・アイランド・アーツ〉のヨルング族の女性たちに声をかけ、コラボレーションを始めた。そこから生まれたのが、エルチョ島の女性たちの伝統的な織物技術にもとづいた手法を用いて、〈コスケラ〉からペンダント照明用のコンテンポラリーなランプシェードを製造する、という共同プロジェクトだ。このコラボレーションにより、太古からの技術と最新商業デザインがひとつになった、オーストラリアならではのスタイルが誕生した。
エルチョ島のテキスタイル職人たち
ラッセル・コスケラさんと共同でシドニーの小売・デザイン会社〈コスケラ〉を創業したサシャ・ティッチコスキーさん。彼女は7年前、オーストラリア北部特別地域にあるアーネムランドの芸術センター〈エルチョ・アイランド・アーツ〉のヨルング族の女性たちに声をかけ、コラボレーションを始めた。そこから生まれたのが、エルチョ島の女性たちの伝統的な織物技術にもとづいた手法を用いて、〈コスケラ〉からペンダント照明用のコンテンポラリーなランプシェードを製造する、という共同プロジェクトだ。このコラボレーションにより、太古からの技術と最新商業デザインがひとつになった、オーストラリアならではのスタイルが誕生した。
エルチョ島でパンダヌスの葉を採集するメイヴィス・ガナンバーさん(左)、サシャ・ティッチコスキー (右)、ティッチコスキー さんの息子のアンダースくん(中央)。写真/Shantanu Starick
〈コスケラ〉の『ユタ・バダヤラ(新しい光)』シリーズのランプシェードに使われている素材も、エルチョ島の女性たちが作っている。地元で採れる植物、パンダヌスとクラジョンの繊維を、植物由来の染料で染めるのだ。「この繊維を、黒いフレームの上で複雑なパターンに編み込んでいくんです」とティッチコスキーさんは言う。シェードのサイズはかなり大きいものもあり、完成まで1か月を要することもある。
〈コスケラ〉の『ユタ・バダヤラ(新しい光)』シリーズのランプシェードに使われている素材も、エルチョ島の女性たちが作っている。地元で採れる植物、パンダヌスとクラジョンの繊維を、植物由来の染料で染めるのだ。「この繊維を、黒いフレームの上で複雑なパターンに編み込んでいくんです」とティッチコスキーさんは言う。シェードのサイズはかなり大きいものもあり、完成まで1か月を要することもある。
写真/Elcho Island Arts
メルボルンのディーキン大学でビジュアルコミュニケーションデザイン課程の責任者および講師を務めるラッセル・ケネディさんは、アボリジニの伝統と現代デザインが結びついていることは、とても面白い動きだと言う。
「私たちはずっと、『オーストラリア的なスタイル』という、なかなか掴みがたい概念を追い求めているのですが、先住民族のデザイナーによる現代的表現というのは、真に特徴的な方向性を示していると思います」とケネディさんは言う。ケネディさんは、〈国際先住民族デザインネットワーク:インディゴ〉の設立者でもある。
メルボルンのディーキン大学でビジュアルコミュニケーションデザイン課程の責任者および講師を務めるラッセル・ケネディさんは、アボリジニの伝統と現代デザインが結びついていることは、とても面白い動きだと言う。
「私たちはずっと、『オーストラリア的なスタイル』という、なかなか掴みがたい概念を追い求めているのですが、先住民族のデザイナーによる現代的表現というのは、真に特徴的な方向性を示していると思います」とケネディさんは言う。ケネディさんは、〈国際先住民族デザインネットワーク:インディゴ〉の設立者でもある。
エルチョ島でパンダヌスの葉を織るティッチコスキー さんとガナンバーさん。写真/Shantanu Starick
〈コスケラ〉のランプシェードは、「アイデア・アワード」と「リグ・デザイン・プライズ」というオーストラリアの2つの賞にノミネートされた。2016年には、ミラノデザインウィークで2度目の展示を行っている。ティッチコスキーさんは、いちばん最近受けた注文について、情熱的に語ってくれた。「初めての注文制作なんですが、コペンハーゲンのレストラン〈ノマ〉で使うシェードを受注したんです。」
〈コスケラ〉のランプシェードは、「アイデア・アワード」と「リグ・デザイン・プライズ」というオーストラリアの2つの賞にノミネートされた。2016年には、ミラノデザインウィークで2度目の展示を行っている。ティッチコスキーさんは、いちばん最近受けた注文について、情熱的に語ってくれた。「初めての注文制作なんですが、コペンハーゲンのレストラン〈ノマ〉で使うシェードを受注したんです。」
写真/Anson Smart
ティッチコスキーさんは、デザイン小売業界でも、先住民族の図柄やデザインなどを、単なる土産物用として扱うのではなく、本来の価値にふさわしい敬意を払い、活用の機会を与えるべきだと言う。「徐々に状況は変わりつつあります。例えば、シドニーの都市開発地区であるバランガルー地区などのプロジェクトでは、すべてのテナントが屋内に先住民族のデザインを取り入れることを条件としています。」
ティッチコスキーさんは、デザイン小売業界でも、先住民族の図柄やデザインなどを、単なる土産物用として扱うのではなく、本来の価値にふさわしい敬意を払い、活用の機会を与えるべきだと言う。「徐々に状況は変わりつつあります。例えば、シドニーの都市開発地区であるバランガルー地区などのプロジェクトでは、すべてのテナントが屋内に先住民族のデザインを取り入れることを条件としています。」
写真/Gaawaa Miyay
ルーシー・シンプソン
テキスタイルとオブジェのデザイナー
ルーシー・シンプソンさんは、アートの名門であるニューサウスウェールズ大学芸術学部でグラフィックとテキスタイルデザインを専攻し、現在は、自身のデザイン事務所〈ガーワー・ミヤイ(川の娘)〉を運営している。「私は、アボリジニデザインのあらゆる側面が大好きなんです。私の祖先、ユワーララーイ族の土地(ニューサウスウェールズ州北西部)からインスピレーションを受けています」とシンプソンさんは言う。
ルーシー・シンプソン
テキスタイルとオブジェのデザイナー
ルーシー・シンプソンさんは、アートの名門であるニューサウスウェールズ大学芸術学部でグラフィックとテキスタイルデザインを専攻し、現在は、自身のデザイン事務所〈ガーワー・ミヤイ(川の娘)〉を運営している。「私は、アボリジニデザインのあらゆる側面が大好きなんです。私の祖先、ユワーララーイ族の土地(ニューサウスウェールズ州北西部)からインスピレーションを受けています」とシンプソンさんは言う。
〈ガーワー・ミヤイ〉のプリント・ティータオル《カラスとカモメ》《エミュの羽根》《大きな魚》。写真/Gaawaa Miyay
大胆な抽象的グラフィックプリントをよく見ると、植物や動物、ふるさとの色彩などを通して表現された、シンプソンさんの家族や祖先の物語が隠されている。モチーフになっているのは「カラスやカモメ、魚のタラやピピ(2枚貝の一種)、草やブッシュパッションフルーツです。」
こういったモチーフにはそれぞれ意味が込められていると、シンプソンさんは言う。「アボリジニ文化を中心にすえたコンテンポラリーなオーストラリアデザインを、将来につなげたいと考えるなら、こういった意味を大事にしなければならないのです。」
大胆な抽象的グラフィックプリントをよく見ると、植物や動物、ふるさとの色彩などを通して表現された、シンプソンさんの家族や祖先の物語が隠されている。モチーフになっているのは「カラスやカモメ、魚のタラやピピ(2枚貝の一種)、草やブッシュパッションフルーツです。」
こういったモチーフにはそれぞれ意味が込められていると、シンプソンさんは言う。「アボリジニ文化を中心にすえたコンテンポラリーなオーストラリアデザインを、将来につなげたいと考えるなら、こういった意味を大事にしなければならないのです。」
〈ガーワー・ミヤイ〉のプリント・ティータオル《林のパッションフルーツ》。写真/Gaawaa Miyay
. シンプソンさんの作品には、デジタルプリントやシルクスクリーンのテキスタイルのほか、グラフィックデザインや、受注制作作品もある。現代のアボリジニ文化と生活をさりげなく描いた、ヴィジュアルな物語を紡ぐ作品ばかりだ。
「デザインを通じて、私のアボリジニとしての視点を、見てくれる人や、着てくれる人と共有しているんです。ユワーララーイの土地や物語、川岸での生活を取り上げて、現代アボリジニ文化への理解を深め、さまざまな美しさや強さを感じてもらいたいと思っています。」
. シンプソンさんの作品には、デジタルプリントやシルクスクリーンのテキスタイルのほか、グラフィックデザインや、受注制作作品もある。現代のアボリジニ文化と生活をさりげなく描いた、ヴィジュアルな物語を紡ぐ作品ばかりだ。
「デザインを通じて、私のアボリジニとしての視点を、見てくれる人や、着てくれる人と共有しているんです。ユワーララーイの土地や物語、川岸での生活を取り上げて、現代アボリジニ文化への理解を深め、さまざまな美しさや強さを感じてもらいたいと思っています。」
〈ガーワー・ミヤイ〉のハンドプリントのクッションは、多様な柄が揃っている。写真/Gaawaa Miyay
アイデンティティの再構築というのは、オーストラリアの国民投票が近づくにつれ、より重要な問題となっている、とケネディさんは言う。この国民投票で、オーストラリアは現存する世界最古の文化を持つ土地であると、正式に認められるかもしれないのだ。「植民地支配以前に先住民が存在していたことを、憲法で正式に認めるか否かを問う国民投票です。結果が『イエス』なら、オーストラリアの歴史の位置付けが変わることになります」とケネディさんは言う。「過去に対する考え方が変わることで、オーストラリア人としてのアイデンティティの表現にも影響があるでしょう。」
アイデンティティの再構築というのは、オーストラリアの国民投票が近づくにつれ、より重要な問題となっている、とケネディさんは言う。この国民投票で、オーストラリアは現存する世界最古の文化を持つ土地であると、正式に認められるかもしれないのだ。「植民地支配以前に先住民が存在していたことを、憲法で正式に認めるか否かを問う国民投票です。結果が『イエス』なら、オーストラリアの歴史の位置付けが変わることになります」とケネディさんは言う。「過去に対する考え方が変わることで、オーストラリア人としてのアイデンティティの表現にも影響があるでしょう。」
写真/Trish O’Brien
アリソン・ペイジ
マルチな才能を持つデザイナー
デザイナーのアリソン・ペイジさんは、2015年、オーストラリアデザイン協会の殿堂入りを果たした。そのほかにも、デザインやリーダーシップが評価され、さまざまな賞を受賞している。
4年前、ペイジさんは、ニューサウスウェールズ州北部にある10の先住民族土地審議会が運営する非営利法人〈ソルトウォーター・フレッシュウォーター・アーツ・アライアンス(海水淡水芸術連盟)〉の商業部門として、全豪先住民族デザイン機構を設立した。この場でペイジさんは地元のアーティストたちと協力し、創作を推進する活動に取り組んできた。
アリソン・ペイジ
マルチな才能を持つデザイナー
デザイナーのアリソン・ペイジさんは、2015年、オーストラリアデザイン協会の殿堂入りを果たした。そのほかにも、デザインやリーダーシップが評価され、さまざまな賞を受賞している。
4年前、ペイジさんは、ニューサウスウェールズ州北部にある10の先住民族土地審議会が運営する非営利法人〈ソルトウォーター・フレッシュウォーター・アーツ・アライアンス(海水淡水芸術連盟)〉の商業部門として、全豪先住民族デザイン機構を設立した。この場でペイジさんは地元のアーティストたちと協力し、創作を推進する活動に取り組んできた。
アーティストのブレンタン・ルグナンとジェレミー・デヴィットとともにアリソン・ペイジさんが手がけた《座る場所》という作品。写真/Trish O’Brien
ペイジさんのインスタレーション『ザ・シット・プレイス(座る場所)』は、オーストラリアン・デザイン・センターの国内巡回展覧会『CUSP(カスプ):次の10年に向かうデザイン』の参加作品であった。「このプロジェクトでは、ほかのアボリジニアーティストと協力して、家具や照明やカーテンを制作しました」とペイジさん。「オーストラリア的なラウンジスペースを、アボリジニの視点で新解釈したデザインなんです。」
ペイジさんのインスタレーション『ザ・シット・プレイス(座る場所)』は、オーストラリアン・デザイン・センターの国内巡回展覧会『CUSP(カスプ):次の10年に向かうデザイン』の参加作品であった。「このプロジェクトでは、ほかのアボリジニアーティストと協力して、家具や照明やカーテンを制作しました」とペイジさん。「オーストラリア的なラウンジスペースを、アボリジニの視点で新解釈したデザインなんです。」
アボリジニのレース。写真/Trish O’Brien
ペイジさんは、ニューサウスウェールズ州南岸、ショールヘイヴン周辺にあるユイン地域に住むワルバンガ族とワディワディ族の血を引き、自身を語り部だと表現する。「私の作品では、人々や土地の物語がさまざまな媒体で語られているんです。家具や宝石、公衆芸術、照明、インテリア、そして今は映画製作がその媒体です。」
「すべての木、川、山には、ひとつひとつに誕生の物語があります。それと同じように、人工的な環境やデザインが物語を作っていくようすを思い描いているんです」とペイジさんは言う。
ペイジさんは、ニューサウスウェールズ州南岸、ショールヘイヴン周辺にあるユイン地域に住むワルバンガ族とワディワディ族の血を引き、自身を語り部だと表現する。「私の作品では、人々や土地の物語がさまざまな媒体で語られているんです。家具や宝石、公衆芸術、照明、インテリア、そして今は映画製作がその媒体です。」
「すべての木、川、山には、ひとつひとつに誕生の物語があります。それと同じように、人工的な環境やデザインが物語を作っていくようすを思い描いているんです」とペイジさんは言う。
ペイジさんが手がけたコーヒーテーブル《カムバック》。写真/Trish O’Brien
太古からのデザイン理念は、現代オーストラリアのデザインの原動力となるべきだ、とペイジさんは言う。「ものに対してより深い意味を与えることで、より大切なものへと変化させ、それがサステナブルな考え方につながっていくんです。」
ブーメランや、ウーメラ(槍投げに使う道具で、持ち主の言語グループを示す図柄が描かれている)、そのほかいろいろな道具のデザインを見ても、機能的に洗練されているだけでなく、彫り込まれた模様や装飾を使って物語を伝えていることがわかります」とペイジさんは言う。
実際、アボリジニの伝統を受け継ぐデザイナーたちには、家庭用品・家具・テキスタイル・インテリアデザイン・建築といった分野において、高品質でコンテンポラリーな製品づくりに活躍する人たちが増えている。
太古からのデザイン理念は、現代オーストラリアのデザインの原動力となるべきだ、とペイジさんは言う。「ものに対してより深い意味を与えることで、より大切なものへと変化させ、それがサステナブルな考え方につながっていくんです。」
ブーメランや、ウーメラ(槍投げに使う道具で、持ち主の言語グループを示す図柄が描かれている)、そのほかいろいろな道具のデザインを見ても、機能的に洗練されているだけでなく、彫り込まれた模様や装飾を使って物語を伝えていることがわかります」とペイジさんは言う。
実際、アボリジニの伝統を受け継ぐデザイナーたちには、家庭用品・家具・テキスタイル・インテリアデザイン・建築といった分野において、高品質でコンテンポラリーな製品づくりに活躍する人たちが増えている。
シドニー市外の「ザ・ブロック」と呼ばれる地域に立つニコル・モンクスさん。ここは数十年にわたりアボリジニが暮らしてきた場所だ。写真/Paul van Kan
ニコル・モンクス
家具とインテリアのデザイナー、アーティスト
シンプソンさんと同様に、ニコル・モンクスさんも受賞歴のあるコンテンポラリーデザイナーで、自身のデザイン事務所〈ブラックアンドホワイト・クリエイティブ〉を立ち上げている。現在は、祖先であるアボリジニ、オランダ、イングランドの伝統からインスピレーションを受けた2つの家具シリーズを制作中だ。モンクスさんは、西オーストラリア州のガスコイン=マーチソン地域に住むワジャーリ・ヤマジ言語グループに属している。
ニコル・モンクス
家具とインテリアのデザイナー、アーティスト
シンプソンさんと同様に、ニコル・モンクスさんも受賞歴のあるコンテンポラリーデザイナーで、自身のデザイン事務所〈ブラックアンドホワイト・クリエイティブ〉を立ち上げている。現在は、祖先であるアボリジニ、オランダ、イングランドの伝統からインスピレーションを受けた2つの家具シリーズを制作中だ。モンクスさんは、西オーストラリア州のガスコイン=マーチソン地域に住むワジャーリ・ヤマジ言語グループに属している。
ニコル・モンクスさんの作品《ワラム(ブーメラン)チェア》。写真/Chico Monks
〈アーツNSW(ニューサウスウェールズ州政府が運営する芸術推進機関)〉の支援のもと、〈ビーシーテッド〉から製造される2つのシリーズ『ニイナジマンナ(一緒に座る)』と『ワバン・ワバン(飛び跳ねる)』は、〈オーストラリアン・デザイン・センター〉から今年発表される予定だ。家具は注文を受けてから、環境に優しい素材を使い、地元でオーダーメイドで制作される。サステナビリティの考え方に沿ったプロセスだとモンクスさんは言う。
仕上げや色合いにも、ワジャーリ・ヤマジ地域の自然環境が映し出されている。例えば、ワラーヌ(ブーメラン)チェアは、金、銅、スズから選ぶことができる。「これらはすべて、西オーストラリアのワジャーリ・ヤマジ地域で採れる鉱物なんです」とモンクスさん。
このチェアのインスピレーションとなったのは、狩猟用のブーメランだ。この繰り返しの形状は、ブーメランが空を飛ぶ動きを象徴している。「狩猟用ブーメランの形は、真ん中から対称的なふつうのブーメランとはかなり異なっています。だから戻ってこないんですよ!」とモンクスさんは言う。この形を取り入れたことで、デザイン面からアボリジニの狩猟方法やその技術について考える、対話のきっかけにもなるのだ。
〈アーツNSW(ニューサウスウェールズ州政府が運営する芸術推進機関)〉の支援のもと、〈ビーシーテッド〉から製造される2つのシリーズ『ニイナジマンナ(一緒に座る)』と『ワバン・ワバン(飛び跳ねる)』は、〈オーストラリアン・デザイン・センター〉から今年発表される予定だ。家具は注文を受けてから、環境に優しい素材を使い、地元でオーダーメイドで制作される。サステナビリティの考え方に沿ったプロセスだとモンクスさんは言う。
仕上げや色合いにも、ワジャーリ・ヤマジ地域の自然環境が映し出されている。例えば、ワラーヌ(ブーメラン)チェアは、金、銅、スズから選ぶことができる。「これらはすべて、西オーストラリアのワジャーリ・ヤマジ地域で採れる鉱物なんです」とモンクスさん。
このチェアのインスピレーションとなったのは、狩猟用のブーメランだ。この繰り返しの形状は、ブーメランが空を飛ぶ動きを象徴している。「狩猟用ブーメランの形は、真ん中から対称的なふつうのブーメランとはかなり異なっています。だから戻ってこないんですよ!」とモンクスさんは言う。この形を取り入れたことで、デザイン面からアボリジニの狩猟方法やその技術について考える、対話のきっかけにもなるのだ。
「マーリ・ヌラング(広い場所)」と題したインスタレーション。写真/Luke Butterly Photography
モンクスさんはコラボレーションプロジェクトにも取り組んでおり、公共アートインスタレーション「マーリ・ヌラング(広い場所)」もその1つ。アボリジニの象徴的な図柄が刻み込まれた岩の壁で、シドニーのエヴリー地区に建てられた手頃な価格の集合住宅のエントランスロビーに設置された。これは、モンクスさんと、ガディガル族の長老でアーティストのチャールズ・マッデン、建築事務所〈アーバン・フューチャー・オーガニゼーション(都市未来機構)〉とのコラボレーション作品だ。木を使ったインスタレーションでは、シドニーのガディガル族に伝わる伝統的な物語を描き出している。
モンクスさんはコラボレーションプロジェクトにも取り組んでおり、公共アートインスタレーション「マーリ・ヌラング(広い場所)」もその1つ。アボリジニの象徴的な図柄が刻み込まれた岩の壁で、シドニーのエヴリー地区に建てられた手頃な価格の集合住宅のエントランスロビーに設置された。これは、モンクスさんと、ガディガル族の長老でアーティストのチャールズ・マッデン、建築事務所〈アーバン・フューチャー・オーガニゼーション(都市未来機構)〉とのコラボレーション作品だ。木を使ったインスタレーションでは、シドニーのガディガル族に伝わる伝統的な物語を描き出している。
2015年のオーストラリア先住民ファッション・ウィークで発表された〈パンダナ〉のキルトのマキシドレス。写真/Prue Aja
モンクスさんは、デザインの幅を広げ、カラ・マンチーニ・ジェロスさんとの異文化コラボレーションであるブランド〈パンダナ〉で、テキスタイルやグラフィックデザインにも取り組んでいる。モンクスさんは、伝統的なアボリジニ文化の世界観を新しいかたちで表現することで、次の世代のデザイナーたちのインスピレーションになることを願っている。
モンクスさんは、デザインの幅を広げ、カラ・マンチーニ・ジェロスさんとの異文化コラボレーションであるブランド〈パンダナ〉で、テキスタイルやグラフィックデザインにも取り組んでいる。モンクスさんは、伝統的なアボリジニ文化の世界観を新しいかたちで表現することで、次の世代のデザイナーたちのインスピレーションになることを願っている。
自宅のアトリエで仕事をするペニー・エヴァンスさん。写真/Neshko Garch
ペニー・エヴァンズ
陶芸家、インスタレーションアーティスト
先住民族のデザインにおける新しい作品群の特徴と言えるのが、複雑な文化的背景からのインスピレーションだけでなく、それ以外にもさまざまな影響を取り入れていることだ。例えば、ノーザン・リバーズに住むアーティスト、ペニー・エヴァンズさんの陶芸作品におけるグラフィックデザインの大きな特色は、ヨーロッパの古典的な技法であるスグラフィート技法(表面を引っかいて下地を見せる技法)だ。
「私の背景である、カミラロイ=グーメロイ文化にもつながっています。祭事のためや意思疎通、物語を伝える目的で、木や武器、道具、地面にまで彫刻を施す伝統があるんです」とエヴァンズさんは言う。
ペニー・エヴァンズ
陶芸家、インスタレーションアーティスト
先住民族のデザインにおける新しい作品群の特徴と言えるのが、複雑な文化的背景からのインスピレーションだけでなく、それ以外にもさまざまな影響を取り入れていることだ。例えば、ノーザン・リバーズに住むアーティスト、ペニー・エヴァンズさんの陶芸作品におけるグラフィックデザインの大きな特色は、ヨーロッパの古典的な技法であるスグラフィート技法(表面を引っかいて下地を見せる技法)だ。
「私の背景である、カミラロイ=グーメロイ文化にもつながっています。祭事のためや意思疎通、物語を伝える目的で、木や武器、道具、地面にまで彫刻を施す伝統があるんです」とエヴァンズさんは言う。
エヴァンスさんが陶器の皿でつくったウォール・インスタレーション「クラスター」。写真/Penny Evans
「私の祖先は、ブンジャルン族地域の北西部に位置する、ガラ、ムンギンディ、ナラブリやその周辺に住んでいました」とエヴァンズさんは言う。彼女はイギリス・アイルランド系、ドイツ系の血も引いている。この多文化的背景のおかげで、オーストラリア人というアイデンティティについて、独特な視点から、芸術とデザインを通して探ることができると言う。
「黒人と白人、アボリジニの女性と自由の身になった囚人男性から始まる、開拓者の物語が私の家族には流れているんです」と彼女は語る。「昔に思いをはせ、私たち一族の物語が、上陸以前や植民地時代の、歴史上の物語や出来事とひとつになっているような想像をするんです。私にとっては、歴史とは遠い昔のことではありません。その結果として私が生まれ、歴史は私が体現しているものなんです。」
「私の祖先は、ブンジャルン族地域の北西部に位置する、ガラ、ムンギンディ、ナラブリやその周辺に住んでいました」とエヴァンズさんは言う。彼女はイギリス・アイルランド系、ドイツ系の血も引いている。この多文化的背景のおかげで、オーストラリア人というアイデンティティについて、独特な視点から、芸術とデザインを通して探ることができると言う。
「黒人と白人、アボリジニの女性と自由の身になった囚人男性から始まる、開拓者の物語が私の家族には流れているんです」と彼女は語る。「昔に思いをはせ、私たち一族の物語が、上陸以前や植民地時代の、歴史上の物語や出来事とひとつになっているような想像をするんです。私にとっては、歴史とは遠い昔のことではありません。その結果として私が生まれ、歴史は私が体現しているものなんです。」
エヴァンスさんが手がけた陶器「ミーティング・プレイス」をアボリジニの手彫模様の入った穴掘り用スティックと一緒に飾っている。写真/Penny Evans
エヴァンズさんの陶芸作品は、カミラロイ=グーメロイ文化の伝統を汲むものだ。しかし同時に、ウィジャブル族のブンジャルン地区(リスモア周辺)や、休暇中に子どもたちと訪れるンガク言語グループの居住地域(ニューサウスウェールズ州北岸中央部)に伝わる自然モチーフも、創作のヒントとなっている。作品について、彼女はこう語る。「あらゆるものに複数の意味があるんです。例えば、川の氾濫原のデザインには、蜂の巣模様のモチーフも含まれていますが、同時にプレアデス星団(すばる)にも通じるデザインです。」
さらにこういった影響に加え、1950~60年代のオーストラリアで土産物として人気だった、遊び心のあるレトロな「アボリジニ風」陶器スタイルを組み合わせて、彼女ならではの進化し続けるグラフィックを作り出している。エヴァンズさんの作品は、彼女のウェブサイトから購入できるほか、南オーストラリア美術館のショップや、ムルルンディにあるマイケル・リード・ギャラリーでも販売されている。
エヴァンズさんの陶芸作品は、カミラロイ=グーメロイ文化の伝統を汲むものだ。しかし同時に、ウィジャブル族のブンジャルン地区(リスモア周辺)や、休暇中に子どもたちと訪れるンガク言語グループの居住地域(ニューサウスウェールズ州北岸中央部)に伝わる自然モチーフも、創作のヒントとなっている。作品について、彼女はこう語る。「あらゆるものに複数の意味があるんです。例えば、川の氾濫原のデザインには、蜂の巣模様のモチーフも含まれていますが、同時にプレアデス星団(すばる)にも通じるデザインです。」
さらにこういった影響に加え、1950~60年代のオーストラリアで土産物として人気だった、遊び心のあるレトロな「アボリジニ風」陶器スタイルを組み合わせて、彼女ならではの進化し続けるグラフィックを作り出している。エヴァンズさんの作品は、彼女のウェブサイトから購入できるほか、南オーストラリア美術館のショップや、ムルルンディにあるマイケル・リード・ギャラリーでも販売されている。
「氾濫原」と題した親プレート1枚、子プレート2枚のセット。写真/Penny Evans
アボリジニとしての伝統は、コンテンポラリーなデザインをするうえで強みになる、と言うアーティストは多いが、エヴァンズさんもその1人だ。「私たちは、世界でもっとも古く、もっとも長く続いている文化に属しているんです」と彼女は言う。「アボリジニの伝統デザインは、全体として見ても独特な個性がありますが、それぞれの間にもはっきりと異なる特色があります。今も続いている文化ですから、革新は常に起こっています。アボリジニ文化から生まれるオーストラリアのデザインやアート作品は、小さな集落から発信されるものにしろ、都心から発信されるものにしろ、非常に多様なバラエティに富んでいるんです。」
アボリジニとしての伝統は、コンテンポラリーなデザインをするうえで強みになる、と言うアーティストは多いが、エヴァンズさんもその1人だ。「私たちは、世界でもっとも古く、もっとも長く続いている文化に属しているんです」と彼女は言う。「アボリジニの伝統デザインは、全体として見ても独特な個性がありますが、それぞれの間にもはっきりと異なる特色があります。今も続いている文化ですから、革新は常に起こっています。アボリジニ文化から生まれるオーストラリアのデザインやアート作品は、小さな集落から発信されるものにしろ、都心から発信されるものにしろ、非常に多様なバラエティに富んでいるんです。」
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