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映画『フラワーショウ!』公開! 世界一美しい「ケルトの庭」の作り方
世界最高峰のガーデニングショー、「チェルシー・フラワーショー」に初出展して金賞を獲得した女性ランドスケープデザイナーの活躍を描く映画が公開中。西洋のガーデニングの常識を破った「世界一美しいケルトの庭」とは?
栗原晶子|Akiko Kurihara
2016年7月3日
フリーの編集&ライターとしてインテリア誌やハウジング誌を中心に取材・執筆活動する傍ら、NPO法人ハウスキーピング協会認定の整理収納アドバイザーとして、コラムの連載やセミナーの企画に携わる。暮らしがラクに楽しくなる、整理収納アイデアを研究・発信中です。
また、エンタメ好きとして演劇や映画に関するライティングも手がけています。
フリーの編集&ライターとしてインテリア誌やハウジング誌を中心に取材・執筆活動する傍ら、NPO法人ハウスキーピング協会認定の整理収納アドバイザーとして、コラムの連載やセミナーの企画に携わる。暮らしがラクに楽しくなる、整理収納アイデアを研究・発信中です。... もっと見る
© 2014 Crow’s Nest Productions
イギリス、ロンドンのチェルシーで毎年5月に開催される「チェルシー・フラワーショー」は、各国から15万人以上の来場者が訪れる、世界一権威のあるガーデニング&フラワーショー。世界屈指のガーデンデザイナーたちによる“ショーガーデン”、芸術性と職人的アプローチが求められる “アーティザンガーデン” 、斬新なアイデアを打ち出した “フレッシュ・ガーデン” の部門に分かれて展示が行われる。
100年以上の歴史があるこのショーで、2002年、初エントリーにして金賞を受賞し、当時の歴代最年少受賞記録を塗り替えたアイルランド人のランドスケープデザイナーがいる。メアリー・レイノルズだ。今回紹介する映画『フラワーショウ!』は、彼女の実話に基づいて生まれた物語である。
イギリス、ロンドンのチェルシーで毎年5月に開催される「チェルシー・フラワーショー」は、各国から15万人以上の来場者が訪れる、世界一権威のあるガーデニング&フラワーショー。世界屈指のガーデンデザイナーたちによる“ショーガーデン”、芸術性と職人的アプローチが求められる “アーティザンガーデン” 、斬新なアイデアを打ち出した “フレッシュ・ガーデン” の部門に分かれて展示が行われる。
100年以上の歴史があるこのショーで、2002年、初エントリーにして金賞を受賞し、当時の歴代最年少受賞記録を塗り替えたアイルランド人のランドスケープデザイナーがいる。メアリー・レイノルズだ。今回紹介する映画『フラワーショウ!』は、彼女の実話に基づいて生まれた物語である。
© 2014 Crow’s Nest Productions
自然と人は共生するもの
アイルランドの田舎で生まれ育ったメアリー・レイノルズ(エマ・グリーンウェル)にとって、自然は身近な存在であり、人は自然の中で生きるのが当然だった。
庭園や広場、公園などの屋外空間をデザインするランドスケープデザイナーを目指し、自然をいかした庭のデザインを描きためてきたメアリーは、有名ガーデンデザイナーのシャーロット(クリスティン・マルツァーノ)のスタッフに採用される。シャーロットは容姿端麗にして凄腕のビジネスウーマンで、精力的にガーデン・デザインの仕事をこなしていく。だが、作品の多くはアシスタントであるメアリーがデザインしたものだった。
いつかチャンスがめぐってきて、「自然と人が共生する作品」をつくれたら、きっと世に認められるはず――そう信じて仕事に励むメアリーだったが、夢はあっけなくやぶれてしまう。
自然と人は共生するもの
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いつかチャンスがめぐってきて、「自然と人が共生する作品」をつくれたら、きっと世に認められるはず――そう信じて仕事に励むメアリーだったが、夢はあっけなくやぶれてしまう。
© 2014 Crow’s Nest Productions
華やかなショーの裏の熾烈な戦い
雇い主シャーロットのお供でチェルシー・フラワーショーを訪れたメアリー。だが、咲き誇る花々、美しい装飾にあふれる庭をカメラで撮影しながらも、違和感を感じてしまう。どうしても「美しい」とは思えないのだ。
華やかなショーの裏の熾烈な戦い
雇い主シャーロットのお供でチェルシー・フラワーショーを訪れたメアリー。だが、咲き誇る花々、美しい装飾にあふれる庭をカメラで撮影しながらも、違和感を感じてしまう。どうしても「美しい」とは思えないのだ。
© 2014 Crow’s Nest Productions
そんなとき、ショーの作品を「バカげている」と切り捨てる、植物学者のクリスティ(トム・ヒューズ)に再会。「自分と同じ人がいる」とときめきを感じたメアリーが見せる表情は、サンザシの花や風にそよぐ野草のように可憐で素朴な少女の顔だ。そう、この映画は「一生懸命頑張る女子を応援せずにはいられなくなる」系のエンタメ作品でもある。
となればもちろん、メアリーの奮闘の背景となるフラワーショーの舞台裏も見どころの1つ。華やかな庭づくりをめぐるデザイナーたちの熾烈な戦いが、このフラワーショーの重要性を浮き彫りにする。
今年のチェルシー・フラワーショーのレポートはこちら
ガーデンのトレンド:北欧スタイルの「スマートガーデン」に注目
ガーデンツアー:都会生活に癒やしとくつろぎをもたらすサンクンガーデン
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© 2014 Crow’s Nest Productions
「ケルトの聖域」にこめた思い
たった8枠の一般応募に2000人の応募者から選ばれて、ショーの出場権を手にするメアリーは、生命の輝きと自然保護への思いをこめて、「ケルトの聖域」と題した作品をデザインする。庭の中心は、幼いころから大好きなサンザシの木。花言葉は「希望」――庭づくりへの思いなら誰にも負けないメアリーだが、作品を施工するための250万ポンドの資金がない。作品の施工開始が刻々と迫るなか、メアリーの希望は叶うのか……。
「ケルトの聖域」にこめた思い
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© 2014 Crow’s Nest Productions
エチオピアの大地での気づき
夢の実現のためには、クリスティの力が絶対に必要だと悟ったメアリーは、彼を追ってエチオピアへ。砂漠化を防ぐために奮闘するクリスティの姿に心を打たれる一方、人が集い憩う環境をつくるには、仕掛けとしてのランドスケープデザインが必要だと気づき、提案を行う。そして、雄大なアフリカの大地を眺めながら、ある決意を固めるのだった。
果たして、メアリーの思いはチェルシー・フラワーショーの会場で実を結ぶのか。「ケルトの聖域」は無事完成するのか。ワクワクとハラハラは、ぜひ、劇場で感じてほしい。
エチオピアの大地での気づき
夢の実現のためには、クリスティの力が絶対に必要だと悟ったメアリーは、彼を追ってエチオピアへ。砂漠化を防ぐために奮闘するクリスティの姿に心を打たれる一方、人が集い憩う環境をつくるには、仕掛けとしてのランドスケープデザインが必要だと気づき、提案を行う。そして、雄大なアフリカの大地を眺めながら、ある決意を固めるのだった。
果たして、メアリーの思いはチェルシー・フラワーショーの会場で実を結ぶのか。「ケルトの聖域」は無事完成するのか。ワクワクとハラハラは、ぜひ、劇場で感じてほしい。
日本の庭にも通じる「ケルトの聖域」
メアリーの庭への思いや、彼女の作品にあふれる自然への豊かな感性は、実は日本人にはしっくりくるものだ。
一般的に、西洋の主流の庭づくりは、幾何学性など人工的秩序を屋外空間にとりいれることがデザインの軸となる。だから、自然をそのままいかすメアリーの庭づくりの考え方は、西洋の基準では異端的であり、新鮮で魅力的に映るのだ。メアリーはアイルランドの田舎でのびのびと育ち、アイルランド文化の古層をなすケルト文化を肌で感じながら育った。だからこそ、野山の自然を大胆にとりいれた「ケルトの聖域」をつくることができたのだ。
ひるがえって、日本の庭も「市中の山居」をめざす露地のように、野趣、つまり自然のエッセンスをありのままに庭にとりいれるべく工夫を重ねる。例えば、世界的に活躍する日本人デザイナー石原和幸氏の作品もそうだ。石原氏は、華道や伝統的庭づくりの精神をデザインにとりいれ、欧米のデザイナーとは一線を画す、日本的感性にあふれる作品を制作し、チェルシー・フラワーショーで5年連続金賞を獲得している(上の写真は2016年アーティザンガーデン部門金賞受賞作品)。
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世界のHouzzから:日本的感性を象徴する「茶室」の伝統と革新性
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めぐる季節を感じる庭づくり
映画『フラワーショウ!』を観ると、無性に自然が恋しくなる。幼い頃に遊んだ野山や公園、近所の空き地を思い出す人もいるかもしれない。都会ぐらしで近くに自然なんてない、と思う人も、少し周りを見渡してみてほしい。通勤路や通学路の途中には街路樹や、路傍にたくましく伸びる雑草からも、季節は感じられるもの。通りすがりのお宅の庭先の花も、小さな「借景」として楽しめるのではないだろうか。
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庭の見方が変わるかも
また、この映画を観たあとは、公園や庭園を俯瞰で眺めたくなるにちがいない。とはいえ、世の中の公園や庭園は、高い位置から眺められるものばかりではない。そんなときは、園内の案内マップを見てみよう。デザイナーが緑や水のバランスを考えて構成した設計に気づくだろうし、映画の中でメアリーが訴えていた「自然をそれぞれのやり方で守っていくこと」の大切さを感じられるだろう。
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夏に向けての庭・ガーデン100選!
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© 2014 Crow’s Nest Productions
映画公開情報
『フラワーショウ!』 ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBIS GARDEN CINEMAほか、全国でロードショー。詳しい上映情報はこちら。
教えてHouzz
どんな庭が好きですか? コメント欄で教えてください! 映画のご感想も歓迎です!
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『フラワーショウ!』 ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBIS GARDEN CINEMAほか、全国でロードショー。詳しい上映情報はこちら。
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