Houzzツアー:可動収納と引き戸で自由にスペースを区切る、家族の成長に寄り添う家
4LDKからワンルームにリノベーション。この家にはもうひとつ興味深い仕掛けが。将来の家族構成やライフスタイルの変化にもフレキシブルに対応できる、「動かせる間仕切り」です。

Taeko Ishii
2016年9月7日
フリーランスのエディター・ライター。大学で住まいについて学んだのち、コピーライター、住宅雑誌編集者を経てフリーランスに。暮らしまわりに関すること、地方での暮らしについてが主なテーマです。
フリーランスのエディター・ライター。大学で住まいについて学んだのち、コピーライター、住宅雑誌編集者を経てフリーランスに。暮らしまわりに関すること、地方での暮らしについてが主なテーマです... もっと見る
住まいづくりの過程で、プラン=間取りに迷う人は多い。家族構成やライフスタイルによって心地よいプランは一軒ごとに違い、それによって家族のコミュニケーションが変わったり家事効率を上げてくれたりと、暮らしに大きな変化をもたらすからだ。
4LDKのマンションの一室を購入し、リノベーションを考えたオーナー夫妻が間取りに希望したのは、「小さな寝室とくつろげる場所がほしい」というシンプルなもの。とはいえこれから子供が生まれて家族構成が変化していけば、求めるプランも変わっていくだろう。そこでリノベーションクラフトの澁谷裕介さんが提案したのが、可動棚と引き戸を間仕切りにして、部屋の形を自由に変えられるフレキシブルなプランだ。
4LDKのマンションの一室を購入し、リノベーションを考えたオーナー夫妻が間取りに希望したのは、「小さな寝室とくつろげる場所がほしい」というシンプルなもの。とはいえこれから子供が生まれて家族構成が変化していけば、求めるプランも変わっていくだろう。そこでリノベーションクラフトの澁谷裕介さんが提案したのが、可動棚と引き戸を間仕切りにして、部屋の形を自由に変えられるフレキシブルなプランだ。
マンションは東西に長いL字型で、購入時は西側にバルコニーに面したLDKと和室、中央に水まわり、東側に3つの個室がある平均的な間取り。澁谷さんは水まわり以外の間仕切り壁を取り払い、4LDKをワンルームへとリノベーションするプランを提案した。
どんなHouzz?
《ASKW 2016》
所在地:北海道札幌市
家族構成:30代の夫婦
設計:リノベーションクラフト
専有面積:83.86平方メートル(25.37坪)
構造:RC造
竣工:2016年2月
どんなHouzz?
《ASKW 2016》
所在地:北海道札幌市
家族構成:30代の夫婦
設計:リノベーションクラフト
専有面積:83.86平方メートル(25.37坪)
構造:RC造
竣工:2016年2月
ワンルームと言っても、LDKと個室ゾーンは、水まわりを介してゆるやかに区切られている。そして個室ゾーンに設けたのが、1カ所に引き込める引き戸と可動収納、つまり「動かせる間仕切り」だ。「将来、使うか分からない個室をつくるのはもったいない。そこで固定の壁は一度すべて取り払い、可変するフリーなスペースを提案しました。子供部屋が必要になれば、可動収納で仕切って2部屋にできます」と澁谷さん。
澁谷さんはアイデアソースについてこう振り返る。「私が通っていた札幌市立高等専門学校(現札幌市立大学)はとても開放的な空間で、学生アトリエなどは天井が高く、パーティションや什器でゆるやかに仕切られていました。初代学長の清家清先生の《私の家》という住宅も、可動の家具やカーテンなどで仕切られた間仕切りの少ないワンルームです。こうした空間を体感した経験が、アイデアのヒントになっているのかもしれません」。
細長い間取りのマンションはどうしても光と風が全体に届きにくいが、間仕切りをなくすことで、三方向にある窓から光と風が回り込みやすくなる。天井高2390mmに対して仕切りとなる可動収納は1856mmに抑え、上部から風や光が通るように設計。部屋を仕切っても明るく、空間がつながっている感覚を残すようにした。
澁谷さんはアイデアソースについてこう振り返る。「私が通っていた札幌市立高等専門学校(現札幌市立大学)はとても開放的な空間で、学生アトリエなどは天井が高く、パーティションや什器でゆるやかに仕切られていました。初代学長の清家清先生の《私の家》という住宅も、可動の家具やカーテンなどで仕切られた間仕切りの少ないワンルームです。こうした空間を体感した経験が、アイデアのヒントになっているのかもしれません」。
細長い間取りのマンションはどうしても光と風が全体に届きにくいが、間仕切りをなくすことで、三方向にある窓から光と風が回り込みやすくなる。天井高2390mmに対して仕切りとなる可動収納は1856mmに抑え、上部から風や光が通るように設計。部屋を仕切っても明るく、空間がつながっている感覚を残すようにした。
引き戸は2カ所。エントランス正面の東西方向(写真右奥)とエントランス右手の南北方向(写真手前)で、開けたり閉めたり、また可動収納と組み合わせてレイアウトすることで、間取りを自由に変えられる。
設計にあたり、澁谷さんはオーナー夫妻と相談しながら引き戸や収納の配置、家具の置き方を変えた5パターンのシミュレーション図面を作成して検討した。将来、子供のベッドが最大2つまで増えたり、勉強用のデスクを置いたりといった変化も想定し、プランを決定した。
設計にあたり、澁谷さんはオーナー夫妻と相談しながら引き戸や収納の配置、家具の置き方を変えた5パターンのシミュレーション図面を作成して検討した。将来、子供のベッドが最大2つまで増えたり、勉強用のデスクを置いたりといった変化も想定し、プランを決定した。
玄関に立つと、正面の壁の奥に個室ゾーンが広がる。壁の左右に引き戸のレールがあり、好きな位置に戸を配置したり、不要なときは壁の裏側に戸を収納しておける仕組みだ。
たとえば奥の壁際にベッドを配置し、玄関との間の引き戸をオープンにすると、写真のように開放的な雰囲気に。ベッドの正面には土間スペースが見え、東側の広い窓から光が差し込むすがすがしい空間だ。
ここで、土間スペースとベッドの間に、可動収納を移動してみる。キャスター付き可動収納は、奥さま1人でも気軽に移動可能で、掃除の際にも便利だ。
配置後の様子。左手に2つ並べた収納が間仕切りになり、上のオープンな印象とは異なる落ち着いた空間に変わった。
さらにベッドの西側にも可動収納を置いてみると……。
2方向を囲まれ、落ち着けるコージーな空間に。正面の収納の反対側はフリースペースとして、趣味の空間や書斎として使えるほか、将来は子供部屋にすることもできるというわけだ。
シナ合板で製作したシンプルな可動収納は、夫妻が住んでいた賃貸住宅のクローゼットの容量とサイズをヒアリングしたうえで、「中身をそのまま持ち込んで効率よく収納できるようにしました」と澁谷さん。扉付きと扉なしの2種それぞれを2個ずつ製作しているので、2人で使い分けるのはもちろんのこと、それぞれ使いやすい位置に移動して使うこともできる。扉なしの収納は上部にハンガーラックのバーを取り付け、下部には〈無印良品〉の衣装ケースがぴったり収まるようにサイズを決定した。
シナ合板で製作したシンプルな可動収納は、夫妻が住んでいた賃貸住宅のクローゼットの容量とサイズをヒアリングしたうえで、「中身をそのまま持ち込んで効率よく収納できるようにしました」と澁谷さん。扉付きと扉なしの2種それぞれを2個ずつ製作しているので、2人で使い分けるのはもちろんのこと、それぞれ使いやすい位置に移動して使うこともできる。扉なしの収納は上部にハンガーラックのバーを取り付け、下部には〈無印良品〉の衣装ケースがぴったり収まるようにサイズを決定した。
玄関側には廊下のような空間が生まれ、奥はLDKに続く。正面の引き戸は天井から吊り下げて固定しているので、床にレールがなく、開けた時もフラットに使える。
左手に見えるのが、玄関を延長した土間スペースだ。床をグレーのタイル張りにし、靴のまま入れるようにしている。居室空間を減らして土間にするのは思い切った決断に感じるが、「北海道は積雪が多いので、外から帰宅したときに雪をはらったり体を拭くスペースがあると便利なんです」と澁谷さん。
将来ベビーカーや自転車を置いたりと活躍するであろうこの場所には、天井まで造作収納を設けて、多目的な収納スペースに。フローリングとの段差部分には、足元を照らす照明を設置した。さらに東向きの窓から光が差し込むのもうれしいところ。引き戸を開けておけば、東の窓から西のバルコニーまで光と風が行き渡るので気持ちがよく、雪でエントランスや靴が濡れても乾きやすい。
引き戸を閉めれば、この土間空間も個室の一部になり、来客時に収納を隠すこともできる。
左手に見えるのが、玄関を延長した土間スペースだ。床をグレーのタイル張りにし、靴のまま入れるようにしている。居室空間を減らして土間にするのは思い切った決断に感じるが、「北海道は積雪が多いので、外から帰宅したときに雪をはらったり体を拭くスペースがあると便利なんです」と澁谷さん。
将来ベビーカーや自転車を置いたりと活躍するであろうこの場所には、天井まで造作収納を設けて、多目的な収納スペースに。フローリングとの段差部分には、足元を照らす照明を設置した。さらに東向きの窓から光が差し込むのもうれしいところ。引き戸を開けておけば、東の窓から西のバルコニーまで光と風が行き渡るので気持ちがよく、雪でエントランスや靴が濡れても乾きやすい。
引き戸を閉めれば、この土間空間も個室の一部になり、来客時に収納を隠すこともできる。
「木の素材感のある家」を夫妻が希望したことから、室内には多様な樹種の素材をふんだんに取り入れた。なかでも玄関正面の壁は、よい味わいに経年変化するナラ材フローリングを張って、アイキャッチに。
個室ゾーンの天井は、元のボードを撤去してシナ合板の目透かし張り(板などの接合部に少し隙間をあけた張り方)に変更した。やわらかな色と木の温もりが心地よく、シンプルながら落ち着きのある空間に仕上げられている。窓には落下防止の手すりを黒のスチールで製作し、空間を引き締めた。
西側の明るいLDKで目を惹くのは、ダイニングから一段下がったリビングのナラ材パーケットフローリング。床レベルと素材を変えることで空間がゆるやかに区切られ、ひとつながりながらメリハリのある空間だ。華やかな印象のパーケットフローリングだが、面積を限って使うことで空間のアクセントになり、シンプルな家具にも調和する。天井は下地とボードを撤去し、躯体のコンクリートを表わしにして塗装仕上げに。天井高約2600mmの伸びやかな空間は、落ち着いた雰囲気の個室ゾーンとは違う気分で過ごせる。
ダイニングと廊下の床は、北海道産ナラ材フローリングの節ありタイプをセレクト。段差部分の框(かまち)にはシラカバ材を使って、表情豊かに仕上げた。
造作キッチンは、手入れしやすいステンレスの天板にシナ材を組み合わせたシンプルなデザイン。背面は壁一面にシナ材の扉で隠せる収納を設けているので、オープンキッチンながら見せたくないものはしまっておける。
木の美しいフォルムが魅力の〈カール・ハンセン&サン〉のチェアは座面に黒のペーパーコード素材を選び、シンプルな空間にアクセントを添えた。
リビング横の和室は撤去し、壁際に扉付きのクローゼットを新設。温もりのある木の扉は長方形の板材を並べたようなユニークなデザインで、一部を抜いた手掛けがアクセントを添える。内部の棚は奥行きを浅くし、物を奥までしまい込まないように工夫している。
窓は、外側のアルミサッシはそのままに、内窓は既存の樹脂サッシから木製サッシに変更して、木を基調としたインテリアに溶け込ませた。こうした木の素材は、それぞれ異なる表情を生かすため、すべてクリア塗装で仕上げている。
白を基調にしたさわやかな洗面スペースのカウンターもシナ合板で造作し、質感豊かに仕上げた。
可変するプランに加え、豊富な収納と、将来の変化に合わせて柔軟に対応できる住まい。余白を残し、住み手に委ねる家づくりは、リノベーションの大きなヒントを与えてくれる。
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