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Houzzツアー:築24年のウィーン郊外の家を日本人女性建築家がモダンにリフォーム
まずテラスをリフォーム、その7年後に2年間かけて1階を全面改装、そして現在は2階部分のプランニング中。施主と建築家がじっくり話し合い、家に住みながら長いスパンで慎重にリフォームをプラン、実行するスタイルが参考になります。
Miki Anzai
2016年6月29日
ウィーン市内で人気レストラン〈ヴァインツィール〉を経営するオーストリア人夫妻の自宅は、「ウィーンの森」南部の丘の上に建つ。市中心部から車でたった30分とは思えない、静かで自然あふれる景勝地だ。ここで20年以上暮らす施主夫妻は、一人息子が医学生になり独立したのをきっかけに、2階建て住居を全面的にリフォームすることにした。設計を依頼したのは、店舗の内装も任せている筒井ナイルツ美矢子さん。筒井さんは、同じく建築家のご主人マンフレッド・グレーバーさんとチームを組み、設計から内装まですべてを担当。施主と建築家の両夫妻は、一緒に旅行やゴルフに出かける仲だが、4人とも妥協を許さない性格だ。まず庭にテラスを設置し、それから検討に検討を重ね、2年以上をかけて1階のリフォームを完成させた。現在は、2階部分の改装を計画中だ。
どんなHouzz?
居住者:ウィーン市内でレストランを経営する50代夫妻
所在地:オーストリア、ウィーン郊外(ガアーデン・バイ・メードリング)
床面積:101平方メートル(1階)、90平方メートル(2階)
テラス竣工:2005年
1階リフォーム竣工:2014年
設計:美矢子ナイルツ一級建築士事務所
注目ポイント:「せっかくの広い庭をもっと眺めていたい」「すっきりと整理されたキッチンにしたい」などの施主からの希望を細かく吸い上げながら、日本人女性らしいしなやかさとこまやかな気配り、そして風水の知識も取り入れたモダンな邸宅。家に住みながらあせらず慎重に、少しずつ進めたヨーロッパ式リフォーム。
居住者:ウィーン市内でレストランを経営する50代夫妻
所在地:オーストリア、ウィーン郊外(ガアーデン・バイ・メードリング)
床面積:101平方メートル(1階)、90平方メートル(2階)
テラス竣工:2005年
1階リフォーム竣工:2014年
設計:美矢子ナイルツ一級建築士事務所
注目ポイント:「せっかくの広い庭をもっと眺めていたい」「すっきりと整理されたキッチンにしたい」などの施主からの希望を細かく吸い上げながら、日本人女性らしいしなやかさとこまやかな気配り、そして風水の知識も取り入れたモダンな邸宅。家に住みながらあせらず慎重に、少しずつ進めたヨーロッパ式リフォーム。
憧れのリゾート風テラス
リフォーム第1弾は、屋外テラス。外で食事をしたかった夫妻の夢を、屋根つきテラス(写真下、左)で実現した。その横には、お茶やお酒をゆっくり飲めるウッドソファ(写真下、右)も造り付けた。クッションを敷き、パラソルを広げると、高級リゾートホテルにいるような気分で「旅行に行く必要をあまり感じなくなった」と施主夫人は語る。
注目ポイント: 2階のベランダ・フェンス。1990年の新築当時は重厚感のある木製フェンス(写真上、左)だったが、新設した木製テラスソファのモダンなデザイン(写真上、右;写真下)に合わせ、すっきりとしたもの(写真下、左上)につけ替えた。
リフォーム第1弾は、屋外テラス。外で食事をしたかった夫妻の夢を、屋根つきテラス(写真下、左)で実現した。その横には、お茶やお酒をゆっくり飲めるウッドソファ(写真下、右)も造り付けた。クッションを敷き、パラソルを広げると、高級リゾートホテルにいるような気分で「旅行に行く必要をあまり感じなくなった」と施主夫人は語る。
注目ポイント: 2階のベランダ・フェンス。1990年の新築当時は重厚感のある木製フェンス(写真上、左)だったが、新設した木製テラスソファのモダンなデザイン(写真上、右;写真下)に合わせ、すっきりとしたもの(写真下、左上)につけ替えた。
絶景を取り込む大開口の窓
リフォーム第2弾は、玄関ホール以外の1階部分。以前は西側の庭に面したダイニングルームの壁に、小さい窓が1つしかなかったが(前の写真下)、南側の壁面と合わせて大きな開口を設けた。夫妻の念願だった「屋内から美しい庭を眺望する」ことが可能になった。
注目ポイント:木製テラスソファとマッチする、大窓の外枠デザイン。第1弾(2005年竣工)と第2弾(2014年竣工)のリフォームに連続性を持たせている。
リフォーム第2弾は、玄関ホール以外の1階部分。以前は西側の庭に面したダイニングルームの壁に、小さい窓が1つしかなかったが(前の写真下)、南側の壁面と合わせて大きな開口を設けた。夫妻の念願だった「屋内から美しい庭を眺望する」ことが可能になった。
注目ポイント:木製テラスソファとマッチする、大窓の外枠デザイン。第1弾(2005年竣工)と第2弾(2014年竣工)のリフォームに連続性を持たせている。
特等席の窓辺
「ここが私のお気に入りのスポット。緑の美しい季節だけでなく、冬にはしんしんと降る雪を、ここからずっと眺めていたい」と話す施主夫人(写真上)。
取材中にも、2階のリフォームについて、思いついたアイデアを筒井さん(写真下、左)に投げかける施主夫妻。
注目ポイント1:ダイニングテーブルは、筒井夫妻がデザインしたオリジナル作品。黄緑色のダイニングチェアも、筒井夫妻とともにミラノ・サローネまで出かけて選んだ、デンマーク発祥のイタリア家具メーカー〈アンド・トラディション〉の《キャッチチェア》。シャンデリアは、ドイツ人の照明デザイナー、イザベル・ハムに特注した。
注目ポイント2:庭の中央奥に置かれたワイン圧搾機は1905年製。ご主人の親族が使っていたものを譲り受けた。すべてを新しくするのではなく、伝統も重んじている。
「ここが私のお気に入りのスポット。緑の美しい季節だけでなく、冬にはしんしんと降る雪を、ここからずっと眺めていたい」と話す施主夫人(写真上)。
取材中にも、2階のリフォームについて、思いついたアイデアを筒井さん(写真下、左)に投げかける施主夫妻。
注目ポイント1:ダイニングテーブルは、筒井夫妻がデザインしたオリジナル作品。黄緑色のダイニングチェアも、筒井夫妻とともにミラノ・サローネまで出かけて選んだ、デンマーク発祥のイタリア家具メーカー〈アンド・トラディション〉の《キャッチチェア》。シャンデリアは、ドイツ人の照明デザイナー、イザベル・ハムに特注した。
注目ポイント2:庭の中央奥に置かれたワイン圧搾機は1905年製。ご主人の親族が使っていたものを譲り受けた。すべてを新しくするのではなく、伝統も重んじている。
キッチン大革命
立派な特注キッチンだったが、いかにも24年前のデザインという古さは否めなかったため、施主夫人が「どうしても、もっとモダンなものにしたかった」と強くリフォームを希望した台所(写真上)。
過剰な演出がまったくない、驚くほど静謐な表情のキッチンに生まれ変わった(写真下)。
立派な特注キッチンだったが、いかにも24年前のデザインという古さは否めなかったため、施主夫人が「どうしても、もっとモダンなものにしたかった」と強くリフォームを希望した台所(写真上)。
過剰な演出がまったくない、驚くほど静謐な表情のキッチンに生まれ変わった(写真下)。
冷蔵庫、食洗機、ゴミ箱、調味料、道具類などは、料理の動線を考えながら適切な位置に配されているが、そのすべてがきちんと扉内に収まっている。「もともと整理整頓が得意で、モノが散らかっているのが大嫌い」という施主夫人。「住む人の意識の高さが、私たちのデザインを向上させました」と筒井さんは語る。
注目ポイント:扉はワンタッチ操作で開閉ができるように、プッシュラッチを採用。美観を損ねないよう、電源スイッチは棚裏や、シンクの横など目立たない場所に設置してある。
注目ポイント:扉はワンタッチ操作で開閉ができるように、プッシュラッチを採用。美観を損ねないよう、電源スイッチは棚裏や、シンクの横など目立たない場所に設置してある。
シンク前の棚には、ご主人お気に入りの格言「朝食をベッドで取りたいなら、台所で寝るべし」と書かれたサインボードを飾っている。実際は、2人とも寝室で朝食を取るタイプではなく、絶えず動き回っている。取材日も夕刻から「急激に冷え込む」という予報が入ると、庭の観葉植物を心配して、せっせと鉢植えを家の中に避難させていた。その日、文字通り台所で寝たのは植物たちだ。
注目ポイント:キッチンの天板からシンクにいたるまで、2013年春のミラノ・サローネで発表された最新の陶磁器で仕上げている。
注目ポイント:キッチンの天板からシンクにいたるまで、2013年春のミラノ・サローネで発表された最新の陶磁器で仕上げている。
平面図
第1弾リフォーム(2005年竣工)
No.11:ルーフ付きテラス
No.12:造り付けテラスソファ
第2弾リフォーム(2014年竣工)
No.10:スリム化した暖炉
No.6:機能と美しさを追求したオープン・キッチン
No.5:テーブル・椅子・シャンデリアにいたるまで特注のダイニング
第1弾リフォーム(2005年竣工)
No.11:ルーフ付きテラス
No.12:造り付けテラスソファ
第2弾リフォーム(2014年竣工)
No.10:スリム化した暖炉
No.6:機能と美しさを追求したオープン・キッチン
No.5:テーブル・椅子・シャンデリアにいたるまで特注のダイニング
ベースカラーは白で統一
玄関ホールの引き戸を開けると、白を基調に、自然素材の木が映える、シンプルでスタイリッシュな空間が広がる。以前はタイル張りだった床を、無垢材のフローリングに替え、重々しい造り付けの収納家具を撤去した。
注目ポイント:天井照明を壁に近づけることで、壁面に灯りのアクセントをつけている。
玄関ホールの引き戸を開けると、白を基調に、自然素材の木が映える、シンプルでスタイリッシュな空間が広がる。以前はタイル張りだった床を、無垢材のフローリングに替え、重々しい造り付けの収納家具を撤去した。
注目ポイント:天井照明を壁に近づけることで、壁面に灯りのアクセントをつけている。
アイデア満載の靴箱
シューズクロークにも、さまざまな工夫が施されている。各扉には計120個の小さい正方形の穴を開けた。「デザイン面だけでなく、使う人の身長によって、最適な高さの穴に指を入れて扉を開けられるように計算した」と語る筒井さん。「穴を設けることで、靴の臭いを内部にこもらせない効果も狙っています」という。
さらに、靴をうまく収納しつつ、見やすく取り出せるように、靴をのせる板には傾斜をつけた。扉を開けたときにだけ、自動的に内部の照明がつくようになっている。
注目ポイント:扉には、開き扉や引き戸とは違う「フラットに閉まり、横にスライドして開く金物」を使っている。これにより、閉めた状態ではきれいな平面を構成するが、一方の扉を手前に少し引き、横にずらすと、もう一方の扉の上に重なるので、場所をとらない。
シューズクロークにも、さまざまな工夫が施されている。各扉には計120個の小さい正方形の穴を開けた。「デザイン面だけでなく、使う人の身長によって、最適な高さの穴に指を入れて扉を開けられるように計算した」と語る筒井さん。「穴を設けることで、靴の臭いを内部にこもらせない効果も狙っています」という。
さらに、靴をうまく収納しつつ、見やすく取り出せるように、靴をのせる板には傾斜をつけた。扉を開けたときにだけ、自動的に内部の照明がつくようになっている。
注目ポイント:扉には、開き扉や引き戸とは違う「フラットに閉まり、横にスライドして開く金物」を使っている。これにより、閉めた状態ではきれいな平面を構成するが、一方の扉を手前に少し引き、横にずらすと、もう一方の扉の上に重なるので、場所をとらない。
暖炉も完全リニューアル
リビングの中央に幅をきかせていた、存在感のある暖炉(写真上)も、現代風にコンパクトにつくり替えた。取り壊しの工事の様子は、几帳面な施主夫人がすべて画像で記録しており、リフォームが完成したときに、一冊のアルバムにまとめ、ご主人にプレゼントした。
リビングの中央に幅をきかせていた、存在感のある暖炉(写真上)も、現代風にコンパクトにつくり替えた。取り壊しの工事の様子は、几帳面な施主夫人がすべて画像で記録しており、リフォームが完成したときに、一冊のアルバムにまとめ、ご主人にプレゼントした。
幸運を呼ぶ水
「水の流れる音に加えて、五感に気持ちよい空間をつくる」ために、風水学も利用している。ウィーンだけでなく、海外からの設計依頼の多い筒井さんは、「アジア人なら風水に詳しいという先入観を持っている顧客が多いので、猛勉強して、風水インテリア・アドバイザーの資格も取得しました」。家のそばに金属製の潤いのある空間をつくると、運気も上がるという。
注目ポイント:このコーナーだけでなく、この家では風水学をいかし、「健康に暮らせる場所」がいたるところで計画されている。
「水の流れる音に加えて、五感に気持ちよい空間をつくる」ために、風水学も利用している。ウィーンだけでなく、海外からの設計依頼の多い筒井さんは、「アジア人なら風水に詳しいという先入観を持っている顧客が多いので、猛勉強して、風水インテリア・アドバイザーの資格も取得しました」。家のそばに金属製の潤いのある空間をつくると、運気も上がるという。
注目ポイント:このコーナーだけでなく、この家では風水学をいかし、「健康に暮らせる場所」がいたるところで計画されている。
2005年から始まったリフォーム・プロジェクト。いよいよ仕上げとなる2階部分の設計が佳境に入り、2017年には着工予定だ。完成が待ち遠しい。
筒井さんは、個人住宅だけでなく商業施設の設計も多数手がけている。「デザイン好きのためのトラベルガイド:ウィーン建築めぐり」の記事中で紹介したレストラン〈ヴァインツィール〉と、ブティック〈フライ・ヴィレ〉は、筒井さんがインテリアを担当している。
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施主と建築家がじっくり話し合ってつくった、きめこまかな工夫がいっぱいのウィーン郊外の家、いかがでしたか。ぜひご感想をお聞かせください。
筒井さんは、個人住宅だけでなく商業施設の設計も多数手がけている。「デザイン好きのためのトラベルガイド:ウィーン建築めぐり」の記事中で紹介したレストラン〈ヴァインツィール〉と、ブティック〈フライ・ヴィレ〉は、筒井さんがインテリアを担当している。
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