Houzzツアー:三角形の開口部から、陽光が降り注ぐテラスのある家
子供達が巣立った後の夫婦の時間のために、プライバシーに配慮しつつも開放感あふれる家に建て替え。三角形の開口部が特徴的な、ゆとりとくつろぎの住まい。
Miki Anzai
2016年4月27日
高層マンションが立ち並ぶ環状道路から一本内側に入ると、世田谷区が指定する風致地区が広がる。その中に佇むY邸の隣接地にあるのは、低層住宅ばかりだ。しかし、数メートル先の大通り沿いにそびえ立つマンション群の存在が、やはり少し気になる。というのも、太陽をこよなく愛するY夫人が、自宅の建て替えで希望したのが、「人目を気にせず日光浴をしたい」ということだったからだ。近隣マンションの高層階のバルコニーからの視線を気にすることなく、こちら側からもマンションを見ずに太陽を拝むのは、普通の家では難しい。
知人の紹介で知り合った、竹中工務店出身の2人の建築家に設計を依頼して完成したこの家が、その希望をかなえた。周囲の視線を一切気にせず、穏やかな陽だまりを楽しめ、天気のよい日には外で食事ができる、理想のテラスつき住宅だ。
知人の紹介で知り合った、竹中工務店出身の2人の建築家に設計を依頼して完成したこの家が、その希望をかなえた。周囲の視線を一切気にせず、穏やかな陽だまりを楽しめ、天気のよい日には外で食事ができる、理想のテラスつき住宅だ。
「ここなら、気兼ねなく日光浴ができる」とY夫人が大満足している2階のテラス。青空をプライベート空間に取り込むことに成功しているのが、この大きな三角形の開口部だ。1階部分の上にのせた、大きな直方体の箱の南西側の一角を切り落とすことでつくり出した。ここから見えるのは空だけで、高層マンションも視界に入ってこない。
また、このテラスのもうひとつのポイントが、フロアに採用したファイバーグレーチング(外壁から150cmまでの部分)である。ご主人がグレーチングの大手メーカー勤務であることもあり、自邸に取り入れた。FRP樹脂を格子状に成形したグレーチングは、鉄のものより軽く、換気性、耐久性に優れているうえ、採光性も高いため、ここから1階の緑地部分に光が漏れ落ちるのが大きな魅力という。
テラス奥から顔を出しているのは、1年を通じて葉をつけているソヨゴ。その名の通り、風に揺れて葉同士が擦れると「ソヨソヨ」と音を立てる。
また、このテラスのもうひとつのポイントが、フロアに採用したファイバーグレーチング(外壁から150cmまでの部分)である。ご主人がグレーチングの大手メーカー勤務であることもあり、自邸に取り入れた。FRP樹脂を格子状に成形したグレーチングは、鉄のものより軽く、換気性、耐久性に優れているうえ、採光性も高いため、ここから1階の緑地部分に光が漏れ落ちるのが大きな魅力という。
テラス奥から顔を出しているのは、1年を通じて葉をつけているソヨゴ。その名の通り、風に揺れて葉同士が擦れると「ソヨソヨ」と音を立てる。
Y邸の設計テーマは、「1階と2階の空間を対比させることだった」と語るのは、And Associatesの浜崎一伸氏とアイデアを出し合い、設計を担当した山縣洋建築設計事務所の山縣洋氏。
一言でいえば、適度に閉じた感じをもたせた1階と、開放感のある2階の対比だ。まず1階には、道路面より1.5m程度高い敷地を掘削して、半地下状の凹地の落ち着いた空間をつくった。そこに寝室や書斎などを配置し、いくつかの部屋を回遊できる動線になっている。
いっぽう2階は、1つのシンプルな箱があり、広いテラスに面してリビングや浴室を配置。開放的で、さまざまなアクティビティが展開できる空間としている。
写真は南西側から見た外観。道路側に対して圧迫感が出ないように、また建物の西側(写真手前)が生産緑地のため、1階の主寝室から木々の借景が楽しめるように、勾配をつけてある。敷地内に植え込んだ低木は、冬でも緑を保って美しく、手入れの簡単なオカメザサ。
一言でいえば、適度に閉じた感じをもたせた1階と、開放感のある2階の対比だ。まず1階には、道路面より1.5m程度高い敷地を掘削して、半地下状の凹地の落ち着いた空間をつくった。そこに寝室や書斎などを配置し、いくつかの部屋を回遊できる動線になっている。
いっぽう2階は、1つのシンプルな箱があり、広いテラスに面してリビングや浴室を配置。開放的で、さまざまなアクティビティが展開できる空間としている。
写真は南西側から見た外観。道路側に対して圧迫感が出ないように、また建物の西側(写真手前)が生産緑地のため、1階の主寝室から木々の借景が楽しめるように、勾配をつけてある。敷地内に植え込んだ低木は、冬でも緑を保って美しく、手入れの簡単なオカメザサ。
アウトドアのリビング・ダイニングにもなる2階のテラス。厚さ約60cmの屋根は、木の梁を鉄骨で補強している。
どんなHouzz?
居住形態:建て替え新築
居住者:50代夫婦
所在地:東京都世田谷区
構造:木造
設計監理:山縣洋建築設計事務所(And Associates 浜崎一伸氏との共同設計)
構造設計:坂根構造デザイン
施工:ハタノ工務店
延床面積:156.80平方メートル(1階 79.63平方メートル、2階 77.17平方メートル)
敷地面積:211.10平方メートル
竣工:2014年10月
撮影: 株式会社フォワードストローク
どんなHouzz?
居住形態:建て替え新築
居住者:50代夫婦
所在地:東京都世田谷区
構造:木造
設計監理:山縣洋建築設計事務所(And Associates 浜崎一伸氏との共同設計)
構造設計:坂根構造デザイン
施工:ハタノ工務店
延床面積:156.80平方メートル(1階 79.63平方メートル、2階 77.17平方メートル)
敷地面積:211.10平方メートル
竣工:2014年10月
撮影: 株式会社フォワードストローク
テラスで日光浴をした後、すぐにシャワーを浴びられるように、テラスの横に配置された浴室。建具は特注のスチールサッシ製。ブラインドも取り付けているが、眺望を楽しむため、全部降ろすことはあまりないという。
三角形の開口の斜辺は約8m、隣辺が約6.5m、対辺が約5.5m。いる場所によって、開口部の外の景色の違いを楽しめる。
リビングのソファとテーブル、ダイニングのテーブルとチェアは、すべてアクタスのもの。左側は造り付けの収納棚。
リビングのソファとテーブル、ダイニングのテーブルとチェアは、すべてアクタスのもの。左側は造り付けの収納棚。
アイランドキッチン側からテラスまで、眺めを遮るものはない。ダイニングの左の白い壁は、南側に面している。窓を細長い形にしたのは、緑が豊富な西側に比べ、ここからの眺望はあまりよくないためだ。右側の壁には、あかり取りの開口部を設けた。
オーダーキッチンは、〈Madre(マードレ)〉に依頼。収納棚の上部は、あかり取りの窓をつけ、中央部分は換気のために開閉できるようにした。
リビングのスライド式ドアを開けると、廊下と地下に続く階段がある。写真中央は、浴室に続く洗面所(次の写真)。
手前の右側がトイレで、壁と床はモザイクタイル製。シンプルなデザインの洗面器は、幅広のため周りに水が飛び散りにくい。
2階テラスの奥(赤色で示した場所)に、洗濯物を干すポールを2本設置してある。日常の生活空間からは目につきにくい場所でありながら、ここには十分に太陽光が入る。
2階のダイニングルームの壁に設けた開口部を通して、光が壁面をなぞるように降り注ぐ。壁は、色あせしにくいアクリル系壁仕上げ剤(ジョリパット)を使用している。
階段の下は、一段一段が手前に開く収納箱となっている。
衣装持ちのY夫人が、日光浴用のテラスの他にリクエストしたのが、保有する大量の洋服を収納する衣装部屋だった。そのため思い切って、6.4畳のスペースをウォークインクローゼットにあてている。夫人の使用する寝室1へは、1階の廊下側からは入れず、このクローゼットが寝室への入口となっている。あえて廊下から直接、寝室に入れないようにしたのは、「寝室を、より奥まった落ち着いた空間にする」(山縣氏)ねらいからだという。
ご主人が使用する寝室2。右奥が専用の書斎(次の写真)だ。
約2.5畳の書斎。小さいながらも落ち着ける空間だ。窓は南側に面しており、ここから敷地内に植えたオカメザサが眺められる。
寝室1と2が共有する1階のテラスからは、西側の生産緑地の木々が望める。テラスに造り付けた棚は、腰掛けにも、プランターを置く台にもなる。
玄関のある南側から見た建物の全景。「2階のボリュームが、地面より少し浮いているような佇まいがよいと思ってデザインした」と語る山縣氏。氏は「1つの住宅の中に、雰囲気の異なる空間をつくり込むこと」を得意としており、日光浴や食事ができるY邸のテラスのように、屋根がかかった、ゆったりとした外部空間を今後もつくりたいと語る。
ちなみに、この2階部分の外壁は、ガルバリウム鋼板のスパンドレルを使用している。スパンドレルとは、留めつけのビスが隠れるように成型された金属化粧板のことだが、継ぎ目がわかりにくいだけでなく、意匠的にも単調さを打ち破り、美しい仕上がりに貢献している。
ちなみに、この2階部分の外壁は、ガルバリウム鋼板のスパンドレルを使用している。スパンドレルとは、留めつけのビスが隠れるように成型された金属化粧板のことだが、継ぎ目がわかりにくいだけでなく、意匠的にも単調さを打ち破り、美しい仕上がりに貢献している。
父親から譲り受けた家が老朽化し、子供達も巣立った頃合いで、夫婦水入らずの家を建てたY夫妻。周囲の目を気にすることなく、ゆっくり日光浴をしたり、食事をする時間は、何ものにも代えがたいという。
良好な住環境を確保する風致地区の中にあるY邸は、建物の中から三角形の開口を通して眺める外の景色が特徴的なだけでなく、外から見る姿も、ひときわ異彩を放っている。
日が沈んでからY邸を訪問すると、室内の灯りが白壁に反射して、建物全体が、さながら深緑の水面に浮かぶ、大燈籠のようだった。
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良好な住環境を確保する風致地区の中にあるY邸は、建物の中から三角形の開口を通して眺める外の景色が特徴的なだけでなく、外から見る姿も、ひときわ異彩を放っている。
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