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My Houzz:家具や雑貨で味わいを加えられる、懐の深い白いキャンバスのような家
空間に対する価値観が同じ、家具デザインのプロと建築のプロとのコラボレーション。インテリアにこだわりのある人が長く、楽しく住める家とは?という問いへの、ひとつの正解ともいえる住まい。
田村敦子|Atsuko Tamura
2016年3月15日
Freelance Editor
目黒通りの家具ショップ「karf」のオーナー、島田雄一さんと幾子さん夫妻が、自転車で通えるエリアに一軒家を建てようと思い立ったのは10年前のこと。当初は建売住宅も視野に入れており、近所の住宅展示場を見に行った際に、「制約の多い建売住宅にもかかわらず、間取りの配置が上手で、光の回し方やプライバシーの確保など、空間の生かし方も気が利いていると思った家があった」のだそう。「考え抜かれた間取りにセンスを感じましたし、随所にアイデアが光っていて、興味を持ちました」と雄一さん。
その住宅の設計は、ラスティック建築研究所の河野光典氏によるものだった。さっそく連絡して話してみると、まだ創業間もない頃、karfの家具を買ってくれたことのあるお客さんだったという。「うちの家具を好きでいてくれる方なら、きっとうまくいくだろう」と思い、自宅の設計を依頼することに。河野氏とは、空間に対する価値観が同じで、家づくりはとても進めやすかったと島田夫妻は語る。
両者で話し合った家づくりのコンセプトは、「抜け感のある空間」「シンプルで飽きのこない"箱"」「天気や四季の移り変わりが感じられる家」。ショップのインテリアでさまざまな試みをするので、自宅はシンプルに、家具や雑貨で味わいを加えられる白いキャンバスのようなイメージにしたかったのだそう。プランにたっぷり4ヶ月をかけ、夏に着工、翌年の2月下旬に完成した。
その住宅の設計は、ラスティック建築研究所の河野光典氏によるものだった。さっそく連絡して話してみると、まだ創業間もない頃、karfの家具を買ってくれたことのあるお客さんだったという。「うちの家具を好きでいてくれる方なら、きっとうまくいくだろう」と思い、自宅の設計を依頼することに。河野氏とは、空間に対する価値観が同じで、家づくりはとても進めやすかったと島田夫妻は語る。
両者で話し合った家づくりのコンセプトは、「抜け感のある空間」「シンプルで飽きのこない"箱"」「天気や四季の移り変わりが感じられる家」。ショップのインテリアでさまざまな試みをするので、自宅はシンプルに、家具や雑貨で味わいを加えられる白いキャンバスのようなイメージにしたかったのだそう。プランにたっぷり4ヶ月をかけ、夏に着工、翌年の2月下旬に完成した。
玄関ドアはアルミ構造体にチーク材をパターン貼りしたオリジナルデザイン。この「無垢材のパターン貼り」は、島田邸のインテリアの建具や収納の扉にも繰り返されるコンセプト。シンプルでいてどこか味わいのあるディテールの積み重ねが、全体の上質な印象をつくる、という雄一さんの信念が表れているエントランスだ。
玄関ドアと隣り合わせの位置に、自転車やバイクを停められるスペースがあり、ここから直接、1階の和室に入ることもできる。
どんなHouzz?
所在地:東京都目黒区
居住者:家具ショップオーナー夫婦+20代の息子
規模:4LDK 地上3階建て
延床面積:138平方メートル
竣工:2007年2月
設計:ラスティック建築研究所
玄関ドアと隣り合わせの位置に、自転車やバイクを停められるスペースがあり、ここから直接、1階の和室に入ることもできる。
どんなHouzz?
所在地:東京都目黒区
居住者:家具ショップオーナー夫婦+20代の息子
規模:4LDK 地上3階建て
延床面積:138平方メートル
竣工:2007年2月
設計:ラスティック建築研究所
1階には客間を兼ねた和室と主寝室、バスルームなどを配置し、家族の集まるLDKエリアは2階に確保。階段の造形もインテリアに取り込み、フロア全体が見渡せる見通しのよさと抜け感を演出している。手前がダイニング、奥がリビングで、リビングダイニングを挟む形で南側と北側に2つのバルコニーをつくった。バーベキューに、ガーデニングにと活躍するスペースだが、暖かく明るい南側は春と秋に、暑すぎず、光の安定している北側は夏を中心に、と使い分けられるというのもおもしろい。家にいながらにして、季節の移り変わりにも敏感になれる工夫といえる。
ダイニングの東側の窓はヒメシャラの木を植えた中庭に、南側の窓は通りに面していて、明るい光が燦々と降り注ぐ。
karfオリジナルデザインの、ホワイトアッシュ材のダイニングテーブルは、幅220×奥行き85cmと、一般のサイズよりやや細長いバランス。ゆったりした間隔で座れ、かつ向かい合ったときの距離感が遠すぎず、また空間の中でも圧迫感が少ないサイズだという。椅子はデンマークのデザイナー、コーア・クリントのナラ材のチャーチチェアで、アーム付きとアームなしのタイプをミックス。
選りすぐりの木の家具の質感が引き立つよう、ダイニングの床はセラミックタイルを選択し、冬場の冷たさを考慮して床暖房を入れた。写真左奥へ続くリビングの床は木のフローリング。床材を変えることで、ゾーニングの役割をもたせている。
karfオリジナルデザインの、ホワイトアッシュ材のダイニングテーブルは、幅220×奥行き85cmと、一般のサイズよりやや細長いバランス。ゆったりした間隔で座れ、かつ向かい合ったときの距離感が遠すぎず、また空間の中でも圧迫感が少ないサイズだという。椅子はデンマークのデザイナー、コーア・クリントのナラ材のチャーチチェアで、アーム付きとアームなしのタイプをミックス。
選りすぐりの木の家具の質感が引き立つよう、ダイニングの床はセラミックタイルを選択し、冬場の冷たさを考慮して床暖房を入れた。写真左奥へ続くリビングの床は木のフローリング。床材を変えることで、ゾーニングの役割をもたせている。
幅320cm、奥行き32cmのナラ材のキャビネットもオリジナルデザイン。以前住んでいたマンションに造り付けられていた収納の使い勝手がよかったので、それをヒントにした。一見、引き出しのように見える横のラインは、玄関ドアと同様「パターン貼り」で、実際は開き戸になっている。吊りタイプなのでフロアがすっきり見え、雑多なもので散らかりがちなダイニングエリアに十分な収納力があり、かつ雄一さんがコレクションしたヴィンテージ雑貨のディスプレイスペースとしても活躍。
ダイニングチェアに座ったときにちょうどいい高さに設定し、窓の位置はそれに合わせて決めたので、通常より少し高い位置になっているという。ある意味、「家具ありき」の家づくりを象徴するスペースだ。
ダイニングチェアに座ったときにちょうどいい高さに設定し、窓の位置はそれに合わせて決めたので、通常より少し高い位置になっているという。ある意味、「家具ありき」の家づくりを象徴するスペースだ。
LDKのほかの部分の壁は、すべてオフホワイトの珪藻土。このダイニングとキッチンの間の壁だけ、アクセントウォールとして「ポーターズペイント」の塗料でペイントした。新築時はセージグリーンだったが、最近ソフトなグレーに塗り替え、大人っぽく今風にリフレッシュした。
シンクとコンロを並べたキッチンは、奥行き70cm、高さ87cmと一般的なタイプより少しだけ大きくし、背面の収納との間を2人がすれ違うことができるようスペースを確保した。息子さんの育ち盛りの時代を支えたキッチンのカウンタートップは、へビーユースに耐え、手入れもしやすいよう、ステンレスを選択。「仕事ではデザイン重視のタイルトップのキッチンをたくさんつくってきましたが、自分で選ぶのは迷わず機能重視でしたね」と幾子さんは笑う。
スポーツ選手である息子さんがベストコンディションを維持するために、健康的な食生活を心がけている島田家の朝は、幾子さんの手作りのパンとフレッシュジュースでスタートする。
スポーツ選手である息子さんがベストコンディションを維持するために、健康的な食生活を心がけている島田家の朝は、幾子さんの手作りのパンとフレッシュジュースでスタートする。
キッチンに関しては、実用本位の考え方が徹底している夫妻。オープンキッチンも検討したけれど、ダイニングへの影響や片づけのしやすさを考え、大きな開口部を取り、少し立ち上がりをつけた対面式を採用するという結論に。向こう側の壁まで少しL字になるように間口を開けたのが、とても使いやすいそう。
この開口部と立ち上がり部分に関しては、工事が始まってからも現場に立ってみてシミュレーションし、ベストサイズを数cm規模で検討したのだとか。
この開口部と立ち上がり部分に関しては、工事が始まってからも現場に立ってみてシミュレーションし、ベストサイズを数cm規模で検討したのだとか。
キッチン収納の面材は、手入れがしやすいよう、白ペイントにウレタン塗装の塗りつぶしで、ハンドルもシンプルな形に。框(かまち)組みのデザインで、モダンな中にも少しレトロな雰囲気を取り入れている。少し見づらいが、幅木だけをブラックにしてアクセントにし、モダンな雰囲気も演出。冷蔵庫置き場の奥には、天井までのパントリーを造り付けた。
ダイニングの照明はルイス・ポールセンのペンダントランプ「Pakhus」を3灯と、ダウンライトを併用。ペンダントは食事をおいしそうに見せるハロゲンランプで、インダストリアルなデザインがすっきりしたダイニング&キッチンの雰囲気にとてもよく似合う。食事のときは両方つけて、食後のお茶や、「もう一杯飲もうか」といったときにはペンダントだけ灯すのだそう。
ダイニングの奥は、南側・東側両方の窓から、冬でも部屋の奥まで光が入る、日当たりのよいリビング。天井高は最も高いところで3mある。こちらは、白いファブリックソファが映えるよう、無垢のパイン材のフローリングに。シンプルモダンな空間に合わせ、節なしのパイン材を選んだ。「パインはやわらかい木なので傷もつきやすいし、ワックス仕上げで汚れもそれなりにつきますが、あまり気にせず、使い込んだ味わいを大切にしています」(雄一さん)。
ソファ、テレビボード、センターテーブルはkarfオリジナル。ゆったりと贅沢な座り心地のソファ「Regent Klassik」は、17年作り続けているロングセラーだそう。洗いざらしが似合うソファのファブリックは、無垢の木との相性も抜群。「ファブリックの色はたくさん揃えているのですが、個人的には黒でも茶でもなく、この洗いざらしの白が好きです」(雄一さん)。「白いソファは、自由に絵を描けるキャンバスのように、その時々の気分に合わせて模様替えができる便利なアイテムだと思います。麻のクッションならナチュラルに、革のクッションならシックになるし、ビーズ刺繍のクッションをアクセントにしてエスニックな演出も似合いますよね」(幾子さん)。
自由に絵を描くように、その時その時の家族の"トレンド"を実践できるこのリビングでは、雄一さんがイギリスや北欧への買い付けの旅で出会ったアイテムや、オリジナル家具の試作品を置いてみて使うことも多い。
テレビの両サイドに置いた、昔のロボットのようなフォルムが楽しいスピーカーは、オーディオマニアの間では有名な工作スピーカー「フラミンゴ」。雄一さんが自分でグレーにペイントした愛着のあるアイテムだそう。無造作に置かれた、イームズやウェグナーのユーズドのチェアともよくマッチしている。
1階の主寝室は、ベッドヘッド側に木のパネルと、小さなサイドテーブルを造り付け、デンマークのヴィンテージランプをはめ込んで、ホテルのようなリラックス感のある雰囲気に。高い位置に横長の窓を取っていて、気持ちのよい光とともに朝を迎えられる。
置き家具ではなく壁に吊るタイプの収納家具は、フロアが実際より広々と見え、掃除の際もラクなのでおすすめだとか。チェアはkarfオリジナルデザイン。
さて、もう一度2階へ戻り、北側バルコニーに面した窓越しの空を眺めながら、3階へと続く白い階段を登ってみよう。
3階にあるのは2人の息子さんの個室。デスクやベッドなどがコンパクトにまとまった「ビジネスホテルみたいな部屋」を目指した、と雄一さん。この部屋の窓も、まず家具ありきで位置を合わせてつくった。現在、息子さんの1人はすでに独立しているが、兄弟は約10年間、このシンプルでニュートラルな、それでいて懐の深いインテリアで快適に過ごしてきた。
白い塗装と無垢材でつくった、シンプルで上質なディテールの「ビジネスホテルのような」コンパクトな空間は、ティーンエイジャー時代も20代になっても、その時々の自分の好きなものを加えながら、ずっと飽きずに使える。これから子供部屋をつくろうとしている方にも、参考になるコンセプトではないだろうか。
ドアには框をつけ、ケーシングや幅木もしっかりデザインして、シンプルモダンななかにもトラディショナルなテイストを表現している。ドアレバーも雰囲気を合わせてスクエアなフォルムのマットな質感のものをセレクト。こういったディテールの積み重ねが、全体を見たときに、落ち着いた上質な印象を醸し出す。
「家を建てて、そして10年近く住んでみて思ったのは、30代、40代、50代、家族のステージも違うそれぞれの年代で、それぞれの家づくりがあるのではということです。どんなに熟考して建てたとしても、住み心地というのは、住んでみないとわからない部分もある。あれはよかったけど、これは違ったね、というのはあって当たり前なんですよね。フィードバックを経て、調整していくのが自然かつ、本来のあり方なのではと思います」(雄一さん)。
その意味で、シンプルでベーシックな、懐の深い家にしてもらったのは大正解だった、と夫妻は語る。
「同じ価値観を持つ、感覚の近い理解者と一緒に、家を建てるというプロジェクトに携われるのは素晴らしいことだなと。この経験を通して、トータルな家づくりにも携わってみたくなりました。インテリアの要素をいろいろ持ち込んでも受け入れてくれ、生かしてくれる内装や空間づくりに関して、自分たちにできることがあるのではないかと思っています」
1984年のkarf創業以来、シンプルでちょっとしたディテールがしゃれていて、ずっと長く使える家具やインテリア雑貨を提案し続けてきた雄一さんと、子育ても一段落して本格的に仕事に復帰している幾子さん。2人がこれからどんな快適なインテリア空間を提案してくれるのか、今後がさらに楽しみになってきた。
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その意味で、シンプルでベーシックな、懐の深い家にしてもらったのは大正解だった、と夫妻は語る。
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