住宅建築の最前線:VRは未来の家づくりの必需品?
設計図を見てもどんな家になるのか素人にはよくわからないもの。でも、ヴァーチャルリアリティを活用すれば、家の設計段階で、完成後の家の中をありありと見ることができるのです。
Michael Cannell
2016年3月8日
建築にはよりよい暮らしをつくる大きな力があるが、コミュニケーションの面ではいろいろと問題を抱えている。建築家が描いた図面を見ても、建築の素人であるホームオーナーは理解できないかもしれないし、レンダリングを見て完成した部屋の使い心地までイメージできるとは限らない。「開口部」「分節」「マッシング」といった専門用語も素人にはわかりにくい。結果として、ホームオーナーは、新居の完成形のイメージをはっきりとつかめないままお金を払うこともめずらしくない。もちろん、建築家と施工業者の間にも、お互いに意思疎通についての不安が存在している。
もし、家が建つ前から、ホームオーナーや建築家や施工業者が家の中を歩いてみることができるとしたらどうだろう? ベッドルームの窓から見える朝の景色を確認したり、キッチンアイランドからリビングへの視界を体験できるとしたら、想定外の失敗を減らすことができるのではないだろうか?
もし、家が建つ前から、ホームオーナーや建築家や施工業者が家の中を歩いてみることができるとしたらどうだろう? ベッドルームの窓から見える朝の景色を確認したり、キッチンアイランドからリビングへの視界を体験できるとしたら、想定外の失敗を減らすことができるのではないだろうか?
オキュラスのヘッドセットで〈アイリスVR〉社のデザインソフトウェア試用版を体験
そのような可能性を追求すべく、デザイン分野でバーチャルリアリティ(VR)を活用する試みが進んでいる。「VRでどんな建物ができるのか、みんなに理解できるようになります。これは、大きな問題解決になりえます」と言うのは、〈アイリスVR〉の共同設立者でCEOのシェーン・スクラントンさんだ。同社では建築家のために開発したバーチャルリアリティソフトウェアのベータ版をリリースし、今年の夏に発売を見込んでいる。
何年もの間、建築家はSketchUpや Rhinoといったソフトウェアを使い、2次元のモニター画面で見るための3Dレンダリングを作成してきた。一般的にこのようなレンダリングは、ある一定の視点から空間を眺めるもので、実際のスケール感をつかむのはなかなか難しい。ところがアイリスVRのソフトウェアを使えば、設計図を没入感のある3Dの世界に変換し、オキュラス・リフト、HTC ヴァイヴ、グーグル・カードボードなどのゴーグル型ヘッドセットを使って視覚的に体験できるのだ。
夢の中にいるかのような没入感
先月、私も〈アイリスVR〉社のオフィスを訪れ、ヘッドセットを着用してコンサートホールのCG模型の中を歩いてみた。本物の空間でありながらもどこか非現実的な、まるで夢の中にいるかのような体験だった。頭を左右に動かすことでステージを横断し、それから通路を進み、くるりと振り向いて客席の後ろからステージを眺める。従来のレンダリングでは不可能な、本物の空間がそこにあるような感覚を味わうことができた。VR開発会社が「スケール」や「存在感」と呼ぶ感覚だ。
もし家を建てるなら、間取りや素材や塗料の色を決めるまえに、こんなふうに部屋の中を体験してみたい、と私は思う。「VRによってある程度の安心を得ることができます」と、〈アイリスVR〉建築部門ディレクター、アイリン・メンドザさんは言う。「決定権はクライアントにあるべきですが、建築家や建設業者が間違ったことをやろうとしている場合にも、今のところは専門知識がないクライアントには分かりません。」
そのような可能性を追求すべく、デザイン分野でバーチャルリアリティ(VR)を活用する試みが進んでいる。「VRでどんな建物ができるのか、みんなに理解できるようになります。これは、大きな問題解決になりえます」と言うのは、〈アイリスVR〉の共同設立者でCEOのシェーン・スクラントンさんだ。同社では建築家のために開発したバーチャルリアリティソフトウェアのベータ版をリリースし、今年の夏に発売を見込んでいる。
何年もの間、建築家はSketchUpや Rhinoといったソフトウェアを使い、2次元のモニター画面で見るための3Dレンダリングを作成してきた。一般的にこのようなレンダリングは、ある一定の視点から空間を眺めるもので、実際のスケール感をつかむのはなかなか難しい。ところがアイリスVRのソフトウェアを使えば、設計図を没入感のある3Dの世界に変換し、オキュラス・リフト、HTC ヴァイヴ、グーグル・カードボードなどのゴーグル型ヘッドセットを使って視覚的に体験できるのだ。
夢の中にいるかのような没入感
先月、私も〈アイリスVR〉社のオフィスを訪れ、ヘッドセットを着用してコンサートホールのCG模型の中を歩いてみた。本物の空間でありながらもどこか非現実的な、まるで夢の中にいるかのような体験だった。頭を左右に動かすことでステージを横断し、それから通路を進み、くるりと振り向いて客席の後ろからステージを眺める。従来のレンダリングでは不可能な、本物の空間がそこにあるような感覚を味わうことができた。VR開発会社が「スケール」や「存在感」と呼ぶ感覚だ。
もし家を建てるなら、間取りや素材や塗料の色を決めるまえに、こんなふうに部屋の中を体験してみたい、と私は思う。「VRによってある程度の安心を得ることができます」と、〈アイリスVR〉建築部門ディレクター、アイリン・メンドザさんは言う。「決定権はクライアントにあるべきですが、建築家や建設業者が間違ったことをやろうとしている場合にも、今のところは専門知識がないクライアントには分かりません。」
VRヘッドセットに映し出されるのは、およそ両目間隔の位置からとらえた2つの映像による「立体映像」だ。2つの映像を同時に見ることで、人間の脳が奥行きを把握する仕組みを再現し、くっきりとした1つの3次元映像を目の前に映し出すことができる。
写真は〈HTC ヴァイヴ〉社のヘッドセット
建築家も施工業者も下請け業者も、VRでお互いの作業を確認し合い、問題があれば建設の開始前に見つけ出すことができる。それぞれが違う都市で仕事することだって可能だ。そして問題が見つかれば、紙に書き込むのと同じ感覚でバーチャル空間にメモを埋め込むことができる。例えば「このカウンター幅を要確認」「このスコンスは60センチ右へ?」「れんが壁のペンキの色は『モンシロチョウ』じゃなく『チャイナブルー』で」といった具合だ。
〈パルス・デザイン・グループ〉のプリンシパルで建築家のリチャード・エンバースさんは、「究極のコミュニケーションツールです」と話す。「クライアントに実際にその空間に入ってもらい、家具や照明をすべて見てもらうことができるんです。昼や夜に時間帯を変えて、光や影の具合を見ることもできます。現実の完成形と非常に近いので、変更注文を減らすことができます。」
この新技術、値段は張るかもしれないが、現在多くの設計事務所が用いている手法もかなり人件費がかかるため、結局のところ大したコストの差はないようだ。VRを取り入れる場合、コンピューターのハードウェアとソフトウェアに最低4,000ドル、さらにヘッドセットに600ドル程度の投資が必要。(没入感は弱まるが、段ボール製ヘッドセットとスマートフォンを利用したVRもある。)そして、家のバーチャル模型を作るにはやはり何時間もの作業が必要となる。
当然、そういったコストはクライアントの支払い額に上乗せされる。しかしVRによって従来のレンダリングや模型作成費用が不要になるため、かなりの額が浮くことにもなる。住宅の場合、写真レベルのリアリティのあるレンダリングは最低でも1,000ドル、模型はその倍以上かかるのだ。
建築家も施工業者も下請け業者も、VRでお互いの作業を確認し合い、問題があれば建設の開始前に見つけ出すことができる。それぞれが違う都市で仕事することだって可能だ。そして問題が見つかれば、紙に書き込むのと同じ感覚でバーチャル空間にメモを埋め込むことができる。例えば「このカウンター幅を要確認」「このスコンスは60センチ右へ?」「れんが壁のペンキの色は『モンシロチョウ』じゃなく『チャイナブルー』で」といった具合だ。
〈パルス・デザイン・グループ〉のプリンシパルで建築家のリチャード・エンバースさんは、「究極のコミュニケーションツールです」と話す。「クライアントに実際にその空間に入ってもらい、家具や照明をすべて見てもらうことができるんです。昼や夜に時間帯を変えて、光や影の具合を見ることもできます。現実の完成形と非常に近いので、変更注文を減らすことができます。」
この新技術、値段は張るかもしれないが、現在多くの設計事務所が用いている手法もかなり人件費がかかるため、結局のところ大したコストの差はないようだ。VRを取り入れる場合、コンピューターのハードウェアとソフトウェアに最低4,000ドル、さらにヘッドセットに600ドル程度の投資が必要。(没入感は弱まるが、段ボール製ヘッドセットとスマートフォンを利用したVRもある。)そして、家のバーチャル模型を作るにはやはり何時間もの作業が必要となる。
当然、そういったコストはクライアントの支払い額に上乗せされる。しかしVRによって従来のレンダリングや模型作成費用が不要になるため、かなりの額が浮くことにもなる。住宅の場合、写真レベルのリアリティのあるレンダリングは最低でも1,000ドル、模型はその倍以上かかるのだ。
建設業者や住宅購入者にも便利
土木建築業界でVRを試しているのは建築家 だけではない。シアトルの開発業者が4月にオープンしたショールームでは、ファーストヒル地区に建設予定の24階建てコンドミニアム「ルマ」のバーチャル内覧ができる。
各アパートメントは1ベッドルームまたは2ベッドルームで、窓からはレーニア山とピュージェット湾が見える(写真)。建物の完成予定は6月だが、購入を検討している人たちはもう中を歩き回ることができるのだ。オーク材の仕上げや御影石のカウンタートップをチェックしたり、屋上のテラスや暖炉のあるラウンジも体験できる。
「購入者が建物の雰囲気をよりよく理解して、自分たちに合っているか判断できるのです」と、不動産販売会社〈レッド・プロペラ〉のスティーブン・フィナさんは言う。家具販売業者もVRを取り入れる日が近いかもしれない。
誰でも使える技術?
とはいえ、VRが今すぐ設計やリノベーションの定番ツールになるとは思えない。利用中に一時的に気分が悪くなる人がいることもその理由の1つ。「シミュレーター酔い」と呼ばれる症状で、脳が動きを感知しているのに体が静止していることで起きる。これが起こる人はめったにいないし、短時間でおさまるものだが、苦手だというユーザーがいるのも事実だ。
シミュレーター酔いの問題はあるものの、今年はVRの年となるかもしれない。ハードウェアの新作がつぎつぎと発表され、より鮮明で安価な光学技術が可能になってきている。ほとんどの建築家がVRを使ってデザインし、ゴーグルとグローブを装着して壁や窓のサイズを調整するような日も近いのかもしれない。
土木建築業界でVRを試しているのは建築家 だけではない。シアトルの開発業者が4月にオープンしたショールームでは、ファーストヒル地区に建設予定の24階建てコンドミニアム「ルマ」のバーチャル内覧ができる。
各アパートメントは1ベッドルームまたは2ベッドルームで、窓からはレーニア山とピュージェット湾が見える(写真)。建物の完成予定は6月だが、購入を検討している人たちはもう中を歩き回ることができるのだ。オーク材の仕上げや御影石のカウンタートップをチェックしたり、屋上のテラスや暖炉のあるラウンジも体験できる。
「購入者が建物の雰囲気をよりよく理解して、自分たちに合っているか判断できるのです」と、不動産販売会社〈レッド・プロペラ〉のスティーブン・フィナさんは言う。家具販売業者もVRを取り入れる日が近いかもしれない。
誰でも使える技術?
とはいえ、VRが今すぐ設計やリノベーションの定番ツールになるとは思えない。利用中に一時的に気分が悪くなる人がいることもその理由の1つ。「シミュレーター酔い」と呼ばれる症状で、脳が動きを感知しているのに体が静止していることで起きる。これが起こる人はめったにいないし、短時間でおさまるものだが、苦手だというユーザーがいるのも事実だ。
シミュレーター酔いの問題はあるものの、今年はVRの年となるかもしれない。ハードウェアの新作がつぎつぎと発表され、より鮮明で安価な光学技術が可能になってきている。ほとんどの建築家がVRを使ってデザインし、ゴーグルとグローブを装着して壁や窓のサイズを調整するような日も近いのかもしれない。
建築家による手描きの立面図
しかし当面は、まだまだ従来の手法が頼りだ。クライアントはVRを使って部屋の中を歩き回れるかもしれないが、ほとんどの建築家にとって、これまでどおり2次元で描く図面に代わるものはまだ存在しない。
「やっぱり家の立面図は見たいですね」と言うのは、〈ファーガス・ガーバー・ヤング・アーキテクツ〉のパートナー、ダニエル・ガーバーさん。昨年VRを使い始めたが、「それでも設計図で家を把握したいですね」と話している。
教えてHouzz
ご感想をおきかせください。
しかし当面は、まだまだ従来の手法が頼りだ。クライアントはVRを使って部屋の中を歩き回れるかもしれないが、ほとんどの建築家にとって、これまでどおり2次元で描く図面に代わるものはまだ存在しない。
「やっぱり家の立面図は見たいですね」と言うのは、〈ファーガス・ガーバー・ヤング・アーキテクツ〉のパートナー、ダニエル・ガーバーさん。昨年VRを使い始めたが、「それでも設計図で家を把握したいですね」と話している。
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We have a development of "House VR".
However , not yet typical system in Japan.
We want to know the example of more specific "House VR".
【japanese】
私たちは「住宅版VR」の開発を行っている。
しかしながら、まだ日本では一般的なシステムではない。
私たちは、もっと具体的な「住宅版VR」の事例を知りたい。