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映画『フォスター卿の建築術』
現代を代表する建築家、ノーマン・フォスターの素顔、彼が建築をつくるプロセスを伝えるドキュメンタリー映画。
Vanessa Brunner
2016年1月15日
ノーマン・フォスターという名前にピンとこない人でも、作品はどこかで目にしたことがあるはず。ロンドンの《スイス・リ本社ビル》、ニューヨークの《ハースト・タワー》も彼の作品だ。そう、彼は常に新しい作風をつくりだす建築家である。
『フォスター卿の建築術』は、現代を代表する英国出身の建築家、フォスター卿がマンチェスターに生まれ、米国イエール大学で建築を学び、ロンドンで事務所を設立し、世界的な名声を築くまでを追ったドキュメンタリーだ。ドラマティックな映像と力強いナレーションが、フォスターの類まれな建築作品を引き立てる。さらに、フォスターという人物の素顔がかいま見えるという点が何よりすばらしい。飛行機を愛する姿、私服へのこだわり、ユニークなスケッチから、実に自然に建築を生み出していくフォスターの姿が描かれている。
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展覧会:「フォスター+パートナーズ展:都市と建築のイノベーション」
『フォスター卿の建築術』は、現代を代表する英国出身の建築家、フォスター卿がマンチェスターに生まれ、米国イエール大学で建築を学び、ロンドンで事務所を設立し、世界的な名声を築くまでを追ったドキュメンタリーだ。ドラマティックな映像と力強いナレーションが、フォスターの類まれな建築作品を引き立てる。さらに、フォスターという人物の素顔がかいま見えるという点が何よりすばらしい。飛行機を愛する姿、私服へのこだわり、ユニークなスケッチから、実に自然に建築を生み出していくフォスターの姿が描かれている。
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映画の原題は、 How Much Does Your Building Weigh, Mr. Foster、つまり「フォスター君、君の建物はどのくらいの重さなんだ?」という意味。これは20世紀アメリカを代表する工学者で思想家のバックミンスター・フラーがフォスターに投げかけた質問である。
フォスターとフラーは長年協働し、フラーはフォスターの建築への取り組みについて、とくに持続可能性(サステナビリティ)を常に厳しく問い続けていた。あるとき、フラーはフォスターに「君がつくる建物はどのくらいの重さなんだ?」と尋ねた。フォスターは、その場ですぐには答えられなかったものの、1週間ほどで計算して答えを得た。そして、建物の重さとは、そのほとんどが目に見えない構造体のコンクリートの重さであり、素材が大いに無駄遣いされていることに気づいたのだった。フォスターにとって、成功したデザインとは、持続的に使用できて、環境に優しくあるもの。だから、建物とは必要最少限の材料で建てるべきだと強く信じている。
フォスターとフラーは長年協働し、フラーはフォスターの建築への取り組みについて、とくに持続可能性(サステナビリティ)を常に厳しく問い続けていた。あるとき、フラーはフォスターに「君がつくる建物はどのくらいの重さなんだ?」と尋ねた。フォスターは、その場ですぐには答えられなかったものの、1週間ほどで計算して答えを得た。そして、建物の重さとは、そのほとんどが目に見えない構造体のコンクリートの重さであり、素材が大いに無駄遣いされていることに気づいたのだった。フォスターにとって、成功したデザインとは、持続的に使用できて、環境に優しくあるもの。だから、建物とは必要最少限の材料で建てるべきだと強く信じている。
監督はスペイン出身のノルベルト・ロペス・アマドとカルロス・カルカス、製作はアントニオ・サンズとエレナ・オチョア。フォスターのドキュメンタリーをつくれたら、と漠然と話していた4人が制作に具体的に動き出したのは、北京空港――当時世界最大の建築物だった――を実際に見たのがきっかけだった。
監督とプロデューサーは、フォスターと彼のチームに会って、絶対に映画をつくらなければ、と実感したと言う。「僕は建築家でもないし、建築通でもありません。だから、テーマは、『なぜ僕が建築を気にしなければいけないのか? 建築は自分にとってどんな意味があるのか?』というところから始まりました」とカルカスは振り返る。
下の写真:南フランスのミヨー橋
監督とプロデューサーは、フォスターと彼のチームに会って、絶対に映画をつくらなければ、と実感したと言う。「僕は建築家でもないし、建築通でもありません。だから、テーマは、『なぜ僕が建築を気にしなければいけないのか? 建築は自分にとってどんな意味があるのか?』というところから始まりました」とカルカスは振り返る。
下の写真:南フランスのミヨー橋
映画はフォスターの人生、キャリア、建築、そして彼が世界に与えた影響を掘り下げていく。代表作が次々と取り上げられ、ニューヨークの《ハースト・タワー》、ベルリンの《ドイツ国会議事堂 ライヒスターク》、フランスの《ミヨー橋》、ロンドンの《スイス・リ本社ビル》(上の写真)、香港の《香港上海銀行・香港本店ビル》、《北京空港》など、特に有名なものについては詳細な説明が加えられている。
上の写真:ロンドンの《スイス・リ本社ビル》
映像もすばらしい。カメラはゆっくりと、霧のベールをはぐように建物のディテールを見せ、フォスターの代表作を人々の思いもかけないアングルからとらえていく。優れたカメラワークが、複雑な細部を切り取っていく。フォスターの作品の実物をあまり見ていない私でも、映像がとらえた建築の美しさにただ驚いてしまったし、実物はどれほどすごいのだろう、と思ってしまう。
映像もすばらしい。カメラはゆっくりと、霧のベールをはぐように建物のディテールを見せ、フォスターの代表作を人々の思いもかけないアングルからとらえていく。優れたカメラワークが、複雑な細部を切り取っていく。フォスターの作品の実物をあまり見ていない私でも、映像がとらえた建築の美しさにただ驚いてしまったし、実物はどれほどすごいのだろう、と思ってしまう。
フォスターの建築は大規模でしかも大胆なフォルムを持つものが多い。しかし、映画の中で数回登場するスケッチはとても繊細で、彼の建築の基礎となっている構造や技術がとてもよくわかる。よく言われることだが、スケッチのほうがコンピュータによる画像よりもコンセプトが明快に伝わることはめずらしくないのだ。彼のスケッチは非常に抑制的で、無駄なラインは1つもない。そう、ちょうど彼の建築と同じように。
上の写真:《香港上海銀行・香港本店ビル》
上の写真:《香港上海銀行・香港本店ビル》
何よりも、フォスターの芸術家としての顔がよくわかる映画だ。いつアイデアが湧いてもいいように、フォスターは常に鉛筆と紙を持ち歩いている。そして、芸術家のアイデアは、最も思いがけない瞬間に湧いてくるものなのだ。
DVDの情報はこちら:
映画『フォスター卿の建築』
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