建築家の谷尻誠さんが考える「人と人との化学反応が生まれるキッチン」とは?
「常に新しい概念を探しながら建築を設計している」という建築家の谷尻誠さんは、キッチン、リビング、ダイニングといった空間の区別やヒエラルキーがないほうが、コミュニケーションの生まれる空間になる、と考えています。

Junko Kawakami
2015年12月18日
Freelance since 1999.
現在Houzzでは、住まいづくりのプロを対象に「"キッチンで暮らす"施工事例コンテスト」を開催中です。今回は、その審査員の1人であり、住宅の概念を切り開く作品で注目を集めるSUPPOSE DESIGN OFFICEの建築家、谷尻誠さんに、お話をうかがいました。
「常に新しい概念を探しながら建築を設計している」という谷尻さんは、キッチンについても、「キッチンはこういうもの」という既成概念にしばられることなく、人と人との化学反応の生まれる場所をつくりだしてきました。
「常に新しい概念を探しながら建築を設計している」という谷尻さんは、キッチンについても、「キッチンはこういうもの」という既成概念にしばられることなく、人と人との化学反応の生まれる場所をつくりだしてきました。
水と火があればキッチンになる
「キッチンと聞いて、世の中の多くの人は、すでに仕上がっている現代的なシステムキッチンを想像するかもしません。それも確かにキッチンです。でも、昔、人は地面に穴を掘って水をためるところをつくり、その脇で焚き火をして、それがキッチンになっていた。もちろん、そのころは「キッチン」とは呼んではいなかったでしょうけれど、キッチンの始まりはきっとそんなところにあったと思います。それが、どうして今のキッチンの定義になったのかな、と、いつも不思議に思っています。」
「結局水と火があればキッチンができるんじゃないでしょうか。たとえば、今目の前にあるこのテーブルも、流しをはめて、ガスコンロをおいたら、これを人はなんと呼ぶんでしょうか。もしかしたら、キッチン、かもしれません。そう考えてみると、人がどういう瞬間に、何を「キッチン」と呼ぶんだろうか、ということをいつも考えていますね。」
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「キッチンと聞いて、世の中の多くの人は、すでに仕上がっている現代的なシステムキッチンを想像するかもしません。それも確かにキッチンです。でも、昔、人は地面に穴を掘って水をためるところをつくり、その脇で焚き火をして、それがキッチンになっていた。もちろん、そのころは「キッチン」とは呼んではいなかったでしょうけれど、キッチンの始まりはきっとそんなところにあったと思います。それが、どうして今のキッチンの定義になったのかな、と、いつも不思議に思っています。」
「結局水と火があればキッチンができるんじゃないでしょうか。たとえば、今目の前にあるこのテーブルも、流しをはめて、ガスコンロをおいたら、これを人はなんと呼ぶんでしょうか。もしかしたら、キッチン、かもしれません。そう考えてみると、人がどういう瞬間に、何を「キッチン」と呼ぶんだろうか、ということをいつも考えていますね。」
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空間のヒエラルキーはないほうがいい
「だから、住宅を設計するときも、僕の場合は『キッチンを設計するんだ』と思って設計していないかもしれないですね。どちらかというと家具とか、建築、という感覚で設計しているのだろうと思います。キッチンは、空間の中にあとで置かれることも多いので、どこか家電のようなところもある。でも、空間の中でどれが先でどれが後といったヒエラルキーは、本当はないほうがいいな、といつも思っています。」(上の写真は〈神宮前の家〉。)
「キッチンは「料理をつくる場所」と思っているかもしれないけれど、きっと料理『も』作れる場所、なんでしょうね。例えば、キッチンが大好きな奥さんにとっては、そこはリビングよりも重要な、リビング的な場所かもしれない。そういう意味では、僕はいつも、名前にとらわれないようにしています。例えば、ある空間を『リビング』と名づけたら、そこがくつろぐ場所なんだ、という既成概念にとらわれることになる。だからリビングとかダイニングなんていう名前なんてなくてもいいのにな、と根本では思っています。」
「だから、住宅を設計するときも、僕の場合は『キッチンを設計するんだ』と思って設計していないかもしれないですね。どちらかというと家具とか、建築、という感覚で設計しているのだろうと思います。キッチンは、空間の中にあとで置かれることも多いので、どこか家電のようなところもある。でも、空間の中でどれが先でどれが後といったヒエラルキーは、本当はないほうがいいな、といつも思っています。」(上の写真は〈神宮前の家〉。)
「キッチンは「料理をつくる場所」と思っているかもしれないけれど、きっと料理『も』作れる場所、なんでしょうね。例えば、キッチンが大好きな奥さんにとっては、そこはリビングよりも重要な、リビング的な場所かもしれない。そういう意味では、僕はいつも、名前にとらわれないようにしています。例えば、ある空間を『リビング』と名づけたら、そこがくつろぐ場所なんだ、という既成概念にとらわれることになる。だからリビングとかダイニングなんていう名前なんてなくてもいいのにな、と根本では思っています。」
昔の日本の民家を思い起こして
「考えてみれば、昔の日本の民家って、そういう区別はなかったと思うんです。例えば、玄関を入ると台所がありましたよね。あれは台所ですか? それとも玄関ですか? リビングとか寝室も区別はなくて、ある空間が寝るときには寝室になり、家族が団欒するときはリビングになる。食事したらダイニングにも。別にその空間に、リビングらしさ、ダイニングらしさ、寝室らしさがあるわけではない。いちいちそんなことを考えてつくった空間ではなかったわけですよね。なんであれじゃだめなんだろう、と思うんです。」
「世の中がどんどん便利になって、機能が細分化する。機能を細分化したほうが、便利さは定義しやすいですから。一方で、機能が細分化された空間にいると、与えられた機能に従って空間を使うので、人は考えなくなります。僕はやっぱり、『不便さ』にとても興味があります。不便だと、『どうやって使おうか』と考え始めるから。そういうことを、僕はいつも気にしているんです。」
「考えてみれば、昔の日本の民家って、そういう区別はなかったと思うんです。例えば、玄関を入ると台所がありましたよね。あれは台所ですか? それとも玄関ですか? リビングとか寝室も区別はなくて、ある空間が寝るときには寝室になり、家族が団欒するときはリビングになる。食事したらダイニングにも。別にその空間に、リビングらしさ、ダイニングらしさ、寝室らしさがあるわけではない。いちいちそんなことを考えてつくった空間ではなかったわけですよね。なんであれじゃだめなんだろう、と思うんです。」
「世の中がどんどん便利になって、機能が細分化する。機能を細分化したほうが、便利さは定義しやすいですから。一方で、機能が細分化された空間にいると、与えられた機能に従って空間を使うので、人は考えなくなります。僕はやっぱり、『不便さ』にとても興味があります。不便だと、『どうやって使おうか』と考え始めるから。そういうことを、僕はいつも気にしているんです。」
「上の写真2つは30代の夫婦と子供が暮らす〈広島の小屋〉という家。アクリルの壁で囲まれた大きな透明な空間をエクスパンドメタルでゆるやかにゾーニングした家で、キッチンもコンロとシンクがコンクリートの台にはまっているだけの、シンプルなもの。これって、実は昔ながらの家、昔ながらのキッチンなのですよね。でも今では、この家を見て少なくない人が『新しい』と感じるんですね。」
内と外のセグメントをなくして化学反応を起こす
「昔は、家の外とか内とかというセグメントがなかったと思います。それが、時代が求めた結果、セグメント化が進んだ。でもまた今、それが1つになり始めている気がします。理由はたぶん、何もかもセグメント化してしまうと、化学反応がおきなくなるからでしょうね。人間は新しいものを求める生き物なので、そこに何もおきなくなると物足りなくなるのではないでしょうか。それが正解かどうかはわかりませんが、僕はそういう風に思っています。」
「〈千葉の家〉(写真上と下)は、増改築のプロジェクト。もとは庭だった部分に、既存の2階建ての建物から新しく大きな屋根をかけた空間にキッチンがあります。そこに住んでいた人が持っていた建物の記憶を逆に利用して、解放感をより助長する、というプロジェクトだったのですが、テーブルは大きめだし、キッチンの中にテレビも組み込んでいる。住まい手はここが庭だった記憶を持っているので、この空間を外のようにも感じます。」
「昔は、家の外とか内とかというセグメントがなかったと思います。それが、時代が求めた結果、セグメント化が進んだ。でもまた今、それが1つになり始めている気がします。理由はたぶん、何もかもセグメント化してしまうと、化学反応がおきなくなるからでしょうね。人間は新しいものを求める生き物なので、そこに何もおきなくなると物足りなくなるのではないでしょうか。それが正解かどうかはわかりませんが、僕はそういう風に思っています。」
「〈千葉の家〉(写真上と下)は、増改築のプロジェクト。もとは庭だった部分に、既存の2階建ての建物から新しく大きな屋根をかけた空間にキッチンがあります。そこに住んでいた人が持っていた建物の記憶を逆に利用して、解放感をより助長する、というプロジェクトだったのですが、テーブルは大きめだし、キッチンの中にテレビも組み込んでいる。住まい手はここが庭だった記憶を持っているので、この空間を外のようにも感じます。」
機能の与えられていない場所からこそ新しい機能が生まれる
「ダイニングテーブルも含め、通常、テーブルの寸法は、機能を充足した寸法にすることが多いと思います。「4人家族ならこれくらいあればいいか」と決めるわけです。でも、そうすると機能以外の「こと」、ダイニングなら「食事すること」以外の「こと」がおきにくい。でも、例えば長さが3メートルのダイニングテーブルにして、それを4人家族で使ったらどうでしょうか。まんなかあたりで食事して、片方の端でパソコンで仕事して、もう片方の端で子供が宿題をして、お父さんが反対側で新聞を読んでいるとか、いろいろな「こと」が1つのテーブルを介して始まりますよね。」
「長さがあれば、機能が与えられていない場所がキッチンの中にできるので、新しい機能が生まれ始める。それはすごく大事なことだと思っています。最近設計した家でも、2.5メートル四方くらいの大きな天板のアイランドをつくりました。それも機能がないテーブルですね。それだけでもう、1つの部屋くらいの面積があるキッチンです。上に布団が敷けるくらいの大きさです。」
「ダイニングテーブルも含め、通常、テーブルの寸法は、機能を充足した寸法にすることが多いと思います。「4人家族ならこれくらいあればいいか」と決めるわけです。でも、そうすると機能以外の「こと」、ダイニングなら「食事すること」以外の「こと」がおきにくい。でも、例えば長さが3メートルのダイニングテーブルにして、それを4人家族で使ったらどうでしょうか。まんなかあたりで食事して、片方の端でパソコンで仕事して、もう片方の端で子供が宿題をして、お父さんが反対側で新聞を読んでいるとか、いろいろな「こと」が1つのテーブルを介して始まりますよね。」
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機能を空間にとけこませる
「振り返ってみると、僕は小さいキッチンはあまりつくっていないのですが、空間の中にとけこませる、という意味で、小ささを感じさせようとしたケースはあります。〈長津田の家〉(上の写真)の場合は、リノベーションのプロジェクトで、キッチンとダイニングの空間の中にラワン合板とフレキシブルボードとステンレスの天板くらいしか要素がないから、狭くてもテーブルや椅子、キッチンが空間に統合されています。」
「振り返ってみると、僕は小さいキッチンはあまりつくっていないのですが、空間の中にとけこませる、という意味で、小ささを感じさせようとしたケースはあります。〈長津田の家〉(上の写真)の場合は、リノベーションのプロジェクトで、キッチンとダイニングの空間の中にラワン合板とフレキシブルボードとステンレスの天板くらいしか要素がないから、狭くてもテーブルや椅子、キッチンが空間に統合されています。」
コンクリートはキッチンと相性がいい
「〈西落合の家〉(上の写真)の場合もそうで、この家は、大きなキューブの躯体のなかに螺旋状に登っていく、階段なのか部屋なのかわからない空間があります。階段の段板が広いと部屋のような空間になるので、階段はあるけど階段がない、という感じの家になっています。ここでは、キッチンもこの空間にあわせてコンクリートでつくりました。コンクリートは形も自由に成形できますし、質感としてもキッチンと相性のいい素材だと思います。」
「〈西落合の家〉(上の写真)の場合もそうで、この家は、大きなキューブの躯体のなかに螺旋状に登っていく、階段なのか部屋なのかわからない空間があります。階段の段板が広いと部屋のような空間になるので、階段はあるけど階段がない、という感じの家になっています。ここでは、キッチンもこの空間にあわせてコンクリートでつくりました。コンクリートは形も自由に成形できますし、質感としてもキッチンと相性のいい素材だと思います。」
コミュニケーションの生まれる場所がいちばん楽しい
「〈尾道の家〉(上と下の写真)は海辺に立つ家で、家の中から花火を存分に楽しめる家。この家のダイニングキッチンの空間(下の写真)は、ダイニングテーブルの天板が鉄板になっていて、そのまま焼肉ができるんです。このテーブルはもはや、ダイニングでありキッチンであり、ですよね。住まい手の家族から『テーブルで鉄板焼きをやりたい』というご要望があってつくったもので、僕らも何回かごちそうになりました。」
「そういえば、自分はどんなキッチンが好きなんだろう、と考えてみると、頭に浮かぶのはキャンプ場のキッチンです。別にキャンプが好きなわけではありません。外にキッチンがあるだけで、あんなに楽しくて、コミュニケーションがとられるわけですよね。住宅の中にあるキッチンで、あんなに楽しくてコミュニケーションが生まれるキッチンって、なかなかない気がするんです。だからかな、最近手がけた家ではよく外にキッチンをつくっていますね。」
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突然の投稿、失礼しました。
ど素人ですが現在小さい家を建てようとしているシングルマザーです。
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何か伝えやすいツールはないか?と思いこのサイトに辿り着きました。
「水と火があればキッチンになる」
シンプルな中にも真髄を得た表現に無限の可能性を感じました。
プロの方の「人間の本質」を捉える視点での家創りはど素人には心強く、また自分を掘り下げる意味でも刺激になります。
素晴らしい記事に感謝申し上げます。