タイムレスデザインの名作椅子《アーコールチェア》
《アーコールチェア》の愛称で大人気の〈アーコール〉社の椅子の数々。その誕生ストーリーとデザインの魅力を解説します。
西谷典子|Noriko Nishiya
2015年12月12日
21世紀に入り、ミッドセンチュリースタイルのブーム再燃とともにリバイバルした《アーコールチェア》。ポップなデザインが流行していた1950年代に生まれたこの椅子の、研ぎ澄まされたシンプルさには、時代背景と土地柄、そしてアーコール社の創立者、ルシアン・アーコラーニの家具デザイナーとしての歩みが密接に関係しています。日本でも定着したアーコールチェアの人気の秘密と、その誕生のストーリーをご紹介しましょう。
イギリスに移住したイタリア人一家
《アーコールチェア》を生み出したルシアン・アーコラーニのルーツはイタリア。彼の父親が1890年代にカトリックからプロテスタントに改宗した際、ウアビーノの地域の人々から受け入れられず、一家でイギリスに移住することを決意します。父親はもともと、ウフィツィ美術館から仕事を請け負うような腕のよい額縁職人だったため、すぐにキャビネット職人としてイギリスの教会から仕事を得ることに。その父の才能を受け継ぐルシアンも、夜間学校で家具のデザインや家具の理論や構造を勉強するようになります。
《アーコールチェア》を生み出したルシアン・アーコラーニのルーツはイタリア。彼の父親が1890年代にカトリックからプロテスタントに改宗した際、ウアビーノの地域の人々から受け入れられず、一家でイギリスに移住することを決意します。父親はもともと、ウフィツィ美術館から仕事を請け負うような腕のよい額縁職人だったため、すぐにキャビネット職人としてイギリスの教会から仕事を得ることに。その父の才能を受け継ぐルシアンも、夜間学校で家具のデザインや家具の理論や構造を勉強するようになります。
家具の街、ハイウィコムへ
その後、イギリスの大手椅子メーカーのデザイナーとして迎えられ、家具メーカーが多く集まる土地として知られるハイウィコムに移住。また母校でも教鞭をとるようになり、生徒の中には、チーク材の家具《G-Plan》シリーズで有名な家具メーカー、E.Gomme社経営者の息子エディーもいて、彼らは生涯の友人となります。
また、ハイウィコムはウィンザー城から30kmほどに位置する場所にあり、イギリスの中でもこのあたりにブナの木が大量に生育していたことから、18世紀から椅子や家具メーカーが多く集まる街として有名なところでした。
その後、イギリスの大手椅子メーカーのデザイナーとして迎えられ、家具メーカーが多く集まる土地として知られるハイウィコムに移住。また母校でも教鞭をとるようになり、生徒の中には、チーク材の家具《G-Plan》シリーズで有名な家具メーカー、E.Gomme社経営者の息子エディーもいて、彼らは生涯の友人となります。
また、ハイウィコムはウィンザー城から30kmほどに位置する場所にあり、イギリスの中でもこのあたりにブナの木が大量に生育していたことから、18世紀から椅子や家具メーカーが多く集まる街として有名なところでした。
シェーカーデザインとの出会い
ルシアンは1920年に独立し、アーコール社を設立。伝統的な家具を作り続けます。ある程度事業が波に乗り始めた頃、ニューヨーク旅行に行き、メトロポリタン美術館でとてもシンプルなシェーカーデザインの椅子に出会います。この無駄のない美しさをもつ椅子が、その後のアーコールの家具の原点のひとつにもなるのですが、特に一般の人がまったく目に入らない細部まで完璧な仕事をしているこの家具に、彼は深い感銘を受けます。敬虔なプロテスタント信者として、「いつも神がともにいる限り、完璧な仕事をしなければならない」と父親から学んでいたルシアンにとっては、シェーカーチェアのすべてが納得できるものでした。
ルシアンは1920年に独立し、アーコール社を設立。伝統的な家具を作り続けます。ある程度事業が波に乗り始めた頃、ニューヨーク旅行に行き、メトロポリタン美術館でとてもシンプルなシェーカーデザインの椅子に出会います。この無駄のない美しさをもつ椅子が、その後のアーコールの家具の原点のひとつにもなるのですが、特に一般の人がまったく目に入らない細部まで完璧な仕事をしているこの家具に、彼は深い感銘を受けます。敬虔なプロテスタント信者として、「いつも神がともにいる限り、完璧な仕事をしなければならない」と父親から学んでいたルシアンにとっては、シェーカーチェアのすべてが納得できるものでした。
土地伝統のウィンザーチェア
またアーコールの椅子を語るためには、ハイウィコムの地で歴史的に作られてきたウィンザーチェアのことも少し述べておかなければなりません。写真はウィンザーチェアですが、16世紀からあるこの椅子は、もともと細いスティックが背もたれの部分にあしらわれ、アームの部分や枠の部分は曲木で作られています。その後アームなしのものも作られ、大量の椅子がウィンザーからテムズ川を渡り、ロンドンのディーラーに輸送されました。
またアーコールの椅子を語るためには、ハイウィコムの地で歴史的に作られてきたウィンザーチェアのことも少し述べておかなければなりません。写真はウィンザーチェアですが、16世紀からあるこの椅子は、もともと細いスティックが背もたれの部分にあしらわれ、アームの部分や枠の部分は曲木で作られています。その後アームなしのものも作られ、大量の椅子がウィンザーからテムズ川を渡り、ロンドンのディーラーに輸送されました。
熟練の家具職人を擁して
その後、第一次世界大戦と世界恐慌のために、残念ながら次々と家具メーカーが倒産していきます。が、ルシアンはそういった、ウィンザーチェアのリプロダクションを製造する家具の老舗メーカーを買収することで、熟練工の多くを救い、2つの会社を切り盛りすることになります。
その後、第一次世界大戦と世界恐慌のために、残念ながら次々と家具メーカーが倒産していきます。が、ルシアンはそういった、ウィンザーチェアのリプロダクションを製造する家具の老舗メーカーを買収することで、熟練工の多くを救い、2つの会社を切り盛りすることになります。
大量生産への対応
第二次世界大戦が始まると、イギリス国内の物資、職人不足が深刻になります。その問題に対処するため、「ユーティリティ・スキーム」と呼ばれる戦時の方針で、家具や服のデザインや材料の、政府による管理が始まりました。そこではアーツ・アンド・クラフツ時代にも影響される、無駄な装飾の一切ないシンプルなデザインの家具の製造が推奨されるようになります。そこでハイウィコムのルシアンに白羽の矢が立ち、政府からシンプルなウィンザーチェアを作るようにとの依頼が来ます。その要請に応え、大量の椅子を作るために製造過程そのものを見直した結果、大量に早く、安く生産できるラインが完成され、厳しい世界大戦の時代も乗り切るのです。
第二次世界大戦が始まると、イギリス国内の物資、職人不足が深刻になります。その問題に対処するため、「ユーティリティ・スキーム」と呼ばれる戦時の方針で、家具や服のデザインや材料の、政府による管理が始まりました。そこではアーツ・アンド・クラフツ時代にも影響される、無駄な装飾の一切ないシンプルなデザインの家具の製造が推奨されるようになります。そこでハイウィコムのルシアンに白羽の矢が立ち、政府からシンプルなウィンザーチェアを作るようにとの依頼が来ます。その要請に応え、大量の椅子を作るために製造過程そのものを見直した結果、大量に早く、安く生産できるラインが完成され、厳しい世界大戦の時代も乗り切るのです。
家具製作の集大成として誕生
その後、戦後の復興とともに家具の需要が一気に上がり、やっと政府からの厳しいチェックも入らなくなった頃、ルシアンは新しい平和な時代の家具のデザインは何かと考えました。そして、ジグソーパズルの最後のピースがパチリとはめ込まれるように、アーコールチェアが誕生します。シンプルで美しいシェーカーチェア、ウィンザーチェアを作ってきた自社の腕のよい熟練の職人、合理的に作れる工場の生産システム。自身が辿ってきた仕事の歴史の集大成が、アーコールチェアとして花開いたのです。シンプルでコンテンポラリーな家具、そして伝統的なデザインの要素も見られるこの椅子は、すぐ大人気を博しました。
その後、戦後の復興とともに家具の需要が一気に上がり、やっと政府からの厳しいチェックも入らなくなった頃、ルシアンは新しい平和な時代の家具のデザインは何かと考えました。そして、ジグソーパズルの最後のピースがパチリとはめ込まれるように、アーコールチェアが誕生します。シンプルで美しいシェーカーチェア、ウィンザーチェアを作ってきた自社の腕のよい熟練の職人、合理的に作れる工場の生産システム。自身が辿ってきた仕事の歴史の集大成が、アーコールチェアとして花開いたのです。シンプルでコンテンポラリーな家具、そして伝統的なデザインの要素も見られるこの椅子は、すぐ大人気を博しました。
長く受け継がれる椅子へ
ヴィンテージのアーコールチェアのロゴを見ると、マークの上にライオンがついています。これはルシアンの分身、そして力強い帝王のイメージだそうですが、1950年代に完成したアーコールチェアの普遍性と威厳を表すにふさわしいシンボルです。
アーコールチェアはコピー品が大変少ないことでも知られており、そもそもこの椅子を作るためには、この会社とほぼ同じ規模で、同じ工程で作らなければこの価格では作れない(つまり、コピーをしても作り手はそれほど儲からない)椅子としてデザインされているという点も、彼が讃えられるべき素晴らしい業績のひとつだと思います。
ヴィンテージのアーコールチェアのロゴを見ると、マークの上にライオンがついています。これはルシアンの分身、そして力強い帝王のイメージだそうですが、1950年代に完成したアーコールチェアの普遍性と威厳を表すにふさわしいシンボルです。
アーコールチェアはコピー品が大変少ないことでも知られており、そもそもこの椅子を作るためには、この会社とほぼ同じ規模で、同じ工程で作らなければこの価格では作れない(つまり、コピーをしても作り手はそれほど儲からない)椅子としてデザインされているという点も、彼が讃えられるべき素晴らしい業績のひとつだと思います。
16世紀から伝わるトラディショナルな形を残していながら、21世紀のモダンなインテリアにもマッチするこの “年齢不詳” の椅子は、これからもイギリスを代表する椅子として愛され続けていくはずです。100年後にどのようなインテリアにミックスされて使われているか、大変気になる椅子ですね。
6回にわたりお届けしてきたシリーズ、いかがでしたでしょうか。それぞれの作り手が生涯をかけて生み出したデザインチェアの、ちょっとしたストーリーを知り、語り継いでいくことで、これからもさらにこういったタイムレスな魅力をもつ椅子を、愛着をもって大切に使い、受け継いでいくことができたら、と願っています。
6回にわたりお届けしてきたシリーズ、いかがでしたでしょうか。それぞれの作り手が生涯をかけて生み出したデザインチェアの、ちょっとしたストーリーを知り、語り継いでいくことで、これからもさらにこういったタイムレスな魅力をもつ椅子を、愛着をもって大切に使い、受け継いでいくことができたら、と願っています。
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