Houzzツアー:築35年の木造2階建てをリノベーションで静謐な光あふれる空間に
路地の奥に佇む古びた木造住宅を、ギャラリー兼スタジオを含むアーティストの住まいにリノベーション。やわらかな自然光をとりこんで、ニュートラルでありながら住まい手の創造力をかきたてる空間に一新しました。

Naoko Endo
2015年12月9日
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
個人ブログ「a+e」http://a-plus-e.blogspot.jp/
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築35年の木造2階建て住宅のリノベーション事例である。元は事務所兼住宅で、一部が雑多な外観を呈していたが、新たな住まい手となったアーティストが求めた、 静謐で自然光を享受する快適な住まいへと一新された。
立地は大阪府の中部の都市。JRと私鉄の2駅を繋いでいる商店街から、軽トラックが1台やっと通れる程度の私道を南側に入ると、 周囲をほぼ隣家に囲まれて、この家が建っている。
どんなHouzz?
《House for INSTALLATION|清州の家 リノベーション》
居住者:アーティスト
所在地:大阪府
設計:jam. 村田純
改修延床面積:116.50平方メートル
竣工:2014年(築35年の木造2階建て住宅をリノベーション)
どんなHouzz?
《House for INSTALLATION|清州の家 リノベーション》
居住者:アーティスト
所在地:大阪府
設計:jam. 村田純
改修延床面積:116.50平方メートル
竣工:2014年(築35年の木造2階建て住宅をリノベーション)
リノベーションを依頼されたのは、大阪に事務所を構える建築家の村田純氏。竣工当時の図面が残っていなかったため、解体前に実測を行ない、いちから図面をおこした。柱や梁、古いサッシは再利用できたが、窓などの開口部は追加できなかった。限られた予算と敷地条件のなかで、それまで恵まれていなかった外光などの自然の素材を室内に取り込み、その効果を最大限に活かすこと、これが大きなテーマとなった。
左の写真にも写っているが、商店街からの路地はさらに細くなり、この家の東側の脇道に沿って奥へと続いている。隣家との間に塀はなく、かなり近い。 かつてはこの1階部分に不動産屋の事務所があり、お世辞にも美しいとははいえない緑色のさびれたテントが商店街から丸見えだった。
JRと私鉄の両方の駅に近く、スーパーもある商店街がすぐ目の前という利便性の良さを気に入り、リノベーションを前提として購入を決めた施主は、陶芸、キルト、書などを制作する作家で、プライバシーを守り、快適かつ静謐な居住空間と、創作活動と作品展示に必要なスペースの確保をあわせて望んだ。
JRと私鉄の両方の駅に近く、スーパーもある商店街がすぐ目の前という利便性の良さを気に入り、リノベーションを前提として購入を決めた施主は、陶芸、キルト、書などを制作する作家で、プライバシーを守り、快適かつ静謐な居住空間と、創作活動と作品展示に必要なスペースの確保をあわせて望んだ。
上の写真は、本格改修前の内観である。商店街とは反対の南側に、6畳の和室と約8畳の洋間が並んでいた。2間を仕切る襖の上には木彫りの欄間、和室は床の間、仏間、押し入れが並んだオーソドックスなしつらえ。この古風な空間が、下の写真のように、光に満ちたニュートラルな一室空間へと生まれ変わった。
改修後は手前がダイニング、奥がリビングとして使われている。床のフローリングはアッシュ材、リビングの中央には縁なしの琉球畳を敷いた。仏間があった奥の壁は、住まい手が作品を飾ったり、花を生けられる現代の”床の間”に。
天井は改修前に吊り下げられていたような照明器具は排し、天井上部の隅に入れたスリットの中に配置した間接照明から、白い壁をつたって柔らかな光が落ちてくるようにした。
天井は改修前に吊り下げられていたような照明器具は排し、天井上部の隅に入れたスリットの中に配置した間接照明から、白い壁をつたって柔らかな光が落ちてくるようにした。
キッチンに隣接したダイニングには、現場の端材を利用して村田氏がデザインしたテーブルに、ブロカントのチェアが配されている。リノベーションされた空間には、まっさらな新品ではないほうがしっくりくる。本稿のほかの写真にも写っているバルセロナチェアもユーズド品で、商店街の家具店で手に入れた掘り出し物。テーブル上にクロームの花束を吊るしたようなペンダント照明〈カロッタ〉は、施主が一目みて気に入り、あわせたものだ。
前述のスリットは天井以外にも、背面に洗面・脱衣室がある壁の一部にも縦に1本、入れられている。家の中心部に位置する洗面・脱衣室は、 改修前はやや薄暗い空間となっていた。そこで、幅6センチの縦長のスリットを穿(うが)ち、開口部にはポリカーボネートを張ることで、南面のリビング・ダイニングを経由した光をとりいれつつ、視線だけを遮っている。
この空間をとりわけ印象深いものとしているのは、白い壁と天井、そして大きなシアカーテンの存在だ。綿にポリエステル混というありふれた素材だが、夏場は強くなる外光を中和して拡散するスクリーンとなり、 既存の古い引き戸のディテールも隠してくれる。カーテンレールと引き戸サッシの上枠も、上部のスリットのなかに格納されているので目立たない。
施主が求めた「静謐」というキーワード通りの空間だが、全ての要素が除外されているわけではない。この家の内部空間には、前述の光とともに、風にのって、外部のノイズ、街のにぎわいといった音もまた流れこんでくる。スリットや、あえて気密性や防音性の高い仕様にしなかったという建具の僅かな隙間からもたらされるものだ。
「内と外を断絶させず、光、風、香り、音といった自然な要素が、この白い無機質な空間に多少なりとも加わったほうが、生活がより豊かに、彩りあるものになるのではないかと考えました。慎ましくも可変な、ミニマム空間となったと思います」(村田氏談)
「内と外を断絶させず、光、風、香り、音といった自然な要素が、この白い無機質な空間に多少なりとも加わったほうが、生活がより豊かに、彩りあるものになるのではないかと考えました。慎ましくも可変な、ミニマム空間となったと思います」(村田氏談)
住まい手が望んだアトリエとギャラリー空間(スタジオ)は、コリドー(通路)を挟んだ反対側、かつて倉庫だったモルタル土間と、不動産の事務所を改装して設けられた。商店街から丸見えとなる立地条件は、住宅としてはマイナスだが、ギャラリーとしてはプラスに転じた。 外部空間と接する地面には、ギャラリーを訪れる人を迎える玄関としてふさわしく、白いタイルで装飾したステップを設けている。
作家としてのパブリックな場と、プライベートな空間を結ぶコリドー。二階へと続く階段がある片側の壁は、斜めの角度をつけた。平面図でみると、南面のダイニングから玄関に向かって通路の幅が大きくなる台形をしている。この効果は、玄関からダイニングを眺めてみるとわかる(下の写真)。パースがついているので、奥行き感が増し、南から入ってくる光をより印象的なものにしている。
「物件探しの段階から相談を受けていたので、予算内でどれくらいの改修ができそうかなど早い段階から施主とは打合せをしていました。それでも、実際に解体してみると、思わぬところから構造体が出てきて、その都度、コストとスペックをにらみながら、ギリギリの調整が必要となりました」と村田氏。例えば、一新されたリビング・ダイニングでも、剥がした天井裏から予想以上に大きな梁が顔をのぞかせたため、天井高全体を下げ、間接照明、カーテンボックス、建具を格納する各スリットの寸法も変更した。
「現場にこまめに足を運んで最新の状態を把握し、職人たちとも情報を共有しながら、最適なスケールとディテールをシビアに決めていく作業の連続でした」と村田氏は振り返る。その結果が、この《House for INSTALLATION|清州の家 リノベーション》の静謐でミニマムな空間となって、美しくたち現われている。
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そこで生活出来る人の感性は限られているだろうな・・・
美しい住まいですね。たしかにアート。