和紙が息づく住まい
ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産にも登録されている「和紙 日本の手漉和紙技術」。伝統の手漉和紙をインテリアに取り入れた空間をご紹介します。
Miki Anzai
2015年12月13日
和紙が日本で最初に作られたのは、『日本書紀』によると610年といわれています。以来、日本の暮らしを快適に支えてきた和紙は、洋紙のように木材を主な原料にして機械で大量製造するのと違い、植物の皮を原料に漉いて作るので、一度にたくさん作れません。しかし、独特の温もり、色合い、光沢、清廉さがあります。また、通気性に優れており、丈夫で長持ち、環境に優しく、湿度が高いと湿気を吸収し、乾燥すると湿気を放出する、まさに日本の気候風土に適した素材です。こうした特性を持つ和紙が、洋風化が進む現代の日本の住空間だけでなく、海外の住宅でも取り入れられています。今回は、さまざまな家のシーンで活用されている和紙をご紹介します。
階段下の収納扉
「ニッポンの壁〜多彩な内装材の世界」でも紹介された、京都・西陣にある個人邸。廊下に沿って貼られているのは株式会社丸二が製作した「京からかみ」です。赤紅色に染めた「越前鳥の子和紙」に、牡丹と雲気をあしらった伝統的な有職文様を雲母(きら)押しした唐紙(からかみ)は、部屋にさし込む光線によって微妙に光を変え、唐紙特有の味わいを放っています。
当初、設計を担当されたプリヤデザインは、他の和紙を提案。しかし白を基調とする玄関まわりに「アクセントとなる色や柄」が欲しいとのことで、この唐紙を提案し、採用されました。唐紙の施工は、手練れの表具師さんが、唐紙を貼る前に和紙を捨貼りしているだけでなく、一枚の壁に見えるように、唐紙の紋様が連続するように留意して貼っています。
「ニッポンの壁〜多彩な内装材の世界」でも紹介された、京都・西陣にある個人邸。廊下に沿って貼られているのは株式会社丸二が製作した「京からかみ」です。赤紅色に染めた「越前鳥の子和紙」に、牡丹と雲気をあしらった伝統的な有職文様を雲母(きら)押しした唐紙(からかみ)は、部屋にさし込む光線によって微妙に光を変え、唐紙特有の味わいを放っています。
当初、設計を担当されたプリヤデザインは、他の和紙を提案。しかし白を基調とする玄関まわりに「アクセントとなる色や柄」が欲しいとのことで、この唐紙を提案し、採用されました。唐紙の施工は、手練れの表具師さんが、唐紙を貼る前に和紙を捨貼りしているだけでなく、一枚の壁に見えるように、唐紙の紋様が連続するように留意して貼っています。
マンションのリビング壁
こちらは、越前手漉き「鳥の子和紙」をレンガ貼りして、伝統技術の胡粉型押しを施しています。ふすまや障子がないマンションでも、こうやってリビングの壁に和紙を貼ることで、見た目のよさのアップだけでなく、空気清浄や湿度の調整にも役立っています。
和紙の特性をフルに生かせるように下貼りし、下地のジョイントや和紙の接着面には楮紙(こうぞがみ)を使用。浮け貼り(骨の上だけに糊をつけて、その他を浮かせて貼ること)を2回、上貼りがしやすく「鳥の子紙」も丈夫になるように清貼り(下地の上に上貼りをすること)し、雲肌(錆朱色)の越前手漉き和紙を貼って完成させています。
こちらは、越前手漉き「鳥の子和紙」をレンガ貼りして、伝統技術の胡粉型押しを施しています。ふすまや障子がないマンションでも、こうやってリビングの壁に和紙を貼ることで、見た目のよさのアップだけでなく、空気清浄や湿度の調整にも役立っています。
和紙の特性をフルに生かせるように下貼りし、下地のジョイントや和紙の接着面には楮紙(こうぞがみ)を使用。浮け貼り(骨の上だけに糊をつけて、その他を浮かせて貼ること)を2回、上貼りがしやすく「鳥の子紙」も丈夫になるように清貼り(下地の上に上貼りをすること)し、雲肌(錆朱色)の越前手漉き和紙を貼って完成させています。
階段横の壁
この階段の側壁には102枚の柿渋紙(かきしぶがみ)が下部から一枚一枚、丁寧に貼り上げられています。 こちらも糊はビニールクロスで使う化学糊ではなく、本物の澱粉糊が使われています。 化学糊は硬化すると「呼吸」しませんが、澱粉糊だと呼吸する壁となり、抜群の調湿性能を発揮するからです。また柿渋を塗ることで素材を強化、抗菌化された和紙は経年変化でさらに渋い色味へと変わり、その味わいを愉しむことができます。
この階段の側壁には102枚の柿渋紙(かきしぶがみ)が下部から一枚一枚、丁寧に貼り上げられています。 こちらも糊はビニールクロスで使う化学糊ではなく、本物の澱粉糊が使われています。 化学糊は硬化すると「呼吸」しませんが、澱粉糊だと呼吸する壁となり、抜群の調湿性能を発揮するからです。また柿渋を塗ることで素材を強化、抗菌化された和紙は経年変化でさらに渋い色味へと変わり、その味わいを愉しむことができます。
茶室の障子
写真は水屋ですが、右側の「水屋隠しの障子」を開けると、お茶室に通じます。藍染め和紙を市松模様に貼り合わせているのが斬新です。和の空間設計は 建具の表情で大きく変わることがわかります。
写真は水屋ですが、右側の「水屋隠しの障子」を開けると、お茶室に通じます。藍染め和紙を市松模様に貼り合わせているのが斬新です。和の空間設計は 建具の表情で大きく変わることがわかります。
ペンダント照明
自然な素材感と強度を両立させた和紙は光を半ば通し、半ば閉じ込め、やわらかい灯りを生みだしてくれます。写真はお寺の庫裏に設置した和紙のペンダント照明ですが、和紙照明は純和風の空間だけでなく、モダンな空間にもなじみます。
自然な素材感と強度を両立させた和紙は光を半ば通し、半ば閉じ込め、やわらかい灯りを生みだしてくれます。写真はお寺の庫裏に設置した和紙のペンダント照明ですが、和紙照明は純和風の空間だけでなく、モダンな空間にもなじみます。
美濃手漉き和紙を使ったイサム・ノグチのAKARIシリーズが、時代を超えて世界中で愛されるペンダントというのも納得できます。
玄関ホール
「経年に美しく年を重ねる家」を作るのが信条の、CN-JAPANの藤村正継さんの設計による、天然木材、和紙で仕上げた木造2階建ての京都の住まいです。藤村さんが手がけた「和紙で包まれた」家は、「Houzzツアー:和紙に包まれた、美しく年を重ねる家」の記事でご紹介しています。
「経年に美しく年を重ねる家」を作るのが信条の、CN-JAPANの藤村正継さんの設計による、天然木材、和紙で仕上げた木造2階建ての京都の住まいです。藤村さんが手がけた「和紙で包まれた」家は、「Houzzツアー:和紙に包まれた、美しく年を重ねる家」の記事でご紹介しています。
玄関の向かって右手に、焼成していない珪藻土(〈日本エムテクス〉扱い)、階段から横に土佐和紙を使った玄関の空間です。珪藻土と土佐和紙の組み合わせは、調湿作用を生みますが、それよりも「質感がよく、経年変化で味が出る」ため、あいかわさとう建築設計事務所では好んで使われている素材です。
ステンドグラス風に
土間の壁上部に規格品の障子を加工して埋め込み、シナ合板をはめた後、数種類の和紙を貼ることで、和紙のステンドグラスのような壁面を創り出しました。下貼り用の和紙と白い和紙を重ねたりずらしたりすることで、光の入り方をコントロールしています。また、東側の庭が見える窓(写真左側)の内側にも障子を加工して埋め込んだ後、漆喰を障子の骨に塗り、壁面と障子の境を消して、障子部分の全面に一枚ガラスを入れています。わざと全面に和紙を貼らず、数カ所、格子をオープンにすることで、楽しく開放的な空間になっています。
このデザインを考案した松本康弘建築工房の松本康弘さんは、「和紙は古くから使われていて、壁の仕上げ材としても、光を通す素材としても、断熱材としても使えます。ひとつの素材がいくつも機能を持っていて、かつ工業製品にはない風合いがある」とおっしゃいます。
土間の壁上部に規格品の障子を加工して埋め込み、シナ合板をはめた後、数種類の和紙を貼ることで、和紙のステンドグラスのような壁面を創り出しました。下貼り用の和紙と白い和紙を重ねたりずらしたりすることで、光の入り方をコントロールしています。また、東側の庭が見える窓(写真左側)の内側にも障子を加工して埋め込んだ後、漆喰を障子の骨に塗り、壁面と障子の境を消して、障子部分の全面に一枚ガラスを入れています。わざと全面に和紙を貼らず、数カ所、格子をオープンにすることで、楽しく開放的な空間になっています。
このデザインを考案した松本康弘建築工房の松本康弘さんは、「和紙は古くから使われていて、壁の仕上げ材としても、光を通す素材としても、断熱材としても使えます。ひとつの素材がいくつも機能を持っていて、かつ工業製品にはない風合いがある」とおっしゃいます。
ダイニングのアートウォール
こちらも「ニッポンの壁〜多彩な内装材の世界」で紹介されたのでご記憶の方も多いと思いますが、コンクリート打ち放しの壁面(写真右側)に和紙が貼られています。風景写真を大きく引き伸ばして和紙に印刷したことで、ラインがにじんで水墨画のような佇まいを醸し出しています。和紙だからできた圧巻のアートウォールです。
こちらも「ニッポンの壁〜多彩な内装材の世界」で紹介されたのでご記憶の方も多いと思いますが、コンクリート打ち放しの壁面(写真右側)に和紙が貼られています。風景写真を大きく引き伸ばして和紙に印刷したことで、ラインがにじんで水墨画のような佇まいを醸し出しています。和紙だからできた圧巻のアートウォールです。
インテリアアイテムとして
部屋のポイントアイテムにもなりそうなのが和紙を使ったクッションカバー。「和紙を世界へ」との願いを込めて、スタジオ・エムエー代表の安藤眞代さんがデザインされたものです。今年4月にはイタリアで開催した企画展にも出展し注目を集めました。使い込むほどに艶が出てくるそうです。
部屋のポイントアイテムにもなりそうなのが和紙を使ったクッションカバー。「和紙を世界へ」との願いを込めて、スタジオ・エムエー代表の安藤眞代さんがデザインされたものです。今年4月にはイタリアで開催した企画展にも出展し注目を集めました。使い込むほどに艶が出てくるそうです。
複数の素材の融合
こちらのお宅の壁には沖縄の多年草から作られた、やわらかな表情の「月桃(げっとう)紙」という和紙が貼ってあります。建具の表面材には紙布(和紙を撚って糸にして織った布)を貼っています。床(写真右下)には荒々しい表情のタイルや、畳(写真左下)を配して、さまざまな素材が融合した安らぎのある空間となっています。
こちらのお宅の壁には沖縄の多年草から作られた、やわらかな表情の「月桃(げっとう)紙」という和紙が貼ってあります。建具の表面材には紙布(和紙を撚って糸にして織った布)を貼っています。床(写真右下)には荒々しい表情のタイルや、畳(写真左下)を配して、さまざまな素材が融合した安らぎのある空間となっています。
障子、襖、欄間
アメリカ・カリフォルニア州で活躍する日本人大工のHiroshi Sakaguchiさんにより製作された日本間です。左のTVが備え付けられている壁、右側のパソコンがのっているデスク部分は、襖で閉めて隠すことができ、中央の机も可動式で畳みの高さまで下げられます。和紙は日本から輸入し、障子や襖、天井照明カバーに使用しています。
アメリカ・カリフォルニア州で活躍する日本人大工のHiroshi Sakaguchiさんにより製作された日本間です。左のTVが備え付けられている壁、右側のパソコンがのっているデスク部分は、襖で閉めて隠すことができ、中央の机も可動式で畳みの高さまで下げられます。和紙は日本から輸入し、障子や襖、天井照明カバーに使用しています。
コネチカット州にある1920年代の家を大幅改修した、豪邸敷地内のお茶室です。すべての建具は京都の熟練工が上質な素材を使って日本で製作し、同じ職人さんたちの手で現地で組み立てられました。障子は閉めれば白い光のキャンバスが連なり、開け放てば切り取られた景色がパノラマのように広がる――まさに「光を招き入れ、風景を呼び込む」和紙ならではの魅力です。
昨年11月、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録された「和紙 日本の手漉和紙技術」。人が手間をかけた自然素材を使った空間は、住む人や自然に優しいだけでなく、ともに呼吸をしながら、おだやかな極上の時間を提供してくれます。
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和紙を活用した住まい。。素敵ですね。
柿渋紙が使われた壁、昔ながらの素材が使われているのにとても新しい感じがします。実物を観てみたいと思いました。
1400年以上の歴史に裏付けされた文化には、昔のモノの無い時代に何とかして紙と言うモノを作りだした執念が感じられます。
In 1400 years of history to support it has been culture, and somehow it is felt obsession that has created and things do say the paper to the old days of no era of mono.