Houzzインタビュー:五十嵐淳、ヤコブセンの名作椅子〈セブンチェア〉を再構築する
モダンチェアの名作〈セブンチェア〉の誕生70周年を記念して、7組の建築家がこの椅子を再構築したプロジェクト「7 COOL ARCHITECTS」。日本から参画した建築家の五十嵐淳さんに、セブンチェアの変わらぬ魅力と、今回のクリエイティブな再構築の取り組みについて話を聞いた。
Naoko Endo
2015年10月28日
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
個人ブログ「a+e」http://a-plus-e.blogspot.jp/
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
個人ブログ「a+e」 もっと見る
デンマークが生んだ建築家であり、デザイナーとしても有名なアルネ・ヤコブセン(1902-1971)。彼がデザインし、1872年創業のデンマークの家具メーカー、フリッツ・ハンセンが製造した〈セブンチェア(Series 7)〉は、世界中で愛されている名作椅子のひとつだ。
1955年の発売から60周年を記念して、世界的な建築家7組がそれぞれ独創的なコンセプトで〈セブンチェア〉を再構築。その作品展「7 COOL ARCHITECTS」が欧州の各都市で開催され、このほど日本にも巡回した。東京・増上寺の光摂殿を会場に11月3日まで開催されるデザインイベント〈AnyTokyo 2015〉が国内初披露となる。
1955年の発売から60周年を記念して、世界的な建築家7組がそれぞれ独創的なコンセプトで〈セブンチェア〉を再構築。その作品展「7 COOL ARCHITECTS」が欧州の各都市で開催され、このほど日本にも巡回した。東京・増上寺の光摂殿を会場に11月3日まで開催されるデザインイベント〈AnyTokyo 2015〉が国内初披露となる。
日本から参画しているのが建築家の五十嵐淳氏だ。五十嵐氏は1972年北海道生まれ。1997年に佐呂間町に五十嵐淳建築設計事務所を開設して以来、北海道を拠点に活動している。家具メーカーからのオファーは今回が初めて。椅子を手掛けるのは、カラマツを材にした〈moddello chair〉以来、6年ぶりになる。
「いわゆる名作椅子と呼ばれるコルビュジエの〈スリングチェア〉やイームズの〈シェルチェア〉などを、自宅兼事務所である《矩形の森》で愛用しています。倉俣史朗さん(1934-1991)がデザインした家具も大好きで、若い頃に、洋書の表紙を飾っていた〈ミス・ブランチ(Miss Blanche)〉をみたときは感動しました。なかば本気で手に入れようとしたこともあるくらいです」と家具への想いを語る五十嵐さん。「今回のフリッツ・ハンセンからのオファーには驚きましたが、〈セブンチェア〉も大好きな椅子のひとつだったので、たいへん嬉しく、同時にワクワクしました」
フリッツ・ハンセンから出された”お題”は、〈セブンチェア〉の原型は変えずに、何か新しい価値観をデザインによって付加すること。
展覧会「7 COOL ARCHITECTS」についての情報はこちら:
7 COOL ARCHITECTS:世界で活躍する7人の建築家による、特別なセブンチェア
〈セブンチェア〉についてはこちら:知っておきたい名作家具:セブンチェア
展覧会「7 COOL ARCHITECTS」についての情報はこちら:
7 COOL ARCHITECTS:世界で活躍する7人の建築家による、特別なセブンチェア
〈セブンチェア〉についてはこちら:知っておきたい名作家具:セブンチェア
ヤコブセンが1955年に世に送り出した当時、積層合板による三次元立体成型のデザインは、センセーショナルに受け止められた。
「当時の理に適ったデザインだったと思います。今では木の種類やカラーバリエーションが増えましたが、もう少し素材が自由でもいいのではないかなと。例えば、鉄板やアクリルを使ったり。でも今回は、建築家として構築の概念のようなものを呈示したいと考えました」と五十嵐氏。辿り着いたのが、震災の瓦礫や廃材を再利用することだった。
「当時の理に適ったデザインだったと思います。今では木の種類やカラーバリエーションが増えましたが、もう少し素材が自由でもいいのではないかなと。例えば、鉄板やアクリルを使ったり。でも今回は、建築家として構築の概念のようなものを呈示したいと考えました」と五十嵐氏。辿り着いたのが、震災の瓦礫や廃材を再利用することだった。
「2011年の東日本大震災の後、大量に出た瓦礫をどうするかが社会問題となっていました。それ以前の問題としても、日本は木造の住宅が多いのに、さまざまな事情から住み継いでいくことが難しく、住まい手が不在となれば、数十年で取り壊される場合が多い。代謝ができていないんです。そんな日本の短いサイクル、対して、息ながく大量生産されている〈セブンチェア〉。このふたつをリンクさせることで、何か新しいものを生み出せるのではないかなと。建築の設計も同様のスタンスでやっているのですが、ささやかなアイデアで違う地平にジャンプする、そんなイメージです」
当初は、廃材を細かく粉砕したものを圧縮して薄い合板つくり、それを積層するという構想だったが、最終的にエポキシ樹脂を混ぜて成型する方法をとった。それが五十嵐氏の想定以上の効果を生み出すのだが、フリッツ・ハンセンにとっては大きなチャレンジとなった。
五十嵐氏によって再構築された〈セブンチェア〉は、廃材に混入している計算外の色が反映され、座や背の表面に浮かび上がってくる。使う廃材によってはピンクだったり、展示中の作品のように玉砂利が混じったような模様にもなる。偶然によって生み出される素材感が大きな魅力となっている。
五十嵐氏によって再構築された〈セブンチェア〉は、廃材に混入している計算外の色が反映され、座や背の表面に浮かび上がってくる。使う廃材によってはピンクだったり、展示中の作品のように玉砂利が混じったような模様にもなる。偶然によって生み出される素材感が大きな魅力となっている。
「今回の成型に使った樹脂は好きな素材のひとつで、自宅をはじめ住宅設計の場でよく使っています。例えば、ポリカーボネートをきちっと断熱処理したうえで壁や開口部に用いると、光が室内に直接入らずに拡散される効果があります」と話す五十嵐氏。ピエール・シャロー(1883-1950)が設計した《ガラスの家》にみられるような「ぼわっとした拡散光が好き」だという。
さて、今回の日本巡回展の会場構成を担当したのは、日本の若手建築家の篠崎弘之氏(篠崎弘之建築設計事務所)。12mmという細い角材で組み上げたジャングルジムのような構造物の中に、五十嵐氏の作品を含めて7脚の〈セブンチェア〉が配置されている。まるで七つの部屋からなる家のようだ。
AnyTokyoに関してははこちらの記事をご覧ください:
AnyTokyo 2015:既成概念を超えた新しいアイデアに出会えるデザイン展覧会
AnyTokyoに関してははこちらの記事をご覧ください:
AnyTokyo 2015:既成概念を超えた新しいアイデアに出会えるデザイン展覧会
近付いてよく見ると、日本の建具や家具づくりでみられる技術が活かされていることがわかる。角材の角は全て丁寧に「面取り」されており、これによって、家具または空間を仕切る建具のような雰囲気を醸し出している。
使用されている木材は合計400本。篠崎氏はさらに規模の大きな個展を今年のミラノサローネで開催し、現地で評判となった。
使用されている木材は合計400本。篠崎氏はさらに規模の大きな個展を今年のミラノサローネで開催し、現地で評判となった。
五十嵐氏の〈セブンチェア〉は、コンセプトである廃材をイメージして、鳥の巣のように積み重ねられた角材の上に収まっている。「構造計算まで自分たちだけでやり、 10kgくらいある〈セブンチェア〉を載せて、かつ自立させているのは凄い」と五十嵐氏も感心する。日本の職人技が光る今回の展示は、フリッツ・ハンセンが創業以来、大切に守り続けているクラフトマンシップと共通するものだ。
「フリッツ・ハンセンの特設サイトにもテキストが掲載されていますが、これらの作品がどのようにして生み出されたのか、その背景にも注目して見てほしいですね」と五十嵐氏。「例えば」と指差したのが、オスロとニューヨークに拠点を置く設計事務所スノヘッタがデザインした〈セブンチェア〉。4本の脚を取り去り、どこにでも持ち運べる自由さを備えている(左の画のように)。このほか、2人並んで腰掛けるのを前提としたデザインのものだったり、今までみたことのない〈セブンチェア〉がここにある。
<AnyTokyo 2015>および「 7 COOL ARCHITECTS」は東京・芝公園にある増上寺境内の光摂殿にて、11月3日まで開催。会期中無休でオープンは11時から20時。入場無料。
<AnyTokyo 2015>および「 7 COOL ARCHITECTS」は東京・芝公園にある増上寺境内の光摂殿にて、11月3日まで開催。会期中無休でオープンは11時から20時。入場無料。
おすすめの記事
ニュース
【2020年2月】建築・デザイン・工芸の展覧会 & イベント情報
建築を通して未来を考える展覧会やデザインスタジオUMA / design farmの展覧会、名作建築・名作家具を改めて見直す展覧会をご紹介します。
続きを読む
ニュース
【2020年1月】建築・デザイン・工芸の展覧会 & イベント情報
アイノ&アルヴァ・アアルトやブルーノ・タウト、柳宗理などモダンデザインを牽引した巨匠たちや、注目の若手建築家、増田信吾+大坪克亘ユニットの展覧会などをご紹介します。
続きを読む
ニュース
【2019年12月】建築・デザイン・工芸の展覧会 & イベント情報
スティーブン・ホール、吉田鉄郎、堀口捨巳の展覧会のほか、日本のデザイン界を牽引するデザイナーたちの原画展などをご紹介します。
続きを読む
ニュース
【2019年11月】建築・デザイン・工芸の展覧会 & イベント情報
「窓」をテーマにした展覧会やタイニーハウスの展示会、IFFTやJAPANTEXといったトレンドをキャッチできる展示会まで。今月もイベントが目白押しです。
続きを読む
インテリア
行ってみよう!青山周辺の気になるインテリアショップ
上質な家具を扱うブランドのショップが集まる青山とその周辺のエリア。DESIGNART TOKYO 2019をきっかけに、ショップやショールームへ足を運んでみては?
続きを読む
ニュース
【2019年10月】建築・デザイン・工芸の展覧会 & イベント情報
全国各地でインテリアや建築のイベントが盛りだくさんの10月。お出かけ前に展覧会イベント情報のチェックを忘れずに!
続きを読む
ニュース
【2019年9月】建築・デザイン・工芸の展覧会 & イベント情報
バウハウスの教育やADVVT、構造家に着目した展覧会のほか、カリモクの新ブランドやトーネットの名作の展開を知るイベントなどをご紹介します。
続きを読む
ニュース
【2019年8月】建築・デザイン・工芸の展覧会 & イベント情報
暑い夏、涼しいミュージアムで知的好奇心を刺激してくれる作品と出会ってみては? 全国各地の注目の展覧会をご紹介します。
続きを読む
たまたま浜松町で用事があったので見てきました。印象的な椅子でした。