Houzzツアー:緑豊かな環境にとけこんだインターナショナルなシェアハウス
東京の郊外、玉川上水沿いに立つ築30年以上社宅が、リノベーションで快適なシェアハウスに生まれ変わりました。
Naoko Endo
2015年10月26日
出版社、不動産ファンド、代理店勤務を経て、フリーランス・ライター。
個人ブログ「a+e」http://a-plus-e.blogspot.jp/
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シェアハウス、あるいはルームシェアリングは、欧米諸国では一般的な住まい方だが、日本ではここ数年の間に選択肢のひとつに加わったものだ。日本人のライフスタイルが多様化したこと、海外留学や勤務などを経験した若い世代が増えたこと、そしてテレビなどのメジャーなメディアに取り上げられたことが背景として挙げられる。家族同居でも一人暮らしでもない、"第三の暮らし方"として定着しつつある。
日本では戦後、新築一戸建て信仰が強かったが、近年のいわゆる空家問題への施策として、中古市場の活性化と拡大を歓迎する向きがある(参考:「建物を再生、資産価値をも高めるリファイニング建築」)。その流れのなかでシェアハウスの数も増え、社団法人日本シェアハウス・ゲストハウス連盟が2015年5月に発表した統計調査によれば、都内には1,901件のシェアハウスがあるという。
今回紹介するのは、築34年のファミリー向け社員寮(社宅)がシェアハウスとして再生された事例である。
日本では戦後、新築一戸建て信仰が強かったが、近年のいわゆる空家問題への施策として、中古市場の活性化と拡大を歓迎する向きがある(参考:「建物を再生、資産価値をも高めるリファイニング建築」)。その流れのなかでシェアハウスの数も増え、社団法人日本シェアハウス・ゲストハウス連盟が2015年5月に発表した統計調査によれば、都内には1,901件のシェアハウスがあるという。
今回紹介するのは、築34年のファミリー向け社員寮(社宅)がシェアハウスとして再生された事例である。
どんなHouzz?
《ガーデンテラス鷹の台》
用途:シェアハウス
所在地:東京都小平市たかの台
設計:成瀬・猪熊建築設計事務所
敷地面積:2,484平米
規模:7棟、シングル部屋数48室
階数:地上2階建て
オープン:2015年4月(建物自体は1981年、新耐震以前の竣工)
写真:Masao Nishikawa(オークハウス提供の2点を除く11点)
立地は東京の郊外、新宿までは私鉄とJRを乗り継いで30-40分ほど。敷地の南側に玉川上水が西から東に流れ、初夏には遊歩道に接の木々が芽吹き、虫の音が秋の訪れを告げ、深まれば紅葉が楽しめる。最寄りの鷹の台駅まで徒歩で約1分と至近ながらも自然に恵まれた環境だ。
《ガーデンテラス鷹の台》
用途:シェアハウス
所在地:東京都小平市たかの台
設計:成瀬・猪熊建築設計事務所
敷地面積:2,484平米
規模:7棟、シングル部屋数48室
階数:地上2階建て
オープン:2015年4月(建物自体は1981年、新耐震以前の竣工)
写真:Masao Nishikawa(オークハウス提供の2点を除く11点)
立地は東京の郊外、新宿までは私鉄とJRを乗り継いで30-40分ほど。敷地の南側に玉川上水が西から東に流れ、初夏には遊歩道に接の木々が芽吹き、虫の音が秋の訪れを告げ、深まれば紅葉が楽しめる。最寄りの鷹の台駅まで徒歩で約1分と至近ながらも自然に恵まれた環境だ。
地元の人々に愛されている上水路と並行して敷地を貫く道の左右に、2階建ての小さな建物が1から7号棟まで並ぶ。1棟に3LDKの住居が2あるいは3戸入ったテラスハウス型の社宅、それが改修前の姿であった。1戸あたりの床面積は88平米、前庭が20から40平米の広さで各戸にあり、立地の良さも考慮すれば、社宅としてはぜいたくな部類に入るだろう。
築30年以上が経過し、設備の老朽化が目立ってきた昨年、社宅の持ち主である企業は、社員寮からの用途変更(コンバージョン)も視野に入れた、建物の不動産価値を高める改修計画をたてた。白羽の矢が立ったのは、都内で多数のシェアハウスやゲストハウスを展開する株式会社オークハウスが、 成瀬友梨さんと猪熊純さんが共同代表を務める成瀬・猪熊建築設計事務所を設計者に迎えて提案したシェアハウスへの改修案だった。
プランを詳しく説明する前に、改修する前と後の状態を見比べてみよう。下に続く2枚の写真は敷地の西端から撮ったものである。
築30年以上が経過し、設備の老朽化が目立ってきた昨年、社宅の持ち主である企業は、社員寮からの用途変更(コンバージョン)も視野に入れた、建物の不動産価値を高める改修計画をたてた。白羽の矢が立ったのは、都内で多数のシェアハウスやゲストハウスを展開する株式会社オークハウスが、 成瀬友梨さんと猪熊純さんが共同代表を務める成瀬・猪熊建築設計事務所を設計者に迎えて提案したシェアハウスへの改修案だった。
プランを詳しく説明する前に、改修する前と後の状態を見比べてみよう。下に続く2枚の写真は敷地の西端から撮ったものである。
「最初に敷地を見にきたのは6月でしたが、社宅住民が退去して手入れが行き届いていない庭木が、グレーのブロック塀の向こうに鬱蒼(うっそう)と茂っていて、夏なのに全体的に暗いという印象を受けました。特に、北側の棟(上の写真、左側)は、上水に面したせっかくの前庭が塀に阻まれて、勿体ないなぁと」
そう語る成瀬、猪熊の両氏は、リノベーションやシェアオフィスの設計を幾つか手掛け、都市におけるシェアの可能性についても研究を重ねてきた若手建築家である。
「賃貸住宅に改修することもできましたが、その場合は再び塀をめぐらせて閉じることになる。僕らが目指したのは、周囲の自然はもちろん、地域社会に対しても開かれた住まい。それにはシェアハウスという形態がベストでした」(成瀬さん、猪熊さん談)
そう語る成瀬、猪熊の両氏は、リノベーションやシェアオフィスの設計を幾つか手掛け、都市におけるシェアの可能性についても研究を重ねてきた若手建築家である。
「賃貸住宅に改修することもできましたが、その場合は再び塀をめぐらせて閉じることになる。僕らが目指したのは、周囲の自然はもちろん、地域社会に対しても開かれた住まい。それにはシェアハウスという形態がベストでした」(成瀬さん、猪熊さん談)
通常のHouzzツアーでは、住まいの内部やインテリアを紹介するが、それは後ほど。このシェアハウスの最大の特長であり魅力は、一新された豊かな外部空間にある。先ず行なったのが、住まいと緑を隔てているブロック塀、そして棟と棟の間にあった小塀を取り払うこと。庭木もバランスよく伐採して、敷地全体を見違えるように明るく変えた。この道を日常的に使っている近隣住民からの評判も良いという。
塀を取り払った片側には、低い木製ベンチを並べた。上水側の空き地にもウッドデッキを敷設し、テーブル付きの対面式ベンチを配置。シェアハウス住民のために用意されたものではあるが、塀などを巡らせていないのが、成瀬・猪熊建築設計事務所ならではのプランといえる。
「新たに引っ越してくる住まい手が地域社会にどう馴染んでいくかは、地域を問わず、住まい全般に共通した課題です。建築家としてハコを用意するだけでなく、地域の手助けとなるような仕掛けをデザインしました」(成瀬さん、猪熊さん談)
近所の人たちが犬の散歩やウォーキングの途中にここでシェアハウスの住民と顔を合わせ、互いに会釈したり、ひとことふたことでも会話が生まれたらーーそんな出逢いと交流の場となることを期待している。
「新たに引っ越してくる住まい手が地域社会にどう馴染んでいくかは、地域を問わず、住まい全般に共通した課題です。建築家としてハコを用意するだけでなく、地域の手助けとなるような仕掛けをデザインしました」(成瀬さん、猪熊さん談)
近所の人たちが犬の散歩やウォーキングの途中にここでシェアハウスの住民と顔を合わせ、互いに会釈したり、ひとことふたことでも会話が生まれたらーーそんな出逢いと交流の場となることを期待している。
共有テラスの一角には、菜園とオープンキッチンも用意されている(利用できるのはシェアハウス契約者のみ)。実ったトマトや茄子などを収穫し、キッチンの水場で洗ってサラダをつくり、オープンデッキで採れたて野菜を皆で食べたり、《ガーデンテラス鷹の台》の屋外リビングともいえる。親しい友達や、知り合った近所の人を招いてもいい。交流の輪は、時間と場を共有(シェア)することでさらに広がっていくだろう。
ひと続きとなった前庭には雑草の繁殖を防ぐ砂利が敷かれ、各部屋ごとには専有のウッドデッキが用意された。長さはあえて同じにせず、横から俯瞰した時に長短がリズムを刻む。デッキでサンダルをつっかけ、飛び石を渡れば、縁側のようなベンチが並ぶ道を挟んで、"屋外リビング"はすぐそこ。道に降りやすいように小さな階段も取り付けられている。
菜園の手入れや共有部の清掃を定期的に行なっているオークハウスによれば、鷹の台周辺には大学が多いので、入居希望は学生が中心だろうと予想していたが、いざオープンしてみると、年齢も出身もさまざまな人々から問合せがあり、入居者の半数近くを外国人が占めている。
そのうちの一人、台湾出身のCさん(29才)に話を聞いた。
「ワーキングホリデーで今年7月に初めて日本に来ました。今は将来のために日本語を勉強中です。上達の近道と友達に薦められ、シェアハウスを選択しました。一緒に部屋をシェアしているのは50代の日本人男性です。朝の『おはよう』に始まり、生きた日本語を覚えられるのが僕にはありがたい。一人暮らしをしていたら、誰とも話さずに1日が終わっていたかも」と笑う。同郷の友達が住んでいるエリアからは離れたが、ここでの暮らしには満足している。
それでは、Cさんらが暮らす室内空間をみてみよう。
菜園の手入れや共有部の清掃を定期的に行なっているオークハウスによれば、鷹の台周辺には大学が多いので、入居希望は学生が中心だろうと予想していたが、いざオープンしてみると、年齢も出身もさまざまな人々から問合せがあり、入居者の半数近くを外国人が占めている。
そのうちの一人、台湾出身のCさん(29才)に話を聞いた。
「ワーキングホリデーで今年7月に初めて日本に来ました。今は将来のために日本語を勉強中です。上達の近道と友達に薦められ、シェアハウスを選択しました。一緒に部屋をシェアしているのは50代の日本人男性です。朝の『おはよう』に始まり、生きた日本語を覚えられるのが僕にはありがたい。一人暮らしをしていたら、誰とも話さずに1日が終わっていたかも」と笑う。同郷の友達が住んでいるエリアからは離れたが、ここでの暮らしには満足している。
それでは、Cさんらが暮らす室内空間をみてみよう。
7棟の間取りはどれも同じ3LDK。今回の改修工事では、間仕切り壁はそのままに、3部屋を契約者の専有居室とし、計48室をシングルルームとして貸し出している。キッチンとリビング、シャワールームとトイレなどの水まわりが共有部分となる。
「外部空間から塀を取り払ったのと同様に、内部も基本的に”引き算のデザイン”を踏襲しています。内装は新しく塗り直しましたが、余計な装飾は加えていません。天井と同じに白く塗るだけでは単調になるので、下半分を淡いブルーやグリーンのツートンカラーとしたくらいです」(成瀬、猪熊さん談)
「外部空間から塀を取り払ったのと同様に、内部も基本的に”引き算のデザイン”を踏襲しています。内装は新しく塗り直しましたが、余計な装飾は加えていません。天井と同じに白く塗るだけでは単調になるので、下半分を淡いブルーやグリーンのツートンカラーとしたくらいです」(成瀬、猪熊さん談)
ドアの扉や共有部の壁も同じツートンカラーに塗装。緑豊かな外部空間と連続するような自然な感じを演出している。
1階から2階に続く階段まわりは吹き抜けとなっている。北側の屋根には手動で開閉できる天窓が既存であり、暗くなりがちな北側の廊下と玄関に柔らかな光を落とす。天窓を開ければ、南面のテラスから入る風が自然に抜けていく。
下の写真は2階の居室、3部屋のうち最も広い14.61平米である。どの部屋もデスク、椅子、ベッド、照明など最低限の家具は予め用意されている。
下の写真は2階の居室、3部屋のうち最も広い14.61平米である。どの部屋もデスク、椅子、ベッド、照明など最低限の家具は予め用意されている。
今年6月にアフリカから帰国し、フランス人男性と部屋をシェアしていた日本人女性のHさん(29才)に、シェアハウスを選んだ理由について話を聞いた。
「フリーランスで国際協力の仕事をしているので、旅から旅の生活です。スーツケースひとつでいつまた海外に出るかもしれないので、契約に時間がかかる賃貸住宅ではなく、すぐに住めるシェアハウスを最初から希望していました」。
《ガーデンテラス鷹の台》はインターネットで見つけた(管理会社のサイト:物件情報ページ)。決め手となったのが、外国人居住者が半数近くを占めていたことだという。
「彼らとの間に生活習慣のギャップを感じるのは、小平市のゴミの分別方法について説明する時くらいです(笑)。海外での体験やシェアハウス生活を通じて、自分は自分という、個人の考えを尊重する欧米の価値観が、私自身にも身についたかもしれません。 例えば、ここでは住民同士の連絡にSNSを使っているのですが、飲み会の誘いが週に1回くらい入ります。そんな時、日本人だけのコミュニティでは気を使うこともありますが、気分が乗らなければ『うーん、今日はパス』とひと言、返信すればいい。そんな気楽な雰囲気がここには流れている。緩やかな近所付き合いが、私にはちょうど良く、心地良いです」とHさん。
「フリーランスで国際協力の仕事をしているので、旅から旅の生活です。スーツケースひとつでいつまた海外に出るかもしれないので、契約に時間がかかる賃貸住宅ではなく、すぐに住めるシェアハウスを最初から希望していました」。
《ガーデンテラス鷹の台》はインターネットで見つけた(管理会社のサイト:物件情報ページ)。決め手となったのが、外国人居住者が半数近くを占めていたことだという。
「彼らとの間に生活習慣のギャップを感じるのは、小平市のゴミの分別方法について説明する時くらいです(笑)。海外での体験やシェアハウス生活を通じて、自分は自分という、個人の考えを尊重する欧米の価値観が、私自身にも身についたかもしれません。 例えば、ここでは住民同士の連絡にSNSを使っているのですが、飲み会の誘いが週に1回くらい入ります。そんな時、日本人だけのコミュニティでは気を使うこともありますが、気分が乗らなければ『うーん、今日はパス』とひと言、返信すればいい。そんな気楽な雰囲気がここには流れている。緩やかな近所付き合いが、私にはちょうど良く、心地良いです」とHさん。
さらにHさんはこうも語る。「シェアハウスでは、プライバシーがないとか、他人と生活する煩わしさが気になる人もいるでしょう。でも、個室に入ってドアを閉めれば好きなだけ一人きりになれます。都心から遠ざかるのと引き換えに、緑に囲まれた、自由な暮らしを手に入れました」
バブル時代には顕著だった「専有」という価値観は、今日では崩れてきている。共有することで得られる別の豊かさがあるのだと、人々の認識が変わってきていることを、今回の取材を通して改めて強く感じた。
バブル時代には顕著だった「専有」という価値観は、今日では崩れてきている。共有することで得られる別の豊かさがあるのだと、人々の認識が変わってきていることを、今回の取材を通して改めて強く感じた。
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今後とも頑張って色んなデザインを掲載して下さい。
自然の中も「木漏れ日」が何とも言えない雰囲気をかもしでしていますね!
自然の中で生活が出来る事は何よりの幸せに通じます。