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暑い夏をエコに涼しく過ごす方法を、世界の住まいの知恵から学んでみよう
電気のなかった時代から、人類はさまざまな方法で涼しく暮らす工夫をしてきました。世界各地に古くから伝わるローテクでエコな技術の中には、現代にも応用可能なアイデアが見つかります。
Mariana Pickering
2015年7月22日
「冬に陽が当たるように家を作らないのは原始人や未開人だけだ」とは、古代ギリシャの劇作家アイスキュロスが2500年前に残した言葉。冬の低い日差しを取り入れ夏の高い日差しを防ぐため家は赤道方向に向けて建てるべき、というのは当時の常識だったのだ。
アイスキュロスの時代、いやそれ以前から、人間は夏は涼しく冬は暖かい住まいを作ろうと工夫を凝らしてきた。世界でも特に暑い地域に暮らす人々が取り入れた、昔から続く住まいの知恵を見てみよう。
アイスキュロスの時代、いやそれ以前から、人間は夏は涼しく冬は暖かい住まいを作ろうと工夫を凝らしてきた。世界でも特に暑い地域に暮らす人々が取り入れた、昔から続く住まいの知恵を見てみよう。
現代への応用:家を赤道に向かって配置し、斜面に埋め込む形で建てる。オーニングやシェード、よろい戸を設置して高い夏の日差しが窓に届かない工夫を。
〈地球船農場号〉(Earthship Farmstead)と名付けられたヴァージニア州にあるこちらの家は、地形に沿って丘の斜面に組み込まれている。草地を残したグリーンルーフとオーニング、取り外し可能なシェードを使ったパッシブソーラーデザインでゼロエネルギー住宅を実現した。パッシブハウス認定、LEEDプラチナ認定を受けている。
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〈地球船農場号〉(Earthship Farmstead)と名付けられたヴァージニア州にあるこちらの家は、地形に沿って丘の斜面に組み込まれている。草地を残したグリーンルーフとオーニング、取り外し可能なシェードを使ったパッシブソーラーデザインでゼロエネルギー住宅を実現した。パッシブハウス認定、LEEDプラチナ認定を受けている。
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2. アフリカ・サバナの伝統的な土壁の住居
歴史:古代からアフリカのサバナで使われてきた伝統的なわら葺き屋根の円形小屋。現在も使われている。(写真:今もガーナにあるアシャンティ(またはアサンテ)人の小屋)
気候:熱帯サバナ草原
パッシブクーリング技術:土壁にわら葺き屋根という建物で、屋外の激しい暑さ寒さを遮断。石と日干しれんがの壁は蓄熱能力が高く、暑い日にも内部を涼しく保つ。円錐形の屋根で、大量の雨も素早く流れ落ちる。
歴史:古代からアフリカのサバナで使われてきた伝統的なわら葺き屋根の円形小屋。現在も使われている。(写真:今もガーナにあるアシャンティ(またはアサンテ)人の小屋)
気候:熱帯サバナ草原
パッシブクーリング技術:土壁にわら葺き屋根という建物で、屋外の激しい暑さ寒さを遮断。石と日干しれんがの壁は蓄熱能力が高く、暑い日にも内部を涼しく保つ。円錐形の屋根で、大量の雨も素早く流れ落ちる。
3.古代ローマのペリスタイル
歴史:古代ローマのドムス(住居)に見られるペリスタイル(列柱)は、現在も地中海地域で使われている。(写真:イタリア、フィレンツェのボーボリ庭園に2007年に再現されたポンペイの「ヴェッティの家」)
気候:地中海性
パッシブクーリング技術:ペリスタイルとは中庭を取り囲む列柱のこと。陰になる壁面部分は装飾が施されていることが多く、中庭には噴水などを置いて涼を得る工夫がされている。この空間は、外の密集した街から逃れるオアシスとして機能し、古代ローマでは上流階級の住宅(ドムス)だけに見られるものだった。下層階級の市民は大きな集合住宅(インスラ)に住み、集合住宅の中庭には階段や各部分をつなぐ通路もあった。
歴史:古代ローマのドムス(住居)に見られるペリスタイル(列柱)は、現在も地中海地域で使われている。(写真:イタリア、フィレンツェのボーボリ庭園に2007年に再現されたポンペイの「ヴェッティの家」)
気候:地中海性
パッシブクーリング技術:ペリスタイルとは中庭を取り囲む列柱のこと。陰になる壁面部分は装飾が施されていることが多く、中庭には噴水などを置いて涼を得る工夫がされている。この空間は、外の密集した街から逃れるオアシスとして機能し、古代ローマでは上流階級の住宅(ドムス)だけに見られるものだった。下層階級の市民は大きな集合住宅(インスラ)に住み、集合住宅の中庭には階段や各部分をつなぐ通路もあった。
4. マシュリク(東アラブ地域)のマシュラビーヤ
歴史:中世から東アラブ地域を通して各地で使われてきたマシュラビーヤ(木製格子を使った出窓)。イラクや地中海東岸諸国、アラビア半島の紅海沿岸地方、エジプトでよく見られる。(写真:エジプト風のマシュラビーヤ)
気候:高温・乾燥
パッシブクーリング技術:マシュラビーヤ(シャナシールとも言う)とは、細かい木製の格子細工で囲った出窓。ときにはステンドグラスを使用していることもある。伝統的には都市部の家にあるもので、通り側に向かって張り出す形になっている。軽量な木製の構造が日を遮るスクリーンの役割をするとともに、格子細工の小さな穴から涼しい風が入ってくる。下のほうは穴が小さく、上のほうは穴が大きくなっており、出窓の3面すべてから風がスムーズに流れるよう工夫されている。マシュラビーヤは階下の窓やその下の地面に影を作る働きもある。もともとは、入ってくる風をさらに冷却するため出窓部分にある木製のベンチに土器の水がめが置かれていた。
歴史:中世から東アラブ地域を通して各地で使われてきたマシュラビーヤ(木製格子を使った出窓)。イラクや地中海東岸諸国、アラビア半島の紅海沿岸地方、エジプトでよく見られる。(写真:エジプト風のマシュラビーヤ)
気候:高温・乾燥
パッシブクーリング技術:マシュラビーヤ(シャナシールとも言う)とは、細かい木製の格子細工で囲った出窓。ときにはステンドグラスを使用していることもある。伝統的には都市部の家にあるもので、通り側に向かって張り出す形になっている。軽量な木製の構造が日を遮るスクリーンの役割をするとともに、格子細工の小さな穴から涼しい風が入ってくる。下のほうは穴が小さく、上のほうは穴が大きくなっており、出窓の3面すべてから風がスムーズに流れるよう工夫されている。マシュラビーヤは階下の窓やその下の地面に影を作る働きもある。もともとは、入ってくる風をさらに冷却するため出窓部分にある木製のベンチに土器の水がめが置かれていた。
現代への応用:前述のアラブ地域の多くでは今も続く建築デザインだが、西洋建築ならスクリーンで囲ったバルコニーやスリーピングポーチがこれに対応するものと言えるだろう。
こちらの家ではよろい戸がマシュラビーヤの格子細工のような機能を果たし、日光を遮りつつ風を通している。大きな気温の変化がないと空気の流れが生まれないため、乾燥した気候で昼夜の温度差が激しい地域に最適な自然換気方法だろう。
こちらの家ではよろい戸がマシュラビーヤの格子細工のような機能を果たし、日光を遮りつつ風を通している。大きな気温の変化がないと空気の流れが生まれないため、乾燥した気候で昼夜の温度差が激しい地域に最適な自然換気方法だろう。
5. インドネシアの高床式住居
歴史:高床式住居は東南アジア各地で何世紀も前から使われ、現在も受け継がれている。(写真:インドネシアの北スマトラにあるバタク人の建築)
気候:熱帯
パッシブクーリング技術:支柱の上に作られた家は、洪水や害獣などから守られるだけではなく、自然の力で換気を良くして湿気の多い地域の建物を早く乾燥させる効果がある。家は水に強い木材や竹で作られ、地面や水面から浮いた状態になる。
歴史:高床式住居は東南アジア各地で何世紀も前から使われ、現在も受け継がれている。(写真:インドネシアの北スマトラにあるバタク人の建築)
気候:熱帯
パッシブクーリング技術:支柱の上に作られた家は、洪水や害獣などから守られるだけではなく、自然の力で換気を良くして湿気の多い地域の建物を早く乾燥させる効果がある。家は水に強い木材や竹で作られ、地面や水面から浮いた状態になる。
現代への応用:ハリケーン被害の多い米国の沿岸地域では、頻繁に起こるようになった高潮への対策として高床式住居を取り入れ始めている。床下に高さがあるため、空気の流れが速くなり効果的に通気できる。
6. 古代エジプトとペルシャの風採り塔
歴史:古代エジプトでは「マルカフ」、ペルシャでは「バードギール」と呼ばれ、現在では中東各地に見られる。
気候:高温・乾燥
パッシブクーリング技術:風採り塔(バードギール、マルカフとも言う)は、風の流れを使って空気を取り込んだり気温勾配を利用して室内の温度を下げる、クーラーの機能を持つ冷却塔。乾燥した地域では非常に効果的で、日中と夜間の気温差が激しいイラン中央部では、貯めている水の温度が零度近くなることもある。小さいタイプのものはおもに屋内の風通しを良くする換気装置として使われる。
歴史:古代エジプトでは「マルカフ」、ペルシャでは「バードギール」と呼ばれ、現在では中東各地に見られる。
気候:高温・乾燥
パッシブクーリング技術:風採り塔(バードギール、マルカフとも言う)は、風の流れを使って空気を取り込んだり気温勾配を利用して室内の温度を下げる、クーラーの機能を持つ冷却塔。乾燥した地域では非常に効果的で、日中と夜間の気温差が激しいイラン中央部では、貯めている水の温度が零度近くなることもある。小さいタイプのものはおもに屋内の風通しを良くする換気装置として使われる。
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