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絶対に知っておきたいモダニズムの傑作住宅:サヴォア邸
20世紀以降の建築に絶大な影響を与えたモダニズムの巨匠、ル・コルビュジエ。彼が提唱した「近代建築の5原則」を見事に表現した傑作が、サヴォア邸です。
John Hill
2015年6月29日
1920年代、ル・コルビュジェ (本名 シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ。1887–1965) は、雑誌『レスプリ・ヌーヴォー』に寄せた文章やみずから手がけた住宅を通じ、後世に多大な影響を与えた建築概念「近代建築の5原則」を展開した。1931年、パリ郊外に完成したサヴォア邸は原則の極致といえる作品であり、住宅にとどまらず、近代建築運動における傑作とされている。
ル・コルビュジェはサヴォア邸で5原則のすべてを実現した。5原則とは「ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面 (ファサード) 」を指す。それまでの建築の歴史と決別し、ル・コルビュジエ独自の理論の実践を通じて後世の建築家に影響を与えたサヴォア邸。絶対に知っておきたいモダン住宅の傑作を訪ねてみよう。
サヴォア邸とは?
竣工年:1931年
設計:ル・コルビュジエとピエール・ジャンヌレ
所在地:フランスのポワシー
見学情報:個人またはグループ見学可能
規模:建築面積125平方メートル
ル・コルビュジェはサヴォア邸で5原則のすべてを実現した。5原則とは「ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面 (ファサード) 」を指す。それまでの建築の歴史と決別し、ル・コルビュジエ独自の理論の実践を通じて後世の建築家に影響を与えたサヴォア邸。絶対に知っておきたいモダン住宅の傑作を訪ねてみよう。
サヴォア邸とは?
竣工年:1931年
設計:ル・コルビュジエとピエール・ジャンヌレ
所在地:フランスのポワシー
見学情報:個人またはグループ見学可能
規模:建築面積125平方メートル
サヴォア邸は、ピエールとエミリ・サヴォア夫妻の別荘としてパリの西30キロの郊外に建てられた。建築当時、周囲は都会から離れた田園地帯だったという。ル・コルビュジェは20年にわたり従弟のピエールとともに仕事をし、数々のプロジェクトを手がけたが、サヴォア邸もその1つ。ル・コルビュジェはサヴォア夫妻からシンプルで大まかな依頼を受け、5原則を具体的に実現する住宅を設計した。この邸宅には、ル・コルビュジエの5原則の表現的可能性を示している。
サヴォア邸の設計は、建築における3つの基本要素、すなわち水平なスラブ(床)、垂直な支柱(構造体としての柱)、壁(特にファサード)を明確に表現しているともいえる。ランス・ラヴィン(ミネソタ大学建築学部教授)は著書『Mechanics and Meaning in Architecture』の中で、ル・コルビュジェがこれら基本要素の意義を追求した業績を、20世紀初頭における物質の構成要素(電子、陽子、中性子)の発見に匹敵すると評価する。
ル・コルビュジェにとってテクノロジーは、科学や工学の分野で活用されたのと同様、大きな影響力を持った。サヴォア邸は「住宅は住むための機械である」と自身が表現した概念を突き詰めて具体化したものだ。といっても、この概念は、住宅を人の心を動かす機械としてとらえるもう一つの見方と常にバランスがとられており、サヴォア邸は両者を実現した住宅であるといっていい。
サヴォア邸の設計は、建築における3つの基本要素、すなわち水平なスラブ(床)、垂直な支柱(構造体としての柱)、壁(特にファサード)を明確に表現しているともいえる。ランス・ラヴィン(ミネソタ大学建築学部教授)は著書『Mechanics and Meaning in Architecture』の中で、ル・コルビュジェがこれら基本要素の意義を追求した業績を、20世紀初頭における物質の構成要素(電子、陽子、中性子)の発見に匹敵すると評価する。
ル・コルビュジェにとってテクノロジーは、科学や工学の分野で活用されたのと同様、大きな影響力を持った。サヴォア邸は「住宅は住むための機械である」と自身が表現した概念を突き詰めて具体化したものだ。といっても、この概念は、住宅を人の心を動かす機械としてとらえるもう一つの見方と常にバランスがとられており、サヴォア邸は両者を実現した住宅であるといっていい。
竣工以来、長年にわたって周辺地域は開発にさらされてきたが、サヴォア邸は1960年代にフランスの歴史的建造物に指定されたため、ほぼ建築当初の姿が残されている(第二次大戦前後に施主の手を離れたのちに荒れ果てていたほか、一時期は乾草の収納小屋として使われていた住宅を修復、保存している)。建物の南側に立つ木々は現在、完成当時とほぼ同じ状態だが、北側と西側に開けていた草地には、隣接地に学校などが建設された際に垣根として木が植えられている。
南側に木立があるため、住人や訪問客は(おそらく車で来るのを前提とすると)木立を抜けてきたあとで、まず何もない開けた土地に立つ家と対面する形になる。後にも触れるが、「建築的プロムナード」(建築物によって明確に決定される小道)は住宅内の空間へと続いている。ル・コルビュジェはアテネのパルテノン神殿へのアプローチについて記しているが、サヴォア邸はそれをモダン建築に取り入れたものだといえる。
南側に木立があるため、住人や訪問客は(おそらく車で来るのを前提とすると)木立を抜けてきたあとで、まず何もない開けた土地に立つ家と対面する形になる。後にも触れるが、「建築的プロムナード」(建築物によって明確に決定される小道)は住宅内の空間へと続いている。ル・コルビュジェはアテネのパルテノン神殿へのアプローチについて記しているが、サヴォア邸はそれをモダン建築に取り入れたものだといえる。
「家には正面という概念はあってはならない……家の周囲は四方を何にも妨げられてはならない」とル・コルビュジェは記した。とはいえサヴォア邸の場合、南側のファサードが「後方」にあたるだろう。1階の中心部は北側と違い引っ込んだ構造ではなく、屋上部分もわずかしか見えない。このアプローチからは(メインのアプローチでありながら)邸宅の全体像はつかみとれない。
北側は1階部分が半円状になっているが、これは車の回転半径に合わせた設計になっている。裕福なサヴォア家は一人1台ずつ計3台の車を所有していた。車は半円構造の中心にある入口の前で停まり、運転手がそのまま西側にある3台分のガレージへ回って車を置く。
北側から見た構造は南側よりずっと彫刻的で、ル・コルビュジェが提唱する5原則が明確に表れている。ピアノ・ノビーレ(2階。主な部屋のあるフロア)は等間隔に配置されたピロティにより持ち上げられている。1階部分の外壁はこれらの支柱から解放されている。2階の壁には端から端まで連続窓が並ぶ。窓は支柱の正面にも及び、自由なファサードを実現している。そして屋上のカーブした壁は、屋上庭園の境界になっている。
北側から見た構造は南側よりずっと彫刻的で、ル・コルビュジェが提唱する5原則が明確に表れている。ピアノ・ノビーレ(2階。主な部屋のあるフロア)は等間隔に配置されたピロティにより持ち上げられている。1階部分の外壁はこれらの支柱から解放されている。2階の壁には端から端まで連続窓が並ぶ。窓は支柱の正面にも及び、自由なファサードを実現している。そして屋上のカーブした壁は、屋上庭園の境界になっている。
サヴォア邸のデザインにおいて巧みで興味深いと思わせるのは、規則的で整然とした構造に見えながら、必要な場合は等間隔のグリッドにも変化を加えている点だ。ピロティの向こうに正面玄関をとらえたこの写真は、それがわかる例だ。中心に見える支柱は真後ろの扉と重なっている。つまり、ピロティの構造を完全なグリッド状にすると、扉のすぐ前に支柱が1本立ち、出入りを妨げることになる。
そこでル・コルビュジェは支柱を対にして(この写真でいえば左右に)配置し、他の方向にも分散させた。対になった支柱とそれが支える梁は、エントランスを取り囲むガラス壁の向こうに見えている。こうした構造上の柔軟性は、柱、梁、スラブにコンクリートを使うことで可能になった。コンクリートという素材がこうしたアレンジを簡単にしたのだ。
そこでル・コルビュジェは支柱を対にして(この写真でいえば左右に)配置し、他の方向にも分散させた。対になった支柱とそれが支える梁は、エントランスを取り囲むガラス壁の向こうに見えている。こうした構造上の柔軟性は、柱、梁、スラブにコンクリートを使うことで可能になった。コンクリートという素材がこうしたアレンジを簡単にしたのだ。
このように支柱を対にしてシフトさせた設計(ラヴィンはこれを「条件付き構造」と呼び、外装の「合理的構造」と対比させている)が可能にしたのは、正面の入口だけではない。中央に配置し1階から屋上まで続くスロープも、この構造により可能になった。屋内に入ると、写真のようなエントランスホールに迎えられる。右側にスロープ、左側にらせん階段、そしてその間に立つ支柱に取り付けられた洗面台が見える(奥には使用人の部屋とランドリールームがある)。
スロープもらせん階段も上のフロアへと回遊する手段だが、流れに沿って上っていくにつれ、家と周囲の空間のさまざまな表情が目の前に現れる。どちらも2階の廊下で終わり、そこからは広いリビングと同じく広いテラスが南側に続いている。スロープの先にあるガラスの壁はテラスへつながっていて、さらに屋上庭園へ上がるための屋外スロープが現れる。
リビングへ向かう前に、寝室を見ておこう。こちらの寝室は南西の角に位置する(本記事の最後にある平面図参照)。写真からは連続窓が外の風景を見事に切り取っているのがわかるが、ル・コルビュジェが内装を通じてどのように色彩を用いているかもうかがえ、その点でも興味深い(外装の色づかいも同様だ。1階の外壁は緑色、屋上部分も現在は修復を経て白に塗られているが、1932年の「インターナショナルスタイル」展と同名の書籍では「青色とバラ色」だったと記されている)。また、左側の壁が丸く突き出ているのは、隣接する浴室のバスタブがはみ出しているためだ。
主寝室へ入るにはメインの浴室に沿った廊下を通る。写真は寝室から見た浴室だが、波打つ形のタイル製ベンチが二つの空間をつないでいる。ベンチはル・コルビュジェデザインの代表作、シェーズロング(長椅子)を思わせる(先のエントランスホールの写真と、次のリビングの写真にシェーズロングが見える)。
この角度から見た浴室はよく知られているが、ル・コルビュジェが提唱した5原則の1つ、自由な平面空間を巧みに実現している。他の場所でもそうだが、支柱は壁から分離している。先に見た、1階に位置するガラス張りの半円形エントランスホールの外に並ぶ支柱もそうだ。ここに見える支柱も、30センチ程度だが壁から離れ独立している。
この角度から見た浴室はよく知られているが、ル・コルビュジェが提唱した5原則の1つ、自由な平面空間を巧みに実現している。他の場所でもそうだが、支柱は壁から分離している。先に見た、1階に位置するガラス張りの半円形エントランスホールの外に並ぶ支柱もそうだ。ここに見える支柱も、30センチ程度だが壁から離れ独立している。
リビングルームは広々とした空間で、現在の基準から見ても広く、近年のオープンな「リビングエリア」の概念を先取りした空間といっていい。写真はキッチンの正面から見た様子。手前のスペースはダイニングとして使用したのだろう。暖炉がダイニングとリビングを区切る役割をしたことを示唆している。
リビングからテラスへと続く水平窓が屋外空間との一体性を感じさせる(上の写真)と同時に、屋内でも屋外でも変わらず周辺の風景を切り取って見せている。
リビングからテラスへと続く水平窓が屋外空間との一体性を感じさせる(上の写真)と同時に、屋内でも屋外でも変わらず周辺の風景を切り取って見せている。
屋外のテラスへ出ると、これまで見てきた各要素のデザイン全体を見渡すことができる。車寄せに足を踏み入れて以来、ここで再び空が目の前に現れる。サヴォア邸は3層の経験と意義を提示してくれる。1階は囲われた構造体が地面に接し、2階の居住空間を持ち上げる土台にもなっている。2階は壁で囲われた生活空間として守られていながら、周辺の木立などを連続窓で切り取って取り入れている。そして屋上は家と空、そして木立の向こうに広がる風景と結びついている。
屋上部分に囲われた空間を設けてプライバシーを確保しながら、その壁の北側をくり抜いて窓を作ったのは、木々の向こうに見える景色を見るためだ。このフレームからは遠くの景色が見渡せる(1931年の竣工当時、建物はなかった)。エントランスで車を降り、スロープまたはらせん階段に導かれて室内外を巡ってきた建築的プロムナードはここで完結する。一度は実際に体験してみたい散策だ。サヴォア邸はフランスの歴史的建造物に指定されており、誰でも訪れて確かめることができる。
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参考文献:
- Boyer, M. Christine. Le Corbusier, Homme de Lettres. Princeton Architectural Press, 2011.
- Centre des Monuments Nationaux
- Conrads, Ulrich, ed. Programs and Manifestoes on 20th-Century Architecture. MIT Press, 1994 (first published in 1964).
- Frampton, Kenneth. Le Corbusier: Architect of the Twentieth Century. Abrams, 2002.
- Hitchcok, Henry-Russell and Johnson, Philip. The International Style. W. W. Norton, 1995. (Originally published in 1932.)
- Le Corbusier. Towards a New Architecture. Dover, 1986. (Originally published as Vers une Architecture in 1923.)
- LaVine, Lance. Mechanics and Meaning in Architecture. University of Minnesota Press, 2001.
- Park, Steven. Le Corbusier Redrawn: The Houses. Princeton Architectural Press, 2012.
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