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8歳の双子のお絵かきから生まれた、遊び心いっぱいのタワーハウス
メルボルンの斬新なタワー型の家。行き詰まっていた計画を救ったのは、双子の子供たちでした。
Janet Dunn
2015年6月24日
子供たちのお絵かき帳から素晴らしいアイデアが生まれることもあるものだ。ある日の午後、一家の理想の家を作るためオーナー夫妻とリノベーションと増築のアイデアについて話し合っていた建築家のアンドリュー・メイナード(Andrew Maynard)さん。初回の打ち合わせで、何時間もブレインストーミングし、脱線や堂々巡りを繰り返したものの、プロジェクトを前に進めるようなひらめきは見えないままだった。ムードはどんどん陰鬱になり、「完全に行き詰まっていました」とメイナードさんは振り返る。そんなとき、それまで真剣に話し合う大人をよそにお絵かきに夢中になっていた8歳の双子が「ほら、これ!」と持ってきた絵。そこに描かれていたのはレースカーでも宇宙船でも恐竜でもなく家だった。この絵が、イマジネーションあふれるタワー型住まいの中心コンセプトとなったのだ。
どんなHouzz?
所在地:オーストラリア・メルボルン北東の郊外、アルフィントン
居住者:夫妻と双子の息子たち
規模:延床面積225平方メートル、敷地面積500平方メートル、ベッドルーム×3、バスルーム(トイレ含む)×2
設計:アンドリュー・メイナード・アーキテクツ(Andrew Maynard Architects)
家づくりの過程には、たいてい「アハ体験」、つまり突然ひらめきが訪れる瞬間がある。メイナードさんにとって、今回それは思いもかけないところからやってきた。設計プロジェクトがいっこうに前進しないまま議論ばかり長引いていたその間、オーナーの双子の息子たちは、子供ならではのシンプルなやり方で一生懸命新しい家の計画を絵にしていたのだ。ふたりが描いたのは明るい太陽に照らされるタワー型の建物で、窓やドアや部屋の位置も書きこまれていた。その日話し合われていたアイデアがシンプルな絵の中にいくつも凝縮されていた、とメイナードさんは言う。「子供たちが背中を押してくれたおかげで、計画が動き始めたんです。」
所在地:オーストラリア・メルボルン北東の郊外、アルフィントン
居住者:夫妻と双子の息子たち
規模:延床面積225平方メートル、敷地面積500平方メートル、ベッドルーム×3、バスルーム(トイレ含む)×2
設計:アンドリュー・メイナード・アーキテクツ(Andrew Maynard Architects)
家づくりの過程には、たいてい「アハ体験」、つまり突然ひらめきが訪れる瞬間がある。メイナードさんにとって、今回それは思いもかけないところからやってきた。設計プロジェクトがいっこうに前進しないまま議論ばかり長引いていたその間、オーナーの双子の息子たちは、子供ならではのシンプルなやり方で一生懸命新しい家の計画を絵にしていたのだ。ふたりが描いたのは明るい太陽に照らされるタワー型の建物で、窓やドアや部屋の位置も書きこまれていた。その日話し合われていたアイデアがシンプルな絵の中にいくつも凝縮されていた、とメイナードさんは言う。「子供たちが背中を押してくれたおかげで、計画が動き始めたんです。」
Photos by Peter Bennetts
写真を見れば、子供たちのアイデアが最終的な設計の中心的要素となっていることがわかる。新しい建物の中心テーマはタワーであり、住まいのユニークなトレードマークにもなっている。このプロジェクトでは、以前からある下見板張りの家をリフォームし、新築した一連の尖った屋根の建物と巧妙に組み合わせた。その中でいちばん高いタワーが双子の「スタジオ」。勉強部屋とプレイルームになっている。
写真を見れば、子供たちのアイデアが最終的な設計の中心的要素となっていることがわかる。新しい建物の中心テーマはタワーであり、住まいのユニークなトレードマークにもなっている。このプロジェクトでは、以前からある下見板張りの家をリフォームし、新築した一連の尖った屋根の建物と巧妙に組み合わせた。その中でいちばん高いタワーが双子の「スタジオ」。勉強部屋とプレイルームになっている。
子供たちも遊びに来る友達も高いところが大好き。1階から階段を上ってネットに上がると、外の通りや裏庭を見渡すことができる。心地よく揺れるネットの上は、本を読んだり、絵を描いたり、昼寝するのにも最高の場所。この転落防止ネットは壁と壁に取り付けられており、8歳児が元気いっぱい動き回っても安心な強度がある。このタワーと下見板張りの家との間はガラス張りの短い通路でつないでいる。
「垂直空間の利用という考え方がプロジェクト全体にあるのですが、このタワーではその考え方をさらに展開してみました。内部は床から天井まで垂直に続く棚になっているんです」とメイナードさん。
「垂直空間の利用という考え方がプロジェクト全体にあるのですが、このタワーではその考え方をさらに展開してみました。内部は床から天井まで垂直に続く棚になっているんです」とメイナードさん。
アトリエのあるタワーの屋根が、この家の印象的な輪郭線を描き出す。新築した建物では、外壁の大部分はウエスタンレッドシダーの板ぶきに。自然な風合いの変化を味わうため、表面加工はしていない。屋根と残りの壁面には、水密加工した凹凸のある外壁被覆材を使い、タワーの形を引き立てている。
家は2本の大通りに挟まれている。家の表側は戦後に作られた緑の多い郊外風の通りで、裏側にある通りはメイナードさんいわく田舎道のような雰囲気(写真)。下見板張りとれんが造りの質実な家が並ぶ郊外に「存在を主張する現代建築をつくるのは場違いだと感じたんです」とメイナードさん。
では、一家の求める広さと機能性と美的要素を兼ね備え、かつ近所の景観に対して威圧的にならない家を作るにはどうしたらいいか? メイナードさんの斬新な提案は、小さな建物をいくつも作ることだった。それぞれに双子のスケッチのような尖った形を取り入れ、しかも微妙に異なるデザインにするのだ 。
メイナードさんはこのデザイン方針を「アンチモノリス」と表現する。「外から見ると、ひとつの大きな家ではなく建物が分かれているので、視覚的に分散して小さく見えます。でも、家の中は大きく感じられるんです。ある意味、直感を裏切る建築です。SF的かもしれませんね。」
メイナードさんはこのデザイン方針を「アンチモノリス」と表現する。「外から見ると、ひとつの大きな家ではなく建物が分かれているので、視覚的に分散して小さく見えます。でも、家の中は大きく感じられるんです。ある意味、直感を裏切る建築です。SF的かもしれませんね。」
メイナードさんは、プロジェクト建築家のマーク・オースティン(Mark Austin)さんと協力して家づくりに取り組んだ。「作っていくうちに、この〈タワーハウス〉は、広がりのある家というだけでなく、小さな村のようになっていきました。それぞれの建物が違う機能を果たしつつも、子供たちの描いたタワー型というデザインで統一されて、中心となる下見板張りの家でつなぎとめられているんです」とメイナードさん。裏側の通りから見ると、初めから終わりまで家づくりに一貫するこの考え方がよくわかる。家族のさまざまな活動に合わせて形の異なる構造物の集まりであり、つまりは、メイナードさんの言う「村のような家」だ。ヨーロッパに見られるような拡大家族用の農村住宅のコンセプトも連想させる。
高く尖ったタワーのイラストからインスピレーションを得たこのプロジェクト。基本的なアプローチは、横に長い建物の形から離れることだった。外壁の縦方向の溝が縦長の形をさらに強調している。「オーストラリアは平らで広いから、家も平らで広い形が多いんです。それとは逆に、このプロジェクトでは縦の家を作ろうと考えました」とメイナードさん。
それぞれの建物は大きさも向きも異なるが、使う素材や、外の空間をバランスよく取り囲む配置によって一体感が保たれている。
それぞれの建物は大きさも向きも異なるが、使う素材や、外の空間をバランスよく取り囲む配置によって一体感が保たれている。
間取り図はこちら。従来の家(中央)にはベッドルーム・バスルーム・子供用リビングがあり、左側の小さなタワーを通じて、キッチン・ダイニング・リビングエリアへとつながっている。そこからさらにマスタースイートと書庫へとつながる。子供たちの勉強部屋とプレイルームがあるタワー(上)は、中央の家の子供用リビングからガラス張り通路でつながっている。いちばん右上の正方形が、このタワーのネット張りの部分。
下見板張りの家は拡張せず、伝統的なれんが造りの玄関も残したが、内側にも外側にも改装を加えている。ここにあるのは子供たちのベッドルームがひとつずつとバスルーム、そして子供用リビング。この小さな入口から中に入る。
この建物の裏側の様子。子供用リビングは、大きな折り畳みドアから裏庭に開かれている。ガンメタルグレーの下見板に、ウッドフロアとフープパイン合板の家具が映える。写真左側に見える板ぶきの壁は、ネットのあるタワー。
この古い建物にある子供たちのベッドルームでは、視覚的にも物理的にも、新しく増築した部分とのつながりが保たれている。それを可能にしているのは計算された窓の位置と、建物同士の位置関係だ。キッチン・ダイニング・リビングエリアは別の建物にあるが、小さなタワー型のリンク部分で古い建物とつながっていて、この子供用ベッドルームからも見えるようになっている。また、スクリーンを下ろせば遮断することも可能だ。配置については上のフロアプランを参照。
床はスポッテッドガム材のキリ油仕上げ。
床はスポッテッドガム材のキリ油仕上げ。
子供たちの真っ白なバスルームはシンプルで機能的で、自然光がふんだんに入ってくる。古い家の部分は温水循環パネルによる暖房、増築部分の暖房は床下の温水循環コイルを使っている。
現在、家庭用の液体循環暖房のほとんどは水を使うもので、水をガスボイラーで温め、パネルや床下のコイルに流して部屋を暖めるシステム。逆に水を冷やして冷房する場合もある。
現在、家庭用の液体循環暖房のほとんどは水を使うもので、水をガスボイラーで温め、パネルや床下のコイルに流して部屋を暖めるシステム。逆に水を冷やして冷房する場合もある。
家の中心に位置するキッチンには、大きなスチールフレームのドアから明るい光が差し込む。その外にあるのは庭と、「村」の中のほかの建物。キッチンとリビングエリアの床はすべて、骨材入りポリッシュコンクリート。
子供たちは地上から離れて過ごす時間が多いようだ。クライミングはふたりのお気に入りの遊びのひとつ。キッチンの合板の壁にはタワー型の切り抜き穴があり、登れるように工夫されている。
タワーは家全体に共通するモチーフとなった。アイランドの床近くの切り抜き穴もタワー型に。ネズミ穴のようにも見えるが、側面から見た家の形を示している。古い家の入口の木工部分にもタワーモチーフが使われている。
キッチンとダイニングの天井は、建物外側の構造に沿った形になっており、デザインに共通するタワーの形と縦長の形を家の内側にも取り入れている。コンパクトなエリアにも空間の広がりを感じさせてくれる。
アイランドカウンターは人が集まる場所。友達や近所に住む人たちが遊びに来たときは、みんなで食事の準備をすることが多い。
カウンタートップは黒く塗装したスチール材にワックスをかけてハードな仕上げに。キッチンキャビネットはシーリング塗装したフープパイン合板。
カウンタートップは黒く塗装したスチール材にワックスをかけてハードな仕上げに。キッチンキャビネットはシーリング塗装したフープパイン合板。
マスターベッドルームスイートは別の建物にあり、リビングエリアと書庫からガラス張りの通路でつながっている。ここには妻と夫それぞれのプライベートルームもある。奥さんのほうはマスタースイートに隣接する落ち着いたウッド調の部屋で、本が詰まった書斎(写真手前)。「旦那さんの部屋はキッチンの上にある隠れ家のような場所で、人工芝を敷き詰めて、長椅子1脚と本が1冊だけ置かれています」とメイナードさん。
マスターバスルームも、子供用バスルームと同じような設備とタイル張りで、シンプルで無駄のない現代的なデザイン。床から天井まである蝶番開きの強化ガラスパネルが水に濡れる部分を仕切り、大きなガラスのスライドドアからは自然光を最大限に取り入れている。北向きの窓とドアには断熱・遮光効果のあるブラインドを設置。写真右側には書庫が見える。
機能的には分かれていながらひとつにまとまった家、という家族の要望に応えるべく、メイナードさんは部分によって素材や色を変えることで、異なる雰囲気を演出した。たとえば、書庫は「ゆっくり思索する場所だから、子供部屋の楽しい雰囲気とは対照的に」とメイナードさん。落ち着いた書庫の壁にはダーク調のスポッテッドガム材を使った。またこの部屋は少し地下に沈んでいるため、デスクが庭に埋まっているようにも見える。クリスタルガラス窓は〈ハンプトン&ベイサイド・レッドライト(Hampton & Bayside Leadlight)〉のリー・シェルケンス(Leigh Schellekens)さんによるもので、ジュエルカラーの有機的なモチーフが周囲の庭にマッチしている。
「最近の家はプライバシーを重視しすぎる傾向が強くなっていて、近所の住人に背を向けているように感じます」と言うメイナードさん。オーナーたちも同意見で、この家づくりでは「コミュニティとアートと自然がひとつになる家」を目標にした。この思いの真剣さがよく表れているのが、家の表側と、隣接してオーナーたちが所有する敷地部分だ。このスペースは地域の共同野菜畑になっていて、近所の人たちも草むしりをしたり土を掘ったり、好きなときに作業してもらっている。敷地の周囲には高いフェンスがあり、閉め切ってしまうこともできるが、ほとんど開け放していてふたつの大通りの間の近道としてみんなが使えるようになっている。
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