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ミッドセンチュリーモダンデザインに見る、日本の「わび・さび」の美
日本の陶芸家の元で「わび・さび」を学んだアメリカ人の住宅のプロが、ミッドセンチュリーモダンデザインに見出したわび・さびの美とは?
Robyn Lawrence
2015年7月1日
「わび・さび」とは、不完全なもの、永遠ではないもの、いずれ古びていくものに美を見出すという、日本の伝統的な哲学であり価値観です。しかし、実は、西洋のモダンデザインには、わび・さびの哲学に通じるものがあります。
「わび・さび」の定義については、さまざまな意見があると思いますが、この記事は、私が2003年に日本に滞在した際に、師匠の陶芸家・茶人の神崎紫峰氏から学んだことに基づいて書いています。神崎さんが穴窯で焼く器は、どれもまさにわび・さびのエッセンスを表現した作品です。しかし、神崎さんいわく、西洋人が「わび・さび」を追求するなら、日本のわび・さびをそのまま真似しても意味がない、とのこと。西洋人は西洋人のデザインの伝統に即して、シンプルであることと不完全であることの美を探し求めるべきだ、というのが彼の意見です。例えば、1980年にアメリカを訪れた神崎さんは、ペンシルバニア州の片田舎にある納屋にわび・さびを感じたのだそうです。私の場合は、正真正銘のアメリカのミッドセンチュリーモダンのデザインの中に、わび・さびの美を見出します。
「わび・さび」の定義については、さまざまな意見があると思いますが、この記事は、私が2003年に日本に滞在した際に、師匠の陶芸家・茶人の神崎紫峰氏から学んだことに基づいて書いています。神崎さんが穴窯で焼く器は、どれもまさにわび・さびのエッセンスを表現した作品です。しかし、神崎さんいわく、西洋人が「わび・さび」を追求するなら、日本のわび・さびをそのまま真似しても意味がない、とのこと。西洋人は西洋人のデザインの伝統に即して、シンプルであることと不完全であることの美を探し求めるべきだ、というのが彼の意見です。例えば、1980年にアメリカを訪れた神崎さんは、ペンシルバニア州の片田舎にある納屋にわび・さびを感じたのだそうです。私の場合は、正真正銘のアメリカのミッドセンチュリーモダンのデザインの中に、わび・さびの美を見出します。
1940年代にチャールズ&レイ・イームズ夫妻は、シェーカーのシンプルな美しさと近代産業のイノベーションを大胆に組み合わせた家具を生み出し、人気を博しました。1956年以降、ハーマンミラー社が生産してしるイームズのプライウッドやレザーのラウンドチェアは、イームズ本人が、「現代生活の抑圧から逃れる特別な方法」として誕生したのです。コンテンポラリーな雰囲気が好きなアメリカ人も、行き過ぎたモダニズムは冷たくてくつろげない、と感じていたのです。
イームズ夫妻は、美しくて価格が手頃な日常づかいの家具をつくるため、プライウッドやプラスティックといった新しい素材を活用しまし、わび・さびの美に、モダンでインダストリアルなひとひねりを加えたのでした。テレンス・コンランはイームズ夫妻の作品について、「非常に人間的で、魅力的で、人に優しい」と言っています。
1996年にデザイナーのティボール・カルマンは、「イームズのプライウッドの椅子は、どこにでもなじんで、主張しない。まるで恋人のような家具だ」と書いています。ロサンゼルスでかいさいされたイームズ夫妻の展覧会をデザインしたクレイグ・ホジェッツも、イームズ夫妻は、自分たちのデザインから主張やヒエラルキーや堅苦しさといったものを排除した、という点がとても重要だと述べています。
1996年にデザイナーのティボール・カルマンは、「イームズのプライウッドの椅子は、どこにでもなじんで、主張しない。まるで恋人のような家具だ」と書いています。ロサンゼルスでかいさいされたイームズ夫妻の展覧会をデザインしたクレイグ・ホジェッツも、イームズ夫妻は、自分たちのデザインから主張やヒエラルキーや堅苦しさといったものを排除した、という点がとても重要だと述べています。
ロサンゼルス郊外のパシフィック・パリセーズに立つイームズ夫妻の自邸は、『アート&アーキテクチャー』誌のケーススタディハウスシリーズの1作品として1940年代後半に竣工しました。自由を表現するこの家には、率直で気取らないデザインを見ることができます。これはまさに、わび・さびのモダンバージョンと言ってよいでしょう。
イームス夫妻の家具と同じく、この家もシンプルですっきりとしたラインでできています。モダンだけれども人間らしい暖かさを感じさせる開放的な家には、垂直のルーバーブラインドや畳マット、イサム・ノグチの和紙でできたあかりなど、日本のデザインがとりいれられていました。ゆったりとした空間には、夫妻が集めてきたもの――流木、彫刻、モビール、植物――を並べたり片付けたりして、いつも入れ替えながら飾っていました。
リビングにも、わび・さびを感じさせるアイテム――インドの刺繍、メキシコの人形、セラミックの器、アンティークのおもちゃ、砂漠の植物を乾燥させたもの――を、どれも同じ価値をもつものとして並べて飾っていました。
イームス夫妻の家具と同じく、この家もシンプルですっきりとしたラインでできています。モダンだけれども人間らしい暖かさを感じさせる開放的な家には、垂直のルーバーブラインドや畳マット、イサム・ノグチの和紙でできたあかりなど、日本のデザインがとりいれられていました。ゆったりとした空間には、夫妻が集めてきたもの――流木、彫刻、モビール、植物――を並べたり片付けたりして、いつも入れ替えながら飾っていました。
リビングにも、わび・さびを感じさせるアイテム――インドの刺繍、メキシコの人形、セラミックの器、アンティークのおもちゃ、砂漠の植物を乾燥させたもの――を、どれも同じ価値をもつものとして並べて飾っていました。
1960年代には、ハンス・ウェグナー、ボーエ・モーゲンセン、アルネ・ヤコブセンといった、デンマークのデザイナーたちによるシンプルでさりげない家具が、デザイン界の人気を集めました(写真にはウェグナーの椅子が写っています)。
1940年代、家具メーカーのノル社はペンシルヴァニアの家具作家、ジョージ・ナカシマのつややかなチェリーウッドのテーブルと優しい幾何学的ラインが美しい椅子の販売を始めました。
写真に写っているサイドテーブルや椅子もそうですが、ナカシマの作品はまさに博物館の展示物と同じくらいクオリティの高い家具です。しかしナカシマ本人は著書『木のこころ』(鹿島出版会)の中で、家具は必要以上に高価なものとして扱われるべきではないとして、次のように述べています。
必ずできる傷やくぼみは、家具としての味わいを深める。(商売取引では、表面にできた傷は『いたましいこと(distressing)』と呼ばれる。我々の家族では、息子が幼い頃「骨董」家具に傷を付けていた習慣にこと寄せて、それを未だに「ケビンがしたこと(Kevinizing)と言っている。私にとっては、家具が一度も使われたことがないように、その表面が輝いてすべすべしているものほど、魅力のないものはない。
ジョージ・ナカシマの死後、アトリエを引き継いだ娘のミラ・ナカシマも、最近のインタビューの中で、わび・さびがジョージ・ナカシマに与えた影響について「私たちのアトリエでは、その木が持つ自然の形と色を拠りどころにして作品づくりを進めていきます。人工的な色や光沢を加えることはありません」と話しています。
写真に写っているサイドテーブルや椅子もそうですが、ナカシマの作品はまさに博物館の展示物と同じくらいクオリティの高い家具です。しかしナカシマ本人は著書『木のこころ』(鹿島出版会)の中で、家具は必要以上に高価なものとして扱われるべきではないとして、次のように述べています。
必ずできる傷やくぼみは、家具としての味わいを深める。(商売取引では、表面にできた傷は『いたましいこと(distressing)』と呼ばれる。我々の家族では、息子が幼い頃「骨董」家具に傷を付けていた習慣にこと寄せて、それを未だに「ケビンがしたこと(Kevinizing)と言っている。私にとっては、家具が一度も使われたことがないように、その表面が輝いてすべすべしているものほど、魅力のないものはない。
ジョージ・ナカシマの死後、アトリエを引き継いだ娘のミラ・ナカシマも、最近のインタビューの中で、わび・さびがジョージ・ナカシマに与えた影響について「私たちのアトリエでは、その木が持つ自然の形と色を拠りどころにして作品づくりを進めていきます。人工的な色や光沢を加えることはありません」と話しています。
1960年に『ハウス・ビューティフル』誌が出版した、同誌の史上二大人気特集の1つは、わび・さびの従兄弟とでも呼ぶべき「渋い」という価値観の特集でした。「渋い」とは、過剰なところのない、無駄のない、さりげない優美さを指す言葉です。
「渋」の旧字である「澁」の意味は、「水をせき止める」ということ、つまり抑制を示す漢字です。渋い色といえば、黒、炭色、ダークブラウン、モスグリーンなどの色みを抑えた色のことですし、「しぶもの」といえば、時代を超越した美、それも、ただ美しいだけではない、さりげない存在感をもつものを指します。
1960年代、戦後のアメリカの無駄を排したモダンなスタイルに「渋い」という価値観はぴったりとマッチしました。ベイカー社は渋い家具シリーズを発売し、シューマッカー社は渋いファブリックを展開し、シーモア社は、抑制的で味わいのある色のシリーズに「渋い」という名前をつけました。アーウィン・ランベス社は壁に黃麻布を張り、暖炉にはヤスリをかけて質感を出し、デンマーク製の家具をしつらえた「シブイ・ハウス」を販売。同社社長のケイ・ランベスは、「渋いという価値観には無限の可能性がある。自由で、落ち着いていて、どんなスタイルに合わせてもエレガントだ。だから、『渋いもの』は世界中の文化に見いだせるのです」と語っています。
アメリカ人に「渋い」という価値観を理解してもらうため、先の『ハウス・ビューティフル』誌の特集では、アメリカ人にも馴染みのあるものの中から、以下のアイテムを「渋いもの」としてリストにしています。
・18世紀のキャプテンズチェスト
・アーリーアメリカンのカップボード、ブランケットチェスト、トレッスルテーブル
・メキシコのオアハカ州の黒い陶器
・シェーカー家具
・デンマーク家具
・18世紀のピューター製品
・塩釉の陶器
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