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絶対に知っておきたい名作モダン住宅:イームズ邸
イームズ夫妻の自邸兼アトリエは、カラフルで活気あふれるスタイルで、モダニズムのステレオタイプを打ち破りました。20世紀で最も重要なデザイナー夫妻の個性をあますところなく表現した住宅をご紹介します。
John Hill
2015年6月6日
20世紀のデザインに最も大きな影響力を与えたチャールズ&レイ・イームズ夫妻は、モダン住宅の多くに欠かせない数多くのアイコニックな家具を制作した。しかし、二人の仕事は家具だけにとどまらない。映画(最も有名な作品は『パワーズ・オブ・テン(10のべき乗)』を制作し、おもちゃやゲームをデザインし(ハウズ・オブ・カード)、さらにマルチメディア作品(1964-65年の万博におけるIBMパビリオン)も手がけた。この記事では、二人の制作活動の一環であり、またその原動力ともなった、自宅兼アトリエを紹介する。
自邸を除けば、イームズ夫妻の建築が議論されることはあまりない。というのも、自邸以外にはほとんど作品がないからだ。建築プロジェクトにはストレスが多く、しかも、2、3の案件がキャンセルとなったことから、夫妻は、自邸が完成するとすぐに、建築の仕事をやめ、家具のデザインを優先するようになった。とはいえ、夫妻の自邸兼アトリエは、彼らのデザインした椅子が家具デザイン界に与えたのと同じくらい大きな影響を建築界に与えたのだった。普遍性と個性の両方を見事に表現した作品であり、鉄骨とガラスでできたモダン建築が、カラフルで創造的で、しかも住みやすいものになりうることを証明した住宅である。
イームズ邸とは?
竣工年:1949年
建築家:チャールズ&レイ・イームズ夫妻
所在地:ロサンゼルスのパシフィックパリセーズ
見学情報:予約をした場合のみ、外からの見学可能。屋内見学ツアーはイームズ財団のメンバーのみ。
規模:約140平方メートル(住宅部分)+約93平方メートル(アトリエ部分)
自邸を除けば、イームズ夫妻の建築が議論されることはあまりない。というのも、自邸以外にはほとんど作品がないからだ。建築プロジェクトにはストレスが多く、しかも、2、3の案件がキャンセルとなったことから、夫妻は、自邸が完成するとすぐに、建築の仕事をやめ、家具のデザインを優先するようになった。とはいえ、夫妻の自邸兼アトリエは、彼らのデザインした椅子が家具デザイン界に与えたのと同じくらい大きな影響を建築界に与えたのだった。普遍性と個性の両方を見事に表現した作品であり、鉄骨とガラスでできたモダン建築が、カラフルで創造的で、しかも住みやすいものになりうることを証明した住宅である。
イームズ邸とは?
竣工年:1949年
建築家:チャールズ&レイ・イームズ夫妻
所在地:ロサンゼルスのパシフィックパリセーズ
見学情報:予約をした場合のみ、外からの見学可能。屋内見学ツアーはイームズ財団のメンバーのみ。
規模:約140平方メートル(住宅部分)+約93平方メートル(アトリエ部分)
住宅の正式名は、「イームズ邸、ケーススタディハウス No.8」。1945年、『アーツ&アーキテクチャー』誌の編集長だったジョン・エンテンザの依頼を受けて、チャールズ・イームズはエーロ・サーリネンとともにこの家の設計を開始した。同誌が主催した「ケーススタディハウス」企画は、1966年まで継続され、工業化を取り入れたモダン住宅23軒が実現した。
イームズとサーリネンは、ロサンゼルスのパシフィックパリセーズ地区の丘の上の広大な敷地(約12000平方メートル)に、太平洋を見下ろすL字型の住宅兼アトリエを設計するつもりだった。ケーススタディハウス No.9 (やはりイームズとサーリネンが同時期に設計する計画だった)の隣の敷地に、カンチレバー(片持ち梁)で丘からドラマティックに張り出す住宅を建てる予定だったが、1947年(このころにはサーリネンは設計から手を引いていた)には、イームズ夫妻は計画をもっとシンプルにし、長い擁壁沿いに家を建てることにした。
家は、木立の中に浮かぶように立っている。木々の多くは、整地した際にできた盛土部分に植えられたものであり、隣接するNo.9との間の目隠しにもなっている。
家は、木立の中に浮かぶように立っている。木々の多くは、整地した際にできた盛土部分に植えられたものであり、隣接するNo.9との間の目隠しにもなっている。
チャールズとレイによる設計の意図は、再設計の前に発注してあった同じ標準品の鉄骨使いつつ、よりシンプルな住宅をつくることだった。これは西側のファサードからは、屋根を支える約30センチの梁が見えており、屋内でも露出した状態になっている。この家は1ベイ(柱間)2.3メートルの区画で構成されており、高さは5.2メートル、奥行きは6.1メートル。1区画分は屋外空間になっているが、それ以外は屋内空間である。
住宅とアトリエは北側の擁壁(写真の左側)に沿って並んで立つ。東側がアトリエ、西側が住居、その間に中庭がある。東西の両端は吹き抜けになっている。写真は、吹き抜けになった西側のリビング。
住宅とアトリエは北側の擁壁(写真の左側)に沿って並んで立つ。東側がアトリエ、西側が住居、その間に中庭がある。東西の両端は吹き抜けになっている。写真は、吹き抜けになった西側のリビング。
写真は、擁壁の上から西の方を見たところ。中庭とアトリエに面した住宅の東側が見える。西側のファサードに比べて、中身が詰まっている印象がある。。これは、北側の擁壁沿いだけでなく中庭沿いサービススペースを配置しているため。こうすることで、東西の両端に開放的な吹き抜けの空間を実現している。(記事の末尾に掲載している平面図を参照。)
中庭には住宅部分とアトリエ(1958年にカリフォルニア州ベニスにオフィスを移すまで、夫妻はここで仕事をしていた)とを分ける役割がある。もし全体が1つの長い建物だったら、ここにはサービススペースが集中することになっただろう。そう考えると、中庭は息抜き的な空間になっている。中庭には屋根をつける設計になっていたが、実際には3方を囲まれた屋外空間になった。
中庭には住宅部分とアトリエ(1958年にカリフォルニア州ベニスにオフィスを移すまで、夫妻はここで仕事をしていた)とを分ける役割がある。もし全体が1つの長い建物だったら、ここにはサービススペースが集中することになっただろう。そう考えると、中庭は息抜き的な空間になっている。中庭には屋根をつける設計になっていたが、実際には3方を囲まれた屋外空間になった。
イームズは、この住宅が、軍需生産力を戦後の住宅不足問題解決へ転換していく一つの手段となるととらえていた。この家が未来の住宅のプロトタイプなり、全米に広がるだろうと考えていたのだ。しかし、実際に間近でこの家を見てみると、非常に特異な住宅であることがよくわかる。レイナー・バンハムがユーモアをこめて「建築資材に対する考え方はまるで暴走族」と評したように、イームズは標準的な資材を思いもよらない方法で使用している。
一見、モンドリアンの絵のようにも見えるが、イームズ邸について1冊の研究書を執筆したジェームズ・スティールによれば、この家は夫妻の個性を表現した特別なスタイルの住宅である。1955年から夫妻がこの家を撮影した短編映画は、花や木々、おもちゃ、建物の細部など、スナップ写真でこの建物を紹介している。ありとあらゆるものがスナップ写真で映しだされていくが、今日、建築の紹介に広く使われている広角の画像は1つもない。細部と瞬間の重視は、この家のファサードや内部をめぐる体験に通じるものがある。
最後の写真は、夫妻の実際の暮らしぶり、二人が家具や所有物の容れ物としてこの家を使用していたことが伝わってくる。といっても、最小限の家具しかない容れ物だったわけではない。この住宅はひとつの総合的な環境であり、いちばん小さな工芸品さえも、建築を形成している大きな部分と同じ重要な存在感を持っている。あらゆるスケールにおいて、イームズ夫妻のスタイルがにじみ出ている。
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参考文献
- Banham, Reyner. Age of the Masters: A Personal View of Modern Architecture. Harper & Row, 1975.
- Banham, Reyner. Los Angeles: The Architecture of Four Ecologies. The Penguin Press, 1971.
- The Eames Foundation
- Frampton, Kenneth and Larkin, David. American Masterworks: The Twentieth Century House. Rizzoli, 1995.
- House After Five Years of Living. A short film by Charles and Ray Eames, 1955.
- Steele, James. Eames House: Charles and Ray Eames. Phaidon, 1994.
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