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中古物件を購入し、店舗併用住宅に改修する際の注意点。建築家に同行してもらうメリット
中古物件を購入して店舗と住居の両方をつくることは、どちらか1つをつくること以上に難しいもの。建築家に同行してもらうとよいでしょう。
安井俊夫
2022年11月16日
天工舎一級建築士事務所主宰。神奈川県小田原市に事務所を構え、住宅や店舗などの設計監理業務を行っています。書評やコラムなども執筆中。
店舗と住居が共存する建物を「店舗併用住宅」と呼びます。近年では、インターネットを通じて中古の建物を購入して生活拠点を移し、店舗併用住宅で商売を始めたいと考える方も増えているようです。
店舗併用住宅とは
一口に店舗といっても、飲食店や洋服店、あるいは書店や雑貨店など、さまざまな業種がありますが、店舗内容や規模によって、用途ごとにさまざまな制約を受けることがあります。また、関連法令による規制もあるので、注意が必要です。
例えば、都市計画法で低層な住宅を建てることを目的とした「第一種低層住居専用地域」は、住宅を建てるには最良の地域ですが、原則として店舗を建てることはできません。例外的に、店舗面積が50㎡以下かつ、建物の延床面積の2分の1未満のものだけが小規模店舗として許されます。その場合でも店舗内容によっては規制が設けられています。
一口に店舗といっても、飲食店や洋服店、あるいは書店や雑貨店など、さまざまな業種がありますが、店舗内容や規模によって、用途ごとにさまざまな制約を受けることがあります。また、関連法令による規制もあるので、注意が必要です。
例えば、都市計画法で低層な住宅を建てることを目的とした「第一種低層住居専用地域」は、住宅を建てるには最良の地域ですが、原則として店舗を建てることはできません。例外的に、店舗面積が50㎡以下かつ、建物の延床面積の2分の1未満のものだけが小規模店舗として許されます。その場合でも店舗内容によっては規制が設けられています。
住居として住むことに適した場所と、店舗として適した場所には、目的や必要条件、法的な規制などが少しずつ異なります。そのどちらにも都合の良い場所を選択し、将来的に「住む」ことと「営む」ことの両方を成立させるには、どちらか片方の用途を満足させるよりも、何倍も難しい判断が必要となるでしょう。
中古物件を購入して店舗併用住宅とする場合には、このようなさまざまな法的規制などを考慮した上での判断が必要になります。
住まいの専門家を探す
中古物件を購入して店舗併用住宅とする場合には、このようなさまざまな法的規制などを考慮した上での判断が必要になります。
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住むことに適した場所
就学児がいる家庭では、学校までの距離や通学路の交通量の多さ、近隣に住む同年代の学生の有無も気になります。バス停や駅までの公共交通機関の有無や、商圏や病院等への利便性も気になるところです。閑静な住環境は、あとからつくりあげることができないため、中古住宅を探す際にはとても大切な条件の1つといえます。
就学児がいる家庭では、学校までの距離や通学路の交通量の多さ、近隣に住む同年代の学生の有無も気になります。バス停や駅までの公共交通機関の有無や、商圏や病院等への利便性も気になるところです。閑静な住環境は、あとからつくりあげることができないため、中古住宅を探す際にはとても大切な条件の1つといえます。
店舗を営むことに適した場所
一方、店舗としてなによりも大切なことは、その店を繁盛させることです。業種ごとに条件は異なりますが、人通りや交通量が多く、お客さんが入ってくれるような立地が大切です。つまり、賑やかで人通りの多い場所が適当だと言えます。
これらの店舗に求められる条件は、住宅に求める条件と大きく異なるため、既存の建物を購入する場合には、より慎重に判断しなければなりません。
一方、店舗としてなによりも大切なことは、その店を繁盛させることです。業種ごとに条件は異なりますが、人通りや交通量が多く、お客さんが入ってくれるような立地が大切です。つまり、賑やかで人通りの多い場所が適当だと言えます。
これらの店舗に求められる条件は、住宅に求める条件と大きく異なるため、既存の建物を購入する場合には、より慎重に判断しなければなりません。
店舗と住居の動線を分けたい
店舗のファサードを演出する必要がある場合は、住居部分の日常性を見せない方が好ましいでしょう。例えば、おしゃれなフレンチ・レストランを営もうとする際に、店の入り口上部に洗濯物や寝具が干されていては興ざめしてしまいます。できれば、店舗と住居の出入り口を別々に設け、家人の日常生活がお客様の興を削がないように配慮をして、住まい手とお客様の動線が交錯しないことが理想です。
もっとも、店舗の用途によっては、多少の交錯が許される業種もあるでしょう。購入を検討している物件がもともと店舗併用住宅だったとしても、その用途によっては、自分たちの計画には沿わない場合もあるということです。
店舗のファサードを演出する必要がある場合は、住居部分の日常性を見せない方が好ましいでしょう。例えば、おしゃれなフレンチ・レストランを営もうとする際に、店の入り口上部に洗濯物や寝具が干されていては興ざめしてしまいます。できれば、店舗と住居の出入り口を別々に設け、家人の日常生活がお客様の興を削がないように配慮をして、住まい手とお客様の動線が交錯しないことが理想です。
もっとも、店舗の用途によっては、多少の交錯が許される業種もあるでしょう。購入を検討している物件がもともと店舗併用住宅だったとしても、その用途によっては、自分たちの計画には沿わない場合もあるということです。
1階が店舗の場合は路面店に有利
店舗は路面店であることが理想です。道行く人の視認性を高め、入りやすさを演出できるからです。もちろん、店舗が2階で住居が1階でも構いませんが、店舗の利用しやすさという点で考えれば、路面店をおすすめします。
そうなると必然的に、住居は1階の店舗裏側か、2階以上になると思います。その際、住居へのアクセスは屋外階段なのか、それとも屋内に設けるのかが、許認可を含めて後々大きな問題になることを理解しておきましょう。
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中古住宅を安心して購入するには~インスペクション(住宅状況調査)とは何か~
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許認可の難易度を理解する
例えば、購入予定の中古物件が、1階に店舗・2階に住居の建物だった場合を考えてみます。2階住居部の間取り・窓の大きさや位置・形状を変更しない場合、確認申請の許認可は必要ありません(あくまでも室内仕上げ材の張替えや、塗り替え程度の場合です)。
しかし、1階店舗との繋がりから、階段の位置と形状を変更したいと考えた場合、これだけで確認申請の必要が生じます。階段は建物にとって主要構造部なので、その変更は許認可の対象とみなされるからです。
このとき、建物が築年数も浅く、関係書類の全てが揃っていて、確認申請手続きを行うことに何ら支障がない場合は問題ありませんが、それでも費用と時間はかかります。まして、築年数が古く、建物強度に不安があり、関係書類が何も残っていない場合には、許認可の難易度が高まり、希望する店舗や譲許にならない可能性もあるでしょう。建物の売買契約が完了した後でそのことがわかっても、後の祭りです。
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駐車場の必要性を考える
都会で店舗を構えていた方が、地方都市に移住して店を構える場合、お客様用駐車場の確保は思っている以上に重要になります。業種業態にもよりますが、自己所有地内にお客様用の駐車場が確保できない場合には、隣接地に確保できるのかを確かめる必要もあります。不動産会社と建築家を交え、意見や周辺の状況を聞くことも大切です。
都会で店舗を構えていた方が、地方都市に移住して店を構える場合、お客様用駐車場の確保は思っている以上に重要になります。業種業態にもよりますが、自己所有地内にお客様用の駐車場が確保できない場合には、隣接地に確保できるのかを確かめる必要もあります。不動産会社と建築家を交え、意見や周辺の状況を聞くことも大切です。
既存建物の構造的な判断
許認可の項目でも触れましたが、建物の増改築の必要性とその可能性に関しては、何よりも大切な点だと言えます。
営みたい店舗によっては、どうしても確保しなければならない諸室があり、そのためには壁を撤去し、柱を取らなければならない可能性もあるでしょう。その際に費用的な負担の大きさを理解するのと同時に、構造的に可能なのか、あるいは許認可取得が適うのかを、大まかにでも把握する必要があります。
また、その判断が難しいような場合でも、その先にどのような手順で対応すべきかの目途を立てられるか否かは、購入時の大きな判断材料になるでしょう。そのためにも専門家に同行してもらうことは大切です。
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営みたい店舗によっては、どうしても確保しなければならない諸室があり、そのためには壁を撤去し、柱を取らなければならない可能性もあるでしょう。その際に費用的な負担の大きさを理解するのと同時に、構造的に可能なのか、あるいは許認可取得が適うのかを、大まかにでも把握する必要があります。
また、その判断が難しいような場合でも、その先にどのような手順で対応すべきかの目途を立てられるか否かは、購入時の大きな判断材料になるでしょう。そのためにも専門家に同行してもらうことは大切です。
浄化槽や下水、水道管口径などの設備的な判断
構造的な判断のほかに、設備的な視点で見ることも大切です。例えば、建物が浄化槽を利用していた場合には、浄化槽の人槽(処理できる人数)を正しく理解する必要があります。
人槽は、建物用途や面積によって変わります。以前の店舗内容と購入後の店舗内容が類似の用途(例えばラーメン屋と蕎麦屋のように似た業種)である場合には問題ありませんが、以前は住宅だった建物で民泊営業をするような場合には、浄化槽の大きさが変わることがあります。住宅の浄化槽の大きさは延床面積から求められますが、民泊の場合には収容人員で決まります。もし民泊の方が大きな浄化槽が必要となれば、その交換費用だけでも数百万円は下りません。
また、水道管の引き込み口径やエアコン等の機器類の設置に関しても、一通りチェックしておきましょう。
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また、水道管の引き込み口径やエアコン等の機器類の設置に関しても、一通りチェックしておきましょう。
現地に赴き、周辺環境を理解する
インターネットで調べられる建物情報と、実際に見た建物では、印象が大きく変わることがあります。周辺施設やその様子、人の流れ、交通量や騒音・排気ガスの量、近隣の類似店舗の有無といった事柄は、実際に現地を訪れないとわかりません。
また、ネットの画像を見ただけでは想像できない建物の利用方法や楽しみ方、そこから見ることのできる風景や街並みが、計画店舗にとって大きな魅力の1つになることもあります。建築家に同行してもらうことで、建物が持つ魅力を発見できる可能性もあるでしょう。
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実は建築家に相談できる、設計以外の家づくりのこと
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同行を依頼する方法と費用
専門家に同行を依頼する際、設計を依頼する建築家に同行してもらうことが理想です。建物に対する印象や利点などを初めから共有でき、より密度の濃い相談や、建物に対する設計方針やイメージ、改善したい問題点などの共有を早い段階からできるからです。
もし現地を訪れる際に建築家が決まっていないという場合には、地元の建築家にお願いすることをおすすめします。その土地の情報を理解している方のほうが、建物以外のアドバイスももらええる可能性があるからです。
同行費用は依頼する建築家にもよりますが、交通費だけでいいという方もいれば、日当程度を請求される方もいるでしょう。その場合でも数万円程度かと思いますが、遠距離の方の場合には、時間的にも負担が掛かるので、ご依頼前にしっかりと確認することが大切です。
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同行費用は依頼する建築家にもよりますが、交通費だけでいいという方もいれば、日当程度を請求される方もいるでしょう。その場合でも数万円程度かと思いますが、遠距離の方の場合には、時間的にも負担が掛かるので、ご依頼前にしっかりと確認することが大切です。
既存の建物を購入して店舗併用住宅を計画する際には、住宅のみを計画する場合よりも、時間的・費用的な余裕が必要となります。子どもの就学時期などが関係している時期には、場合によっては仮住まいを探して、工事が完成するのを待つ必要があるかもしれません。
これからの生活を支える収入を得るための場所となるわけですから、「急がば回れ」の気持ちが必要になることをお忘れなく。また、建物購入費用や工事費用を融資で賄う場合には、店舗部分は住宅ローンの対象には含まれず、別に事業用ローンを組む必要があります。そのあたりのリサーチも含めて、事前準備にしっかりと時間を掛け、間違いのない判断が得られるように、頼れる建築家をお探しください。
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