築30年の黒川紀章 設計、中村外二 施工による数寄屋造りの別荘のリノベーション
海を見渡す絶好のロケーションに建つ贅を尽くした名建築。当初の設計思想や施工技術を紐解きながら現代性の回復を試みました。土地のポテンシャルを引き出す工夫とアイディアをお聞きします。
田中祥子
2022年2月12日
海際に家を持つことを夢に抱いていたオーナーがお知り合いから紹介されたのは、メタボリズム建築の巨匠 黒川紀章が設計した数寄屋造りの建築でした。施工は数寄屋大工の匠 中村外二。隠れた名建築を現代の暮らしに合わせてバージョンアップしたリノベーションをご紹介します。
どんなHouzz?
所在地:リゾート地にほど近い海岸沿い
建築面積:79㎡
延床面積:151㎡
設計:hannat architects(保科陽介/堤理紗)
家具デザイン協力:アトリエセツナ
照明デザイン:ライティングスタジオLUME
写真撮影:鳥村鋼一
施工:加和太建設
竣工時期:2020年7月
所在地:リゾート地にほど近い海岸沿い
建築面積:79㎡
延床面積:151㎡
設計:hannat architects(保科陽介/堤理紗)
家具デザイン協力:アトリエセツナ
照明デザイン:ライティングスタジオLUME
写真撮影:鳥村鋼一
施工:加和太建設
竣工時期:2020年7月
30年の時を経て大切に使われていた建物でしたが、2度にわたり大きな台風に見舞われ、屋根などに大きな被害を受けてしまいました。オーナーは、隣地で別の新築設計を依頼していたhannat architectsに補修を相談。打ち合わせを重ねるうちに、使いづらい部分のアップデートも同時に行うことになりました。
黒川紀章は昭和から平成に活躍した、モダニズム建築の巨匠です。代表作の「中銀カプセルタワー」や「国立新美術館」のように、設計思想が前面に出た特徴的なデザインが多い中で、伝統的数寄屋造りを設計していたことは、あまり知られていないのではないでしょうか。
黒川紀章は昭和から平成に活躍した、モダニズム建築の巨匠です。代表作の「中銀カプセルタワー」や「国立新美術館」のように、設計思想が前面に出た特徴的なデザインが多い中で、伝統的数寄屋造りを設計していたことは、あまり知られていないのではないでしょうか。
施工を担当した中村外二は、現代の名工として表彰された数寄屋大工の第一人者。国内外の著名な和風建築や茶室を手掛けています。
2人の巨匠による建築は、海の眺望を存分に取り込んだ贅沢なつくり。「よく見ると、端から端まで1枚板で作られた床など、細部にまでこだわった材料が使われています」とhannat architectsの保科陽介さんは語ります。
こちらもあわせて
日本的感性を象徴する「茶室」の伝統と革新性
2人の巨匠による建築は、海の眺望を存分に取り込んだ贅沢なつくり。「よく見ると、端から端まで1枚板で作られた床など、細部にまでこだわった材料が使われています」とhannat architectsの保科陽介さんは語ります。
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オーナーは、既に自宅や別荘をお持ちで、世界各地を旅行されている目の肥えた方。「塩害による劣化への耐久性と、オーナーのお眼鏡に叶うデザイン性を両立させることを一番に考えました」と保科さん。
オーナーの第一の希望は、使い勝手の悪かったバスルームをアップデートすること。大きすぎる浴槽や広すぎる洗い場を狭め、サウナルームを追加設置しました。
浴槽はわずかに金色の斑が入った御影石、スノコ状の床やベンチは人体に安全な防腐処理をしたヒノキ材を使用しています。サウナ室のガラス戸の取っ手は、水面の波紋を彫り込んだ職人の手によるもの。天井とシャワー機器がついた黒の壁は竣工当時のままです。サウナルームの天井につけた通気口のルーバーは解体時に出た廃材を、あく抜き処理を施して利用しています。
浴槽はわずかに金色の斑が入った御影石、スノコ状の床やベンチは人体に安全な防腐処理をしたヒノキ材を使用しています。サウナ室のガラス戸の取っ手は、水面の波紋を彫り込んだ職人の手によるもの。天井とシャワー機器がついた黒の壁は竣工当時のままです。サウナルームの天井につけた通気口のルーバーは解体時に出た廃材を、あく抜き処理を施して利用しています。
リノベーション前は、浴室の前にソテツなどの植物が茂り、せっかくの海の眺めを完全に遮っていました。「別荘として月に数回の利用では手入れも難しいため、浴室からの眺望を考えながら手が掛からないように植物を伐採しました」とhannat architectsの堤理紗さんは話します。
見通しの良くなった庭部分には、デッキを増築することになりました。デッキと内風呂の間には外風呂も設置。オーナーは、朝からサウナと風呂に入ってから、デッキで涼みながら海を眺めて過ごすのが、別荘に来た時のなによりの楽しみなのだそうです。
見通しの良くなった庭部分には、デッキを増築することになりました。デッキと内風呂の間には外風呂も設置。オーナーは、朝からサウナと風呂に入ってから、デッキで涼みながら海を眺めて過ごすのが、別荘に来た時のなによりの楽しみなのだそうです。
洗面所は、途中に行われた改修により、横幅を2分して洗面所と背の高い収納が取り付けられていました。壁と床に張られた石材もこの時の改修によるものです。唯一オリジナルとして残っていたのは、障子のような天井部分のみ。
今回のリノベーションでは、脱衣所の既存の木材に合わせたタモ材を縦格子に使い、天井の和のデザインを踏襲した繊細な意匠に仕上げました。古いものと新しいものが違和感なく馴染んでいます。
今回のリノベーションでは、脱衣所の既存の木材に合わせたタモ材を縦格子に使い、天井の和のデザインを踏襲した繊細な意匠に仕上げました。古いものと新しいものが違和感なく馴染んでいます。
「この敷地で、建物のほかに印象的だったのが、海から上がる朝日と月でした。季節によっては、海から突き出た2つの岩礁の間から日が昇ります。洗面所の丸い鏡は、この日と月がモチーフです」と保科さんが話すように、間接照明によって丸い月が浮き上がっているようです。
外に設けたデッキは、海側に張り出したものと、元の庭に設けたものの2カ所。「当初はうっそうとした庭でしたが、張り出したデッキのみでなく、その横の庭までデザインすることで土地のポテンシャルを活かしてより環境に浸れる空間を造れると考えました。」と保科さんは設計を振り返ります。
庭に設けたデッキは、月見台として座位で過ごせ、すぐ上の広間にいるご家族ともコミュニケーションが取りやすい場所になっています。
庭に設けたデッキは、月見台として座位で過ごせ、すぐ上の広間にいるご家族ともコミュニケーションが取りやすい場所になっています。
張り出した部分は塩害を考慮して、溶融亜鉛メッキ仕上げの鉄骨下地に。庭部分のデッキは木造で下地を組んでいます。デッキ材(下地共)とルーバー材の外部木材はすべて熱処理をして耐久性を高めたものを使用。経年変化で既存木材と馴染むように、あえて無塗装としています。
「現在は1年経過で竣工時より馴染んで良くなってると思います。クライアントが来るたびに少しずつ表情が変わり、それも楽しめるように経年変化も念頭に置きながらの設計でした。」と保科さんは語ります。
「現在は1年経過で竣工時より馴染んで良くなってると思います。クライアントが来るたびに少しずつ表情が変わり、それも楽しめるように経年変化も念頭に置きながらの設計でした。」と保科さんは語ります。
土留めの段々は元の庭の形状を活かして、最小限の形状変更に整えました。土留めには、保護性錆で錆を防ぐ耐候性鋼板を使用しています。色が濃くなる熱処理木材と相性が良く、こちらも色合いが変化していく経年変化が楽しめる材料を選定してます。
敷地の前は、大小の天然の岩が積み重なった海岸。庭のデッキの基礎と庭の石積みには、すべて海岸にある岩を運び込んで使用しました。施工会社と現況を確かめながら、臨機応変に対応できたからこそのアイデアです。
敷地の前は、大小の天然の岩が積み重なった海岸。庭のデッキの基礎と庭の石積みには、すべて海岸にある岩を運び込んで使用しました。施工会社と現況を確かめながら、臨機応変に対応できたからこそのアイデアです。
照明の存在感を消しつつ、夜の安全が確保されるように、照明器具はできるだけ隠して設置しています。手すり部分はL字の鉄骨の外側に。さらに庭のデッキには、冬に鍋料理ができるようにコンセントも設置されています。
デッキの家具は山形の家具デザイナー、アトリエセツナとの共同設計です。「もともと配管スペースだった50センチの隙間がリノベーションにより配管がなくなったので、すべての家具をその隙間に収納できるように設計しています」と保科さん。座卓テーブルは数種類の脚と2枚の天板で3パターンのテーブルとして組み合わせが可能。座椅子は座面を外せば、すべて積み重ねて収納できるようになっています。
デッキの家具は山形の家具デザイナー、アトリエセツナとの共同設計です。「もともと配管スペースだった50センチの隙間がリノベーションにより配管がなくなったので、すべての家具をその隙間に収納できるように設計しています」と保科さん。座卓テーブルは数種類の脚と2枚の天板で3パターンのテーブルとして組み合わせが可能。座椅子は座面を外せば、すべて積み重ねて収納できるようになっています。
現在は目の前の海に浮かぶ2つの岩に敷地からスポットライトを当て、より幻想的な風景が広がっているとのこと。美しいライティングと共に、岩の間に浮かぶ月と朝日が、生まれ変わった名建築を照らし出しているのでしょう。名建築を現代に合わせてバージョンアップさせた手法には、これからの建築の保存のあり方が示されているように思います。
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・黒川紀章氏による「中銀カプセルタワービル」
・リノベーションを成功させる秘訣
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