限られた予算で、狭小スペースを最大化したロンドンのテラスハウス
薄暗くて狭かった裏庭側の増築部分を、明るく使い勝手のよいダイニングキッチンにリノベーションしました。
Sarah Alcroft
2022年2月9日
ヴィクトリア時代に建てられた、ロンドンにある労働者向けの住宅です。この家を購入するにあたって、オーナーは「リノベーションすれば、かなりのポテンシャルを引き出せる!」と感じたそうです。たとえば、この時代のテラスハウスによくみられる増築方法によって、この家にも裏庭側のキッチンに差し掛けの物置がつけられていました。しかし、そこは庭と室内をつなげる空間にもかかわらず、逆に増築によって採光と眺望が妨げられていました。
そこでオーナー家族は、もっと屋内外が一体となった、オープンな空間に改修したいと考えました。ただし、それには大きな問題がありました。かなり予算が限られていたのです。諦めかけていたところに、たくさんのアイディアを出してくれたのが、Paper House Projectを率いる建築家ジェイムズ・デイヴィス(James Davis)でした。もともとの狭いスペースを生かしながら、ほんの少し手を加えることで、空間だけでなく家族の暮らし方までを改善してくれたのです!
そこでオーナー家族は、もっと屋内外が一体となった、オープンな空間に改修したいと考えました。ただし、それには大きな問題がありました。かなり予算が限られていたのです。諦めかけていたところに、たくさんのアイディアを出してくれたのが、Paper House Projectを率いる建築家ジェイムズ・デイヴィス(James Davis)でした。もともとの狭いスペースを生かしながら、ほんの少し手を加えることで、空間だけでなく家族の暮らし方までを改善してくれたのです!
どんなHouzz?
住まい手:若い夫婦と小さな子供1人
所在地:ロンドン西部 クイーンズ・パーク保存地区
物件:ヴィクトリア時代のテラスハウス形式の労働者向け住宅
ダイニングキッチンの寸法:約5.5m × 4.2m(奥行・幅それぞれ最大で)
建築家:Paper House Project(ジェイムズ・デイヴィス)
写真:French+Tye
オーナー夫妻の当初の要望は、屋外とのつながりを改善することでした。予算は限られていたものの「明るいデザインにしたい」、「高級感を出すことよりも、家族で空間を楽しみたい」、「どの部分にも丈夫な材料を使いたい」というリクエストを出しました。
住まい手:若い夫婦と小さな子供1人
所在地:ロンドン西部 クイーンズ・パーク保存地区
物件:ヴィクトリア時代のテラスハウス形式の労働者向け住宅
ダイニングキッチンの寸法:約5.5m × 4.2m(奥行・幅それぞれ最大で)
建築家:Paper House Project(ジェイムズ・デイヴィス)
写真:French+Tye
オーナー夫妻の当初の要望は、屋外とのつながりを改善することでした。予算は限られていたものの「明るいデザインにしたい」、「高級感を出すことよりも、家族で空間を楽しみたい」、「どの部分にも丈夫な材料を使いたい」というリクエストを出しました。
改築前は、庭への視線はふさがれていて、採光も不足した狭苦しいレイアウトでした。
その様子を建築家のデイヴィスさんはこう説明します。「裏手に少し変わった勾配屋根の既存増築部があったのですが、端が機械室になっているせいで、キッチンに入ってきても庭への視線が抜けず、建物横の屋外通路が見えるだけだったのです。とても暗くて、天窓もないため、あまり居心地の良い空間ではありませんでした」
その様子を建築家のデイヴィスさんはこう説明します。「裏手に少し変わった勾配屋根の既存増築部があったのですが、端が機械室になっているせいで、キッチンに入ってきても庭への視線が抜けず、建物横の屋外通路が見えるだけだったのです。とても暗くて、天窓もないため、あまり居心地の良い空間ではありませんでした」
デイヴィスさんは、既存の部屋面積を生かしつつ、右側にあった細い屋外通路を増築で建物に取り込むことで、キッチン、ダイニング、子どもの遊び場を兼ねた、フレキシブルなファミリー空間を生みだしました。
「小さな空間の中にたくさんの用途が集まっているので、それぞれのエリアを、連続した丈夫な床材でつないで一体化しました。家族で散らかして使うスペースに適した床材で、高価な部材も使用していないので、何も気にせず暮らすことができます」
デイヴィスさんは、ゴム床はきちんと施工すれば効果的だと語ります。「正しく施工すれば、継ぎ目は熱溶接されて一体化されてるように見えるのです」
また、デイヴィスさんは部屋を多機能なものにするため、造り付けのキャビネットと可動式のアイランド家具を組み合わせることにしました。遊びの空間を残しておいたことは、家族全員にとってプラスになりました。ここにスイングチェアを設置することで、誰もが明るい場所でくつろげるようになったのです。天井にフックがあるので、いつでも必要な時にしっかり取り付けることができます。「最初に座る時は確かに勇気がいりますがね」とデイヴィスは笑いながら語ります。「でも鉄骨に留め付けてあるから大丈夫ですよ」
北欧スタイルの円形ハンモック:Joom社
ゴム系床材: The Colour Flooring Company社
ジョージ・ネルソンのボールクロック:Vitra社
「小さな空間の中にたくさんの用途が集まっているので、それぞれのエリアを、連続した丈夫な床材でつないで一体化しました。家族で散らかして使うスペースに適した床材で、高価な部材も使用していないので、何も気にせず暮らすことができます」
デイヴィスさんは、ゴム床はきちんと施工すれば効果的だと語ります。「正しく施工すれば、継ぎ目は熱溶接されて一体化されてるように見えるのです」
また、デイヴィスさんは部屋を多機能なものにするため、造り付けのキャビネットと可動式のアイランド家具を組み合わせることにしました。遊びの空間を残しておいたことは、家族全員にとってプラスになりました。ここにスイングチェアを設置することで、誰もが明るい場所でくつろげるようになったのです。天井にフックがあるので、いつでも必要な時にしっかり取り付けることができます。「最初に座る時は確かに勇気がいりますがね」とデイヴィスは笑いながら語ります。「でも鉄骨に留め付けてあるから大丈夫ですよ」
北欧スタイルの円形ハンモック:Joom社
ゴム系床材: The Colour Flooring Company社
ジョージ・ネルソンのボールクロック:Vitra社
この写真に写っているのがキャスター付きのアイランド家具。簡単に動かすことができるので、キッチンで追加の作業台になるだけでなく、サイドボードとして使うこともできます。内部は収納になっています。
実はデイヴィスさん、をすっきりとさせたまま、どんなスペースも無駄にせず、大量の収納を巧みに作りこんでいます。特に左手の壁には造り付けのキャビネットがおさまっています。
「この壁に沿ってあったごちゃごちゃしたものを、一連の収納を使って合理化、一体化しました」と説明するデイヴィスさん。「設備上、構造上、残さざるを得ない小壁があったり、段々になった場所があったりと、そのままではとても細切れに見えてしまっていたでしょう」
デイビスさんは、それらを整理して、あらゆるスペースを活用しようと考えました。このキャビネットも、場所ごとに奥行きが違い、その裏に隠しているものもありますが、空いたスペースを使ってはめ込んであります。
「この壁に沿ってあったごちゃごちゃしたものを、一連の収納を使って合理化、一体化しました」と説明するデイヴィスさん。「設備上、構造上、残さざるを得ない小壁があったり、段々になった場所があったりと、そのままではとても細切れに見えてしまっていたでしょう」
デイビスさんは、それらを整理して、あらゆるスペースを活用しようと考えました。このキャビネットも、場所ごとに奥行きが違い、その裏に隠しているものもありますが、空いたスペースを使ってはめ込んであります。
オーナーと相談して、限られた予算とサステナビリティーの観点から、既存のキッチンキャビネットは残すことにしました。施工中に現場で建具屋さんが、バーチ材仕上げ合板を使ってフロントパネルを付けてくれたので、コスト減がはかれました。
「器具も再利用していますし、キッチン奥のバックスプラッシュ壁には、スタンダードな白の角タイルを採用したので、コストを押さえることができました」(デイヴィスさん)
引き出しの左側にある扉には、食洗機が仕込んでありますが、デイヴィスさんによれば「給湯機、洗濯機、乾燥機を、2階の浴室内に配置したことで、このスペースが空きました」とのこと。
ステンレスのワークトップは、予算内のものから選びました。当初の計画では、オーナーが以前に持っていたスチール板を再利用する予定でしたが、搬出時に破損してしまったのだそう。「ただステンレスが目的にかなう材料だということはオーナーもわかっていました。高価な素材ではありませんし、経年変化も楽しめると言ってくれました。オーナーご家族のキッチンの使い方や、全体のマテリアルの組み合わせとも相性が良かったのです。もしテラゾーや大理石のワークトップにしていたら、うるさすぎたり浮いて見えてしまったことでしょう」(デイヴィスさん)
「器具も再利用していますし、キッチン奥のバックスプラッシュ壁には、スタンダードな白の角タイルを採用したので、コストを押さえることができました」(デイヴィスさん)
引き出しの左側にある扉には、食洗機が仕込んでありますが、デイヴィスさんによれば「給湯機、洗濯機、乾燥機を、2階の浴室内に配置したことで、このスペースが空きました」とのこと。
ステンレスのワークトップは、予算内のものから選びました。当初の計画では、オーナーが以前に持っていたスチール板を再利用する予定でしたが、搬出時に破損してしまったのだそう。「ただステンレスが目的にかなう材料だということはオーナーもわかっていました。高価な素材ではありませんし、経年変化も楽しめると言ってくれました。オーナーご家族のキッチンの使い方や、全体のマテリアルの組み合わせとも相性が良かったのです。もしテラゾーや大理石のワークトップにしていたら、うるさすぎたり浮いて見えてしまったことでしょう」(デイヴィスさん)
ダイニング奥の裏庭に面した壁には、ドアではなく窓が設置されています。「ここが増築部で一番低い場所なので、外部への歩行動線よりも、座る場所に適していたからです」とデイヴィスさんは説明します。
オーナー夫婦が手作りしたテーブルは、メラミン化粧合板をカットしてもらって、そこにヘアピン状の脚を取り付けました。
メラミン仕上げのテーブル天板、積層合板風エッジ:The Contract Chair Company社
机・ダイニングテーブル用脚: The Hairpin Leg Company社
オーナー夫婦が手作りしたテーブルは、メラミン化粧合板をカットしてもらって、そこにヘアピン状の脚を取り付けました。
メラミン仕上げのテーブル天板、積層合板風エッジ:The Contract Chair Company社
机・ダイニングテーブル用脚: The Hairpin Leg Company社
テーブルを囲むベンチシートが、狭小空間に団らんの場を作り出しています。それだけでなく、ベンチの中が収納になっていて、玩具を片付けるのにぴったりです。持ち上げるタイプの蓋を選んだのも、引き出し式よりコストを抑えられるから。デイヴィスさんによれば「加工作業も、引き出しのほうが手間がかかるので、蓋にするとコストも少し減らせる」とのこと。
トロメオ・ミニ・ウォールランプ:Artemide社(The Conran Shopにて購入可能)
トロメオ・ミニ・ウォールランプ:Artemide社(The Conran Shopにて購入可能)
デザインを成功させるカギは、広範囲にわたるガラスの建具です。これにより空間が実際より広く見えるようになりました。二方向に面した大きな窓や庭側の増築部の天窓に加えて、屋外通路を取り込んだ増築部にも大きなガラス框扉と、屋根全体をカバーする天窓が設けられています。暑くなりすぎないか心配なところですが、側面の窓は北向きで、庭側の窓は西向きなので大丈夫です。
天窓に沿った梁が何本も露出していますが、これはペンダントライトを吊るすのと、コスト削減の両方の理由があったためです。デイヴィスさんによれば「ガラス一枚あたりのサイズを小さくするほうが圧倒的に安価ですんだ」そう。
「大きなガラスにすると、もっと重厚なフレームが必要になるか、もしかしたら鉄骨を追加する必要があったかもしれません。ガラスの価格も高くなるし、道路から建物の中を通して、この裏手まで搬入するのは非常に難しかったでしょう」(デイヴィスさん)木材のままの梁は、対面するキッチンの仕上げともうまくリンクしています。
テラゾー・ジオメトリック・ペンダントライト:Beautiful Halo社
天窓に沿った梁が何本も露出していますが、これはペンダントライトを吊るすのと、コスト削減の両方の理由があったためです。デイヴィスさんによれば「ガラス一枚あたりのサイズを小さくするほうが圧倒的に安価ですんだ」そう。
「大きなガラスにすると、もっと重厚なフレームが必要になるか、もしかしたら鉄骨を追加する必要があったかもしれません。ガラスの価格も高くなるし、道路から建物の中を通して、この裏手まで搬入するのは非常に難しかったでしょう」(デイヴィスさん)木材のままの梁は、対面するキッチンの仕上げともうまくリンクしています。
テラゾー・ジオメトリック・ペンダントライト:Beautiful Halo社
レセプションルームと呼ばれる家の中間部にある居間部分から通じるこの窓は、もとは屋外通路に面していたものをそのまま残しました。
「部分的に閉じられた屋外空間のように見せたかったのです。また声が通るように、窓を開けられる形で残すことも、オーナーご一家の要望でした。この窓のおかげで外と内の空間がつながるのです。」とデイヴィスさんは解説します。庭からキッチンに入る全面ガラスの扉と合わせて、奥の居間にたっぷりと光が届くようになっています。
写真の背の高いキャビネットの中には、左側に冷蔵庫・冷凍庫、右側に収納がおさまっています。
「部分的に閉じられた屋外空間のように見せたかったのです。また声が通るように、窓を開けられる形で残すことも、オーナーご一家の要望でした。この窓のおかげで外と内の空間がつながるのです。」とデイヴィスさんは解説します。庭からキッチンに入る全面ガラスの扉と合わせて、奥の居間にたっぷりと光が届くようになっています。
写真の背の高いキャビネットの中には、左側に冷蔵庫・冷凍庫、右側に収納がおさまっています。
この写真では、左の屋外通路の突き当りに、今は屋内に取り込まれた窓が見えています。デイヴィスさんは、既存の差し掛け増築部と裏庭側の壁を解体し、同じ線に沿って新たに増築部をつくったのです。
「このエリアは建築制限のある保存地区なので、近隣に平らな屋根がない場合、自分も平屋根をつけることはできないのです」とデイヴィスさん。「また建物の裏手には守るべき建築線があって、決められたボリュームの中でしか建てられません。したがって今回はそのスペースの中でできる限り良いものをつくるしかなかったのです」
「このエリアは建築制限のある保存地区なので、近隣に平らな屋根がない場合、自分も平屋根をつけることはできないのです」とデイヴィスさん。「また建物の裏手には守るべき建築線があって、決められたボリュームの中でしか建てられません。したがって今回はそのスペースの中でできる限り良いものをつくるしかなかったのです」
新しい増築部分は、ロンドンの古レンガとウェールズ産のスレートを利用した、とてもシンプルな見た目です。ところが施工は、見かけほど簡単ではありませんでした。
「小さな外皮面積の中にレンガがあり、窓枠があって、スレート屋根があるので、いちいち異なる取り合いやディテールが肝心でした。違う素材をきっちりと合わせたり、天窓とスレートやレンガを同じ平面に揃えたりするのは大変な作業でした」(デイヴィスさん)
窓の内外にベンチを置いたことも空間をつなげるのに役立っているとデイビスさんは語ります。「窓越しに会話できるし、庭も住宅の一部と感じることができます」
「小さな外皮面積の中にレンガがあり、窓枠があって、スレート屋根があるので、いちいち異なる取り合いやディテールが肝心でした。違う素材をきっちりと合わせたり、天窓とスレートやレンガを同じ平面に揃えたりするのは大変な作業でした」(デイヴィスさん)
窓の内外にベンチを置いたことも空間をつなげるのに役立っているとデイビスさんは語ります。「窓越しに会話できるし、庭も住宅の一部と感じることができます」
オーナー夫妻が新しい部屋を見て喜んだのは言うまでもありません。この「アフター」の平面図を見ると、左上の部分だけだった元のキッチンと比べて、どれほど部屋が広くなったかがわかります。
「狭い面積を最大限利用して、広く見せることができてよかったです」(デイヴィスさん)
こちらの記事もあわせて
・リノベーションをするとなったら、心がけておくべき11のこと
・リノベーション前に考えておきたい5つのこと
・自宅のリフォーム・リノベーションを進める前に考えるべきこと
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