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再生した京町家を拝見。5つの事例から学ぶ改修のポイント
京都の町並みの中に静かに佇む改修された町家。昔ながらの建築の造形美を保ちながら、機能性も追求された「伝統」と「革新」が融合した住まいをご紹介します。

Miki Anzai
2022年1月17日
Editor |Houzz Japan
三方を山で囲まれた盆地の京都。冬は「京の底冷え」といわれるほど寒く、夏は「油照り」といわれるほど蒸し暑いことで有名です。京町家は、そのような厳しい気候の中でも心地よく暮らしていけるように、先人の知恵や美意識が積み重ねてつくられてきました。しかし、現存する建物の多くは、築100年近くになり老朽化が進んでおり、快適に暮らすには改修が必要です。
そこで今回は、飛躍的に暮らしやすく生まれ変わった5軒の京町家をご紹介いたします。歴史都市・京都の町に、独特の風情を保ちながら佇むこれらの町家は、次の世代にも受け継いでいけるように設計されていて、住み心地もよさそうです。どのように改修を成功させたのか、実際にリノベーションを手がけた専門家に聞きました。ワンポイント・アドバイスもいただいたので、参考にしてみてください。
*それぞれの写真をクリックすると、同じプロジェクトの他の写真もみられます。
そこで今回は、飛躍的に暮らしやすく生まれ変わった5軒の京町家をご紹介いたします。歴史都市・京都の町に、独特の風情を保ちながら佇むこれらの町家は、次の世代にも受け継いでいけるように設計されていて、住み心地もよさそうです。どのように改修を成功させたのか、実際にリノベーションを手がけた専門家に聞きました。ワンポイント・アドバイスもいただいたので、参考にしてみてください。
*それぞれの写真をクリックすると、同じプロジェクトの他の写真もみられます。
外観と躯体は残して内部を刷新
長屋形式の町家が建ち並ぶ紫野地区に、周囲に溶け込むように再生した京町家です。外観は昔の面影を残し、隣家と壁を共有している構造躯体も補修して利用。その上で耐震性を高めるため、瓦屋根はガルバリウム鋼板に葺き替え、耐震壁を増設し、建物の土台下にコンクリートの基礎を打設しました。
玄関扉をガラス戸に入れ替えたり、奥庭を作庭するなど、間口が狭くて奥行きが長い町家に、光と風を通し、居住空間を広く感じられるような工夫が施されています。
長屋形式の町家が建ち並ぶ紫野地区に、周囲に溶け込むように再生した京町家です。外観は昔の面影を残し、隣家と壁を共有している構造躯体も補修して利用。その上で耐震性を高めるため、瓦屋根はガルバリウム鋼板に葺き替え、耐震壁を増設し、建物の土台下にコンクリートの基礎を打設しました。
玄関扉をガラス戸に入れ替えたり、奥庭を作庭するなど、間口が狭くて奥行きが長い町家に、光と風を通し、居住空間を広く感じられるような工夫が施されています。
町家の内部は、大胆な発想で現代的な住空間に大変身!
土間リビングから一段あがると、ガラス張りの浴室、その奥にダイニングキッチン、裏庭が続きます。入口の真紅の和紙を貼った収納は、玄関外からの視線を遮りながら、建物を支える耐震壁の役目も果たしています。視線が抜ける階段や間接照明が効果的に奥行き感を出しています。
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土間リビングから一段あがると、ガラス張りの浴室、その奥にダイニングキッチン、裏庭が続きます。入口の真紅の和紙を貼った収納は、玄関外からの視線を遮りながら、建物を支える耐震壁の役目も果たしています。視線が抜ける階段や間接照明が効果的に奥行き感を出しています。
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2階は、階段の上を壁ではなく障子で仕切り、限られた面積を広く使えるように、段差をつけたスペースが、収納兼ベッド兼腰掛けとなっています。天井を屋根型にして、垂れ壁をつくることで、優しく包み込まれた感じの空間になっています。
この町家の手がけたATELIER-ASHの矢田朝士さんが教えてくれた、≪京町家を再生するメリット≫とは?
ただし、留意点としては「目に見えない柱や土台の腐食具合をきちんとチェックし、誠実に設計施工してくれる業者を選ぶこと」だそうです。この町家も、床下土台の約2割がシロアリ被害にあっていたため、蟻害対策を施したそうです。
この町家の手がけたATELIER-ASHの矢田朝士さんが教えてくれた、≪京町家を再生するメリット≫とは?
- 新築よりも比較的予算を低く抑えられ、現行の建ぺい率にとらわれずに、(条件があえば)市の補助金を受けて改修できる
- 京都の暮らしの中に残された美しい町家と街並みの姿を保存できる
- 京町家の資産価値は下落しにくい傾向にある
ただし、留意点としては「目に見えない柱や土台の腐食具合をきちんとチェックし、誠実に設計施工してくれる業者を選ぶこと」だそうです。この町家も、床下土台の約2割がシロアリ被害にあっていたため、蟻害対策を施したそうです。
機織り工房をリビングに
西陣に特徴的な、住居空間の奥に機織り工房のある「織屋建(おりやだて)」といわれる職住一棟型の町家です。
若夫婦が購入して、吹抜けの機織り工房だった土間を多目的リビングスペースに改修しました。地元の古建具店で見立てた松をモチーフにした建具が光ります。土壁の塗り直しは、ご夫妻が自らされました。
西陣に特徴的な、住居空間の奥に機織り工房のある「織屋建(おりやだて)」といわれる職住一棟型の町家です。
若夫婦が購入して、吹抜けの機織り工房だった土間を多目的リビングスペースに改修しました。地元の古建具店で見立てた松をモチーフにした建具が光ります。土壁の塗り直しは、ご夫妻が自らされました。
この町家をはじめとして200軒以上の古民家再生を手がけてきたローバー都市建築事務所の野村正樹さんが教えてくれた、≪町家を後世に残すためにすべきこと≫とは?
- 建物の劣化状況を専門家にみてもらってから再生計画をたてる
- 次世代が手を加えられるように、梁や柱を抜き過ぎるなど、無謀な改修をせず、長期的な視点にたって再生する
- 古民家の良さを残しつつも、現代的な技術や知恵はフル活用して、家に快適さを付与する
- 町家再生の経験が豊富な建築家や工務店に依頼する
構造体の内側に入子状の3LDKを新築
新選組にゆかりの深い壬生地区に建つこの町家は、瓦の一部が落ちて、腐食もかなり進んでいました。傷み具合が激しかったので、再生にあたり、構造躯体の内側に新たに木造軸組工法で構造体を「入れ子状」につくりました。
その上で、新しい勾配屋根の防水工事、樋のやりかえなど雨水処理を万全にし、電気・ガス・給排水などのインフラをやりかえ、床暖房を設置するなど、目に見えない部分ながら「家の延命(維持管理)に不可欠な箇所」をまず押さえて設計したそうです。
新選組にゆかりの深い壬生地区に建つこの町家は、瓦の一部が落ちて、腐食もかなり進んでいました。傷み具合が激しかったので、再生にあたり、構造躯体の内側に新たに木造軸組工法で構造体を「入れ子状」につくりました。
その上で、新しい勾配屋根の防水工事、樋のやりかえなど雨水処理を万全にし、電気・ガス・給排水などのインフラをやりかえ、床暖房を設置するなど、目に見えない部分ながら「家の延命(維持管理)に不可欠な箇所」をまず押さえて設計したそうです。
町家に典型的な、狭い間口に奥行きが長い、いわゆる「うなぎの寝床」ような敷地です。その限られた床面積の中で、吹き抜けのある開放的なLDKと、2階(1階のキッチン上)には、機能的に必要となるウォーキングクローゼットも設け、収納もきちんと確保しました。
町家は一度取り壊してしまうと、現在の建築基準法に準拠しなければならず、必然的に新築すると狭い家になってしまいます。このように改修することで、狭いながらも最低限の生活空間を確保できるのです。また敷地奥には、解体時に出た屋根瓦を再利用してデザインした奥庭もあります。
京都を拠点とする造園家を探す
町家は一度取り壊してしまうと、現在の建築基準法に準拠しなければならず、必然的に新築すると狭い家になってしまいます。このように改修することで、狭いながらも最低限の生活空間を確保できるのです。また敷地奥には、解体時に出た屋根瓦を再利用してデザインした奥庭もあります。
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この町家を手がけたKoyoriの中村昌彦さん・中村菜穂子さんが教えてくれた、≪町家を購入して再生する際の心構え≫とは?
- どの町家も、木材の劣化や耐震性・断熱性などの弱さは避けられないため、本当に気に入った町家を見つけて、楽しみながら手を入れていくこと
- 「車でもクラシックカーにいくら手をかけても、新車にはかなわないのと同じ」ように、家も設備面では新築のほうが快適である。京町家は、極寒の冬や酷暑の夏をしのぐために、いろいろな工夫が凝らされていたが、最近の気候は、昔の比ではないので、断熱や空調設備はしっかりとすること
京町家と昭和初期の洋風テイストを融合
鴨川近くに明治時代から建つ、改修が繰り返されていた京町家です。外観は軒庇が取り壊され、洋風な看板建築と化していました。内部も京町家の特徴である「通り土間」は無くなっていました。そんな京町家の面影と昭和初期の洋風の仕上がりが入り混じった空間を、最大限に活かしながら、現代の生活習慣にあった暮らしができるようにリノベーションしています。
鴨川近くに明治時代から建つ、改修が繰り返されていた京町家です。外観は軒庇が取り壊され、洋風な看板建築と化していました。内部も京町家の特徴である「通り土間」は無くなっていました。そんな京町家の面影と昭和初期の洋風の仕上がりが入り混じった空間を、最大限に活かしながら、現代の生活習慣にあった暮らしができるようにリノベーションしています。
玄関扉(写真右)はそのまま残し、グレーの敷瓦(しきがわら)を、45度の角度で四半敷(しはんじき)することで、陰翳のある土間スペースが誕生しました。
障子戸も再利用しています。別の場所にあった3枚の引き戸は、土間奥の収納の扉に代用しました。
障子戸の上の欄間は、以前はプリント合板が貼ってあり隠れていましたが、剥がしたときに砂壁の中から出てきたものです。
障子戸も再利用しています。別の場所にあった3枚の引き戸は、土間奥の収納の扉に代用しました。
障子戸の上の欄間は、以前はプリント合板が貼ってあり隠れていましたが、剥がしたときに砂壁の中から出てきたものです。
この部屋の土壁は剥がさずに、吸放湿に優れている断熱材を吹きつけた上に土をあらたに塗っています。床材は杉の縁甲板に張り替え古色仕上げに。光を取り込むために、天窓を設けたり、減築して外の壁を白く塗り直し、建物との間に庭スペースを創出するなど工夫をこらしています。
この町家再生を手がけたI.M.A DESIGN OFFICEの今村領太さんの教えてくれた、≪町家暮らしにむいている人の特徴≫とは?
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この町家再生を手がけたI.M.A DESIGN OFFICEの今村領太さんの教えてくれた、≪町家暮らしにむいている人の特徴≫とは?
- 町家は新築にくらべて、メンテナンス面でトラブルが出やすいので、建物の経年変化や不具合を「味」と思って、楽しみながら生活できる
- 建物の構造やコミュニティのあり方など、町家暮らしはマンション生活とは大きく異なるので、その違いを理解している
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2棟で構成されていた町家を2世帯住宅に
ひとり暮らしをされていたお父さまが、息子さんご家族と一緒に暮らすために改修した、中央地区に建つ築100年超の町家です。
2棟が渡り廊下で繋がっていた建物を、道路に面した東棟1階をお父さまの住まいに、西棟1・2階と東棟の2階を息子さんご家族の住まいとして、浴室のみを共有しています。
ひとり暮らしをされていたお父さまが、息子さんご家族と一緒に暮らすために改修した、中央地区に建つ築100年超の町家です。
2棟が渡り廊下で繋がっていた建物を、道路に面した東棟1階をお父さまの住まいに、西棟1・2階と東棟の2階を息子さんご家族の住まいとして、浴室のみを共有しています。
町家本来の姿を大切にするために、既存の梁などは可能な限り残して、現(あらわ)しにしています。欄間も、吹抜け手摺部分の化粧として再利用するなど、町家の記憶を留める工夫をしています。
また、耐震診断結果に基づいた耐震設計をおこない、断熱は次世代省エネルギー基準をクリアする断熱性能を持たせるなど、安心して快適に過ごせる住環境をつくりだしました。
また、耐震診断結果に基づいた耐震設計をおこない、断熱は次世代省エネルギー基準をクリアする断熱性能を持たせるなど、安心して快適に過ごせる住環境をつくりだしました。
この町家を手がけた空間工房 用舎行蔵 一級建築士事務所の村西弘至さんが教えてくれた、≪所有する町家の改修を建築家へ依頼するときに役立つポイント≫とは?
- 築年数や改修履歴が分かるとよいが、施工中の現場で臨機応変に対応して工事を進めることもあるので、まずはどのような家にしたいか希望を伝える
- 既存の町家に対する懸念ポイント(寒さや暗さ、耐震への不安など)を挙げることで、理想の空間が浮かび上がってくることが多い
- 規模の大きい町家の場合、一部を貸し出すなど、建物自体が収益を生み出す仕組みを検討してもよい
- 一人で悩まずに、公益財団法人 京都市景観・まちづくりセンターに町家専門に相談できる部署があるので、相談をしてみる
それぞれの思いで再生された京町家、いかがでしたか? 京都の先人の知恵と粋(いき)の結晶である町家。その良さをいかしながら、現代の暮らしに合わせてリノベーションされた建物は、「伝統」と「革新」を融合させた、次世代に安心して引き継げる住まいです。これらの事例を参考にしながら、どうぞご自身が理想とする「京町家の再生」にチャレンジしてみてください。
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