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建築家たちが考える、これからの都市と住まいのあり方とは?
アンヌ・ラカトンなどの受賞歴を持つ建築家たちが、より柔軟で適応力がある住宅建築のビジョンについて語りました。
Rafael F. Bermejo
2021年10月5日
「住宅の質は、人間の健康や幸福だけでなく、都市の発展や健全性や幸福にとって重要な要素となっています。ロックダウンを経験して多くの人がこのことに気がついたのです」。第6回建築と社会国際会議(the 6th International Congress Architecture and Society、スペインのパンプローナにて9月8日〜10日開催)のディレクターを務めた建築家のホセ・マリア・エスキアガ(José María Ezquiaga)がフランスの建築家アンヌ・ラカトンを紹介するスピーチの中でこのように発言しました。ロックダウン中に多くの住宅は危機的な状況に陥り、豊かな国であっても「住宅の居住性の問題がまだ解決できていない」ことが示されたとエスキアガは指摘しました。
ラカトン&ヴァッサル、フレデリック・ドゥルオ、クリストフ・ユタンによる530戸の集合住宅リノベーション、ボルドー(2017)。写真:Philippe Ruault
住まいづくりは「現代建築にとって最も美しい挑戦」
2021年プリツカー賞をパートナーのジャン・フィリップ・ヴァッサル共に受賞したラカトンは、住宅は都市再生の鍵になると語りました。魅力的なスピーチの中で、自身のスタジオのプロジェクトとして実際に取り組んだ住宅建築のビジョンについて語りました。現在、住まいづくりは「現代建築にとって最も美しい挑戦」であると話しました。
住まいづくりは「現代建築にとって最も美しい挑戦」
2021年プリツカー賞をパートナーのジャン・フィリップ・ヴァッサル共に受賞したラカトンは、住宅は都市再生の鍵になると語りました。魅力的なスピーチの中で、自身のスタジオのプロジェクトとして実際に取り組んだ住宅建築のビジョンについて語りました。現在、住まいづくりは「現代建築にとって最も美しい挑戦」であると話しました。
住宅は間違いなく不可欠で、また、住戸は都市を形成する基本単位でもあります。だからこそ、未来の都市のための戦略はまず住宅づくりから考えるべきだとラカトンは考えています。
「突如、ステイホームの必要性が現れたことによって、住まいが私たちの日常生活において最も重要な場所であることが明らかになりました。この期間中、多くの人は住宅の使い方を『拡張』し、多機能性を『取り入れ』なければなりませんでした。住宅は日常生活、仕事、学習、レジャーなど複数の用途を持つ場所になったのです…より拡張的で、より密接で、より永続的な、新しい家族生活の場です」
ラカトンはさらに、現状の住宅の質は十分ではなく、適切な使われ方がされておらず、自由や多様性を提供できていないと主張しました。「住宅は人と人や社会との関係性のための場所であり、関係性が築かれる場所なのです…そして住宅づくりの質が公共の場での関係性の質を左右します」
「突如、ステイホームの必要性が現れたことによって、住まいが私たちの日常生活において最も重要な場所であることが明らかになりました。この期間中、多くの人は住宅の使い方を『拡張』し、多機能性を『取り入れ』なければなりませんでした。住宅は日常生活、仕事、学習、レジャーなど複数の用途を持つ場所になったのです…より拡張的で、より密接で、より永続的な、新しい家族生活の場です」
ラカトンはさらに、現状の住宅の質は十分ではなく、適切な使われ方がされておらず、自由や多様性を提供できていないと主張しました。「住宅は人と人や社会との関係性のための場所であり、関係性が築かれる場所なのです…そして住宅づくりの質が公共の場での関係性の質を左右します」
都市での暮らしを考える時、住宅を見直すことは不可欠
バウムシュラーガー・エベルレ・アーキテクテンの共同設立者であるオーストリア人建築家のディーター・エベルレは、「住宅の再発明」というスピーチの中で、都市の建築物の65%から70%が居住空間であることから、住宅を見直すことが必須であると主張しました。つまり、都市での暮らし方を見直すためには、まず住宅を見直すことが不可欠なのです。
Houzzで住まいの専門家を探す
バウムシュラーガー・エベルレ・アーキテクテンの共同設立者であるオーストリア人建築家のディーター・エベルレは、「住宅の再発明」というスピーチの中で、都市の建築物の65%から70%が居住空間であることから、住宅を見直すことが必須であると主張しました。つまり、都市での暮らし方を見直すためには、まず住宅を見直すことが不可欠なのです。
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住む人が自由に演出できる、余白のある居住空間を
エベルレは、建築家はまずは建物の使われ方にとらわれず、住宅と周辺環境の関係性、そして10年から20年で耐用年数を迎える内装・照明・空調設備などよりも50年程度使われ続ける構造やファサードとの関係性を重視するべきだと訴えました。
「建築家は公共空間や公共空間と建築物の関係性についてまず考え、その次に建築の構造について考えるべきです」彼は最近のアムステルダムにおける集合住宅のプロジェクトにおいて、機能や使い方ではなく、品質やより長く使われる要素について重きを置いてデザインしたと話しました。「住戸部分のレイアウトは、建築的な問題ではなく、個人の問題であるというのが私の信条です。だから私は、居住者が自分の好きなようにレイアウトできる機会を与えるような建物を作りたいのです」
エベルレは、建築家はまずは建物の使われ方にとらわれず、住宅と周辺環境の関係性、そして10年から20年で耐用年数を迎える内装・照明・空調設備などよりも50年程度使われ続ける構造やファサードとの関係性を重視するべきだと訴えました。
「建築家は公共空間や公共空間と建築物の関係性についてまず考え、その次に建築の構造について考えるべきです」彼は最近のアムステルダムにおける集合住宅のプロジェクトにおいて、機能や使い方ではなく、品質やより長く使われる要素について重きを置いてデザインしたと話しました。「住戸部分のレイアウトは、建築的な問題ではなく、個人の問題であるというのが私の信条です。だから私は、居住者が自分の好きなようにレイアウトできる機会を与えるような建物を作りたいのです」
ラカトンも、住宅づくりについて同様の考えを持っています。住まいの基本は、オーナーやテナントが自由に空間を演出できるような、ゆとりあるレイアウトであると考えています。
「住むということは…空間を占有する自由を意味します。…住まいは可能性を生み出すために使用方法の自由を提供するべきです。住宅は、空間内の関係を促進し、快い状況をもたらすために、用途が決められた空間と同じくらいの広さの『あそび』の空間を提供しなければなりません。すべての住居には、バルコニー、テラス、温室などのプライベートな外部空間があるべきです…壁で制限された空間に閉じ込められることなく、動き回る機会を提供するために」
「住むということは…空間を占有する自由を意味します。…住まいは可能性を生み出すために使用方法の自由を提供するべきです。住宅は、空間内の関係を促進し、快い状況をもたらすために、用途が決められた空間と同じくらいの広さの『あそび』の空間を提供しなければなりません。すべての住居には、バルコニー、テラス、温室などのプライベートな外部空間があるべきです…壁で制限された空間に閉じ込められることなく、動き回る機会を提供するために」
ラカトン&ヴァッサル、フレデリック・ドゥルオ、クリストフ・ユタンによる530戸の集合住宅リノベーション、ボルドー(2017)。写真:Philippe Ruault
つまりは、家は基本的な機能を備えた上で、さらに余分なスペースも提供する必要があるということです。60〜65平方メートルの広さで2つの寝室があるのが標準的な住宅であるフランスにおいて、これは難しいことだとラカトンは指摘します。フランスのミュルーズにある60戸の住宅のプロジェクトでは、カーテンや大きなスライディングドアを開閉することで、さまざまな雰囲気を演出できるなど、具体的な例を紹介しました。
また、家の中での動きがスムーズになるように、ドアを大きくすることも提唱しています。これは、ボルドーにある3つのブロックからなる建物にある530戸の集合住宅を根本的に変えたアイデアのひとつです。ラカトンたちはインテリアに手を付けることなく、各住戸に特大のクローズドテラスの構造物を取り付けることにより、住宅を外から変えました。窓の開口部は、明るく広々とした空間へと導くドアに変えました。そして、それぞれのオーナーが、独自の方法でテラスを変化させていきました。
つまりは、家は基本的な機能を備えた上で、さらに余分なスペースも提供する必要があるということです。60〜65平方メートルの広さで2つの寝室があるのが標準的な住宅であるフランスにおいて、これは難しいことだとラカトンは指摘します。フランスのミュルーズにある60戸の住宅のプロジェクトでは、カーテンや大きなスライディングドアを開閉することで、さまざまな雰囲気を演出できるなど、具体的な例を紹介しました。
また、家の中での動きがスムーズになるように、ドアを大きくすることも提唱しています。これは、ボルドーにある3つのブロックからなる建物にある530戸の集合住宅を根本的に変えたアイデアのひとつです。ラカトンたちはインテリアに手を付けることなく、各住戸に特大のクローズドテラスの構造物を取り付けることにより、住宅を外から変えました。窓の開口部は、明るく広々とした空間へと導くドアに変えました。そして、それぞれのオーナーが、独自の方法でテラスを変化させていきました。
より環境に優しく暮らしやすい住宅へ
ラカトンもエベルレも、住宅の変革には建物のエネルギー効率の向上が必要だと提言しています。これは、換気扇やエアコンなどの機器によって住民がオープンスペースを自分なりにデザインする能力を制限されていることにも起因しています。
エベルレは、ルクセンブルク、ルステナウ(オーストリア)、グラフ(オーストリア)のプロジェクトで、冷暖房技術を使わないパッシブハウスを建設し、ローバッハ(オーストリア)ではエネルギー最適化住宅プロジェクトを行っています。
ラカトンもエベルレも、住宅の変革には建物のエネルギー効率の向上が必要だと提言しています。これは、換気扇やエアコンなどの機器によって住民がオープンスペースを自分なりにデザインする能力を制限されていることにも起因しています。
エベルレは、ルクセンブルク、ルステナウ(オーストリア)、グラフ(オーストリア)のプロジェクトで、冷暖房技術を使わないパッシブハウスを建設し、ローバッハ(オーストリア)ではエネルギー最適化住宅プロジェクトを行っています。
一方で、ラカトンは、すでに存在するものに働きかけることの重要性も強調しています。
「私たちには、新しい場所を見つけ評価し、都市に空いた穴を埋めるチャンスが与えられています。…しかし、これは住宅の質を上げるために特別な配慮をすることによってなし得るものです。つまり、住宅の質と寛大さ、手頃な価格、人々や生活様式の多様性、これらが都市を作るための必須条件なのです。今、すぐに取り組むべきなのは、公共が目指すものと、建築のプロセスに関わるすべての人に課せられるべき住まいづくりの共通ビジョンを再定義することです」
「私たちには、新しい場所を見つけ評価し、都市に空いた穴を埋めるチャンスが与えられています。…しかし、これは住宅の質を上げるために特別な配慮をすることによってなし得るものです。つまり、住宅の質と寛大さ、手頃な価格、人々や生活様式の多様性、これらが都市を作るための必須条件なのです。今、すぐに取り組むべきなのは、公共が目指すものと、建築のプロセスに関わるすべての人に課せられるべき住まいづくりの共通ビジョンを再定義することです」
「居住性がなければ、都市の健全性や幸福はありません」とエスキアガは指摘します。
「都市は単に生き残るための場所ではなく、世界における私たちの在り方を反映するものでなければなりません。持続可能な開発とレジリエンスの考え方を取り入れた新しい視点を採用しなければなりません。炭素排出量の削減や公共空間を大切にするという課題に対応できる都市が必要です」。このような状況において、住宅が重要な役割を果たしていることは間違いありません。
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「都市は単に生き残るための場所ではなく、世界における私たちの在り方を反映するものでなければなりません。持続可能な開発とレジリエンスの考え方を取り入れた新しい視点を採用しなければなりません。炭素排出量の削減や公共空間を大切にするという課題に対応できる都市が必要です」。このような状況において、住宅が重要な役割を果たしていることは間違いありません。
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