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築100年超の古民家再生。事例から学ぶ成功の秘訣
自然素材で作られた歴史ある古民家。現在の快適な住まいとしてすみ継ぐためにリノベーションされた、8つの事例をご紹介します。
Miki Anzai
2021年11月14日
古民家の魅力は、風格のある佇まい、歴史の重みを感じる柱や梁、自然素材に包まれた心にもカラダにも優しいなどたくさんあります。特に100年の月日を経た建物には、意匠をこらした建具や、今では入手困難な木材が使われているなど、文化的価値が高いケースもあります。とはいえ、築年数の経過にともなう劣化は避けられず、耐震性、気密性、断熱性の面では不安が残ります。
そこで、今回は、江戸時代から大正時代に建てられた住宅を、安全で快適な住まいとして再生した事例を、実際にリノベーションを手がけた専門家の方々の解説を交えてご紹介します。さまざまな想いをこめて現代によみがえった古民家を、どうぞご覧ください。
そこで、今回は、江戸時代から大正時代に建てられた住宅を、安全で快適な住まいとして再生した事例を、実際にリノベーションを手がけた専門家の方々の解説を交えてご紹介します。さまざまな想いをこめて現代によみがえった古民家を、どうぞご覧ください。
土間天井の立派な梁は現しにし、板は張り替え、古色仕上げにしています。突き当たりの壁には開口を設け、新設した小庭から光を採り入れました。建物を牽引した際に崩れた土壁は、内部の竹小舞から組み直して丁寧に塗り直し、建物全体が高級旅館のように生まれ変わりました。
「基礎からやり直し、安心して暮らせる家になりました。長いスパンで考えると、費用もかなり割安といえるでしょう」(ローバー都市建築事務所の野村正樹さん)。
古民家再生のヒントについての記事を読む
「基礎からやり直し、安心して暮らせる家になりました。長いスパンで考えると、費用もかなり割安といえるでしょう」(ローバー都市建築事務所の野村正樹さん)。
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「地産地消を原則に、周辺環境に馴染んだ長持ちする建物にしたい」という建て主の大前延夫さんの願い通り、古材で使えるものは化粧材として転用し、腐敗が激しかった柱や梁は防虫防腐処理後、床下に敷き詰め、冬の土間の冷気を押さえる断熱材にしました。
土壁の土もほぼすべて再利用し、基礎や外構に使われていた石、畑の土、植栽なども可能な限り再利用しています。
土壁の土もほぼすべて再利用し、基礎や外構に使われていた石、畑の土、植栽なども可能な限り再利用しています。
「大前さんのように、建て主さんに強い想いがあれば、伝統的な茅葺き民家を、暮らしやすい現代建築として蘇らせることができます」と語るいるか設計集団の殿井直さん。
ただし、古民家を移築再生する場合は、大変な手間がかかるので、「事前調査や解体作業を丁寧におこなうことが肝心」と言います。「大前家住宅」では、文化財ということもあり、解体前の実測調査に、建築史家や大工職人にも立ち会ってもらい、周到に設計をしました。
この家の再生ストーリーを読む
ただし、古民家を移築再生する場合は、大変な手間がかかるので、「事前調査や解体作業を丁寧におこなうことが肝心」と言います。「大前家住宅」では、文化財ということもあり、解体前の実測調査に、建築史家や大工職人にも立ち会ってもらい、周到に設計をしました。
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フルリフォームした大正時代の平屋住宅
埼玉県狭山市に祖父が建てた古民家を、新旧の調和のとれた家に再生しました。比較的状態の良かった瓦の切妻屋根を補強して残すことで、日本家屋らしい外観に仕上げました。今後さらに100年間、この地でこの家を受け継いでいけるように、建物(骨格)の外周にコンクリートの基礎を増設し、耐震性、耐久性、断熱性を向上させています。梁や鴨居を再利用しながら、間取りやファシリティは、現代の暮らしに合うように入れ替えています。
「古民家再生では、あれもこれも直したくなりがちなので、改修したい部分の優先順位をつけて、予算内におさめることがポイントです」(独楽蔵の長崎昭人さん)。この家の再生では、コストがかかる構造部に手を加えた分、天井は吹抜けにせず、床を下げることで高さを確保するなど工夫をこらしています。
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埼玉県狭山市に祖父が建てた古民家を、新旧の調和のとれた家に再生しました。比較的状態の良かった瓦の切妻屋根を補強して残すことで、日本家屋らしい外観に仕上げました。今後さらに100年間、この地でこの家を受け継いでいけるように、建物(骨格)の外周にコンクリートの基礎を増設し、耐震性、耐久性、断熱性を向上させています。梁や鴨居を再利用しながら、間取りやファシリティは、現代の暮らしに合うように入れ替えています。
「古民家再生では、あれもこれも直したくなりがちなので、改修したい部分の優先順位をつけて、予算内におさめることがポイントです」(独楽蔵の長崎昭人さん)。この家の再生では、コストがかかる構造部に手を加えた分、天井は吹抜けにせず、床を下げることで高さを確保するなど工夫をこらしています。
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築120年の蔵を、改修&増築して住宅に
先々代の所有物がずっと置かれていた蔵を、娘さん夫妻が帰省した際に泊まったり、奥様が「お花の教室」を開ける空間にリノベーションしました。蔵の土壁に穴を開けると外観が損なわれてしまうので、2階建ての蔵の内部は、居室空間のみで構成し、蔵の下屋根部分を手前に張り出し、ダイニング・キッチン、シャワー室、トイレを増設しました。
「設計で一番苦労したのが、増設部分の屋根です。美観のため、蔵の屋根の丸桁(まるげた、丸い太い梁)より下に新しい勾配屋根をつくる必要がありました。そうすると、増設部の天井が低くなってしまうので、既存の瓦を一列削って調整しました」(独楽蔵の長崎さん)。「シャワーブースは、どうしても屋根の下にはつくれなかったので、高さ約2メートルの棟を目立たないように横付けしました」(長崎さん)。
また以前の蔵の階段は、梯子のように急だったので撤去し、場所を変えて作り直し、目隠し兼収納の壁も設えて、すっきりとした空間をつくりだしました。
先々代の所有物がずっと置かれていた蔵を、娘さん夫妻が帰省した際に泊まったり、奥様が「お花の教室」を開ける空間にリノベーションしました。蔵の土壁に穴を開けると外観が損なわれてしまうので、2階建ての蔵の内部は、居室空間のみで構成し、蔵の下屋根部分を手前に張り出し、ダイニング・キッチン、シャワー室、トイレを増設しました。
「設計で一番苦労したのが、増設部分の屋根です。美観のため、蔵の屋根の丸桁(まるげた、丸い太い梁)より下に新しい勾配屋根をつくる必要がありました。そうすると、増設部の天井が低くなってしまうので、既存の瓦を一列削って調整しました」(独楽蔵の長崎さん)。「シャワーブースは、どうしても屋根の下にはつくれなかったので、高さ約2メートルの棟を目立たないように横付けしました」(長崎さん)。
また以前の蔵の階段は、梯子のように急だったので撤去し、場所を変えて作り直し、目隠し兼収納の壁も設えて、すっきりとした空間をつくりだしました。
大正時代の町家を修理復元
古民家を現代風に、便利で快適な家にリフォームして欲しいというニーズが多い中、大正時代に建てられた東京都青梅市の家を、「なるべく元のように修復したい」との建て主さんからの要望に応えて再生した木造平屋です。
10年以上も空き家だったので、柱の根元と床は腐り、家全体も傾いていました。しかし、惺々舎の深田真さんは、根元が腐食した柱は、ジャッキアップして一本一本根継ぎし、床高を揃え、土壁は塗り直し、足固め・根太・荒床板・畳寄せを新しくすることで、修復しました。自身が生まれ育ったご実家も同時期に建てられた似た造りの建物だったため、懐かしさも手伝って、伝統構法で元の姿に修復させたそうです。
「他の業者は建て直しを勧めてきましたが、屋根裏や縁の下をくまなく調べて改修を引き受けてくださったのは深田さんだけでした。祖父の思い出がつまった家を救ってくれた恩人です」(オーナー)。
古民家を現代風に、便利で快適な家にリフォームして欲しいというニーズが多い中、大正時代に建てられた東京都青梅市の家を、「なるべく元のように修復したい」との建て主さんからの要望に応えて再生した木造平屋です。
10年以上も空き家だったので、柱の根元と床は腐り、家全体も傾いていました。しかし、惺々舎の深田真さんは、根元が腐食した柱は、ジャッキアップして一本一本根継ぎし、床高を揃え、土壁は塗り直し、足固め・根太・荒床板・畳寄せを新しくすることで、修復しました。自身が生まれ育ったご実家も同時期に建てられた似た造りの建物だったため、懐かしさも手伝って、伝統構法で元の姿に修復させたそうです。
「他の業者は建て直しを勧めてきましたが、屋根裏や縁の下をくまなく調べて改修を引き受けてくださったのは深田さんだけでした。祖父の思い出がつまった家を救ってくれた恩人です」(オーナー)。
明治時代中期の古民家を修復再生
神奈川県横浜市在住のご夫妻が、定年後に移住するために、三重県津市に建つ古民家を購入し、陰翳が味わえる趣のある家に修復再生させました。
この建物は、敷地近くを流れる河川の増水により、戦後堤防が出来るまで、度々床下浸水していました。そのせいで、柱の根元や足固めなど、床組のほとんどが激しく腐食し、土壁の下部も崩れていました。しかし、深田さんは、伝統的な石場建て構造のまま、柱をあげて根継ぎし、足固め・根太・荒床板を新たにし、崩れた土壁は竹小舞を補修して塗り直すことで、構造強度を落とさずに建物を修復させました。
「自然素材を使って、伝統構法で建てた家は、物質的にも精神的にも心地よいのが利点」だという深田さん。古民家を修復再生させる際の重要ポイントは、「雨漏り」だと言います。「青梅市の町家も津市の古民家もそうでしたが、水は大敵です。雨漏りによる腐食程度をきちんと調べてから、再生可能かどうかを検討してください」(深田さん)
神奈川県横浜市在住のご夫妻が、定年後に移住するために、三重県津市に建つ古民家を購入し、陰翳が味わえる趣のある家に修復再生させました。
この建物は、敷地近くを流れる河川の増水により、戦後堤防が出来るまで、度々床下浸水していました。そのせいで、柱の根元や足固めなど、床組のほとんどが激しく腐食し、土壁の下部も崩れていました。しかし、深田さんは、伝統的な石場建て構造のまま、柱をあげて根継ぎし、足固め・根太・荒床板を新たにし、崩れた土壁は竹小舞を補修して塗り直すことで、構造強度を落とさずに建物を修復させました。
「自然素材を使って、伝統構法で建てた家は、物質的にも精神的にも心地よいのが利点」だという深田さん。古民家を修復再生させる際の重要ポイントは、「雨漏り」だと言います。「青梅市の町家も津市の古民家もそうでしたが、水は大敵です。雨漏りによる腐食程度をきちんと調べてから、再生可能かどうかを検討してください」(深田さん)
明治初期の土蔵を浴室棟に改修
こちらは、宮城県柴田郡にある土蔵一棟を丸ごと浴室に改造しています。傷んでいた柱をクリ材で根継ぎ補強し、表面がボロボロだった土壁は塗り直して、ヒノキ板の腰壁と簀の子で浴槽の周囲を囲んでいます。
伝統構法による木造建築を得意とする惺々舎の深田さんらしく、一度解体した蔵の1階部分を、クギやネジなど一切使わずに、梁や柱を当時のままに再現したので、重厚感のあるお風呂場が実現しました。
浴室だけに換気が心配なところですが、「土壁は自然に呼吸をするので、湿気を外に逃がすことができます」(深田さん)。換気扇も2台つけているので、3帖あまりの浴槽に24時間お湯をはっていても、全く問題ないそうです。
こちらは、宮城県柴田郡にある土蔵一棟を丸ごと浴室に改造しています。傷んでいた柱をクリ材で根継ぎ補強し、表面がボロボロだった土壁は塗り直して、ヒノキ板の腰壁と簀の子で浴槽の周囲を囲んでいます。
伝統構法による木造建築を得意とする惺々舎の深田さんらしく、一度解体した蔵の1階部分を、クギやネジなど一切使わずに、梁や柱を当時のままに再現したので、重厚感のあるお風呂場が実現しました。
浴室だけに換気が心配なところですが、「土壁は自然に呼吸をするので、湿気を外に逃がすことができます」(深田さん)。換気扇も2台つけているので、3帖あまりの浴槽に24時間お湯をはっていても、全く問題ないそうです。
冬場も快適に暮らせるよう改修した古民家
最後にご紹介するのは、福島県南相馬市に建つ、築180年の古民家です。7代目当主が、昔ながらの趣を残しながら、古民家の欠点である断熱性、気密性、耐震性を向上させ、光あふれる家にリノベーションしました。
設計は、「『壊さないで』という声が聞こえてくるような古民家を一軒でも多く残したい」と語る東北地方を中心に古民家再生に取り組むササキ設計の佐々木文彦さんです。日本民家再生協会の理事を務めたこともある佐々木さんは、「東北の古民家再生で一番大事なことは、冬場の対策」と語ります。この家も床・壁・天井にしっかりと断熱材を入れ、薪ストーブを導入したので、住み心地のよさは、「何にも代えがたい」(御当主)と、ご家族で幸せをかみしめているそうです。
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最後にご紹介するのは、福島県南相馬市に建つ、築180年の古民家です。7代目当主が、昔ながらの趣を残しながら、古民家の欠点である断熱性、気密性、耐震性を向上させ、光あふれる家にリノベーションしました。
設計は、「『壊さないで』という声が聞こえてくるような古民家を一軒でも多く残したい」と語る東北地方を中心に古民家再生に取り組むササキ設計の佐々木文彦さんです。日本民家再生協会の理事を務めたこともある佐々木さんは、「東北の古民家再生で一番大事なことは、冬場の対策」と語ります。この家も床・壁・天井にしっかりと断熱材を入れ、薪ストーブを導入したので、住み心地のよさは、「何にも代えがたい」(御当主)と、ご家族で幸せをかみしめているそうです。
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それぞれのケースからも分かるように、プロの手によって現代によみがえった古民家は、先人たちの知恵、技術、魂に触れながら、次の時代を生き抜く力を持っています。温故知新の言葉が似合う極上の空間は、生活に癒やしと潤いをもたらしてくれることでしょう。
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