パリの52㎡。メゾネットタイプの部屋を造作家具で使いやすく、快適に
この小さなメゾネット式のアパルトマンは、巧みな設計のアイデアにより快適な暮らしに必要な機能をすべて備えています。
Agnès Carpentier
2021年9月8日
オーナーである若いカップルが、フランスのボルドーにある住宅に費やせる予算は、合計で30万ユーロ(約4,000万円)でした。リサーチと計算を繰り返した結果、彼らはリノベーションが必要な3、4部屋のアパルトマンを市の郊外に購入するか、市の中心部にあるリノベーション済みの2部屋のアパルトマンを購入する、という2つの選択肢にたどり着きました。
インテリアの専門家である友人に相談後、カップルは後者を採用することに決め、上下階にある2つのワンルームで構成されたメゾネットタイプのアパルトマンを購入しました。そして、それぞれが26平方メートルの大きさである2軒のアパルトマンは、L’atelier Mielの建築家であるエロディ・ガシャルドと、インテリアデザイナーのミカエル・マーティン・アフォンソによって、1軒の小さなメゾネットに改修されました。
今回は、巧みに設計されたモジュール式の家具と長く色褪せることのない装飾を備え、究極までレイアウトを最適化した設計について、アフォンソに話を伺いました。
インテリアの専門家である友人に相談後、カップルは後者を採用することに決め、上下階にある2つのワンルームで構成されたメゾネットタイプのアパルトマンを購入しました。そして、それぞれが26平方メートルの大きさである2軒のアパルトマンは、L’atelier Mielの建築家であるエロディ・ガシャルドと、インテリアデザイナーのミカエル・マーティン・アフォンソによって、1軒の小さなメゾネットに改修されました。
今回は、巧みに設計されたモジュール式の家具と長く色褪せることのない装飾を備え、究極までレイアウトを最適化した設計について、アフォンソに話を伺いました。
写真:Mickaël Martins Afonso
どんなHouzz?
住まい手:初めて住宅を購入する若いカップル
所在地:フランス、ボルドーの歴史地区
面積:52平方メートル
作業時期:2014年
デザイナー:ミカエル・マーティン・アフォンソ
建築家:L’atelier Mielのエロディ・ガシャルド
プロジェクト予算:14万ユーロ(約1,860万円)
どんなHouzz?
住まい手:初めて住宅を購入する若いカップル
所在地:フランス、ボルドーの歴史地区
面積:52平方メートル
作業時期:2014年
デザイナー:ミカエル・マーティン・アフォンソ
建築家:L’atelier Mielのエロディ・ガシャルド
プロジェクト予算:14万ユーロ(約1,860万円)
ビフォー:このアパルトマンは、ボルドーの歴史地区にある地元の石材を用いて建てられた建物内にあります。前の所有者は、2階と3階にあるそれぞれ広さ26平方メートルの2つのスペースを、違法な形で一体化することでメゾネットの住宅としましたが、当時から法的な問題が指摘されていました。
カップルはこの住宅のロケーションと、建物の両側面にある10個の窓から射し込む明るい光に惚れ込み、購入を決意しました。
カップルはこの住宅のロケーションと、建物の両側面にある10個の窓から射し込む明るい光に惚れ込み、購入を決意しました。
アフター:下階にはオープンなキッチンとリビングルームがあり、木製の階段が上階にある寝室と浴室へと続いています。どちらの階も同じ構成になっていて、3つの大きな窓がある長方形の部屋と、独立した箱型で窓を備えた空間が両側に一つずつ配置されています。
こうした珍しい構成に刺激を受け、2人の専門家はすべてのくぼみや出っ張りを巧みに利用し、小さなスケールとはいえ、普通の住宅に備わっているような部屋をすべて揃えた住宅を提案しました。
こうした珍しい構成に刺激を受け、2人の専門家はすべてのくぼみや出っ張りを巧みに利用し、小さなスケールとはいえ、普通の住宅に備わっているような部屋をすべて揃えた住宅を提案しました。
ビフォー:この小さなメゾネット式アパルトマンの状態は悪くありませんでしたが、2人の専門家は、アパルトマンの基本的なレイアウトを最小のディテールまで考え抜いた、オーダーメイドのユニットに置き換える計画を立てました。
「本当に小さなアパルトマンだったので、家具を含めて全てを造り付けとして制作することにしました」とアフォンソは話します。「限られたスペースという制約そのものが、このスペースを使うための新しい方法を考え出す手助けとなり、必要な解決策へと導いてくれたんです」
「本当に小さなアパルトマンだったので、家具を含めて全てを造り付けとして制作することにしました」とアフォンソは話します。「限られたスペースという制約そのものが、このスペースを使うための新しい方法を考え出す手助けとなり、必要な解決策へと導いてくれたんです」
アフター:オーダーメイドの造り付け家具は高価になるため、予算に注意する必要があったそう。「アパルトマンを購入した後はリノベーションを行うために14万ユーロ(約1,860万円)、つまり1平米あたり2,700ユーロ(約36万円)の予算が残りました」とアフォンソは振り返ります。
「既存のクリ材の床と二重窓をそのまま使い、浴室とキッチンなどの水まわりはもとの場所に残すことにする、といった節約を選択した結果、十分ゆとりのある予算となりました」
また、200平方メートル分ものパネル材を注文する必要があったので、仕上げ材の選択も非常に重要なポイントだったといいます。長持ちし、機能的な品質を備え、もちろんより低コストであるという点から、彼らは利便性の高い、ゴムの木の集成材を選びました。
「既存のクリ材の床と二重窓をそのまま使い、浴室とキッチンなどの水まわりはもとの場所に残すことにする、といった節約を選択した結果、十分ゆとりのある予算となりました」
また、200平方メートル分ものパネル材を注文する必要があったので、仕上げ材の選択も非常に重要なポイントだったといいます。長持ちし、機能的な品質を備え、もちろんより低コストであるという点から、彼らは利便性の高い、ゴムの木の集成材を選びました。
ガシャルドとアフォンソは、リビングルームの面積を可能な限り確保したかったため、2つのユニット家具を壁沿いに設け、ゆったりとした空間を中央に空けておく、というアイデアを思いつきました。
もとのキッチンと同じ場所に、半島のように突き出して造られたこの新しいキッチンは、機能が追加されているにも関わらず、以前のものとほぼ同じ面積に収まっています。また、以前はペニンシュラキッチンの片側にのみ詰め込まれていたキッチン設備も、ユニット全体にうまく再分配されています。
このキッチンユニットは、建具屋に制作を依頼したもの。各キャビネットの前面は引き手が見えないように設計されています。また、ジンバブエ産の黒い御影石によるカウンタートップは、キッチンにコントラストを生み出しています。「ナイフの刃のような形状と、レザー仕上げを施しました」とアフォンソ。
カウンター上の収納ユニットは、実は片持ち状になっています。「収納ユニットが確実に固定されていることを示すため、アパルトマンの引き渡し日に私がユニットの上に寝転がって見せました」とアフォンソは笑いながら話します。
カウンター上の収納ユニットは、実は片持ち状になっています。「収納ユニットが確実に固定されていることを示すため、アパルトマンの引き渡し日に私がユニットの上に寝転がって見せました」とアフォンソは笑いながら話します。
キッチンは小さいものの、換気扇にはNovy製のハイエンドモデルが採用されています。この換気扇が設置されている漆喰仕上げの箱形状は上方に延びており、階段の手すりとなっています。
もとの部屋にあった2つの出っ張り形状のうちの1つに収められた小さなユーティリティルームへの入口は、キッチンの裏側にあるブラインドによって隠されています。
もとの部屋にあった2つの出っ張り形状のうちの1つに収められた小さなユーティリティルームへの入口は、キッチンの裏側にあるブラインドによって隠されています。
キッチンの反対側には2つ目のウォールユニットがあり、部屋の中心部にはソファが置かれています。「ソファはLago社の完全モジュール式の『Air Sofa』を選びました」とアフォンソは話します。
軽木材と芯まで黒色に染色されたMDF材を用いたこのウォールユニットは、本棚やTVキャビネット、収納スペース、ダイニングテーブルの機能が一体化されたもので、オフィスとしても拡張可能です。中央4つのモジュールのドアの裏側には、55インチのテレビ画面が隠されています。
軽木材と芯まで黒色に染色されたMDF材を用いたこのウォールユニットは、本棚やTVキャビネット、収納スペース、ダイニングテーブルの機能が一体化されたもので、オフィスとしても拡張可能です。中央4つのモジュールのドアの裏側には、55インチのテレビ画面が隠されています。
「キャットウォーク」とアフォンソが呼ぶ台は、本棚の踏み台として、またオフィスとしても使えるように設計されたもので、大人の体重を支えられるよう、厚さ48ミリのゴムの木の一枚板を用いた高さ75センチの台として設計されています。
ユニットに内包されている奥行き90センチの4つの大型引き出しは、十分な収納を提供しています。ケーブル類とコンセントは台部分と本棚の裏側に隠されています。
ユニットに内包されている奥行き90センチの4つの大型引き出しは、十分な収納を提供しています。ケーブル類とコンセントは台部分と本棚の裏側に隠されています。
2つ目の可動式の台は、ダイニングテーブルの役割も果たしています。
このテーブルは必要に応じて、2つの位置で固定することができます。
「テーブルを引き出せば、Flux社製の格納式スツールに座って毎日食事をすることができます。一方、来客の際は、台に目立たないように設けられた溝穴にテーブルを固定して、最大6人を座らせることもできるのです」とアフォンソ。
「テーブルを引き出せば、Flux社製の格納式スツールに座って毎日食事をすることができます。一方、来客の際は、台に目立たないように設けられた溝穴にテーブルを固定して、最大6人を座らせることもできるのです」とアフォンソ。
さらに、読書室としても利用できるオフィスコーナーもあります。
部屋の一角を占めるこのスペースは、以前はワードローブでした。台はこのスペースの中へと伸びていますが、その上にはフォームブロックの120センチx190センチのマットレスが載せられています。
「このマットレスはそれほど大きくありませんが、友人用の追加ベッドとして使用することが可能です」とアフォンソは言います。
部屋の一角を占めるこのスペースは、以前はワードローブでした。台はこのスペースの中へと伸びていますが、その上にはフォームブロックの120センチx190センチのマットレスが載せられています。
「このマットレスはそれほど大きくありませんが、友人用の追加ベッドとして使用することが可能です」とアフォンソは言います。
しかし、これですべてではありません。このマットレスを取り外すと、アフォンソが“コックピット”と呼ぶハッチが現れます。
造り付けの階段を設けることでこのスペースには簡単に降りられるようになっていて、ここまで続いている台が今度は机の役割を担います。また、固定式ではあるものの、高さ調節が可能なオフィスチェアも1つ設置されています。
造り付けの階段を設けることでこのスペースには簡単に降りられるようになっていて、ここまで続いている台が今度は机の役割を担います。また、固定式ではあるものの、高さ調節が可能なオフィスチェアも1つ設置されています。
この階段の仕上げには、プロジェクト全体を通じて共通する、ディテールへの深いこだわりが現れています。
「私たちはこの階段を、棚の延長線上にあるものとして完璧にしたいと思っていました。そしてその想いは、通常なら踏板が階段表面を覆う階段とは違い、蹴込板が階段を覆うというデザインにつながりました。その結果、階段の板の木目は常に同じ向きになっています」とアフォンソ。
「私たちはこの階段を、棚の延長線上にあるものとして完璧にしたいと思っていました。そしてその想いは、通常なら踏板が階段表面を覆う階段とは違い、蹴込板が階段を覆うというデザインにつながりました。その結果、階段の板の木目は常に同じ向きになっています」とアフォンソ。
この階段は、冷蔵庫とキッチンの戸棚の上に踊り場を設けることによって、傾斜が急になりすぎないようにされています。
換気扇の覆いから延びる漆喰仕上げの手すりは、下段の木製の手すりと沈み目地で接続しています。
換気扇の覆いから延びる漆喰仕上げの手すりは、下段の木製の手すりと沈み目地で接続しています。
踊り場の左側には浴室があり、すりガラスのドアで仕切られています。これにより、浴室の窓からより多くの自然光が空間全体に広がるようになりました。
ドア枠と敷居、そしてこの写真にあるスツールのような木製部分は、アフォンソ自身によってデザインされたもので、素材にはクリ材が採用されています。
ドア枠と敷居、そしてこの写真にあるスツールのような木製部分は、アフォンソ自身によってデザインされたもので、素材にはクリ材が採用されています。
床、シャワー室、洗面台は大理石製で、すべて同じ塊から実寸に彫り出されたものです。
適切な素材を選ぶ方法さえ知っていれば、大理石はそれほど高価なオプションではありません。「大理石の販売店で最も安い素材は、このポルトガル産の灰色の大理石でした」とアフォンソは話します。
「最初はひどい状態でしたが、サンドブラスト加工を施すとぼんやりとした縞模様が浮かび上がり、最初のものと同じ素材とは気づかないほど良い状態になりました」
適切な素材を選ぶ方法さえ知っていれば、大理石はそれほど高価なオプションではありません。「大理石の販売店で最も安い素材は、このポルトガル産の灰色の大理石でした」とアフォンソは話します。
「最初はひどい状態でしたが、サンドブラスト加工を施すとぼんやりとした縞模様が浮かび上がり、最初のものと同じ素材とは気づかないほど良い状態になりました」
ユーティリティルームの上部にあたる、この小さなくぼみの中に収められたシャワー室は、大理石で全体が覆われています。窓から射し込む光にあふれたこのシャワー室は、心地よい時間を過ごすことができる場所です。
浴室のドアに面してトイレがありますが、高さが天井まである回転ドアの背後にあるため、ほとんど存在感がありません。
アフター:踊り場と寝室の間にある間仕切り壁は、高さが天井まである収納ユニットを内包するものにつくり変えられました。
「私たちはこの階にある2つの窓を、この間仕切り壁ユニットにつなげたいと考えました」とアフォンソは振り返ります。
「このユニットは直角に見えますが、実際には2つの窓が一直線上にないことがわかったため、台形で制作する必要がありました」
「このユニットは直角に見えますが、実際には2つの窓が一直線上にないことがわかったため、台形で制作する必要がありました」
長手方向の断面図
ほとんどの住まい手は、スペースをデザインのために犠牲にしようとすることはありません。このプロジェクトのレイアウトは、スペース内におけるライフスタイルを変えるよう巧みにデザインされたプラットフォームのおかげで、究極にまで最適化されています。
最高品質の素材の使用やディテールへの気遣いが、空間のデザイン性を高めているのです。このアパルトマンは、今後何年にもわたって、アフォンソが生みだした最高のプロジェクトの一つとして記録に残っていくことでしょう。
ほとんどの住まい手は、スペースをデザインのために犠牲にしようとすることはありません。このプロジェクトのレイアウトは、スペース内におけるライフスタイルを変えるよう巧みにデザインされたプラットフォームのおかげで、究極にまで最適化されています。
最高品質の素材の使用やディテールへの気遣いが、空間のデザイン性を高めているのです。このアパルトマンは、今後何年にもわたって、アフォンソが生みだした最高のプロジェクトの一つとして記録に残っていくことでしょう。
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