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木材価格が高騰?不足?ウッドショックについて建主が理解しておきたいこと
「住宅建設用の輸入材が手に入らない」という話を耳にしている方もいるかと思います。いま家づくりを考えているなら、踏まえておきたいポイントをお伝えします。
安井俊夫
2021年5月18日
天工舎一級建築士事務所主宰。神奈川県小田原市に事務所を構え、住宅や店舗などの設計監理業務を行っています。書評やコラムなども執筆中。
ウッドショックとは、木材への急激な需要が高まった影響から価格が高騰し、調達しにくくなっている状況のことです。
木材価格は、2021年3月頃から高騰しはじめました。見積額が増加したり、材木の入手が難しくなったりしており、住宅工事への影響が出始めています。今回はこの状況を正しく理解し、これから家を建てようとしている方への参考となるように、ご説明いたします。
木材価格は、2021年3月頃から高騰しはじめました。見積額が増加したり、材木の入手が難しくなったりしており、住宅工事への影響が出始めています。今回はこの状況を正しく理解し、これから家を建てようとしている方への参考となるように、ご説明いたします。
1. ウッドショックの原因を知る
そもそもウッドショックは、世界全土に広がるコロナ禍の影響に拠るところが大きいのです。コロナ禍の影響で、多くの人が外出を控える生活を強いられるようになりました。その影響からアメリカでは郊外に家を建てて生活を変化させようという考えの人が多くなり、住宅の着工件数が増えたのです。この現象は各地で起こり、世界的に木材への需要が増えていきました。
アメリカで木材需要が高まり、価格も高騰する中、北米から日本への丸太の輸出量は減少します。また、コロナ禍による港湾処理能力の低下から木材を運ぶためのコンテナが不足し、海上輸送運賃も大幅に値上がりしました。これらの理由が重なり、輸入材の流通が著しく低下したことから、日本国内でも木造住宅の工事に影響が出始めたのが、ウッドショックなのです。
参考:
そもそもウッドショックは、世界全土に広がるコロナ禍の影響に拠るところが大きいのです。コロナ禍の影響で、多くの人が外出を控える生活を強いられるようになりました。その影響からアメリカでは郊外に家を建てて生活を変化させようという考えの人が多くなり、住宅の着工件数が増えたのです。この現象は各地で起こり、世界的に木材への需要が増えていきました。
アメリカで木材需要が高まり、価格も高騰する中、北米から日本への丸太の輸出量は減少します。また、コロナ禍による港湾処理能力の低下から木材を運ぶためのコンテナが不足し、海上輸送運賃も大幅に値上がりしました。これらの理由が重なり、輸入材の流通が著しく低下したことから、日本国内でも木造住宅の工事に影響が出始めたのが、ウッドショックなのです。
参考:
2. 木造住宅の半分以上は輸入材で出来ている
木造住宅を建てる際に使用される柱や梁と言った構造部材の41%、そして内装材などに利用される合板類の55%が輸入材です(参考:林野庁2019 木材需給表)。これは一般的な在来工法の住宅の場合ですが、2×4 工法の住宅は柱・梁(水平材・垂直材)共に、北米産のSPF 材(針葉樹のスプルス・パイン・ファーの略)を多く使用しているため、輸入材の使用率はもっと高いと考えられます。これらの木材価格が今、高騰しているのです。
さらにいえば、日本でも2021 年の3月頃から住宅着工件数が増加に転じているのです。品薄なのに欲しがる人が増えている、これが現在の住宅建設業界の実情なのです。
木造住宅を建てる際に使用される柱や梁と言った構造部材の41%、そして内装材などに利用される合板類の55%が輸入材です(参考:林野庁2019 木材需給表)。これは一般的な在来工法の住宅の場合ですが、2×4 工法の住宅は柱・梁(水平材・垂直材)共に、北米産のSPF 材(針葉樹のスプルス・パイン・ファーの略)を多く使用しているため、輸入材の使用率はもっと高いと考えられます。これらの木材価格が今、高騰しているのです。
さらにいえば、日本でも2021 年の3月頃から住宅着工件数が増加に転じているのです。品薄なのに欲しがる人が増えている、これが現在の住宅建設業界の実情なのです。
3. どの部材が、どのぐらい高騰しているのか?
参考までに私の場合で説明すると、住宅の柱には杉か桧を使用し、梁は米松を使用することが多く、土台には米松や米ツガを採用しています。この場合の「米 べい」と書かれているのが輸入木材です。
私の場合、柱は国産材を使いますが、梁や土台といった横架材は、輸入材に頼ることが多くなります。価格・入手しやすさ・加工の容易さなどが採用の理由になりますが、価格の割に一定の強度が得やすいという点が大きいです。その横架材の80%以上は、輸入材で占められています。ハウスメーカーによっては、集成材の柱と梁を採用しているかもしれませんが、そのほとんどがヨーロッパ産松類を原材料とした集成材を使用しています。
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参考までに私の場合で説明すると、住宅の柱には杉か桧を使用し、梁は米松を使用することが多く、土台には米松や米ツガを採用しています。この場合の「米 べい」と書かれているのが輸入木材です。
私の場合、柱は国産材を使いますが、梁や土台といった横架材は、輸入材に頼ることが多くなります。価格・入手しやすさ・加工の容易さなどが採用の理由になりますが、価格の割に一定の強度が得やすいという点が大きいです。その横架材の80%以上は、輸入材で占められています。ハウスメーカーによっては、集成材の柱と梁を採用しているかもしれませんが、そのほとんどがヨーロッパ産松類を原材料とした集成材を使用しています。
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4. どんな影響が出ているのか? あるいはこれから出るのか?
輸入木材の価格高騰は住宅の工事金額に直結し、坪単価の上昇に繋がります。また工事の請負契約を締結した後であっても、想定外の価格の高騰から、その確保が難しくなり、着工や上棟時期がずれ込む可能性もあるでしょう。
この辺りに関しては、後々のトラブルを避けるためにも、工事の発注者あるいは請負者共に書面等で、覚書を作成しておくことも必要かもしれません。また融資を受けている場合には、工事期間の延⻑が⽀払い時期等に影響することや、想定外の追加必要が発生することもあるので、金融機関との事前の相談もしておく必要があります。
5. 価格上昇は解消するのか?
これは誰にも分りません。ですが原因がコロナ禍だとすれば、しばらく価格は下がらないと考えた方が良いでしょう。今は低金利の時代なので、家を建てたいと考える人も多いと思いますが、工事予算・工事期間共に今まで以上に余裕を持ち、家づくりに臨むことが必要です。
輸入木材の価格高騰は住宅の工事金額に直結し、坪単価の上昇に繋がります。また工事の請負契約を締結した後であっても、想定外の価格の高騰から、その確保が難しくなり、着工や上棟時期がずれ込む可能性もあるでしょう。
この辺りに関しては、後々のトラブルを避けるためにも、工事の発注者あるいは請負者共に書面等で、覚書を作成しておくことも必要かもしれません。また融資を受けている場合には、工事期間の延⻑が⽀払い時期等に影響することや、想定外の追加必要が発生することもあるので、金融機関との事前の相談もしておく必要があります。
5. 価格上昇は解消するのか?
これは誰にも分りません。ですが原因がコロナ禍だとすれば、しばらく価格は下がらないと考えた方が良いでしょう。今は低金利の時代なので、家を建てたいと考える人も多いと思いますが、工事予算・工事期間共に今まで以上に余裕を持ち、家づくりに臨むことが必要です。
6. 輸入材と国産材
では実際にどの程度の値段が上がるのでしょう。過去の設計実例を基にして、金額を計算してみました。
延べ床面積30 坪の在来工法の住宅で、「木工事」(木材とその工事にかかる費用)の金額は約500万円(税抜き)でした。柱は国産杉、梁や土台は米松。この時の大工工事の手間賃を除いた木材の値段は約200万円。このうちの梁や土台等の輸入材の値段は約60万円でした。仮に、この工事で輸入材の値段が約50%高くなったと考えた場合、その値上がり分は30万円となる計算です。
では実際にどの程度の値段が上がるのでしょう。過去の設計実例を基にして、金額を計算してみました。
延べ床面積30 坪の在来工法の住宅で、「木工事」(木材とその工事にかかる費用)の金額は約500万円(税抜き)でした。柱は国産杉、梁や土台は米松。この時の大工工事の手間賃を除いた木材の値段は約200万円。このうちの梁や土台等の輸入材の値段は約60万円でした。仮に、この工事で輸入材の値段が約50%高くなったと考えた場合、その値上がり分は30万円となる計算です。
それならば国産材を使えば良いと思われるかもしれません。しかし、輸入木材の値段が高くなり品薄となれば、代わりの材料を求めるニーズと、少しぐらい高くても優先的に確保したいというニーズが生まれます。その結果、輸入材の取引価格はさらに上昇し、それに影響を受けた国産材料材までもが価格を上げ、入手が難しい高い木材となってしまいます。
具体的に建物がいくら高くなるのかは、施工者によりますが、仮に木材の値段が50%上がったと考えると、参考例の建物では100万円の値上がりとなり、坪単価にして3.3 万円/坪の上昇になります。やはりこの金額差は大きいのです。
具体的に建物がいくら高くなるのかは、施工者によりますが、仮に木材の値段が50%上がったと考えると、参考例の建物では100万円の値上がりとなり、坪単価にして3.3 万円/坪の上昇になります。やはりこの金額差は大きいのです。
7. 家づくりに今、どう臨めばいいのか
木材価格が高くなる今、家づくりにどう臨めばよいのでしょう。例えば上記の例で総額が100万円高くなると仮定した場合、総予算が変えられない時には、建物を1 坪から2坪程小さくする必要が出てきます。
つまり、家をコンパクトにまとめ、効率の良い動線や部屋の広さを見直す必要が生まれるのです。また工事の請負契約が締結できても、予定した時期に木材が手に入らず、着工を待たなければならないケースもあるかもしれません。トラブルを避けるためにも契約時には、木材の入手時期に問題は無いかなどを、念のために確認しておく必要もあるでしょう。
木材価格が高くなる今、家づくりにどう臨めばよいのでしょう。例えば上記の例で総額が100万円高くなると仮定した場合、総予算が変えられない時には、建物を1 坪から2坪程小さくする必要が出てきます。
つまり、家をコンパクトにまとめ、効率の良い動線や部屋の広さを見直す必要が生まれるのです。また工事の請負契約が締結できても、予定した時期に木材が手に入らず、着工を待たなければならないケースもあるかもしれません。トラブルを避けるためにも契約時には、木材の入手時期に問題は無いかなどを、念のために確認しておく必要もあるでしょう。
「ウッドショック」の影響を起点に、一度大きく考え方を変えて、すべての木材を国産材に変えてみると言う考え方はいかがでしょう。国産材は高いとお考えの方が多いと思います。たしかに輸入材よりは高くなりますが、設計の妙で趣の全く違った家を造ることが出来ます。
そもそも国産の木材が高いのは国産材を採用する人が減り、林業を営むことが難しくなったことにも一因があります。地域によっては地産地消を推進し、地元の木材を利用して家を建てることで補助金の出る地域もあります。そうした制度を上手く活用できれば、想像していた家と全く違った家を造ることが出来るかもしれません。
そもそも国産の木材が高いのは国産材を採用する人が減り、林業を営むことが難しくなったことにも一因があります。地域によっては地産地消を推進し、地元の木材を利用して家を建てることで補助金の出る地域もあります。そうした制度を上手く活用できれば、想像していた家と全く違った家を造ることが出来るかもしれません。
さらに視点を変え中古住宅を購入し、リノベーションして暮らすという考え方もあるでしょう。きっかけは輸入木材の高騰かもしれませんが、質の高い住宅を安価に購入し、自分らしくリノベーションすることで、資金的にも心にも、その後の生活にゆとりが生まれるかもしれません。
良質な中古住宅の購入は、意外と狙い目かもしれません。減税制度などを最大限に利用し、イニシャルコストの上昇をランニングコストで抑え、相殺する方法も検討しましょう。
良質な中古住宅の購入は、意外と狙い目かもしれません。減税制度などを最大限に利用し、イニシャルコストの上昇をランニングコストで抑え、相殺する方法も検討しましょう。
多くの大切な物を奪ったコロナ禍は、今もなお静まる気配を見せませんが、その中でも私たちは生活スタイルを変え、家で仕事をすることで、家の大切さを再発見しているのかもしれません。たしかに輸入材の価格の高騰は家を建てる身になれば重大な問題ですが、信頼できる建築家や住まいの専門家と相談しながら取り組めば、きっと上手に乗り越えられるはずです。
コロナ禍や木材の高騰に負けることなく、家づくりをお楽しみいただけることを願っています。
家づくりのヒントの記事をもっと読む
家の外観の写真を見る
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