築180年の古民家をリノベーション。人も猫も大満足な暮らし
福島県にある、先祖代々受け継いできた美しい伝統構法の家。断熱効果をプラスするなど、現代の暮らしに合うようにアップデートしました。
Miki Anzai
2021年4月15日
今回ご紹介するのは、福島県南相馬市に建つ、築180年の古民家再生プロジェクトです。先祖代々の歴史を見守ってきた実家に愛着を持ち続けてきた7代目当主は、何があっても、この伝統的民家を大切に住み継ぎたいと思っていました。そして、これからも住み続けるのであれば、古い建物の欠点である断熱性、気密性、耐震性を向上させ、自然素材に囲まれた光あふれる家にしたいと考えました。
県内で古民家の施工を手がけるパロス商事を検索サイトで見つけたオーナーご夫妻は、そこで古民家再生の実績が豊富な宮城県の建築家・佐々木文彦さんを紹介され、設計を依頼することにしました。じっくりと時間をかけて完成した家は、オーナーが求めていた全ての希望条件をクリアした上に、現代のライフスタイルに合った間取りや設備に一新されました。3匹の愛猫たちも大喜びです。
県内で古民家の施工を手がけるパロス商事を検索サイトで見つけたオーナーご夫妻は、そこで古民家再生の実績が豊富な宮城県の建築家・佐々木文彦さんを紹介され、設計を依頼することにしました。じっくりと時間をかけて完成した家は、オーナーが求めていた全ての希望条件をクリアした上に、現代のライフスタイルに合った間取りや設備に一新されました。3匹の愛猫たちも大喜びです。
どんなHouzz?
所在地:福島県南相馬市
住まい手:父、夫妻、息子、愛猫(ザラメ君、ルナ君、もめんちゃん)
設計:有限会社ササキ設計
施工:有限会社パロス商事
建築面積:167.70㎡
延床面積:194.07㎡
構造: 木造2階建て
竣工:2020年8月
写真:フォトスタジオモノリス/今野貴之(オーナー提供の猫の写真を除く)
所在地:福島県南相馬市
住まい手:父、夫妻、息子、愛猫(ザラメ君、ルナ君、もめんちゃん)
設計:有限会社ササキ設計
施工:有限会社パロス商事
建築面積:167.70㎡
延床面積:194.07㎡
構造: 木造2階建て
竣工:2020年8月
写真:フォトスタジオモノリス/今野貴之(オーナー提供の猫の写真を除く)
外観は、歴史ある古民家らしい趣が大切に保たれています。屋根は軽いほうが、建物への負担は少ないものの、「先祖の思いを継承したい」というご主人の願いを叶え、窯変(ようへん)瓦を残しました。そのため、瓦一枚一枚に数字をつけ、一度全て降ろして、垂木や野地板を補強し、断熱材を充填後、元の位置に戻しました。
「通常の倍(200mm)のセルロースファイバーを屋根に吹き込んだので、断熱効果は抜群です。セルロースは、断熱性の他にも、吸放湿、防音、防火、防虫性能も高いので、私が古民家を手がける際はよく利用しています」(佐々木さん)
画面右側の入母屋2階建て部分は、60年ほど前に茅葺きから瓦に葺きかえた時に、子供部屋を捻出するために改造したものです。今回、家の気密性を高めるために、開口部は全て新しくしましたが、美観を重視し、外壁の下部を横羽目板の上下の端を羽根重ねする「下見板(したみいた)張り」にしたり、必要がなくなった戸袋(建物左端)も、意匠性を重んじて以前のままに残しました。
「通常の倍(200mm)のセルロースファイバーを屋根に吹き込んだので、断熱効果は抜群です。セルロースは、断熱性の他にも、吸放湿、防音、防火、防虫性能も高いので、私が古民家を手がける際はよく利用しています」(佐々木さん)
画面右側の入母屋2階建て部分は、60年ほど前に茅葺きから瓦に葺きかえた時に、子供部屋を捻出するために改造したものです。今回、家の気密性を高めるために、開口部は全て新しくしましたが、美観を重視し、外壁の下部を横羽目板の上下の端を羽根重ねする「下見板(したみいた)張り」にしたり、必要がなくなった戸袋(建物左端)も、意匠性を重んじて以前のままに残しました。
玄関引戸は、県内の古民具骨董店で見つけた、打ち出し金具付きの蔵戸にガラスをはめ込みました。一枚しかなかったので、対(つい)の戸は建具屋さんに製作してもらいました。
玄関脇には書院造りに見られるような丸(まる)窓の出窓を設え、その下側を下足収納にしました。ここの外壁を明るい色味の杉板にすることで、木材の色のコントラストも愉しめます。
玄関脇には書院造りに見られるような丸(まる)窓の出窓を設え、その下側を下足収納にしました。ここの外壁を明るい色味の杉板にすることで、木材の色のコントラストも愉しめます。
板敷きの式台の左側が下足入れです。縁側に続くレトロ風な木製ガラス戸は特注品です。杉の格子天井から吊り下げられた照明や、リビングとの境の引き戸、ソファの後ろの簀戸(すど)は、時代家具専門のオンラインショップで購入しました。ご主人が一目惚れしたという京都の簀戸は春夏用で、秋冬は板戸にはめ替えるそうです。
以前は各和室を襖で間仕切する、いわゆる田の字型の「通し座敷」でしたが、和室は仏間のみにして、あとはフローリングに変更しました。
「床は全部剥がして、痛んだ土台や柱を取り替えました。耐震補強のため、限界耐力計算をおこない、大黒柱などの支柱を支える『石場建て』の玉石はそのまま残しつつ、建物の外周や耐力壁の土台はベタ基礎にしました」(佐々木さん)。また、なるべく既存の土壁を残しつつ、間取りを変更した部分の壁には、自然素材でできた耐震性もある「荒壁パネル」を採用しました。
石場建て造りの家の記事を読む
「床は全部剥がして、痛んだ土台や柱を取り替えました。耐震補強のため、限界耐力計算をおこない、大黒柱などの支柱を支える『石場建て』の玉石はそのまま残しつつ、建物の外周や耐力壁の土台はベタ基礎にしました」(佐々木さん)。また、なるべく既存の土壁を残しつつ、間取りを変更した部分の壁には、自然素材でできた耐震性もある「荒壁パネル」を採用しました。
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ご一家お気に入りのリビング。改修前は梁の下に天井があり、こんなに見事な梁が組まれていたとは想像だにしていませんでした。吹抜けにしてトップライトを設けたことで、室内がぐっと開放的になりました。
床・壁・天井に入れた断熱材に加え、冬場は薪ストーブが大活躍。「寝る直前まで、薪ストーブをつけてゆっくりと寛ぎ、火を付けたまま寝ると、輻射熱のお陰で心地のよい暖かさが一晩中続き、朝起きたときも幸せです」(ご主人)
床・壁・天井に入れた断熱材に加え、冬場は薪ストーブが大活躍。「寝る直前まで、薪ストーブをつけてゆっくりと寛ぎ、火を付けたまま寝ると、輻射熱のお陰で心地のよい暖かさが一晩中続き、朝起きたときも幸せです」(ご主人)
キッチンの床はタイル、ガスコンロの前壁と造り付け収納棚側の壁は、モザイク張りにすることで、意匠性と実用性を確保しました。システムキッチン(トーヨーキッチンスタイル)は、床から持ち上っているので、下部に湿気が溜まらず、掃除も楽だそうです。「猫の毛が抜ける時期でも、掃除がしやすく助かっています」(ご主人)
家事動線が考慮されているのも嬉しいという奥様。台所から隣の洗面化粧室と浴室、そして外に出られる食品庫に行き来できるので、作業効率が飛躍的にアップしたそうです。
またここの窓の外には納屋があるのですが、母屋との境に通り庭があるため、光や風がうまく通り抜けます。
家事動線が考慮されているのも嬉しいという奥様。台所から隣の洗面化粧室と浴室、そして外に出られる食品庫に行き来できるので、作業効率が飛躍的にアップしたそうです。
またここの窓の外には納屋があるのですが、母屋との境に通り庭があるため、光や風がうまく通り抜けます。
なんと納屋は、ご主人の「趣味部屋」に大変身を遂げていました!
敷地内には、先祖が農業をしていた時代の納屋が複数残っています。その内、台所から見える納屋は、オーディオルームに改造しました。もとは手を伸ばせば触れるほど低かった天井は撤去し、梁を剥き出しにして、杉板を張り、防音効果のある断熱材を充填。ご主人はここで、心置きなくオーディオをいじったり、クラシック音楽を聴いて楽しんでおられます。
敷地内には、先祖が農業をしていた時代の納屋が複数残っています。その内、台所から見える納屋は、オーディオルームに改造しました。もとは手を伸ばせば触れるほど低かった天井は撤去し、梁を剥き出しにして、杉板を張り、防音効果のある断熱材を充填。ご主人はここで、心置きなくオーディオをいじったり、クラシック音楽を聴いて楽しんでおられます。
キッチン続きのダイニングの大開口。プリーツスクリーンを上げると、視界が一気に広がります。ちなみに、ここから見える瓦葺きの建物は、土農具を保管している納屋です。
窓際のカウンターは、榧(カヤ)の一枚板で製作しました。とても便利で、ご家族各々が、ここでお仕事や読書、テレビを観たりされています。窓は南東向きなので、午後からは日差しが柔らかくなり、眩しくないのだそうです。
窓際のカウンターは、榧(カヤ)の一枚板で製作しました。とても便利で、ご家族各々が、ここでお仕事や読書、テレビを観たりされています。窓は南東向きなので、午後からは日差しが柔らかくなり、眩しくないのだそうです。
北側に位置しているとは思えない、陽当たりのよい洗面化粧室。「トップライトは、壁の開口部の約3倍の明るさが取れます。直射日光が照りつける南側ではなく、北側に設置すると眩しすぎず、このように照明いらずで、日中過ごせます」(佐々木さん)
暗かった和式トイレは、明るい洋式トイレに生まれ変わりました。
カウンターはケヤキ、下部の収納はスギで造作。手洗い鉢や真鍮製水栓は奥様が選ばれたものです。同居するご主人のお父様の動作補助のために、可動式の手すりを設置しました。
カウンターはケヤキ、下部の収納はスギで造作。手洗い鉢や真鍮製水栓は奥様が選ばれたものです。同居するご主人のお父様の動作補助のために、可動式の手すりを設置しました。
ダイニングルームの階段をあがると、キャットタワーやキャットウォークを設えた「コの字型」の多目的スペースが広がっています。
電動開閉できるトップライトのお陰で、陽光も涼風も取り込める快適なスペースです。
木製ガラス窓(画像左)からは、吹抜けのリビングが見下ろせます。
木製ガラス窓(画像左)からは、吹抜けのリビングが見下ろせます。
多目的スペースの室内窓からの眺めです。もともと囲炉裏の煙に煤けて黒ずんでいた梁の色に合わせて、新しく追加した地元の杉材も古材に見えるように古色仕上げで統一しています。
シーリングファン(天井扇)は二台つけ、室内の空気を効果的に循環させています。
シーリングファン(天井扇)は二台つけ、室内の空気を効果的に循環させています。
梁の上でポーズを決めるもめんちゃん。梁は猫だけが自由に動き回れるキャットウォークでもあります。ここからの眺めも、さぞや壮観なことでしょう。
今回の改修にあたり、ご主人のお父様は、木材を中心とした自然素材を使って欲しいと希望されました。そのため、「人や猫も、木のぬくもりを感じながら、まろやかな空気に包まれて過ごせています」とご主人は話します。
今回の改修にあたり、ご主人のお父様は、木材を中心とした自然素材を使って欲しいと希望されました。そのため、「人や猫も、木のぬくもりを感じながら、まろやかな空気に包まれて過ごせています」とご主人は話します。
2階の息子さんの部屋も、既存の梁を見せつつ、壁面と床を天然木の質感が美しい杉板にすることで、明るい空間に仕上げています。無垢材は吸放湿性能もあるので、湿度の高い時には湿気を吸い、乾燥している時には湿気を放出してくれるので、息子さんも快適になったと喜んでいます。
実際にリノベーションした家で生活してみると、ご主人いわく「冬は外気温が零度以下でも、室内はほんのりと暖かく、夏はからっと涼しいので、家族全員が、人生で初めてストレスフリーな暮らしをしている」そうです。
実際にリノベーションした家で生活してみると、ご主人いわく「冬は外気温が零度以下でも、室内はほんのりと暖かく、夏はからっと涼しいので、家族全員が、人生で初めてストレスフリーな暮らしをしている」そうです。
家に灯りがともる薄暮期(はくぼき)に、古民家の美しさが際立ちます。
再生古民家というと、重厚な二重梁や、漆喰壁と二重梁のコントラストなど、目に見える素晴らしさについ心奪われます。しかし、ご主人は、精神的な安らぎを得られる居心地の良さこそが最大の魅力だと語ってくれました。
「たとえるならば、温泉につかって身体の芯からポカポカになるのと、自宅で沸かしたお風呂で表面だけが温かくなるのとの差、といったところでしょうか。正直ここまで住みやすくなるとは期待していなかっただけに、悦びもひとしおです」
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再生古民家というと、重厚な二重梁や、漆喰壁と二重梁のコントラストなど、目に見える素晴らしさについ心奪われます。しかし、ご主人は、精神的な安らぎを得られる居心地の良さこそが最大の魅力だと語ってくれました。
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素晴らしいリノベーションですね。