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細長い敷地を生かした、伸びやかにつながる住まい兼工房
長さ40メートルの土地に、建物の間を縫うように建つ家。切妻屋根とゆるやかな曲線を持つ外観が印象的です。
田中祥子
2021年4月19日
福岡県北部の海沿いに位置し、豊かな自然が残る福津市は近年、子育て世代の若い移住者も多くなっているまちです。
福津市の出身で、鞄と革小物ブランドのデザイナー兼職人である小川弘記さんも、実家近くに家を建てて子育てをするため、家族3人で関東からの移住を決意した一人です。革製品を製作する工房を兼ね備えた住宅の設計は、ホームページから探し当てたclass archiに依頼しました。
福津市の出身で、鞄と革小物ブランドのデザイナー兼職人である小川弘記さんも、実家近くに家を建てて子育てをするため、家族3人で関東からの移住を決意した一人です。革製品を製作する工房を兼ね備えた住宅の設計は、ホームページから探し当てたclass archiに依頼しました。
どんなHouzz?
家族構成:小川弘記さん・梨紗さんご夫妻、6歳のお子さん、猫2匹
所在地:福岡県福津市
敷地面積:403平方メートル
延床面積:121平方メートル
建築面積:89平方メートル
構造:木造2階建て
設計:class archi株式会社
施工:株式会社さわやか建設
竣工時期:2020年5月
写真撮影:八代写真事務所
小川家の新居の予定地は、祖父母から譲り受けた土地でした。2つの四角い敷地をずらして合わせたような形状で、南北に細長く、長さは40メートル、途中に1.2メートルの段差がある変形地です。
家族構成:小川弘記さん・梨紗さんご夫妻、6歳のお子さん、猫2匹
所在地:福岡県福津市
敷地面積:403平方メートル
延床面積:121平方メートル
建築面積:89平方メートル
構造:木造2階建て
設計:class archi株式会社
施工:株式会社さわやか建設
竣工時期:2020年5月
写真撮影:八代写真事務所
小川家の新居の予定地は、祖父母から譲り受けた土地でした。2つの四角い敷地をずらして合わせたような形状で、南北に細長く、長さは40メートル、途中に1.2メートルの段差がある変形地です。
敷地条件が独特で、仕事場も併設する必要もあったため、小川夫妻は最初から建築家に設計を依頼しようと考えていました。設計事務所をネットで探していく中で、建築家の新田崇博さんが主宰する佐賀県の設計事務所、class archiのホームページにたどり着いたそうです。
「設計事務所の家は、ホテルライクでシュッとしているイメージだった」と話す弘記さん。それでもclass archiのパンフレットに載っている事例を眺めてみると、雰囲気がよいのに暮らしやすそうだと思ったそうで、「ここにお願いしたら、いい家が建ちそうだと感じました」と振り返ります。梨紗さんも「デザイン性と暮らしやすさを考えた時に、すごくちょうどいいバランスだと思いました」といいます。
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「設計事務所の家は、ホテルライクでシュッとしているイメージだった」と話す弘記さん。それでもclass archiのパンフレットに載っている事例を眺めてみると、雰囲気がよいのに暮らしやすそうだと思ったそうで、「ここにお願いしたら、いい家が建ちそうだと感じました」と振り返ります。梨紗さんも「デザイン性と暮らしやすさを考えた時に、すごくちょうどいいバランスだと思いました」といいます。
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新田さんと、同じくclass archiの泉竜斗さんが小川夫妻に最初に手渡したのが「個人住宅のためのアンケート」でした。A4で21ページの分量だったというアンケートには、家族構成など基本的な質問はもちろん、好きな季節や時間帯、好きな光や自然音、感動したことや出来事、家に関する思い出は何があるか、など、200問以上の問いが並んでいました。
このようなアンケートをクライアントにお願いする理由について、新田さんはこう説明します。「家づくりをするにあたっては、住む人の暮らし方を理解するのも重要です。価値観を共有していただくために、事務所設立当初から少しハードなアンケートを書いてもらっています」
このようなアンケートをクライアントにお願いする理由について、新田さんはこう説明します。「家づくりをするにあたっては、住む人の暮らし方を理解するのも重要です。価値観を共有していただくために、事務所設立当初から少しハードなアンケートを書いてもらっています」
小川夫妻も、すべての答えを埋めるには1週間ほどかかったそうですが、「書くことで自分たちの思いや要件が整理できました」と納得されていました。
アンケートが戻ってくると、class archiでは要望を抜き出し、1ページに図式化してまとめます。このプロセスを経ることで、プロジェクトを進める上で何を大事にするべきかが、よく分かるのだそうです。「設計側としては、この図を見て設計を考えたりします。お施主さまの方も、ご自身の要望が見えやすくなると思います」と新田さん。
アンケートが戻ってくると、class archiでは要望を抜き出し、1ページに図式化してまとめます。このプロセスを経ることで、プロジェクトを進める上で何を大事にするべきかが、よく分かるのだそうです。「設計側としては、この図を見て設計を考えたりします。お施主さまの方も、ご自身の要望が見えやすくなると思います」と新田さん。
この家のゆるやかにうねる形は、敷地条件を踏まえて自然に導き出されたものだと新田さんはいいます。
昔からの商店街の近くにあるこの土地は準防火地域となっていました。隣地境界から3m(2階は5m)の延焼ライン内に設ける開口部は防火設備としなければならなかった中で、見た目とコスト面から網入りガラスの使用を避けるためにも、弧を描く形状を採用したのだそうです。
ファーストプレゼンの模型は、すでに現在の完成形に近い形だったそうです。模型を見た弘記さんは「全く想像もしていない形状だったので驚きましたが、率直にいい!と感じました」と振り返ります。
昔からの商店街の近くにあるこの土地は準防火地域となっていました。隣地境界から3m(2階は5m)の延焼ライン内に設ける開口部は防火設備としなければならなかった中で、見た目とコスト面から網入りガラスの使用を避けるためにも、弧を描く形状を採用したのだそうです。
ファーストプレゼンの模型は、すでに現在の完成形に近い形だったそうです。模型を見た弘記さんは「全く想像もしていない形状だったので驚きましたが、率直にいい!と感じました」と振り返ります。
店舗兼工房が人通りの多い道路沿いではなく、奥にあるのも、この家特徴の一つです。あえて前面道路側を住宅、段差を越えた奥に工房を配置した理由について新田さんは「長い敷地を生かすなら、小道を歩いた奥にアトリエがあるストーリーが楽しいのでは、と考えました」と話してくれました。
敷地の横を通る小道は段差の手前で建物のトンネルをくぐる形となり、階段を上がると工房にたどりつきます。「歩いていて角があると視線が止まってしまいます。だからカクカクしているよりは丸い方がいい。トンネルをくぐる部分も招き入れるように角を取っています」(新田さん)
敷地の横を通る小道は段差の手前で建物のトンネルをくぐる形となり、階段を上がると工房にたどりつきます。「歩いていて角があると視線が止まってしまいます。だからカクカクしているよりは丸い方がいい。トンネルをくぐる部分も招き入れるように角を取っています」(新田さん)
前面道路から見た外観は、幅3.15メートルの壁が真っ直ぐに立ち上がる印象的なデザインです。外壁の杉板には木材の保護塗料であるキシラデコールを塗っています。切妻型が印象的な屋根は、潮風による塩害を考慮してFRP防水仕上です。
どうしても近くなってしまう隣戸の壁からの視線を逃がすために、リビングの前には円弧の壁を立てて目隠しにしています。中庭上に囲ったことで、前面道路からの視線もカットでき、窓面をカーテンで隠すことなく大開口からの光と風を取り入れるプライバシーを守ったリビングとなりました。
リビングの吹き抜けは開放的な雰囲気。この空間を実現するために、構造は木造の中でも自由な形状をつくり出せる、ホームコネクター工法を採用。つなぎ目に樹脂を注入して接合するこの工法を採用することで、在来工法では必要となる耐力壁をなくせた、と新田さんはいいます。
「リビングダイニングは、大きな窓からの光りがふんだんに入る気持ちの良い空間です。キッチン横の壁にプロジェクターを映して、ダイニングの横でゴロゴロして過ごしています」と梨紗さん。日が暮れると、廊下に沿って設置されたLEDのライン照明がほのかに部屋を照らします。
当初設計されていた直階段は、リビングの広さをより確保するために螺旋階段に変更。床はラワン合板を建物のカーブに合わせて台形にカットして貼り合わせています。
当初設計されていた直階段は、リビングの広さをより確保するために螺旋階段に変更。床はラワン合板を建物のカーブに合わせて台形にカットして貼り合わせています。
白いミニマムなキッチンはサンワカンパニー。IHや食洗器、照明器具などの設備機器はすべて施主支給にしてコストを下げ、その分のコストを削れないほかの部分の補填としました。「商品番号を指定していただけたので、私たちは注文するだけでした。施主支給はかなりのコスト削減になったと思います」と梨紗さん。
「施主支給は責任の所在があやふやになってしまうリスクがあるので、工務店に理解がないとできません。今回施工していただいたさわやか建設さんは、良いものをつくろうと努力する若手の建築家をいつも助けてくれます」と新田さんは語ります。
「施主支給は責任の所在があやふやになってしまうリスクがあるので、工務店に理解がないとできません。今回施工していただいたさわやか建設さんは、良いものをつくろうと努力する若手の建築家をいつも助けてくれます」と新田さんは語ります。
2階の吹き抜けにある廊下をはさんで、主寝室と子ども部屋が位置しています。それまではご夫婦とお子さんは一緒に寝ていたので、子ども部屋で一人なのは不安があったようですが、扉を開けているので主寝室と空間がひとつながりになり、安心して寝られるようです。
「もともと平屋に憧れていましたが、ここは2階建てだけれど平屋のような感覚です」(梨紗さん)
「もともと平屋に憧れていましたが、ここは2階建てだけれど平屋のような感覚です」(梨紗さん)
弘記さんのブランドaffordanceの工房は、ひとつながりになった建物にありながら、トンネルを挟むことで独立した空間となっています。
ここには革製品を作るための機材と、大きな作業台が設置されています。「トンネルを介してリビングの窓と工房の窓が向かい合っているので、窓越しに家が見え、家族の気配が感じられるのがいいですね」と弘記さん。
工房内の棚には、手作りの鞄や革小物がディスプレイされています。
小さな丸い土間は、工房の入り口。借景に大きな木を望める工房は外にオープンに開いています。affordanceの新しいシンボルマークにもなったこの家のデザインに惹かれて、工房を訪れる人も多いそうです。
「この家があるから、コロナ禍のステイホーム中もストレスがなかった」と振り返るご夫妻。家族3人の伸びやかな暮らしを反映して、住まいも素晴らしい味を帯びていくに違いありません。
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