実家の山の椿を床柱に。茶室のある暮らしが日常になじむ家
限られた予算の中で様々な工夫を重ねて実現した、茶室のある理想の住まい。「茶の湯」を愉しむ時間は、家族にとってかけがえのないものになっています。
Miki Anzai
2021年1月7日
千葉市の住宅街の一角にある、7軒の家に囲まれた旗竿地。その奥まった先に、躙口(にじりぐち)と呼ばれるお茶室の小さな出入口付きの建物が顔を覗かせています。
オーナーご一家は、この近くで5年間、賃貸暮らしをした後、思い切って土地を購入。奥様が「いずれは茶道教室を開けるような家を建てたい」と、あるイベントで知り合った一級建築士事務所ikmoの比護結子さんに相談しました。
「予算を伺った時、額の半分はお茶室に取られ、まともな床柱(とこばしら)も買えないので、お茶室は将来にまわしませんか?」と提案したという比護さん。ところが、ご一家はなんと総出で、ご主人のご実家(島根県)の山から、床柱用の椿の木を伐り倒してこられました。その熱意にほだされた比護さん。椿をテーマに、生活空間に2つのお茶室を内包した、光と風の通りのよい家をデザインしました。
オーナーご一家は、この近くで5年間、賃貸暮らしをした後、思い切って土地を購入。奥様が「いずれは茶道教室を開けるような家を建てたい」と、あるイベントで知り合った一級建築士事務所ikmoの比護結子さんに相談しました。
「予算を伺った時、額の半分はお茶室に取られ、まともな床柱(とこばしら)も買えないので、お茶室は将来にまわしませんか?」と提案したという比護さん。ところが、ご一家はなんと総出で、ご主人のご実家(島根県)の山から、床柱用の椿の木を伐り倒してこられました。その熱意にほだされた比護さん。椿をテーマに、生活空間に2つのお茶室を内包した、光と風の通りのよい家をデザインしました。
どんなHouzz?
所在地:千葉県千葉市
住まい手:40歳代のご夫妻、長女、次女、牝犬
敷地面積:125.65㎡
延床面積:88.70㎡
設計・監理: 一級建築士事務所ikmo(比護結子)
施工:中野工務店
構造:木造在来工法
竣工時期:2019年3月
工事費:2500万円未満
写真:西川公朗
旗竿敷地の「竿」部分が恰好の露地となっており、その突き当たりに、2畳あまりのお茶室「椿庵(つばきあん)」が待ち受けています。
所在地:千葉県千葉市
住まい手:40歳代のご夫妻、長女、次女、牝犬
敷地面積:125.65㎡
延床面積:88.70㎡
設計・監理: 一級建築士事務所ikmo(比護結子)
施工:中野工務店
構造:木造在来工法
竣工時期:2019年3月
工事費:2500万円未満
写真:西川公朗
旗竿敷地の「竿」部分が恰好の露地となっており、その突き当たりに、2畳あまりのお茶室「椿庵(つばきあん)」が待ち受けています。
躙口の手前で露地を曲がると、玄関から奥庭までコンクリートの土間露地が続きます。
外壁(茶室はモルタル吹付、居住部はガルバリウム鋼板波板)の色は、赤い椿が意識されています。「通常、赤は町に対して強過ぎる色ですが、奥まった場所なのでご提案しました」(比護さん)
庇の一部をくりぬき、明かり取りを設けています。コスト削減のため、ガラスは嵌め込んでいません。「予算内に収めるため、優先順位をつけ、ポジティブに減らせるものは減らしています」(比護さん)
外壁(茶室はモルタル吹付、居住部はガルバリウム鋼板波板)の色は、赤い椿が意識されています。「通常、赤は町に対して強過ぎる色ですが、奥まった場所なのでご提案しました」(比護さん)
庇の一部をくりぬき、明かり取りを設けています。コスト削減のため、ガラスは嵌め込んでいません。「予算内に収めるため、優先順位をつけ、ポジティブに減らせるものは減らしています」(比護さん)
玄関から内露地を介して奥庭まで視線が通ります。
隣家に囲まれた敷地ゆえ、ご夫妻が心配されていたのが陽当たりでした。比護さんは、内露地の上部をすのこ床のサンルームにして、2階のトップライトや窓から取り込んだ光が下階まで降り注がれるように計画。さらに、奥庭側の外壁を白くして、庭に太陽を反射させ、室内の明るさを確保しました。
奥庭には、ご友人からプレゼントされた椿の木や、茶花に使える草花が植えられています。
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隣家に囲まれた敷地ゆえ、ご夫妻が心配されていたのが陽当たりでした。比護さんは、内露地の上部をすのこ床のサンルームにして、2階のトップライトや窓から取り込んだ光が下階まで降り注がれるように計画。さらに、奥庭側の外壁を白くして、庭に太陽を反射させ、室内の明るさを確保しました。
奥庭には、ご友人からプレゼントされた椿の木や、茶花に使える草花が植えられています。
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内露地から見た八畳間(広間)。ご家族の団らんの場であり、ご両親がいらした時はゲストルーム、「椿庵」でお茶事を催す際は寄り付き(控えの間)、暑い夏には娘さんたちの寝室になるなど、多目的スペースとなっています。
朱と白の市松模様の建具は、ご家族全員で、MDF(中質繊維板)にオイル塗装をされました。「コスト削減のため、工務店がDIYを提案してくれました。みんなで作業したのが、楽しい思い出です」(ご主人)
朱と白の市松模様の建具は、ご家族全員で、MDF(中質繊維板)にオイル塗装をされました。「コスト削減のため、工務店がDIYを提案してくれました。みんなで作業したのが、楽しい思い出です」(ご主人)
建具は引き戸になっていて、右上2段を開けると階段が現れます。比護さんいわく「最初の打合せの時に、奥様が『私がキッチンにいて、娘が隣の階段に座って話をする感じが気に入っている』とおっしゃったので、会話ができるようにした」のだそう。
左側の引き戸の裏に、エアコン・着物・茶道具、中央列には布団・TVなどが、それぞれ収納されています。また、右下の引き戸の奥は、階段とお手洗いの床下につながっていて、キャンプ道具が置かれていました。
左側の引き戸の裏に、エアコン・着物・茶道具、中央列には布団・TVなどが、それぞれ収納されています。また、右下の引き戸の奥は、階段とお手洗いの床下につながっていて、キャンプ道具が置かれていました。
障子を閉じれば、内露地からの光に包まれた静謐な空間に。
天井の構造は現しのままにしていますが、娘さんたちが独立した後、板を張って本格的なお茶室にして、茶道教室を開くのが奥様の夢だそう。きちんと炉が切れるように、下地造りもしてあります。
天井の構造は現しのままにしていますが、娘さんたちが独立した後、板を張って本格的なお茶室にして、茶道教室を開くのが奥様の夢だそう。きちんと炉が切れるように、下地造りもしてあります。
障子を開ければ、広間が腰掛けにもなります。 内露地の壁面には二人の娘さんが仲良く並んで勉強する机や、本棚、水屋などが並んでいます。日中は2階のサンルームの光が格子を通して内露地に洩れ落ち、夜は「1階の壁面上のライトが2階に綺麗に浮き上がってくるのが気に入っています」というご主人。
アンティークランプは、ご夫妻が京都で求めたもの。「つるして丁度よい高さになるよう、逆算してダイニングの天井高(3.1メートル)を決めました」(比護さん)
アンティークランプは、ご夫妻が京都で求めたもの。「つるして丁度よい高さになるよう、逆算してダイニングの天井高(3.1メートル)を決めました」(比護さん)
エリアごとに表情の違うパッチワークのような天井。広間の上は「格子状の梁」、玄関から広間までの内露地の上は「すのこ床」、その先はキッチン方向に格子の向きを変えて、ランプを吊すために根太にした2x8材で仕上げています。
小窓から薄れ日がさし込んだかのような、趣のある点前座(てまえざ)。
「実は、ここは構造壁のために窓が取れず、断熱材を薄くして壁を凹ませたところに、電球とスイッチを入れています」(比護さん)
「実は、ここは構造壁のために窓が取れず、断熱材を薄くして壁を凹ませたところに、電球とスイッチを入れています」(比護さん)
床の間も「待庵」に倣って内部を塗り回した室床(むろどこ)として、奥行きを持たせています。漆喰壁は、椿の木肌に合わせて、少しピンクがかった色に。
障子は、継ぎ目をあえて桟と桟の間に見せる「千鳥張り」にして、継ぎ目もひとつの景色としています。
驚くべきは愛犬のお揚げちゃんです。ご家族が「椿庵」や「広間」にいても、神聖な場所と心得ていて、決してあがってこないそうです。
8つの茶室から学ぶ。「茶の湯空間」づくりのヒント
障子は、継ぎ目をあえて桟と桟の間に見せる「千鳥張り」にして、継ぎ目もひとつの景色としています。
驚くべきは愛犬のお揚げちゃんです。ご家族が「椿庵」や「広間」にいても、神聖な場所と心得ていて、決してあがってこないそうです。
8つの茶室から学ぶ。「茶の湯空間」づくりのヒント
階段上の手すり子には、奥様のお母様のご実家にあった欄間を用いています。
「椿庵」に籠もるだけで日頃の喧騒を忘れられると言うご主人。仕事帰りに躙口を入ると、奥様から「お帰りなさいの一服」が供されることもあるそうです。「お茶を点てていると、自然と娘たちも寄ってきます」という奥様。「茶の湯」の愉しみが、日常の暮らしにあるお住まいでした。
「予算面で無理を言ってしまいましたが、自分たちで木こりからペイントまでして、コスト削減案を楽しみにかえて、家づくりができました」と、ご夫妻とも懐かしそうに話してくださいました。
日本のHouzzツアーをもっと読む
日本的感性を象徴する「茶室」の伝統と革新性
「予算面で無理を言ってしまいましたが、自分たちで木こりからペイントまでして、コスト削減案を楽しみにかえて、家づくりができました」と、ご夫妻とも懐かしそうに話してくださいました。
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雰囲気のある、素敵なお住まいですね。
お茶室は費用が掛かりがちですが、建築士の方のアイデアとご家族のDIY等のご協力で本当に素敵な茶室のあるお宅となった事が記事と写真から伝わって来ました。
私の実家の父も表千家教授者だったのですが(昨年、高齢の為お家元にお名前をお返ししました)やはり自宅には2間茶室があります。
費用を抑える為、最初は障子も入れず、壁も石膏ボードのままでした。お金が出来てから壁を塗り、障子を入れ。もうすぐ築50年になりますが、今も時々遊びに来て下さるお弟子さんがいらした時にお茶を点てているようです。
費用の事で夢を諦める事なく、自分の住まいを作り上げていける事は素晴らしい事だと思います。
去年は帰れなかったので、久しぶりに実家の茶室を思い出させて戴きました。素敵な記事、本当にどうもありがとうございました。
オフィスK様 素敵なコメントありがとうございます。お父様のお茶室も、いきなり贅を尽くすのではなく、少しずつ完成させていかれたとのこと。それこそ、本来の「茶の湯の精神」をいかしておられて、素晴らしいです。
ご指摘通り、お茶室づくりを検討中の方には、費用面で断念せず、予算の範囲内で、できるだけ工夫を凝らして、実現させていただきたいです。
近々、「茶室の特集記事」を公開いたします。そこでも、いろいろなお茶室をご紹介しますので、是非、ご覧になってくださいませ。コロナ禍で、ご実家にお戻りになることが叶わない中、少しでも拙記事がお役に立ててれば嬉しいです。心温まるコメント、本当にありがとうございました。