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そしてデザインは続く。秋のフォーリサローネ最新トレンド【ミラノ・デザイン・シティ】
春のミラノデザインウィークで発表できなかった作品の数々が、秋のミラノでお目見えに。ショールームからデザインのプロセスまで、あらゆるトレンドの変化やアプローチが紹介されました。
Antonia Solari
2020年10月29日
毎年4月にイタリアで開催されるフォーリサローネは、通常であれば、同時期に開催されるミラノサローネ国際家具見本市とともに、ミラノの街をあげてのデザインウィークの一環としておこなわれます。しかしこの秋、フォーリサローネは、フォーリサローネを立ち上げたデザインマガジンであるインテルニと組み、9月28日から10月10日まで、ミラノ・デザイン・シティ(Milano Design City)というのデザインイベント週間をバーチャルおよびミラノ周辺において開催しました。
この時期に通常開催される、やや規模の小さなフォール・デザイン・ウィーク(Fall Design Week)を発展させたかたちのこのイベントは、デザインシーンの著名人によるセミナーや、ミラノ周辺の新しいショールームのオープニングセレモニー、各ブランドを象徴するデザインの最新作の発表などを含む230以上のイベントのフルラインナップでミラノの街を席巻しました。
数多くの新しい製品も紹介されましたが、そこにはちょっとした驚きもありました。新製品のプロトタイプは通常、4月のミラノサローネ国際見本市で発表されるのですが、新型コロナウイルスの世界的な流行により今年は中止となったため、多くのデザインが、プロトタイプではなく、すでに市場に出回っている製品として披露されることとなったのです。これは、秋の開催になったおかげであるといえるでしょう。
この時期に通常開催される、やや規模の小さなフォール・デザイン・ウィーク(Fall Design Week)を発展させたかたちのこのイベントは、デザインシーンの著名人によるセミナーや、ミラノ周辺の新しいショールームのオープニングセレモニー、各ブランドを象徴するデザインの最新作の発表などを含む230以上のイベントのフルラインナップでミラノの街を席巻しました。
数多くの新しい製品も紹介されましたが、そこにはちょっとした驚きもありました。新製品のプロトタイプは通常、4月のミラノサローネ国際見本市で発表されるのですが、新型コロナウイルスの世界的な流行により今年は中止となったため、多くのデザインが、プロトタイプではなく、すでに市場に出回っている製品として披露されることとなったのです。これは、秋の開催になったおかげであるといえるでしょう。
5VIE地区におけるサラ・リッチャルディのインスタレーション、No Signal Zone 写真:Amir Farzad
バーチャルから実物まで
4月に開催される予定だったイベントのエネルギーや斬新さの一部を、この秋、街中のデザイン地区で見つけることができました。この街の各種イベントを結ぶルートが示された新しい「都市の旅行案内」が作成され、また、トリエンナーレ・ミラノ(The Triennale Milano)がイタリアンデザイン美術館を無料で開放するなど、地域の団体もイベントに参加しました。
このイベントでは、インスタレーションやショールームのオープニングセレモニー、デザイントレンドに関するトークイベントが数多く開催され、ベネフィット・コーポレーションの出現や、家具の仕上げの進化、インテリジェント照明の技術発展といった最新のテーマが取りあげられました。
バーチャルから実物まで
4月に開催される予定だったイベントのエネルギーや斬新さの一部を、この秋、街中のデザイン地区で見つけることができました。この街の各種イベントを結ぶルートが示された新しい「都市の旅行案内」が作成され、また、トリエンナーレ・ミラノ(The Triennale Milano)がイタリアンデザイン美術館を無料で開放するなど、地域の団体もイベントに参加しました。
このイベントでは、インスタレーションやショールームのオープニングセレモニー、デザイントレンドに関するトークイベントが数多く開催され、ベネフィット・コーポレーションの出現や、家具の仕上げの進化、インテリジェント照明の技術発展といった最新のテーマが取りあげられました。
ミケーレ・デ・ルッキがアレッシィ社のためにデザインしたThe Plisséシリーズ
王道を進む企業
注目を集めたのは、第三者機関による認証制度であるBコーポレーションを反映した法人形態である、ベネフィット・コーポレーション(社会的な目的と利益に焦点を当てる企業)です。
こうした動きは、このような企業を法人として公認する新しい法律によって牽引されていますが、社会と環境への貢献を意識する企業は多くなってきています。「ベネフィット・コーポレーションであることに、個々の会社の規模は関係ありません。重要なのは、事業を行う意義なのです」とアレッシィ社の企業責任マネージャーであるニコレッタ・アレッシィ(Nicoletta Alessi)は言います。「私たちは決して利益を第一に考えません。営利目的の会社ではありますが、私たちは常に社会貢献という、起業家としてのもう一つ別の使命を守ってきました。この使命とは私たちの場合、何よりもまず、アート作品としての製品を作ることなのです」
王道を進む企業
注目を集めたのは、第三者機関による認証制度であるBコーポレーションを反映した法人形態である、ベネフィット・コーポレーション(社会的な目的と利益に焦点を当てる企業)です。
こうした動きは、このような企業を法人として公認する新しい法律によって牽引されていますが、社会と環境への貢献を意識する企業は多くなってきています。「ベネフィット・コーポレーションであることに、個々の会社の規模は関係ありません。重要なのは、事業を行う意義なのです」とアレッシィ社の企業責任マネージャーであるニコレッタ・アレッシィ(Nicoletta Alessi)は言います。「私たちは決して利益を第一に考えません。営利目的の会社ではありますが、私たちは常に社会貢献という、起業家としてのもう一つ別の使命を守ってきました。この使命とは私たちの場合、何よりもまず、アート作品としての製品を作ることなのです」
nendoによるプロジェクト、マルソット社ショールーム 写真:田熊大樹
場所自体をデザインする
参加したミラノのショールームは、内装や外装に新しいクリエイティブなデザインを施したり、ショールーム自体を多目的会場として作り変えたりといった、革新的なアプローチで来訪者を魅了しました。
大理石や天然石を専門に扱うマルソット社のミラノのショールームは、このイベントにおけるひとつのハイライトになっていました。日本のデザインスタジオであるnendoとのコラボレーションにより創りだされた空間は、エントランスからインパクトのあるものでした。ショーウィンドウの中にある大理石の椅子が生み出す影が来訪者の注意を引きます。
内部にはモノクロを基調とした詩的なアプローチが展開され、製品を展示するだけでなく、マルソット社外の企画展示を開催することもできる空間になっています。
場所自体をデザインする
参加したミラノのショールームは、内装や外装に新しいクリエイティブなデザインを施したり、ショールーム自体を多目的会場として作り変えたりといった、革新的なアプローチで来訪者を魅了しました。
大理石や天然石を専門に扱うマルソット社のミラノのショールームは、このイベントにおけるひとつのハイライトになっていました。日本のデザインスタジオであるnendoとのコラボレーションにより創りだされた空間は、エントランスからインパクトのあるものでした。ショーウィンドウの中にある大理石の椅子が生み出す影が来訪者の注意を引きます。
内部にはモノクロを基調とした詩的なアプローチが展開され、製品を展示するだけでなく、マルソット社外の企画展示を開催することもできる空間になっています。
ピアンカ・アンド・パートナーズ社(Pianca & Partners)のショールーム 写真:Alba Deangelis
複数ブランドが共同で展示
ショールームのコンセプトは、個々の製品を展示する場所であるだけでなく、複数のブランド間のコラボレーションの場として再解釈されました。
ピアンカ・アンド・パートナーズ社の新しいショールームはそのひとつの例といえます。カルヴィ・ブランビッラ・スタジオによりデザインされたこの空間は、住宅やサービス業を含むさまざまな分野をあつかう約25のインテリアデザイン企業による展示を陳列しています。
このショールームは、単に製品を展示する場から、住まいづくりをする人たちが訪れ、専門家や建築家と共にカスタムメイドのソリューションを作りあげるという、ひとつのプロジェクトの場へと進化したのです。
複数ブランドが共同で展示
ショールームのコンセプトは、個々の製品を展示する場所であるだけでなく、複数のブランド間のコラボレーションの場として再解釈されました。
ピアンカ・アンド・パートナーズ社の新しいショールームはそのひとつの例といえます。カルヴィ・ブランビッラ・スタジオによりデザインされたこの空間は、住宅やサービス業を含むさまざまな分野をあつかう約25のインテリアデザイン企業による展示を陳列しています。
このショールームは、単に製品を展示する場から、住まいづくりをする人たちが訪れ、専門家や建築家と共にカスタムメイドのソリューションを作りあげるという、ひとつのプロジェクトの場へと進化したのです。
ダニエル・リーバッケンがルーチェプランのためにデザインしたCassette
製品を中心にデザインする
デザインプロセスについても再考がおこなわれました。新しいアプローチのひとつの好例となったのが、ダニエル・リーバッケンの最新作であるランプコレクションCassetteをモチーフとした、ルーチェプラン社ショールームのインテリア。同社のプレスリリースに書かれているように、「幾何学とクリーンな形状が中心的な役割を果たす、厳密で本質的な美学」を持った空間が作りあげられています。
Cassetteを中心に構成されたこのショールームは、全体的なデザインをもとに家具を選んでいくのではなく、ひとつの中心的な家具から全体のデザインコンセプトを引き出すという、インテリアの新たなスタイリング方法を示しています。
製品を中心にデザインする
デザインプロセスについても再考がおこなわれました。新しいアプローチのひとつの好例となったのが、ダニエル・リーバッケンの最新作であるランプコレクションCassetteをモチーフとした、ルーチェプラン社ショールームのインテリア。同社のプレスリリースに書かれているように、「幾何学とクリーンな形状が中心的な役割を果たす、厳密で本質的な美学」を持った空間が作りあげられています。
Cassetteを中心に構成されたこのショールームは、全体的なデザインをもとに家具を選んでいくのではなく、ひとつの中心的な家具から全体のデザインコンセプトを引き出すという、インテリアの新たなスタイリング方法を示しています。
スタジオ・クラス(Studio Klass)がモルティーニ社(Molteni & C)のためにデザインした柔軟で多機能なワークスペース、Touch Down Unit
危機から生まれたアイデア
今年はミラノサローネ国際家具見本市が中止になったことで、ミラノ・デザイン・シティでは、この新型コロナウイルスの世界的流行によって生じた、あるいは課された変化にもとづく革新的アイデアをデザイン企業が発表することが可能になりました。
例えば、可能な限り小さい設置スペース、そして一つで複数の機能をこなす家具によってオフィス空間を家庭に持ち込む数多くのソリューションがこのイベントでは見られました。
危機から生まれたアイデア
今年はミラノサローネ国際家具見本市が中止になったことで、ミラノ・デザイン・シティでは、この新型コロナウイルスの世界的流行によって生じた、あるいは課された変化にもとづく革新的アイデアをデザイン企業が発表することが可能になりました。
- フレキシブルな家具
例えば、可能な限り小さい設置スペース、そして一つで複数の機能をこなす家具によってオフィス空間を家庭に持ち込む数多くのソリューションがこのイベントでは見られました。
ポロ社のショールーム、デュリーニ・クインディチ(Duriniquindici)では、同社の本棚Load-Itや片持ち式のデスクModern、アームチェアRombyが配置された、作業スペースとしても機能する廊下が展示されました
アルテミデ社のIntegralisライト
ひとつの事例として挙げられるのは、アルテミデ社の新しい照明、Integralis(写真)のような衛生技術です。このブランドは、データ送信が可能な照明システムなど、単に照らすだけではない照明器具を作り出すことに長年注力してきました。Integralisの場合、細菌や菌類、カビの成長を抑制し、ウイルスを死滅させる特定の光周波数をユーザーがアプリで選択できます。
- ウイルスと戦える照明
ひとつの事例として挙げられるのは、アルテミデ社の新しい照明、Integralis(写真)のような衛生技術です。このブランドは、データ送信が可能な照明システムなど、単に照らすだけではない照明器具を作り出すことに長年注力してきました。Integralisの場合、細菌や菌類、カビの成長を抑制し、ウイルスを死滅させる特定の光周波数をユーザーがアプリで選択できます。
リッケ・フロストがカール・ハンセン&サン社のためにデザインしたSidewaysソファ
一歩先のサステナビリティへ。北欧デザイン6つの最新トレンド
- 離れているけれど、つながっている
一歩先のサステナビリティへ。北欧デザイン6つの最新トレンド
エレナ・サルミストラーロがフローリムのためにデザインしたホテル・キメラ(Hotel Chimera)
カラフルな床と壁の仕上げ
タイルや浴室用品を扱う主要な見本市であるチェルサイエの中止を補うため、ミラノ・デザイン・シティでは、磁器やストーンウェアにおける数多くの新しいアイデアが展示されました。
木目調ストーンウェアなどの天然素材に似せるという、長年にわたって続いたトレンドから離れ、大胆な色合いのものが多く見られました。こうした動きは、パトリシア・ウルキオラやエレナ・サルミストラーロのようなデザイナーが独創性を発揮する余地を与えました。
カラフルな床と壁の仕上げ
タイルや浴室用品を扱う主要な見本市であるチェルサイエの中止を補うため、ミラノ・デザイン・シティでは、磁器やストーンウェアにおける数多くの新しいアイデアが展示されました。
木目調ストーンウェアなどの天然素材に似せるという、長年にわたって続いたトレンドから離れ、大胆な色合いのものが多く見られました。こうした動きは、パトリシア・ウルキオラやエレナ・サルミストラーロのようなデザイナーが独創性を発揮する余地を与えました。
スタジオ・エリザ・オッシノがアミニ・カーペットのためにデザインしたAbstract Room
クラフトマンシップに注目
じゅうたんから鏡、浴室やキッチンの装飾なども展示され、脚光を浴びました。展示された無数の作品の中から特定のスタイルを突き止めることは難しいものの、全体として職人の技術に注目が寄せられているのは明らかでした。
この良い例が、サルバトーリ社のショールーム(写真)です。同社のプレスリリースが指摘するように、「地元の名匠の能力と知識が、ディテールと製造技術への献身というイタリアの伝統を受け継いでいる」ことを示しています。
クラフトマンシップに注目
じゅうたんから鏡、浴室やキッチンの装飾なども展示され、脚光を浴びました。展示された無数の作品の中から特定のスタイルを突き止めることは難しいものの、全体として職人の技術に注目が寄せられているのは明らかでした。
この良い例が、サルバトーリ社のショールーム(写真)です。同社のプレスリリースが指摘するように、「地元の名匠の能力と知識が、ディテールと製造技術への献身というイタリアの伝統を受け継いでいる」ことを示しています。
ピエロ・リッソーニ、ヤブ・プシェルバーグ、エリザ・オッシノ、フェデリコ・バビーナと制作したアクセサリーコレクションが展示された、ブレラにあるサルバトーリ社ショールームの新しいインテリア。
デザイン分野の改革と持久力
次回のミラノサローネ国際家具見本市の「リハーサル」として、あるいは4月に逃してしまったものを取り戻す試みとして開催されたミラノ・デザイン・シティ。
インテリアやデザインの分野が活動を続けていること、そしてその情報や技術、そして詩的な感覚によって製品やデザイン文化のための革新的なアイデアを継続的に生みだす取り組みを示すことを目指しました。
海外からの参加者やバイヤーの不足で何かが欠けていることは明らかでしたが、イタリア家具工業イベント会社の役員であり、アサレド家具協会(Assarredo furniture association)の会長を務めるジュリア・モルテーニ(Giulia Molteni)は、「私たちは4月のミラノサローネ国際家具見本市で各企業が発表する予定だった最新の作品をようやく世界に紹介し、毎年恒例であるフォーリサローネを、デザインの首都において取り戻す機会を持つことができました」と話します。
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次回のミラノサローネ国際家具見本市の「リハーサル」として、あるいは4月に逃してしまったものを取り戻す試みとして開催されたミラノ・デザイン・シティ。
インテリアやデザインの分野が活動を続けていること、そしてその情報や技術、そして詩的な感覚によって製品やデザイン文化のための革新的なアイデアを継続的に生みだす取り組みを示すことを目指しました。
海外からの参加者やバイヤーの不足で何かが欠けていることは明らかでしたが、イタリア家具工業イベント会社の役員であり、アサレド家具協会(Assarredo furniture association)の会長を務めるジュリア・モルテーニ(Giulia Molteni)は、「私たちは4月のミラノサローネ国際家具見本市で各企業が発表する予定だった最新の作品をようやく世界に紹介し、毎年恒例であるフォーリサローネを、デザインの首都において取り戻す機会を持つことができました」と話します。
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