鎌倉の海と遠景に富士山を望む、和と洋をモダンに調和させた家
絶景を各所から楽しめる邸宅。階ごとに異なる和、西洋、リゾートの3つのテーマは、一つの住まいの中にすっきりと共存しています。
パリ、ニューヨーク、東京の3拠点で活躍するフランス人アーティストと日本人の奥様が、鎌倉の海と富士山を一望できる土地を見つけて、定住するためにつくられた住居です。数寄屋建築への造詣が深く、茶の湯も嗜む、審美眼にあふれたお二人だけに、日本の伝統的な手法が随所にちりばめられた、風格のある建物が完成しました。
建物全体に通底する「和と洋をモダンに調和させる」というコンセプトが、外観にも投影されています。
大谷石の塀は、「鎌倉らしい家並みを壊したくない」というオーナーご夫妻の希望を受け、既存の石を一度撤去し、裏側に擁壁をつくって組み直しました。ガレージ屋上に植えたマキの木が、スマートなヒバ材の格子戸、アコヤ材のルーバー付きRC躯体の直線ラインに、清新な印象を与えています。
大谷石の塀は、「鎌倉らしい家並みを壊したくない」というオーナーご夫妻の希望を受け、既存の石を一度撤去し、裏側に擁壁をつくって組み直しました。ガレージ屋上に植えたマキの木が、スマートなヒバ材の格子戸、アコヤ材のルーバー付きRC躯体の直線ラインに、清新な印象を与えています。
階段は、位置は元のままですが、コンクリートの洗い出し仕上げにして、そこに踏み石とトクサを加えて、和モダンなアプローチに。
大谷石の擁壁と馴染む、小叩き仕上げのコンクリート壁が、建物入口まで誘ってくれます。
大谷石の擁壁と馴染む、小叩き仕上げのコンクリート壁が、建物入口まで誘ってくれます。
リン酸色亜鉛処理を施した鉄製ポーチ。
この漆黒の鉄扉の先には、どんな世界が待ち受けているのでしょう?
この漆黒の鉄扉の先には、どんな世界が待ち受けているのでしょう?
オーナーは、猿田さんに設計を依頼する際、自ら描いた間取図を持参し、その後の打ち合わせも、1日13時間に及ぶ日もあったそうです。その熱い思いを丁寧に汲み取りながらも、猿田さんは専門家の視点から「より動線を整理したゾーニング」を提案。玄関ホールを中心に、右側を洋の母屋、左側を和の離れとしてつなげました。
玄関ホールの床は玄昌石。天井はピーラー(米松)。和空間への入口の沓脱石(くつぬぎいし)は御影石。ひとつひとつの素材は、全てご夫妻が選ばれました。
アンティーク・チェアは、オーナーの母国フランスでお母様が使われていたものです。
アンティーク・チェアは、オーナーの母国フランスでお母様が使われていたものです。
1階で最も眺めの良い場所に設えた、日本建築の粋(すい)を凝らした広間。
床の間の柱、上部横木の落掛(おとしがけ)、棹縁(さおぶち)天井の材料も、ご夫妻が猿田さんと一緒に材木屋まで足を運んで決めました。畳も試行錯誤の末、京間に近いサイズで特注しています。
床の間の柱、上部横木の落掛(おとしがけ)、棹縁(さおぶち)天井の材料も、ご夫妻が猿田さんと一緒に材木屋まで足を運んで決めました。畳も試行錯誤の末、京間に近いサイズで特注しています。
縁側は、数寄屋建築に関する蔵書に掲載されていた、オーナー念願の「濡れ縁」を、竹とヒノキ板の面積比率まで、ほぼ同じに再現しています。
掛け流し温泉の雰囲気が漂う、離れ1階のゲスト用バスルーム。ヒノキの浴槽フレームの左側に見える2つのキューブは、猿田さんがデザインした蛇口ハンドルです。
両脇の御影石の腰壁は、意匠性はさることながら、湯船から洗い場の様子が見えないように、周到に計算されています。
両脇の御影石の腰壁は、意匠性はさることながら、湯船から洗い場の様子が見えないように、周到に計算されています。
まるでリビングのようなオーナーの書斎。以前の庭にあった多行松が、シンボルツリーとして残されていました。
オーナーは、この部屋に限らず建物全体が、大開口を介して「庭やテラスへ簡単に出入りでき、室内外が連続するように計画されているので、(新型コロナウィルスの感染拡大による)自粛期間中でも、閉塞感なく過ごせました」と語ります。
オーナーは、この部屋に限らず建物全体が、大開口を介して「庭やテラスへ簡単に出入りでき、室内外が連続するように計画されているので、(新型コロナウィルスの感染拡大による)自粛期間中でも、閉塞感なく過ごせました」と語ります。
母屋は洋空間ですが、1階は和テイスト、2階はヨーロッパテイストに分けています。そのため、天井高2.4mに合わせた特注障子を閉めると、書斎は一気に和の世界に。
書斎続きのマスター・ベッドルームの簀戸(すど)を開けると、ここからも富士山を望めます。
湯船につかりながら、ご夫妻は富士山を眺めたり、ハーフミラーの裏に埋め込んだテレビを鑑賞したり、至福のバスタイムを過ごされています。
1階の廊下兼ギャラリー。所蔵のアート作品を、いずれは両壁に展示できるよう、ドアには取手をつけず、下地補強もしてあります。
ダウンライトの光を受けた作品を鑑賞しながら歩を進めると、2階へと続く階段に至ります。
ダウンライトの光を受けた作品を鑑賞しながら歩を進めると、2階へと続く階段に至ります。
緩やかな傾斜地に建つ建物は、地下1階が車2台分のガレージで、そこからエレベータでも地上1・2階に上がれます。
エレベーターを降りると、正面(写真右)がリビングで、左側がキッチンです。
ホールとキッチン境の引き戸は、主寝室のものと同じデザインですが、1階は和風建築によく合うタモ、2階はより深みのある茶色でヨーロッパ調のチークと、材質を分けています。
ホールとキッチン境の引き戸は、主寝室のものと同じデザインですが、1階は和風建築によく合うタモ、2階はより深みのある茶色でヨーロッパ調のチークと、材質を分けています。
オーナーの洗練されたセンスが光るリビング。家具はもちろんのこと、スチール製のオープン棚に飾る蔵書や美術品の配置にいたるまで、細心の注意が払れています。
天井はエレベーターホールより80cm高い3mです。つまり、ホールから足を踏み入れた瞬間、ぐっと広がった空間から、眼前に広がる絶景を目にすることになります。さらに、大開口から差し込む陽の光が、居心地の良さを高めてくれます。
写真奥の黒いコーナーは暖炉。故郷への郷愁もこめ、オーナーの生家にあったものと同じシステムを導入しています。
写真奥の黒いコーナーは暖炉。故郷への郷愁もこめ、オーナーの生家にあったものと同じシステムを導入しています。
夕暮れ時の景色も格別です。壮大な眺望を遮らないように、バルコニーの手摺りはガラス製です。
広々としたキッチン&プライベートダイニングスペース。奥様のリクエストで、左側のカウンターで調理をし、右側のカウンターで片づけができるようにレイアウトされています。
キッチン奥にはテラスが続き、その先がゲストルームです。
キッチン奥にはテラスが続き、その先がゲストルームです。
一見、木造建築のようにみえるゲスト棟ですが、RC造のため防音精度が高く、南窓の外は森林のため、小さいお子さん連れでも泣き声を心配せずに宿泊できます。専用のバス・トイレ・洗面室も備わっています。
ゲストルームとキッチンを繋ぐ2階のテラス。「図らずも、もうひとつのリビングとして、四季を通じて使い勝手のよい空間となりそうです」と語るオーナー。特に夏場は、強い日差しや風が避けられるので、とても快適だそうです。
右の壁の後ろは、屋上へ続く階段です。
右の壁の後ろは、屋上へ続く階段です。
ギリシャのミコノス島を思わせる青い空と白い階段。屋上への期待が、いやが上にも高まります。
屋上には予想だにしない光景が!心地よい風を浴びながら、ここからも富士山という秀峰の美を堪能できます。
ルーフトップ・プールとウッドデッキは「上から見た時に、色紙を散らしたようなイメージに」と、オーナー自身がデザインされました。
プールの浅瀬部分では足を軽く浸け、水深0.9m部分には流水発生装置がついているので、真剣に泳ぐこともできます。
プールの浅瀬部分では足を軽く浸け、水深0.9m部分には流水発生装置がついているので、真剣に泳ぐこともできます。
夜のとばりが下りる頃には、蹴込みに隠されたライン照明が、より一層、幻想的な光景を演出します。
夕景にも美しく映える、海側に最大限に開かれたこの家は、それぞれの階で異なるテーマを表現することを目指してつくられました。
三方に広がる山林を借景とする枯山水と、「和」の味わいのある1階。夏や冬でも快適に過ごせる「西洋」スタイルの2階。そして、富士山と360度の眺めを満喫できる屋上「リゾート」空間。
「決して安易な解決法を採らず、常に最善策を導き出してくれた」と、設計者である猿田さんについて語るオーナー。どのフロアーも「とても気に入っている」とご満悦でした。
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三方に広がる山林を借景とする枯山水と、「和」の味わいのある1階。夏や冬でも快適に過ごせる「西洋」スタイルの2階。そして、富士山と360度の眺めを満喫できる屋上「リゾート」空間。
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どんなHouzz?
住まい手:夫婦
所在地: 神奈川県鎌倉市
敷地面積:702.61㎡
延床面積:506.78㎡
構造:RC壁構造+一部木造
設計:キューボデザイン建築計画設計事務所
施工:大同工業
竣工年月: 2019年10月
写真:鳥村鋼一
設計は、オーナーと英語で意思疎通がはかれて、地元の気候風土を熟知しているキューボデザイン建築計画設計事務所の猿田仁視さんです。鎌倉の厳しい景観条例や建築規制の諸要件をクリアして、オーナーの多様なアイディアをみごとに形にしました。