女性建築家として働くということ【日本の場合】
今年のプリツカー賞が女性2人組に贈られるなど、女性建築家に注目が集まっています。
杉田真理子
2020年3月31日
まだまだ男性中心な部分も多い、建築の世界。それでも世の中は徐々に変わり、今年のプリツカー賞が女性二人組のグラフトン・アーキテクツに贈られるなど、女性建築家の業績と存在感に注目が集まっています。今回は、Houzzの日本人女性建築家4名に建築と仕事についてインタビューしました。
話をしてくれた4人の建築家たち:木名瀬佳世さん(木名瀬佳世建築研究室)、橋野文さん(橋野文設計事務所)、田代ゆかりさん(アプリコット建築研究所)、木戸扶紀子さん(Unico design一級建築士事務所)
話をしてくれた4人の建築家たち:木名瀬佳世さん(木名瀬佳世建築研究室)、橋野文さん(橋野文設計事務所)、田代ゆかりさん(アプリコット建築研究所)、木戸扶紀子さん(Unico design一級建築士事務所)
建築を学ぼうとしたのはなぜですか?建築をどこで学びましたか?他にも女性の学生は多くいましたか?
建築が好きだった母の影響でこの業界に入ったという、橋野文設計事務所の橋野文さん。「大学では建築を専攻していなかったものの、主に設計事務所で働きながら現場で建築を学びました。独立前、同僚に女性はいたものの、なかなか続いていなかったことを覚えています」
Unico design一級建築士事務所の木戸扶紀子さんは、子供の頃から建築や住宅に興味があったと振り返ります。「育った家が建て込んだ建売住宅で、1階のトイレが暗く、昼間も電気を常につけていたことがイヤでした。どうしたら1階は明るくなるのかと考えはじめた中学生の時、自由課題で、このテーマを取り上げた際、京町家の工夫などを知り、住宅に興味を持ち始めました」と話します。木戸さんは、住宅への興味を追求するべく、女子大の住居学科に進学しました。
建築が好きだった母の影響でこの業界に入ったという、橋野文設計事務所の橋野文さん。「大学では建築を専攻していなかったものの、主に設計事務所で働きながら現場で建築を学びました。独立前、同僚に女性はいたものの、なかなか続いていなかったことを覚えています」
Unico design一級建築士事務所の木戸扶紀子さんは、子供の頃から建築や住宅に興味があったと振り返ります。「育った家が建て込んだ建売住宅で、1階のトイレが暗く、昼間も電気を常につけていたことがイヤでした。どうしたら1階は明るくなるのかと考えはじめた中学生の時、自由課題で、このテーマを取り上げた際、京町家の工夫などを知り、住宅に興味を持ち始めました」と話します。木戸さんは、住宅への興味を追求するべく、女子大の住居学科に進学しました。
建築の仕事はどのようにスタートされましたか?
アプリコット建築研究所の田代ゆかりさんは、新卒で大手ハウスメーカーに就職し、さまざまな会社や事務所で、住宅設計の仕事を学びました。転々としながら実績を積んだのち、独立し、自宅兼事務所で現在活動をしています。
木戸さんは大学卒業後、ゼネコンに就職し、都市開発の部署で働きました。「しかし、男女の待遇の違いに疑問をもったことと、設計をやりたいと思うようになり退職しました。イタリア留学を経てアトリエ事務所勤務をし、その後、独立しました」
アプリコット建築研究所の田代ゆかりさんは、新卒で大手ハウスメーカーに就職し、さまざまな会社や事務所で、住宅設計の仕事を学びました。転々としながら実績を積んだのち、独立し、自宅兼事務所で現在活動をしています。
木戸さんは大学卒業後、ゼネコンに就職し、都市開発の部署で働きました。「しかし、男女の待遇の違いに疑問をもったことと、設計をやりたいと思うようになり退職しました。イタリア留学を経てアトリエ事務所勤務をし、その後、独立しました」
仕事をする中で、女性であるために苦労が多い、と感じることはありましたか?
木名瀬佳世建築研究室の木名瀬佳世さんは、設計事務所で働き始めた若い頃は、クライアントや現場監督、職人さん達から信頼を得るのに、時間がかかったと話します。「まだまだ男性社会なので、コミュニケーションの取り方が難しかったですね」
田代さんは、家事・育児との両立で時間的にも体力的にも大変苦労をしたと、振り返ります。
一世紀におよぶ女性建築家たちの業績をたたえる『ブレイキング・グラウンド』
木名瀬佳世建築研究室の木名瀬佳世さんは、設計事務所で働き始めた若い頃は、クライアントや現場監督、職人さん達から信頼を得るのに、時間がかかったと話します。「まだまだ男性社会なので、コミュニケーションの取り方が難しかったですね」
田代さんは、家事・育児との両立で時間的にも体力的にも大変苦労をしたと、振り返ります。
一世紀におよぶ女性建築家たちの業績をたたえる『ブレイキング・グラウンド』
建築業界で働く女性にとって、社会の状況は変わってきたと思いますか?
「建築業界だけでなく、社会全体として女性が働きやすくなっている一方で、出産後の女性の働き方は、まだまだ改善すべき点が多いように思います」と橋野さん。
木戸さんも、「変わった点も多くあると思う反面、組織などでは根深く変わらない点もあるのではないかと思います」と話します。「そういった組織は離れ、独立したことで、現在ではとてもフラットな環境で仕事ができています」
「建築業界だけでなく、社会全体として女性が働きやすくなっている一方で、出産後の女性の働き方は、まだまだ改善すべき点が多いように思います」と橋野さん。
木戸さんも、「変わった点も多くあると思う反面、組織などでは根深く変わらない点もあるのではないかと思います」と話します。「そういった組織は離れ、独立したことで、現在ではとてもフラットな環境で仕事ができています」
尊敬する女性建築家はいますか?その人をあげる理由を教えてください。
「林雅子さん。年を重ねるごとに美しくなる建築を作っておられるから」と、木名瀬佳世さんは語ります。橋野文さんは、子育てをしながら世界で活躍されている、永山祐子さんの名前をあげます。
田代ゆかりさんは、省エネ住宅の第一人者である森みわさんを尊敬すると話します。「エネルギーを大切にする住宅における考え方、世の中の生活する人々に対する、分け隔てない愛情を感じます」
木戸扶紀子さんは、大学での恩師である高橋公子さんの名前をあげます。「人がいて初めて住宅であり、そこが住宅と建築の違いだ、という高橋先生の言葉を、今も思い出します。『女性はしたたかにしなやかに』という卒業の時の言葉は忘れられません」
アイルランドの女性建築家2人組が、2020年プリツカー賞受賞
「林雅子さん。年を重ねるごとに美しくなる建築を作っておられるから」と、木名瀬佳世さんは語ります。橋野文さんは、子育てをしながら世界で活躍されている、永山祐子さんの名前をあげます。
田代ゆかりさんは、省エネ住宅の第一人者である森みわさんを尊敬すると話します。「エネルギーを大切にする住宅における考え方、世の中の生活する人々に対する、分け隔てない愛情を感じます」
木戸扶紀子さんは、大学での恩師である高橋公子さんの名前をあげます。「人がいて初めて住宅であり、そこが住宅と建築の違いだ、という高橋先生の言葉を、今も思い出します。『女性はしたたかにしなやかに』という卒業の時の言葉は忘れられません」
アイルランドの女性建築家2人組が、2020年プリツカー賞受賞
建築の仕事に、女性が持ち込める強みがあるとしたら、それはなんですか?
「女性の強みは、空間の美しさだけでなく、動線や使い勝手の細やかな提案です。クライアントの言外の要望を読み取って提案することが、女性は得意だと思います」と木名瀬さん。
木戸さんは、「広い視点で、俯瞰的にものをみられるのは、女性のほうが得意なのではないか」と話します。
「限られた時間の中から、生活と仕事をやりくりしてきた実績や、家事・育児の経験から、『住宅はこういう使い方をしたい』という考えが、女性には強く浸透していると思います。その分、提案に説得力があるはずです」と田代さん。
「女性の強みは、空間の美しさだけでなく、動線や使い勝手の細やかな提案です。クライアントの言外の要望を読み取って提案することが、女性は得意だと思います」と木名瀬さん。
木戸さんは、「広い視点で、俯瞰的にものをみられるのは、女性のほうが得意なのではないか」と話します。
「限られた時間の中から、生活と仕事をやりくりしてきた実績や、家事・育児の経験から、『住宅はこういう使い方をしたい』という考えが、女性には強く浸透していると思います。その分、提案に説得力があるはずです」と田代さん。
建築事務所を構える予定の女性へ、アドバイスをいただけますか。
「男性に負けない様に!とは思わず、自分だからできる方法を探ると良いかもしれません」と橋野さん。
木名瀬さんも、「あまり女性建築家というくくりにこだわらず、「自身のやりたいことや強みを活かして活動することが大切だと思います」と語ります。
「男性に負けない様に!とは思わず、自分だからできる方法を探ると良いかもしれません」と橋野さん。
木名瀬さんも、「あまり女性建築家というくくりにこだわらず、「自身のやりたいことや強みを活かして活動することが大切だと思います」と語ります。
「好きなものやことを追い続けることは、自身の大きな糧になるように思います。多くの人と関わりながら、自分のペースで、自由と苦労の表裏一体を楽しみましょう」と木戸さん。
「建築事務所を構えれば、細かいことも自分で考え、行動しなければいけません。そのうえ、家事・育児もあれば、その両立に疲労してしまうことも、あるかもしれません」と田代さん。
「しかし、その頑張りは、いつかは自然に花開きます。苦労した分、顧客の悩みに真剣に向き合えるようになってきます。女性の建築家にお願いしたい、と言ってくれる方もいます。色々なことを勉強し、生き生きと頑張ってください」
女性建築家として働くということ【イギリスの場合】
「建築事務所を構えれば、細かいことも自分で考え、行動しなければいけません。そのうえ、家事・育児もあれば、その両立に疲労してしまうことも、あるかもしれません」と田代さん。
「しかし、その頑張りは、いつかは自然に花開きます。苦労した分、顧客の悩みに真剣に向き合えるようになってきます。女性の建築家にお願いしたい、と言ってくれる方もいます。色々なことを勉強し、生き生きと頑張ってください」
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