インド人芸術家と日本人建築家がリノベーション。古くて新しい、開放感のある自邸
アーティストと建築家の夫妻がリノベーションしたインドの住まい。クリエイティブな工夫が随所にちりばめられています。
Miki Anzai
2020年2月24日
インド最大の都市ムンバイ(旧ボンベイ)の最南端、コロニアルスタイルの建物が立ち並び、洒落たアートギャラリーが密集するコラバ地区。この一角に立つ築80年超のアール・デコ建築の1室は、アーティストのヴィシュア・シュロフさんと建築家の後藤克史さん夫妻により、自邸兼スタジオにリノベーションされています。
二人は、ヴィシュアさんの出身地であるインドのバローダ(ムンバイから400km北にある)で出会い、ロンドンと東京で暮らした後、ムンバイを拠点にすることを決めました。理由は、欧州と東京の中間点という地の利の良さと、新進気鋭の芸術家や建築家が、思う存分活躍できる場所だからです。夫妻のアーティスティックなセンスが光る住まいを訪ねました。
二人は、ヴィシュアさんの出身地であるインドのバローダ(ムンバイから400km北にある)で出会い、ロンドンと東京で暮らした後、ムンバイを拠点にすることを決めました。理由は、欧州と東京の中間点という地の利の良さと、新進気鋭の芸術家や建築家が、思う存分活躍できる場所だからです。夫妻のアーティスティックなセンスが光る住まいを訪ねました。
どんなHouzz?
所在地:ムンバイ、インド
住まい手:後藤克史さんとヴィシュア・シュロフさん夫妻、4ヶ月の愛犬(マリ)と6ヶ月の愛猫(トイ)
主要用途:住居、アトリエ、ワークショップスタジオ
延床面積:約300㎡
設計期間:2016年10月〜2017年3月
竣工年月:2018年3月
設計:後藤克史/SquareWorks LLP
設計協力:有限会社アパートメント
施工:NIRMAAN(Mainak Mushruwala、Husein Khakoo)
写真:Fabien Charuau Photography
ここは、ムンバイで家探しをした二人が、1件目で条件を含め気に入った物件でした。内覧時には、所有者の姉弟が室内を仕切って暮らしており、姉側の居住部しか見られなかったものの、立地の良さと、支払条件が希望に合ったので、購入を即決しました。
リノベーションの設計は、もちろん後藤さんです。計画中はヴィシュアさんが”クライアント役”として注文を出し、後藤さんが時にはダメ出しをしながらも、二人で納得のいく空間を完成させました。
所在地:ムンバイ、インド
住まい手:後藤克史さんとヴィシュア・シュロフさん夫妻、4ヶ月の愛犬(マリ)と6ヶ月の愛猫(トイ)
主要用途:住居、アトリエ、ワークショップスタジオ
延床面積:約300㎡
設計期間:2016年10月〜2017年3月
竣工年月:2018年3月
設計:後藤克史/SquareWorks LLP
設計協力:有限会社アパートメント
施工:NIRMAAN(Mainak Mushruwala、Husein Khakoo)
写真:Fabien Charuau Photography
ここは、ムンバイで家探しをした二人が、1件目で条件を含め気に入った物件でした。内覧時には、所有者の姉弟が室内を仕切って暮らしており、姉側の居住部しか見られなかったものの、立地の良さと、支払条件が希望に合ったので、購入を即決しました。
リノベーションの設計は、もちろん後藤さんです。計画中はヴィシュアさんが”クライアント役”として注文を出し、後藤さんが時にはダメ出しをしながらも、二人で納得のいく空間を完成させました。
こちらは、窓や扉は残しつつ、大胆に間仕切り壁を撤去したキッチン兼ワーキングスペースです。注目すべきは、なんといってもアイランド・キッチンです。2つの部屋と、その間のトイレを撤去してできた巨大空間の中央に配置されています。
カウンターはあえて内と外とに分けず、パントリーも設置していません。「ものを隠す場所がないと、料理をしながら片づける習慣がつき、いつも綺麗な状態に保てます」とヴィシュアさん。
アール・デコ洋式のモールディングや、タイル張りの床などは残しつつ、開放感のある部屋にリノベーションされ、光と風がよく通る空間となっています。その心地よさは、床で安穏とお昼寝中の愛犬マリ君が証明してくれていますね。
カウンターはあえて内と外とに分けず、パントリーも設置していません。「ものを隠す場所がないと、料理をしながら片づける習慣がつき、いつも綺麗な状態に保てます」とヴィシュアさん。
アール・デコ洋式のモールディングや、タイル張りの床などは残しつつ、開放感のある部屋にリノベーションされ、光と風がよく通る空間となっています。その心地よさは、床で安穏とお昼寝中の愛犬マリ君が証明してくれていますね。
インドの家庭ではあまり見かけない「吊り下げラック」は、東京で二人で暮らしていた時に便利だと感じ、ヴィシュアさんが後藤さんにデザインしてもらったものです。
ラックにはスポットライトがクリップで留められていて、照明の位置や向きを自由に変えられます。シンクの排水溝も、「断然ごみが取り出しやすい」(ヴィシュアさん)ので、日本製を導入しています。
キッチンを挟んで、右側がヴィシュアさんが描画(ドローイング)をする空間。左側は、後藤さんのアトリエ・スペースとなっています。
ラックにはスポットライトがクリップで留められていて、照明の位置や向きを自由に変えられます。シンクの排水溝も、「断然ごみが取り出しやすい」(ヴィシュアさん)ので、日本製を導入しています。
キッチンを挟んで、右側がヴィシュアさんが描画(ドローイング)をする空間。左側は、後藤さんのアトリエ・スペースとなっています。
「自分の作品を毎日眺めて振り返りたくない」というヴィシュアさんですが、自邸を描いた作品(写真奥)だけは、壁に飾っています。
この壁面はメモなどの画鋲で刺せるよう、ベニア貼りにしてありますが、他のブリック壁や天井には手を加えず、廻縁部分のアール・デコ調モールディングを残しています。
リノベーションで、後藤さんが一番腐心したのが、「壁に造作家具や既製品をくっ付けない」こと。余白を持たせることで、二人で蒐集した芸術品を壁に飾ったり、模様替えをしやすくするためだそうです。電源スイッチも、壁ではなく、鉄パイプの下部に設置されています。
この壁面はメモなどの画鋲で刺せるよう、ベニア貼りにしてありますが、他のブリック壁や天井には手を加えず、廻縁部分のアール・デコ調モールディングを残しています。
リノベーションで、後藤さんが一番腐心したのが、「壁に造作家具や既製品をくっ付けない」こと。余白を持たせることで、二人で蒐集した芸術品を壁に飾ったり、模様替えをしやすくするためだそうです。電源スイッチも、壁ではなく、鉄パイプの下部に設置されています。
主寝室からは廊下を介して「キッチン兼ワーキングスペース」が望めます。
両開き戸は、以前の建具を逆さにし、開きを反対にしています。床に空いていた落とし棒の受け穴は、この家の歴史として残し、照明ペンダントも元々あったものを引き継いで使っています。
壁面には、旅先で購入したお面を飾っています。手前下の白い仮面は、夫妻の手づくりにして、初めての共同作品だと、ヴィシュアさんが教えてくれました。「バローダのアートフェアで見かけた有名作家の高額作品に触発され、遊びでパロディー版をつくった」のだそうです。
両開き戸は、以前の建具を逆さにし、開きを反対にしています。床に空いていた落とし棒の受け穴は、この家の歴史として残し、照明ペンダントも元々あったものを引き継いで使っています。
壁面には、旅先で購入したお面を飾っています。手前下の白い仮面は、夫妻の手づくりにして、初めての共同作品だと、ヴィシュアさんが教えてくれました。「バローダのアートフェアで見かけた有名作家の高額作品に触発され、遊びでパロディー版をつくった」のだそうです。
寝室内(写真右)には、木製クローゼットを造作し、壁に見立てています。部屋が緩やかに仕切られ、玄関ホールから主寝室までが、まるで廊下で繋がっているかのようです。こうすることで、裏側にあるベッドも見えず、プライバシーも保てる仕掛けになっています。
クローゼットの下部は床から浮かしてあります。こうすることで、ベッド側の窓から差し込む外からの光を、寝室全体に行き渡らせることができます。棚の上部も天井から離すことで、採光効率を高めています。また、クローゼットが入口横の壁にぴったり付いていないので、ベッド側から廊下側にも光が差し込むようにもなっています。
ヴィシュアさんが、キッチンの次に好きという主寝室。朝起きてバルコニーに続く扉を開けると「椰子の木越しにアラビア海が見えます。美しくトロピカルな光景に、幸せな気分に包まれるのです」と話してくれました。
ベッドはコンクリートで造作してあり、動かすことはできません。「木製ベッドも検討しましたが、家の中にひとつくらい固定された場所があってもよいのでは」と思ったというヴィシュアさん。コンクリート製のヘッドボードは、壁面から離してあり、空いた空間で、マリ君が就寝しています。
椅子の上でポーズを取っているのが、どの芸術品よりも「自分が一番美しい」ことを自覚している愛猫トイ君。道で拾われたとは思えない、優雅な佇まいです。
ベッドはコンクリートで造作してあり、動かすことはできません。「木製ベッドも検討しましたが、家の中にひとつくらい固定された場所があってもよいのでは」と思ったというヴィシュアさん。コンクリート製のヘッドボードは、壁面から離してあり、空いた空間で、マリ君が就寝しています。
椅子の上でポーズを取っているのが、どの芸術品よりも「自分が一番美しい」ことを自覚している愛猫トイ君。道で拾われたとは思えない、優雅な佇まいです。
東側のダイニングホール兼ギャラリー兼ワーキングスタジオ
夫妻は、自邸の設計にあたり、スタジオとギャラリーを併設しようと決めていました。それは、「世界各地から同業者らを募り、刺激し合いながら作品を創る」という、二人が長年温めてきた企画を実現するためでした。
この家が完成した2018年に、夫妻は、この企画を実施するためのグループ「スクエアワークス・ラボラトリ(SqW:Lab)」を友人2名と創設しました。以来、主催者4名がチームを組みたい人を1名ずつこの家に招待し、計8名で集中的に意見交換をするワークショッププログラムを開催しています。3ヶ月かけて、各自が作品をつくり、成果をここで展示・発表するそうです。
作品製作には「遊び心」も必要で、たとえば主寝室のベッドサイド・ランプは、ワークショップ中に、後藤さんがパイプとLEDライトを組み合わせてつくったそうです。
天井から吊した照明ラックは、ワイヤーで上げ下げして高さを調整できます。壁をスクリーンに見立て、フィルム上映も可能です。年季の入った車椅子は、ヴィシュアさんの曾祖父が使っていたもので、シュロフ家の思い出の品なのでそうです。
夫妻は、自邸の設計にあたり、スタジオとギャラリーを併設しようと決めていました。それは、「世界各地から同業者らを募り、刺激し合いながら作品を創る」という、二人が長年温めてきた企画を実現するためでした。
この家が完成した2018年に、夫妻は、この企画を実施するためのグループ「スクエアワークス・ラボラトリ(SqW:Lab)」を友人2名と創設しました。以来、主催者4名がチームを組みたい人を1名ずつこの家に招待し、計8名で集中的に意見交換をするワークショッププログラムを開催しています。3ヶ月かけて、各自が作品をつくり、成果をここで展示・発表するそうです。
作品製作には「遊び心」も必要で、たとえば主寝室のベッドサイド・ランプは、ワークショップ中に、後藤さんがパイプとLEDライトを組み合わせてつくったそうです。
天井から吊した照明ラックは、ワイヤーで上げ下げして高さを調整できます。壁をスクリーンに見立て、フィルム上映も可能です。年季の入った車椅子は、ヴィシュアさんの曾祖父が使っていたもので、シュロフ家の思い出の品なのでそうです。
以前キッチンだった場所は、大人数のパーティーをする時に利用するサブ・キッチンになっています。ユーティリティとライブラリー機能を持たせたこの部屋は、キッチンカウンターの下に、ワインセラー、食洗機、洗濯機が収納されています。
本棚は、裏側にある家政夫さんの寝室との仕切りであり、「隠れたキャットタワー」でもあります。愛猫トイ君が本棚で遊べるよう、後藤さんが棚板に穴を開けてあげているのです。
ここでも、本棚の上部は天井から離し、両側のチーク材の扉を開閉式にしています。お手伝いさんの部屋にも光が入るように工夫がなされているのです。
本棚は、裏側にある家政夫さんの寝室との仕切りであり、「隠れたキャットタワー」でもあります。愛猫トイ君が本棚で遊べるよう、後藤さんが棚板に穴を開けてあげているのです。
ここでも、本棚の上部は天井から離し、両側のチーク材の扉を開閉式にしています。お手伝いさんの部屋にも光が入るように工夫がなされているのです。
照明スイッチは、アール・デコ期によくみられた、真鍮と陶器製のトグル・スイッチをアンティークショップで購入して、後藤さんがデザインした木製フレームに収めました。似たようなスイッチが、ヴィシュアさんのお祖父さまの家にもあったそうで、「懐かしい」と語ってくれました。
こちらはゲスト用のベッドルーム。他の部屋と同様、配線・配管を隠すことは一切していません。
ゲスト用バスルームの壁面には、夫妻の友人で陶芸作家のYogesh Mehida氏が、二人のために手焼きしてくれたタイルを張っています。
シャワー、コンクリートの棚、洗面台から、トイレットペーパー・ホルダー、タオル掛けなど、全て後藤さんのデザインによるものです。
シャワー、コンクリートの棚、洗面台から、トイレットペーパー・ホルダー、タオル掛けなど、全て後藤さんのデザインによるものです。
水栓のハンドルキャップは、全て赤色で統一され、インテリアのアクセントとなっています。
独創性に溢れている後藤さん、ヴィシュアさんの住まい。さすが、芸術家と建築家のカップルによるリノベーションだけあります。
「最初からスタイルを確立するのではなく、遊び心を持って、あれこれ試すのが面白い」という夫妻。レイアウト自在な空間は、訪れた人たちのクリエイティビティも存分に刺激してくれそうです。
「最初からスタイルを確立するのではなく、遊び心を持って、あれこれ試すのが面白い」という夫妻。レイアウト自在な空間は、訪れた人たちのクリエイティビティも存分に刺激してくれそうです。
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