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5つのベッドコーナーのある自由度の高いシングルスペースの家
対照的なふたつの景色をつなぐ大開口のあるスキップフロアの家をご紹介します。
渡辺安紀 |Aki Watanabe
2020年1月17日
神奈川県伊勢原市は古墳が多く残る土地。今回ご紹介するのは高台にある古墳のすぐそばに建てられた家です。元々市内の賃貸で暮らしていた施主夫妻。駐車場の契約更新に訪れた不動産屋でたまたまこの土地が売りに出されているのを見つけ、購入しました。
せっかく建てるなら建築家に依頼したいと思い、プロデュース会社に連絡。過去の事例が気にいった建築家のなかから、ステューディオ2アーキテクツの二宮博さんと菱谷和子さんに依頼しました。事前に土地を見に来てくれていてスキップフロアの事例が多く、要望が異なる自分たちの話を親身に聞いてくれたことが決め手となりました。
せっかく建てるなら建築家に依頼したいと思い、プロデュース会社に連絡。過去の事例が気にいった建築家のなかから、ステューディオ2アーキテクツの二宮博さんと菱谷和子さんに依頼しました。事前に土地を見に来てくれていてスキップフロアの事例が多く、要望が異なる自分たちの話を親身に聞いてくれたことが決め手となりました。
どんなHouzz?
所在地:神奈川県伊勢原市
住まい手:30代夫妻と1歳半の息子
種別:新築
敷地面積: 376.26㎡
延床面積:121.26㎡
構造:木造
竣工年:2018年
間取り:DK、土間、書斎スペース含め5つのベッドコーナー、バス、トイレ、ランドリールーム
設計: ステューディオ2アーキテクツ(ザ・ハウスによる紹介)
構造設計:久米弘記建築構造研究所
所在地:神奈川県伊勢原市
住まい手:30代夫妻と1歳半の息子
種別:新築
敷地面積: 376.26㎡
延床面積:121.26㎡
構造:木造
竣工年:2018年
間取り:DK、土間、書斎スペース含め5つのベッドコーナー、バス、トイレ、ランドリールーム
設計: ステューディオ2アーキテクツ(ザ・ハウスによる紹介)
構造設計:久米弘記建築構造研究所
もともと小高い山の傾斜地で段差のあった土地。「その制約を利用すれば面白い家になると思い、敷地の段差を利用したスキップフロアのプランを提案しました」と二宮さん。
計画の過程では夫妻の要望があまりに違っていたため、二つの棟を通路でつなぐという案もでたそう。最終的に、左右に位置する隣家に対しては閉じつつ、南の平野部と北の古墳の森に向けては大きな開口部をつくり、自然の残る周辺環境だけを大きく切り取る、Z状に曲がったzig(ジグ)の形になりました。
計画の過程では夫妻の要望があまりに違っていたため、二つの棟を通路でつなぐという案もでたそう。最終的に、左右に位置する隣家に対しては閉じつつ、南の平野部と北の古墳の森に向けては大きな開口部をつくり、自然の残る周辺環境だけを大きく切り取る、Z状に曲がったzig(ジグ)の形になりました。
家づくりの要望はご主人がビルトインガレージ、土間、広々としたコミュニケーションスペース、スキップフロアなど。奥様の要望は、日常的に外でも食事ができる暮らし、キッチンの広い作業台など。そして二人の要望は寝転がれるスペースを随所に設けた景色を取り込んだ家というものでした。
玄関を入るとエントランスホールです。ピアノがあり、ショーケースのようなビルトインガレージにアクセスできます。
玄関を入るとエントランスホールです。ピアノがあり、ショーケースのようなビルトインガレージにアクセスできます。
腰掛けたり飾り棚にもなったりする階段を下りると、クックトップ付きの薪ストーブのある幅2.7mの土間スペースです。取材時は息子さんの遊び場として大活躍していました。土間に下りると北側の開口部からはちょうど空が見える視線の位置になります。
土間・エントランスホール:コンクリート打ちっ放し金ゴテ仕上げ、薪ストーブ:ネスターマーチン
土間・エントランスホール:コンクリート打ちっ放し金ゴテ仕上げ、薪ストーブ:ネスターマーチン
南側には庭と平野が広がります。ゆくゆくは庭でグランピングをしながら薪ストーブで料理をする予定。全開口できる木製サッシの掃き出し窓は防犯性能の高い複層ガラス。「庭も含めて考えられた家の計画なので、お子さんが成長されてこのスペースをフル活用していただくのが楽しみです」と菱谷さん。
階段右手、エントランスホールとのレベル差を利用して奥行きの広い収納庫が設けられています。欧米の駅で見かけそうなデザインの時計は旦那様のお気に入り。
階段右手、エントランスホールとのレベル差を利用して奥行きの広い収納庫が設けられています。欧米の駅で見かけそうなデザインの時計は旦那様のお気に入り。
正面のグレーの扉は左がランドリールーム、右がトイレです。右奥にファミリークローゼットとバスルームが続きます。
階段をあがると2階にはキッチン、ダイニング、書斎スペースがあります。
階段をあがると2階にはキッチン、ダイニング、書斎スペースがあります。
階段をあがったところ。南に向かって、キッチンとダイニングが続き、土間の上部にあたる位置に書斎スペースがあります。
ダイニングの先に視線が抜け、窓の筋交いを意匠として見せています。このトライアングルは、ほかの場所や梁でも繰り返され、この家の象徴的なモチーフです。
南に広がる平野には高速道路と線路、大きな鉄塔と近代的構造物が見えます。「連休の夜は車のテールランプが美しい夜景になります」とご主人。
ダイニングの先に視線が抜け、窓の筋交いを意匠として見せています。このトライアングルは、ほかの場所や梁でも繰り返され、この家の象徴的なモチーフです。
南に広がる平野には高速道路と線路、大きな鉄塔と近代的構造物が見えます。「連休の夜は車のテールランプが美しい夜景になります」とご主人。
幅2.7mとは感じさせない造作キッチン。床のアカシアにあわせてバーチの集成材を塗装しています。広く感じるのは「空間が見えなくて繋がっているからです。立ち位置によって各スペースが見え隠れするので広く感じる視覚効果を生んでいます」と二宮さん。
この幅だと一般的には壁付けのキッチンを薦めるそうですが、奥様の要望でアイランドキッチンに。結果的に「両サイドからアクセスできるので、遊びにきた友達も気軽に手伝ってくれます」と奥様。エアコンの右側に取り付けたボックスには壁付けの換気扇が収まります。
この幅だと一般的には壁付けのキッチンを薦めるそうですが、奥様の要望でアイランドキッチンに。結果的に「両サイドからアクセスできるので、遊びにきた友達も気軽に手伝ってくれます」と奥様。エアコンの右側に取り付けたボックスには壁付けの換気扇が収まります。
幅65cmで長さ2.1mのダイニングテーブルは調理の作業台としても使えます。一番奥にはこの家にある5ベッドスペースのうちの1つ目、リーディングベッドがあります。幅80cmあるので昼寝にはもってこいです。
現在はこの写真のようにリーディングベッド部分を外して、奥様が料理している間、息子さんの遊び場になっています。西側の腰窓はちょうど息子さんの視線の位置。特急列車が見える一等地です。
北側の白い壁にはプロジェクターでTVを投影します。「プロジェクターのほうが目が疲れません」とご主人。季節が良くなったら外でもプロジェクターを使いたいご主人のために、「庭のある南側の壁は白くしたんです」と菱谷さん。
北側の白い壁にはプロジェクターでTVを投影します。「プロジェクターのほうが目が疲れません」とご主人。季節が良くなったら外でもプロジェクターを使いたいご主人のために、「庭のある南側の壁は白くしたんです」と菱谷さん。
小上がりを上がると書斎スペース兼、2つ目のベッドスペースです。持ち帰った仕事を片付けるのにも便利なんだとか。来客が多いときはこちらにも腰掛けて会話を楽しめます。
書斎スペースから西側を見たところ。梁の上に床や箱をのせたユニークなつくりです。ここで仕事をしていると、西側から息子さんが呼んでくれるのも楽しいのだとか。
天井のサーキュレーションは開口部を開けて庭でグランピングしながら薪ストーブを使ったときに暖まった暖気を家中に届けます。12月の取材時はエアコンも薪ストーブも使っていなくても十分快適な室温でした。断熱材の効果はもちろん、日中開口部から差し込む日差しで家が十分暖まるそう。同様に土間のコンクリートも蓄熱効果があるので、「エアコンはまだほとんど使わないですね。朝でも17度、昼間は20〜21度あるので快適です」とご主人。
天井のサーキュレーションは開口部を開けて庭でグランピングしながら薪ストーブを使ったときに暖まった暖気を家中に届けます。12月の取材時はエアコンも薪ストーブも使っていなくても十分快適な室温でした。断熱材の効果はもちろん、日中開口部から差し込む日差しで家が十分暖まるそう。同様に土間のコンクリートも蓄熱効果があるので、「エアコンはまだほとんど使わないですね。朝でも17度、昼間は20〜21度あるので快適です」とご主人。
階段を下り、再び土間スペースへ。土間から天井を見あげた写真。耐風のために斜めに張った梁と、その上に寝室と書斎スペースの根太と床を載せた美しい天井です。梁を独立させ、構造体そのものを一段階上のインテリアとして見せています。
「美しい構造はそのまましつらえとなり、余分な装飾がいらないので、コスト面でもメリットになります」と二宮さん。
「美しい構造はそのまましつらえとなり、余分な装飾がいらないので、コスト面でもメリットになります」と二宮さん。
ターコイズブルーが鮮やかな壁に横長のミラー。左手奥の扉はファミリークローゼットで、幅1.4m奥行き5.4mの大容量です。
バスルームの扉はダブルの波形ポリカーボネート板を採用。置き型のバスタブはサンワカンパニー、シャワーと水栓はハンスグローエです。「内と外を一体化させ、海外のリゾートのように視界に入っても美しいバスルームを作りました」と二宮さん。
ご主人の要望でバスルームからも庭へ出れるように。「窓を開けて息子と湯船につかりながら、電車を眺めています」とご主人。
バスルームの扉はダブルの波形ポリカーボネート板を採用。置き型のバスタブはサンワカンパニー、シャワーと水栓はハンスグローエです。「内と外を一体化させ、海外のリゾートのように視界に入っても美しいバスルームを作りました」と二宮さん。
ご主人の要望でバスルームからも庭へ出れるように。「窓を開けて息子と湯船につかりながら、電車を眺めています」とご主人。
照明はあえて照度を下げ、陰影をつくっています。これもご主人のこだわり。薪ストーブのゆらめく炎も映えます。
エントランスホールはご主人のピアノが置かれ、ちょっとしたステージに。ミュージシャンのお父様の影響を受けて今でもピアノを続けているそう。音響の良さはお父様のお墨付きです。
エントランスホールはご主人のピアノが置かれ、ちょっとしたステージに。ミュージシャンのお父様の影響を受けて今でもピアノを続けているそう。音響の良さはお父様のお墨付きです。
エントランスホールからビルトインガレージを見たところ。家の西側にあたるこちら側は幅3.6mです。写真は防犯ガラスの引き戸を開けた状態。「車を家具のように捉えました」と二宮さん。ガレージには収納が設けられ、大型の荷物は太い梁に吊ることもできます。
階段を登っていくと左手にラワンベニヤ合板のボックス。まるで宙に浮いているようです。合板でも美しく見えるよう、ロットを合わせて発注。仕上げにはウレタンクリア塗装を施し、杢目を浮かび上がらせました。「ボックスを載せて家の中にも内と外のある入れ子状態をつくりました」と二宮さん。
右手の幅広のカウンターは将来息子さんの勉強机として活躍する予定。
右手の幅広のカウンターは将来息子さんの勉強机として活躍する予定。
ボックス内部は和室。たくさん寝返りを打てるため、息子さんのお気にいりの空間。収納やトイレを除き、この空間だけが引き戸を閉じれば完全に遮断されます。
いわゆる普通の部屋はいらないというのが当初からの話だったそう。家族がどう繋がりたいのかを聞いたときに、「それぞれが過ごせて寝転がれるコーナーがあればいい」というのが夫妻の意見でした。「その分設計の自由度が増してオリジナルなものができました」と二宮さん。
いわゆる普通の部屋はいらないというのが当初からの話だったそう。家族がどう繋がりたいのかを聞いたときに、「それぞれが過ごせて寝転がれるコーナーがあればいい」というのが夫妻の意見でした。「その分設計の自由度が増してオリジナルなものができました」と二宮さん。
階段右手は上下に4つ目と5つ目のベッドスペース。「下段は将来的に2つに分けることもできます」と菱谷さん。
「キッチンとバスルーム、トイレ以外、用途を限定したスペースがないので、将来的にどう使うか自由に変えていけるのがすごくいいなと思います」とご主人。
「キッチンとバスルーム、トイレ以外、用途を限定したスペースがないので、将来的にどう使うか自由に変えていけるのがすごくいいなと思います」とご主人。
上段は北側の古墳をのぞむ窓台を拡張させたスペース。筋交いが交差する真ん中に座り、古墳の森に思わず正対したくなる空間です。春は桜、秋は銀杏の大木が家族を楽しませてくれます。
子供ができてスキップフロアは少し心配だったという奥様。実際に暮らし始めると、階段では慎重に登っているし、何より家中どこでも遊び場として楽しんでいる様子に安心したそう。念のため危なそうなところには落下防止のネットを張っています。「ちょっとのぞけば様子が見えますし、声を出せばすぐ届きます。家は広くなって、家族は近くになりました」
子供ができてスキップフロアは少し心配だったという奥様。実際に暮らし始めると、階段では慎重に登っているし、何より家中どこでも遊び場として楽しんでいる様子に安心したそう。念のため危なそうなところには落下防止のネットを張っています。「ちょっとのぞけば様子が見えますし、声を出せばすぐ届きます。家は広くなって、家族は近くになりました」
外観の夕景。外壁は南北にガルバリウム鋼板とジョリパッド、東西はサイディングの組み合わせ。トライアングルの構造が美しく浮かびがります。
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