限られた予算でも夢を実現。暮らしながらつくり続ける「ハーフビルド」の家
「半分自分でつくる」住まいを選んだオーナー夫妻。家づくり成功の秘訣は「自分の理想とする家づくりに理解のある建築家と施工会社の協力を得ること」と話します。
ランドスケープデザイナーの石川洋一郎さんと米国人の奥様メアリーさんが、双子のお嬢さんと暮らす家は、入居して4年近くになるが、まだ完成していない。住みながら、少しずつ内装を自分たちの好みに仕上げているからだ。
予算は5000万円。八王子市の土地を2700万円で購入したため、設計・施工に充てられる金額が2300万円だったという事情もある。DIYに自信があり、自然素材とシンプルなデザインを大切にしている石川さんが選んだ方法が、自ら内装の仕上げ、建具や家具づくりを行う「ハーフビルド方式」で家を建てることだった。
予算は5000万円。八王子市の土地を2700万円で購入したため、設計・施工に充てられる金額が2300万円だったという事情もある。DIYに自信があり、自然素材とシンプルなデザインを大切にしている石川さんが選んだ方法が、自ら内装の仕上げ、建具や家具づくりを行う「ハーフビルド方式」で家を建てることだった。
シックで趣のある外観。外壁は、石川さんが自ら焼いたスギ板(約1000枚)を張り詰めている。敷地が多摩御陵の参道沿いの風致地区内にあるため、「色づかいには特に気を遣いました」という石川さん。毎週末のように山梨県にある知人の家具工房に出向き、スギ板を深い墨色になるまで焼き続けたそう。
自然を思いやりながら、地産地消を目指している石川夫妻。建物の三面を囲む焼杉と、南に面したファサードに使用したスギのほとんどは、山梨県産の間伐材である。
さまざまな家の外観写真をみる
自然を思いやりながら、地産地消を目指している石川夫妻。建物の三面を囲む焼杉と、南に面したファサードに使用したスギのほとんどは、山梨県産の間伐材である。
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スギ板は、通常規格より3mm厚い18mmに製材し、サネ(凸凹)加工を施した後に、板の厚さの半分(9mm)までしっかり焼き上げた。こうすることで、質感と性能の両方を確保した。
あらかじめ板の厚さを、建築家の吉田さんが考慮して、サッシの配置や収まりまで計画したので、全てが見事にフィットしている。
「ハーフビルドは、一般の方には薦められませんが、焼杉は、防腐・断熱・防虫に効果があり、ほぼメンテナンス・フリーなので皆さんにお薦めしたいです」と石川さん。藤森照信の「焼杉ハウス」に感化されたそう。
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あらかじめ板の厚さを、建築家の吉田さんが考慮して、サッシの配置や収まりまで計画したので、全てが見事にフィットしている。
「ハーフビルドは、一般の方には薦められませんが、焼杉は、防腐・断熱・防虫に効果があり、ほぼメンテナンス・フリーなので皆さんにお薦めしたいです」と石川さん。藤森照信の「焼杉ハウス」に感化されたそう。
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「必要なもの以外は所有せず、モノを減らす努力をしていますが、植物だけは増やしています」という石川夫妻。ガーデンデザイナーでもあるメアリーさんは、「自然と繋がることで、人間はストレスや鬱状態を解消できる」という「バイオフィリア」の概念を信じており、日本にも普及させたいと考えている。
家の中で一番気に入っているのが「リビングの大開口」というメアリーさん。「この居間から外を眺めると、手前の緑の奥に、さらに重なるように庭の緑が眺められるのです。さながら、山に登って、自分の周りを囲む木々だけでなく、その先に広がる山並みまで見渡しているような気分です」
家の中で一番気に入っているのが「リビングの大開口」というメアリーさん。「この居間から外を眺めると、手前の緑の奥に、さらに重なるように庭の緑が眺められるのです。さながら、山に登って、自分の周りを囲む木々だけでなく、その先に広がる山並みまで見渡しているような気分です」
家の中と外との一体感を得られるように、「ゆくゆくは、リビング続きのウッドデッキを製作するつもりです」という石川さん。そのため、リビングの床と地面とのレベル差を、通常の40cmではなく10cmにまで下げて設計してある。
デッキ構想の実現化には、まだ時間がかかりそうだが、今は2階のベランダからタープ(布)を張って、その下で近隣コミュニティの仲間や隣近所の住民を集めてBBQをしたり、正月には餅つきをして楽しんでいる。
デッキ構想の実現化には、まだ時間がかかりそうだが、今は2階のベランダからタープ(布)を張って、その下で近隣コミュニティの仲間や隣近所の住民を集めてBBQをしたり、正月には餅つきをして楽しんでいる。
石川邸の主な暖房器具は、階段下の壁に埋め込んだペレットストーブだ。リビングの階段側を吹抜けにすることで、2階にも熱をあげられる仕組みになっている。
また庭側の壁面に、断熱機能の高いアルゴンガス入りペアガラスを上下にはめ込み、太陽の輻射熱もふんだんに取り込んでいる。コンクリートの床も蓄熱効果があるという。
唯一の誤算は、足場を組まないと吹抜け上部の壁の「パテ処理と塗装ができないこと」と苦笑する石川さん。「ここはプロに任せても良かったかもしれない」と少し後悔しているそう。
また庭側の壁面に、断熱機能の高いアルゴンガス入りペアガラスを上下にはめ込み、太陽の輻射熱もふんだんに取り込んでいる。コンクリートの床も蓄熱効果があるという。
唯一の誤算は、足場を組まないと吹抜け上部の壁の「パテ処理と塗装ができないこと」と苦笑する石川さん。「ここはプロに任せても良かったかもしれない」と少し後悔しているそう。
2階のマスターベッドルームに造りつけた高さ3m強のクローゼットも、石川さんがデザイン・設計し、友人の家具職人に製作・施工してもらったそう。上段の衣類は手が届かないので、クリーニング屋で見かけるような長い竿あげ棒を使って、上げ下ろしをしている。
「取っ手が苦手」という石川さん。自身がデザインして設計する収納家具は、特殊形状の手がかりで開閉できるようにしているので、シンプルで美しい。
「取っ手が苦手」という石川さん。自身がデザインして設計する収納家具は、特殊形状の手がかりで開閉できるようにしているので、シンプルで美しい。
建築家の吉田さんは、石川邸を設計するにあたり、「いかに建築の質を維持しながら、コストを削減するか」に心を砕いたという。
当初は石川夫妻のリクエストで計画していた「屋上庭園」だが、費用や構造上の問題で断念した変わりに、石川さんが海外の雑誌で見つけた切妻屋根の納屋(バーン)から着想を得て、予算内でこの家の設計を完成させた。「考える時間のゆとりさえあれば、よりよい解決策は必ず発見できます」と語る吉田さん。
当初は石川夫妻のリクエストで計画していた「屋上庭園」だが、費用や構造上の問題で断念した変わりに、石川さんが海外の雑誌で見つけた切妻屋根の納屋(バーン)から着想を得て、予算内でこの家の設計を完成させた。「考える時間のゆとりさえあれば、よりよい解決策は必ず発見できます」と語る吉田さん。
フランスで8年半、ランドスケープデザイナーとして研鑽を積んだ石川さんは、カリフォルニア州でガーデンデザイナーとして働いていたメアリーさんとフランスで出会い、結婚した。海外生活が長い二人にとって、「住みながら、上手にお金をかけずに、魅せる家をつくること」は、ごく自然なことだという。今後は内装だけでなく、後回しになっている「庭のデザインにもっと力を入れたい」と語ってくれた。
シアトルの「半分セルフビルド」で改築した家
本当に必要なものだけで快適に暮らす、オーストリアのエコなタイニーハウス
シアトルの「半分セルフビルド」で改築した家
本当に必要なものだけで快適に暮らす、オーストリアのエコなタイニーハウス
住まい手:夫妻、10歳になる双子の娘たち
所在地:東京都八王子市
敷地面積:292.50㎡
建築面積:84.72㎡
延床面積:150.42㎡
構造:木造
設計・監理・撮影:shushi architects inc.(吉田周一郎)
施工:創和建設株式会社
内装・庭園:株式会社TREEFORTE(石川洋一郎)
竣工:2015年12月
土地代:2700万円
設計・工事費:2300万円
「ハーフビルド」(半分セルフビルド)を成功させる秘訣は、「自分の理想とする家づくりに理解のある建築家と施工会社の協力を得ること」と断言する石川さん。建築家の吉田周一郎さんは、以前、設計コンペで石川さんと協働したことがあり「彼のDIYの腕前も知っていたので、安心して彼に任せる部分と、分離発注すべき点が明確でした」と語る。
また施工会社も、石川さんの実家のある神奈川県相模原市の藤野地区を拠点に、セルフビルドの施工を多く手がけていたため、うまく連携できたという。