用途を決めない空間を楽しむ「家具のような」狭小住宅
都心ならではの生活スタイルを見極めて、心地よく豊かに過ごせる空間がつづく家をご紹介します。

渡辺安紀 |Aki Watanabe
2019年10月31日
都心の交通量の多い幹線道路から下町の風情を残した商店街を抜け、一本入った静かな住宅街に、斜め張りのガルバリウム鋼板の外壁が目を惹く「milk carton house」(ミルクパックの家)はある。
ここに住むのは、設計事務所に勤務する建築士の宮本将毅さんと、アパレル会社のデザイナーとして勤務する奥様の直子さん。結婚後、新居を通勤の利便性を第一優先にして、マンションも含めて検討。駅まで徒歩5分でT字路に面した南向きの土地が見つかり、即購入した。
夫妻が新居の設計を依頼したのはTENHACHI一級建築士事務所の佐々木倫子さん。直子さんの幼馴染で、宮本さんの大学院の研究室仲間だ。「子供の頃、“いつか家を建ててもらおう”って言ってたのが実現しました」と直子さんは笑う。
ここに住むのは、設計事務所に勤務する建築士の宮本将毅さんと、アパレル会社のデザイナーとして勤務する奥様の直子さん。結婚後、新居を通勤の利便性を第一優先にして、マンションも含めて検討。駅まで徒歩5分でT字路に面した南向きの土地が見つかり、即購入した。
夫妻が新居の設計を依頼したのはTENHACHI一級建築士事務所の佐々木倫子さん。直子さんの幼馴染で、宮本さんの大学院の研究室仲間だ。「子供の頃、“いつか家を建ててもらおう”って言ってたのが実現しました」と直子さんは笑う。
どんなHouzz?
所在地:東京都渋谷区
住まい手:宮本将毅さん、直子さん
種別:新築
敷地面積:約25㎡
延床面積:約72㎡
構造:木造
竣工年:2018年
設計:TENHACHI一級建築士事務所
構造計算:田中哲也建築構造計画
施工:富士ソーラーハウス
間取り:LDK、ワークスペース(土間)、バス、ランドリールーム・パントリー・洗面所、トイレ×2、洗面所、ロフト×2
敷地条件:第一種高度地区(北側斜線制限)
撮影:三嶋義秀
家を建てるにあたって夫妻は、要望を伝えるより、短冊状の敷地、高さ制限による「制約が多いなかで何ができるかな?」と相談をした。佐々木さんの提案を受ける前に、ハウスメーカー2社にも提案をもらっていた。両社とも長手側に階段を寄せて1階が水回り、2階が対面キッチンのLDK、3階が寝室で延床面積が64㎡という提案だった。
所在地:東京都渋谷区
住まい手:宮本将毅さん、直子さん
種別:新築
敷地面積:約25㎡
延床面積:約72㎡
構造:木造
竣工年:2018年
設計:TENHACHI一級建築士事務所
構造計算:田中哲也建築構造計画
施工:富士ソーラーハウス
間取り:LDK、ワークスペース(土間)、バス、ランドリールーム・パントリー・洗面所、トイレ×2、洗面所、ロフト×2
敷地条件:第一種高度地区(北側斜線制限)
撮影:三嶋義秀
家を建てるにあたって夫妻は、要望を伝えるより、短冊状の敷地、高さ制限による「制約が多いなかで何ができるかな?」と相談をした。佐々木さんの提案を受ける前に、ハウスメーカー2社にも提案をもらっていた。両社とも長手側に階段を寄せて1階が水回り、2階が対面キッチンのLDK、3階が寝室で延床面積が64㎡という提案だった。
一方佐々木さんの計画では、階段が1階から2階、2階からロフトと2つに分かれていた。2階構成にロフトを2つ組み合わせ、天井高に抑揚をつけた4層構成だ。この土地の場合、2階建てにすると内装素材の選択肢が増え、コストを抑えられるメリットもあった。
バルコニーとガレージ、玄関スペースを取らず、容積を70㎡強にするという提案。「見える、見えないが連続しながら、レベル差で空間を繋げていく計画が、面白いと思いました」と宮本さん。都心で共働きの二人のライフスタイルにもぴったりだった。「どれだけ光や風といった暮らしの環境を豊かにできるかをテーマに、自由に発想して提案を作れたと思います」と佐々木さん。
バルコニーとガレージ、玄関スペースを取らず、容積を70㎡強にするという提案。「見える、見えないが連続しながら、レベル差で空間を繋げていく計画が、面白いと思いました」と宮本さん。都心で共働きの二人のライフスタイルにもぴったりだった。「どれだけ光や風といった暮らしの環境を豊かにできるかをテーマに、自由に発想して提案を作れたと思います」と佐々木さん。
玄関扉をあけると土間づくりのワークスペース。現在は直子さんのミシンが置かれ、南に面した窓から差し込む光を気持ちよく浴びながら制作をしたり、宮本さんがパソコンを持ってきて仕事をしたりする。
天井高は約3.4mあり、大きな窓と、梁をあらわしにした天井、吊り下げられた観葉植物と照明によって垂直線が強調され、吹き抜けのような開放感を感じさせる。前面道路との境界に植えたユーカリとローズマリーが、ほどよくプライバシーを守る。
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天井高は約3.4mあり、大きな窓と、梁をあらわしにした天井、吊り下げられた観葉植物と照明によって垂直線が強調され、吹き抜けのような開放感を感じさせる。前面道路との境界に植えたユーカリとローズマリーが、ほどよくプライバシーを守る。
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テーブルは簡単に折り畳め、空間をより広く使うこともできる。壁は構造用のラーチ合板で、床はモルタル仕上げ。友人たちから「この場所は貸せる」と言われ、貸しスタジオとして登録してみることに。「当初の想定にはありませんでしたが、多用途に使える空間にしてもらえてよかったです」と宮本さん。
照明:menuのBollard Lamp、チェア:HAYのAAC23、筋交い:コボットのW使い
照明:menuのBollard Lamp、チェア:HAYのAAC23、筋交い:コボットのW使い
1階奥には、水回りが収まる白い箱。夫妻がPORTER’S PAINTのざらっとした質感を出せる塗料を刷毛で塗装。木の壁とも調和する。窓からの光を反射して空間を明るくする効果もある。
白い箱の上部は寝室として使っているロフト。下部は2つの空間に分かれている。
白い箱の上部は寝室として使っているロフト。下部は2つの空間に分かれている。
白い箱の手前側はゲスト用洗面室、奥にトイレがある。クローゼットはIKEA。
鍵付きのガラス扉を抜けて、プライベートスペースへ。白い箱の奥の空間は、シューズクローゼット、洗面とランドリールーム。右手前に裏手の勝手口に繋がるパントリーがあり、右手奥はバスルームだ。洗面室を2つ作っても、土間空間が窮屈にならないように計画されている。
天井の梁の間に丸棒が設置されているので洗濯物が干せる。ゲストが泊まるときにカーテンを取り付ければ脱衣所にもなる。
天井の梁の間に丸棒が設置されているので洗濯物が干せる。ゲストが泊まるときにカーテンを取り付ければ脱衣所にもなる。
箱上部のロフトと2階へ続く階段の手すり。コスト面から、木の丸棒をカットして木釘で取り付けたのだが、見た目のかわいさと柔らかな触り心地がゲストに好評だ。
階段から1階のロフト部分の寝室へ。手前は耐力壁兼、分電盤や布団などが収まる収納庫。写真左手の高窓からも柔らかい光が届く。
ロフトの床は構造用合板をあらわしに。釘を打ったところはヤスリを丁寧にかけているので、素足でも気にならない。低いベッドを2台置ける十分な広さがある。
ロフトの床は構造用合板をあらわしに。釘を打ったところはヤスリを丁寧にかけているので、素足でも気にならない。低いベッドを2台置ける十分な広さがある。
階段の踊り場には天窓。真上から差し込む光が回り込む階段を明るく照らす。階段の途中にもう1つトイレがある。
照明:PLUMENのDrop hat lamp shade with baby PLUMEN 001
照明:PLUMENのDrop hat lamp shade with baby PLUMEN 001
レンジフード:サンワカンパニーのミニマルスリム
動線や、ロフトに続く階段下に頭をぶつけないように実測して議論を重ねた壁付けの I 型キッチン。「ダイニング、リビングから見えても雑多に見えず、良いしつらえとなるよう使い勝手も踏まえて考慮しました」と佐々木さん。
カウンターはフレキシブルボードのウレタン塗装。L字に配置したキャビネットはIKEAを使いつつ、天板は造作で木口を見せるデザインに。toolboxで見つけたラーチの吊り戸棚も、同じく木口を見せるデザイン。食洗機にもIKEAの化粧板を貼り付け、既製品を上手に取り入れながら家具としての一体感を高めた。
動線や、ロフトに続く階段下に頭をぶつけないように実測して議論を重ねた壁付けの I 型キッチン。「ダイニング、リビングから見えても雑多に見えず、良いしつらえとなるよう使い勝手も踏まえて考慮しました」と佐々木さん。
カウンターはフレキシブルボードのウレタン塗装。L字に配置したキャビネットはIKEAを使いつつ、天板は造作で木口を見せるデザインに。toolboxで見つけたラーチの吊り戸棚も、同じく木口を見せるデザイン。食洗機にもIKEAの化粧板を貼り付け、既製品を上手に取り入れながら家具としての一体感を高めた。
直子さんの要望で水栓はBRIZOの白を採用。空間に美しく馴染んでいる。階段下は体重を支えられるようキャビネットのなかに束を立て、強度を補強した。
ダイニングテーブル、ベンチ:HAYのCPH DUEXシリーズ、チェア:HAYのAAC23、NEU13、床:サンワカンパニーのザ・Pタイル
色は家全体を白、木、グレーの3色で統一。「モダンでありながら自然体で、柔らかい」直子さんをイメージしたと話す佐々木さん。「構造材とも合い、マットな樹脂系の白だからかっこよく仕上がりました」と宮本さん。淡いピンクのダイニングチェアがアクセントになっている。
ダイニング、リビングの窓枠、2階ロフト外側の本棚も木口を見せるデザインで空間同士の連続性を高めている。本棚の左端も敢えて板を足し、家具のように見せた。
色は家全体を白、木、グレーの3色で統一。「モダンでありながら自然体で、柔らかい」直子さんをイメージしたと話す佐々木さん。「構造材とも合い、マットな樹脂系の白だからかっこよく仕上がりました」と宮本さん。淡いピンクのダイニングチェアがアクセントになっている。
ダイニング、リビングの窓枠、2階ロフト外側の本棚も木口を見せるデザインで空間同士の連続性を高めている。本棚の左端も敢えて板を足し、家具のように見せた。
リビングエリアの小上がり兼本棚。腰掛けることもできるし、宮本さんが寝転ぶお気に入りのスペースでもある。ソファは元々直子さんが持っていたIDÉEのAO SOFAを、家の3色の配色に合わせてグレーに張り替えた。最近はここでピクニック気分でご飯を食べるのが二人のブーム。
床は4枚扉の床下収納。隙間を有効活用して、日用品のストックやスポーツ用品などが収まる。
床は4枚扉の床下収納。隙間を有効活用して、日用品のストックやスポーツ用品などが収まる。
壁紙や色塗装で隠さない分、面積の広い壁の仕上げは重要なポイントだったという佐々木さん。壁は構造用合板のビスを隠すため、仕上げに9mm のラーチ合板を重ねた。ネジの位置や、中途半端なところで板が切れないようにといった細部まで熟練の大工が耳を傾け、丁寧に仕上げてくれたのが心強かったそう。仕上げのウレタン塗装は、夫妻が友人の協力を得て3日間かけて塗装した。
鉄筋工の職人と相談しながら製作したミニマルなデザインの片持ち階段。キッチンに埃が落ちるのを防ぐため、蹴込み板を取り付け、合板の壁の美しさを壊さないよう、段裏側に三角形のプレートで階段を支える意匠にした。
2階の天窓はセンサー付き。取材時には名作漫画が並んでいて、大人がくつろいで過ごせるラウンジのようだった。
ここで直子さんがストレッチをしたり、冬は1階のロフトよりも暖かいのでここで寝たりすることもあるという。「用途を決めた空間がないので家中あっち行ったり、こっちに来たり。自由に過ごせるのが気に入ってます」と宮本さん。リビング側の天井にはシーリングファン。角度に合わせてカットした取り付け用の木の台を佐々木さんが塗装した。
ここで直子さんがストレッチをしたり、冬は1階のロフトよりも暖かいのでここで寝たりすることもあるという。「用途を決めた空間がないので家中あっち行ったり、こっちに来たり。自由に過ごせるのが気に入ってます」と宮本さん。リビング側の天井にはシーリングファン。角度に合わせてカットした取り付け用の木の台を佐々木さんが塗装した。
余計な凹凸のない、すっきりとした外観。屋根と外壁を一緒にして箱状に見せるため、正面にガルバリウム鋼板を使い、側面はジョリパッドを使った。防犯カメラのプルボックスも牛乳パックの形を壊さないよう内側に収めた。
外壁のパターンは過去の作品でも床や扉に採用している斜め張り。開口部があるため、職人を探すのに苦労したが、金属外装メーカーのタニタハウジングウェアの紹介で実現した。一枚一枚折り紙のように美しく処理していく職人の手仕事に感動したそう。
外壁のパターンは過去の作品でも床や扉に採用している斜め張り。開口部があるため、職人を探すのに苦労したが、金属外装メーカーのタニタハウジングウェアの紹介で実現した。一枚一枚折り紙のように美しく処理していく職人の手仕事に感動したそう。
竣工後に見にきてくれた人たちから「家具っぽい家だね」って言われたのが強く印象に残っているという宮本さん。「木口を見せる意匠と色を統一するといった細部までこだわった計画によって、家具と建築が曖昧になったように感じます」。
家づくりの間、配管の配置や間隔、2階ロフトの階段、小上がりの天高といつも議論してたのが大変だったけど楽しかったと話す3人は、今後買い揃えるべき家電や家具について議論を続ける。
個々の空間の用途を決めず、各空間を繋げていき、容積を大きくとった結果、居心地よく自由に使える家が実現した。
TENHACHI一級建築士事務所の佐々木さんのご自邸の記事はこちら
Houzzツアー記事を読む
家づくりの間、配管の配置や間隔、2階ロフトの階段、小上がりの天高といつも議論してたのが大変だったけど楽しかったと話す3人は、今後買い揃えるべき家電や家具について議論を続ける。
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