住まいをさりげなく守る、軒と庇
軒と庇。その存在は知っていても、違いも分からないし、よく考えたこともないという方は、意外と多いかもしれません。ですが住宅を住みやすくするためには、そのどちらの存在も意外と大切です。そんな軒と庇の役割や違いについて、お話します。
安井俊夫
2023年6月6日
天工舎一級建築士事務所主宰。神奈川県小田原市に事務所を構え、住宅や店舗などの設計監理業務を行っています。書評やコラムなども執筆中。
大きく軒を張り出した家を見かけると、思わず見入ってしまうことがあります。最近は小さな敷地いっぱいに住宅を建て、大きく軒を張り出せすことが出来る家が少ないからかもしれません。あるいは軒のない四角いデザインの家に、人気が集まっているからかもしれませんね。でも軒も庇も、快適に暮らすためには意外と大切なのです。
軒とは
今回は、そんな軒と庇のご説明をいたしましょう。まずは「軒」。軒とは外壁から飛び出ている屋根の先のことをいいます。軒の一番先端を「軒先(のきさき)」と呼び、軒の裏側を「軒裏(のきうら)」、軒の下になる場所を「軒下(のきした)」と呼びます。したがって建物から軒が出ていない住宅の場合は、軒下もなければ軒裏もありません。
今回は、そんな軒と庇のご説明をいたしましょう。まずは「軒」。軒とは外壁から飛び出ている屋根の先のことをいいます。軒の一番先端を「軒先(のきさき)」と呼び、軒の裏側を「軒裏(のきうら)」、軒の下になる場所を「軒下(のきした)」と呼びます。したがって建物から軒が出ていない住宅の場合は、軒下もなければ軒裏もありません。
庇とは
「庇」とは、窓や出入口の上に設けられた小さな雨除けのことをいいます。以前『屋根の形にはどういうものがある?種類とその特徴』というコラムの中でも書きましたが、屋根が住宅の傘ならば、庇は帽子だとイメージしていただければ良いでしょう。
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「庇」とは、窓や出入口の上に設けられた小さな雨除けのことをいいます。以前『屋根の形にはどういうものがある?種類とその特徴』というコラムの中でも書きましたが、屋根が住宅の傘ならば、庇は帽子だとイメージしていただければ良いでしょう。
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軒の役割
次にその役割を御説明します。屋根の延長上にある軒の長さは、建物を雨から守る役割と同時に、強い日差しから家の中を守る際に関係します。
現代のように、夏の暑さはエアコンで凌ぐということが出来なかった昔は、いかに涼しい家を造るのかが、家を考える際の大切なポイントでした。吉田兼好の『徒然草』の中にも「家のつくりは夏を持って旨とすべし」と、書かれているほどです。その大切な役割を担ったのが軒なのです。そこで軒の長さと陽射しとの関係を説明すると、次のようになります。
次にその役割を御説明します。屋根の延長上にある軒の長さは、建物を雨から守る役割と同時に、強い日差しから家の中を守る際に関係します。
現代のように、夏の暑さはエアコンで凌ぐということが出来なかった昔は、いかに涼しい家を造るのかが、家を考える際の大切なポイントでした。吉田兼好の『徒然草』の中にも「家のつくりは夏を持って旨とすべし」と、書かれているほどです。その大切な役割を担ったのが軒なのです。そこで軒の長さと陽射しとの関係を説明すると、次のようになります。
軒の長さと日除けの効果
例えば天井高さ2.4mの部屋の外側に長さ0.9mの軒を設けると、夏至の南中時において室内に直射日光が差し込むことを防ぐことが出来ます。ですが陽射しが欲しい冬至の南中時には窓の約1.8mの高さまで陽が当たり、部屋の奥約3.0mの所まで陽を招き入れることが可能です。
夏は陽を避け、冬は陽を家の奥まで招くことが出来る深い軒は、日本の気候風土に適した大切な家のパーツでもあるともいえます。ちなみに長い軒を設けることによって、室内が暗く感じてしまうことに配慮して、軒の一部に天窓や開口を設けて明るさを確保したり、あるいは部屋の外側に設ける庭に反射の良い白い砂利を敷き詰めたり、池を設けるような工夫が成された建物もありました。また最近では折り畳み式の日除けを設けることで、夏の暑さ対策に工夫することもあります。
中間領域も造ることが出来る軒
また深い軒を設けることにより、半分屋外でもあり半分屋内として利用できる、「中間領域」と呼べる軒下空間を造り出すことが出来ます。庭の緑を愛でながら、涼しい風を感じ、軒下に吊るした風鈴の音に癒されることも出来るかもしれません。
オリジナリティに富む「軒の深い住宅」に注目
例えば天井高さ2.4mの部屋の外側に長さ0.9mの軒を設けると、夏至の南中時において室内に直射日光が差し込むことを防ぐことが出来ます。ですが陽射しが欲しい冬至の南中時には窓の約1.8mの高さまで陽が当たり、部屋の奥約3.0mの所まで陽を招き入れることが可能です。
夏は陽を避け、冬は陽を家の奥まで招くことが出来る深い軒は、日本の気候風土に適した大切な家のパーツでもあるともいえます。ちなみに長い軒を設けることによって、室内が暗く感じてしまうことに配慮して、軒の一部に天窓や開口を設けて明るさを確保したり、あるいは部屋の外側に設ける庭に反射の良い白い砂利を敷き詰めたり、池を設けるような工夫が成された建物もありました。また最近では折り畳み式の日除けを設けることで、夏の暑さ対策に工夫することもあります。
中間領域も造ることが出来る軒
また深い軒を設けることにより、半分屋外でもあり半分屋内として利用できる、「中間領域」と呼べる軒下空間を造り出すことが出来ます。庭の緑を愛でながら、涼しい風を感じ、軒下に吊るした風鈴の音に癒されることも出来るかもしれません。
オリジナリティに富む「軒の深い住宅」に注目
庇の種類
次は「庇」のお話をします。庇のことを帽子のような物と御説明しましたが、この庇にも「下屋(げや)」「土庇(どびさし)」「眉庇(まびさし)」「霧除け(きりよけ)」と、いくつかの種類があります。下屋は屋根とは別に一階の部分に設ける庇のことです。土庇は柱を建て、土間の上に大きく被さるように造られた庇。眉庇とは、窓の上に小さく設けられた簡易的な物をこう呼び、霧除けもほぼ同じ形をしています。ただし霧除けの場合には、窓の横側に小さな袖壁を設け、雨や霧が窓から入って来ることを防ぐことを目的とした物もあります。
次は「庇」のお話をします。庇のことを帽子のような物と御説明しましたが、この庇にも「下屋(げや)」「土庇(どびさし)」「眉庇(まびさし)」「霧除け(きりよけ)」と、いくつかの種類があります。下屋は屋根とは別に一階の部分に設ける庇のことです。土庇は柱を建て、土間の上に大きく被さるように造られた庇。眉庇とは、窓の上に小さく設けられた簡易的な物をこう呼び、霧除けもほぼ同じ形をしています。ただし霧除けの場合には、窓の横側に小さな袖壁を設け、雨や霧が窓から入って来ることを防ぐことを目的とした物もあります。
庇の長さと日除けの効果
庇は窓の直ぐ上に設けるので、出の長さが短くても意外と日除けの効果があります。例えば夏至の南中時に、高さ2.0mの掃き出し窓に陽を入れたくないと考えた場合には、約0.6mの庇を設けることで対応できます。高さ1.1mの腰高窓ならば0.3mの庇を設ければ大丈夫です。最近ではシャッター式の雨戸を設置する住宅も増えていますが、上部にあるシャッターボックスを庇の代用品と考えた場合、ボックスの出幅が0.15mあれば窓の上部0.7m程度は陽を遮る効果があります。
庇は窓の直ぐ上に設けるので、出の長さが短くても意外と日除けの効果があります。例えば夏至の南中時に、高さ2.0mの掃き出し窓に陽を入れたくないと考えた場合には、約0.6mの庇を設けることで対応できます。高さ1.1mの腰高窓ならば0.3mの庇を設ければ大丈夫です。最近ではシャッター式の雨戸を設置する住宅も増えていますが、上部にあるシャッターボックスを庇の代用品と考えた場合、ボックスの出幅が0.15mあれば窓の上部0.7m程度は陽を遮る効果があります。
車の窓にもルーフ・バイザーが付いていると、弱い雨ならば少しだけ窓を開けて換気したりすることが出来ますよね。庇とは、そんな役割の物なのです。
軒と庇を設けるデメリットはあるか?
軒を大きく出すことや、窓の上に庇を設けることに関するデメリットも、お伝えしておきましょう。まず両者ともに費用が掛かります。また狭い土地に建物を目いっぱい建てようと考えた場合、大きな軒を張り出すことが難しい場合もあるかもしれません。建物のデザイン上、大きな軒が似合わないケースもあるかもしれませんね。それから庇の場合、小さなパーツで簡単に取り付けられていることがありますが、外壁との納まりなどを確実に施工しないと、雨漏りの原因になってしまうことも考えられます。
軒を大きく出すことや、窓の上に庇を設けることに関するデメリットも、お伝えしておきましょう。まず両者ともに費用が掛かります。また狭い土地に建物を目いっぱい建てようと考えた場合、大きな軒を張り出すことが難しい場合もあるかもしれません。建物のデザイン上、大きな軒が似合わないケースもあるかもしれませんね。それから庇の場合、小さなパーツで簡単に取り付けられていることがありますが、外壁との納まりなどを確実に施工しないと、雨漏りの原因になってしまうことも考えられます。
軒も庇も普段は目立たない小さな部材ですが、どちらも快適に暮らす際には、大きな役割を担うことが出来る部材です。御自身の家に採用すると、より良い家となり、楽しく快適な生活を送ることが出来るのかは、設計者とよく御相談された上でご判断下さい。
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そうでないとマイナス思考になり物事をすべて悪い方向に考えてしまうのです、最近は考えもしない様な事件がおこっていますが脳に異変がおきているのでは無いでしょうか。
株式会社宮本工務店様
貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。今回のコラムでは「軒と庇」の持つ役割や意味を、御説明させていただきました。本当に簡単な説明でしたが、これを機にご興味を持っていただければと考えて、書かせていただきました。宮本様の御説の通り、家の在り方や考え方は住み手の数だけありますが、求めている物は皆同じで「安全で快適な住まい」だと思います。住み手が御自身の考え方を建築家と共有し、優れた技術を持つ施工者が工事するに際して、何かの参考になることを願っております。