北欧・デンマークの家具から考える「名作デザイン」とは?
数多くの名作家具を生み出してきたデンマーク。「デザイン・ミュージアム・デンマーク」の館長と一緒に、デンマークの名作家具が持つ普遍性について考えてみましょう。
Kasper Iversen
2022年4月3日
目を閉じて、デンマーク家具を象徴する作品を思い浮かべてみてください。
ハンス・J・ウェグナーの「ウィッシュボーンチェア(Yチェア)」が浮かびましたか?それともボーエ・モーエンセンのソファ?もしかしたら、アルネ・ヤコブセンの「セブンチェア」や「エッグチェア」、あるいはスワンチェアかもしれません。
北欧の名作家具「Yチェア」の楽しみ方
ハンス・J・ウェグナーの「ウィッシュボーンチェア(Yチェア)」が浮かびましたか?それともボーエ・モーエンセンのソファ?もしかしたら、アルネ・ヤコブセンの「セブンチェア」や「エッグチェア」、あるいはスワンチェアかもしれません。
北欧の名作家具「Yチェア」の楽しみ方
世界的にも有名な、デンマークのデザイン遺産。デザインやインテリアについて「名作」という言葉をデンマーク人は選びますが、これは非常に的確です。
デンマークでは、5人のデザイナーが次世代の名作家具を生み出すべく競い合うテレビ番組「デンマークの次世代の名作」も大人気。名作デザインはデンマーク人にとって身近なものです。
しかし「名作」とは、具体的にはどのようなものを指すのでしょうか?「デザイン・ミュージアム・デンマーク」のディレクター兼「デンマークの次世代の名作」審査員である、エネ=ルイーセ・ソマとともに名作デザインについて掘り下げていきましょう。
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デンマークでは、5人のデザイナーが次世代の名作家具を生み出すべく競い合うテレビ番組「デンマークの次世代の名作」も大人気。名作デザインはデンマーク人にとって身近なものです。
しかし「名作」とは、具体的にはどのようなものを指すのでしょうか?「デザイン・ミュージアム・デンマーク」のディレクター兼「デンマークの次世代の名作」審査員である、エネ=ルイーセ・ソマとともに名作デザインについて掘り下げていきましょう。
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デンマーク・デザイン・ミュージアムのエネ=ルイーセ・ソマ(Magnus Ekstrøm撮影)
「私の見解では『名作』には2つの定義が存在します」とソマは語ります。「まず、制作された時代を反映し、当時の必要性を表現しているということ。そして一方で、タイムレス(時代を超越しているもの)であることです」
さらに言えば、時代の背景が材料の選択やデザイン哲学を、そして生産方法がデザインの表現を左右するのだそう。その両方を兼ね備えた輝かしい例が「PHシリーズ」のランプであると言います。
「私の見解では『名作』には2つの定義が存在します」とソマは語ります。「まず、制作された時代を反映し、当時の必要性を表現しているということ。そして一方で、タイムレス(時代を超越しているもの)であることです」
さらに言えば、時代の背景が材料の選択やデザイン哲学を、そして生産方法がデザインの表現を左右するのだそう。その両方を兼ね備えた輝かしい例が「PHシリーズ」のランプであると言います。
ポール・ヘニングセンは、1925年に最初のランプシェードをスケッチしました。これがPHシリーズに発展し、多くの住まいに飾られ、一世紀経った今でも現代的な優雅さをたたえ、愛されています。
「ポール・ヘニングセンは、当時では比較的新しい発明であった白熱電球の使用を最初に試みた人物です。それも、画期的なやり方で」と語るソマ。「当初、白熱灯は一般的なランプシェードの下に取り付けられていましたが、PHシリーズではその先に挑んでいます。『白熱灯をもっと活かせる方法はないだろうか』と」
同時に、PHシリーズが現在まで時代遅れになることなく愛される理由は、デザインのシンプルさと幾何学的な美しさにあると彼女は言います。このランプシェードは、まさに名作デザインの良い例でしょう。
名作照明「PHシリーズ」のタイムレスな魅力
同時に、PHシリーズが現在まで時代遅れになることなく愛される理由は、デザインのシンプルさと幾何学的な美しさにあると彼女は言います。このランプシェードは、まさに名作デザインの良い例でしょう。
名作照明「PHシリーズ」のタイムレスな魅力
アルネ・ヤコブセンの「アリンコ・チェア」(アントチェア)は、時代の特質とタイムレスさを兼ね備えたユニークな名作の一例です。
「アリンコ・チェアは、初めて工業生産されたスタッキングチェアとして、木製家具の世界に新しい風を吹き込みました。これを機に、工業生産は全く新しい次元に突入します。また、この椅子は実用的で移動が簡単なので、さまざまな時代のあらゆるニーズにも対応することができるんです」とソマ。
もともと1952年に、医薬品などを扱う企業であるノボ ノルディスク社の食堂用に設計されたアリンコ・チェア。「アリのような見た目の、非常にシンプルで飽きのこないタイムレスなデザインです」
「アリンコ・チェアは、初めて工業生産されたスタッキングチェアとして、木製家具の世界に新しい風を吹き込みました。これを機に、工業生産は全く新しい次元に突入します。また、この椅子は実用的で移動が簡単なので、さまざまな時代のあらゆるニーズにも対応することができるんです」とソマ。
もともと1952年に、医薬品などを扱う企業であるノボ ノルディスク社の食堂用に設計されたアリンコ・チェア。「アリのような見た目の、非常にシンプルで飽きのこないタイムレスなデザインです」
デンマーク家具が世界中で愛されていることから、名作デザインの人気は永遠に続くと思われがちですが、すべての家具が必ずしもそうであるとは限りません。フィン・ユールの家具がそのいい例です。
「彼の家具が登場した50〜60年代、フィン・ユールはまさに時代の寵児でした。彼は非常に有名で、人々に賞賛されており、デザインした家具は爆発的な人気を博していました。しかし、70〜80年代になると、人々の彼に対する興味は薄れていきました。彼の作品はオークションで安くさばかれ、中古ディーラーにはタダ同然で売られていたのです」とソマは話します。
「彼の家具が登場した50〜60年代、フィン・ユールはまさに時代の寵児でした。彼は非常に有名で、人々に賞賛されており、デザインした家具は爆発的な人気を博していました。しかし、70〜80年代になると、人々の彼に対する興味は薄れていきました。彼の作品はオークションで安くさばかれ、中古ディーラーにはタダ同然で売られていたのです」とソマは話します。
しかし、スカンジナビアデザインらしいすっきりとした曲線を特徴とするフィン・ユールの作品は、ここ数十年の間に再び人気を集め、現在では高価な名作となっています。
「デザインを名作たらしめるのは、その過程や美しさだけでなく、社会への影響や時代の流行があってこそ。名作デザインはそれぞれのペースで時を重ねていくのです」
「デザインを名作たらしめるのは、その過程や美しさだけでなく、社会への影響や時代の流行があってこそ。名作デザインはそれぞれのペースで時を重ねていくのです」
今日の名作デザインも、名作の水準に達していることは確かです。しかし、どれが未来の名作になるかを予測することは非常に難しいこと」だとソマは話します。
「ある家具がデザイン・制作された時点で、それが名作になるかどうかは誰にもわかりません。自力で新しいものを作り出すことも、特定のルールに従ってタイムレスな要素と時代を反映する要素を組み合わせることもできますが、それが実際に名作としてヒットするかどうかは、時間が立たないとわからないのです」
文学、ファッション、ビジュアルアートなど、ほかのジャンルにおいても同じことが言えます。「例えばピカソの生きた時代に、彼の作品が現在の名作になるとは誰にも予測できませんでした」と彼女は言います。
名作デザインの記事を読む
文学、ファッション、ビジュアルアートなど、ほかのジャンルにおいても同じことが言えます。「例えばピカソの生きた時代に、彼の作品が現在の名作になるとは誰にも予測できませんでした」と彼女は言います。
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デンマーク語の辞書で「名作」という言葉を調べてみると、「持続的で高い品質、または特定のジャンル、スタイルの代表的な表現とみなされる芸術作品、職人技術」と出てきます。
これらの条件はもちろん、長きにわたり愛されるデザインにとって重要な判断基準であり、ソマが「デンマークの次世代の名作」でデザインを評価する際にも重要視しているポイントです。
これらの条件はもちろん、長きにわたり愛されるデザインにとって重要な判断基準であり、ソマが「デンマークの次世代の名作」でデザインを評価する際にも重要視しているポイントです。
「私たちは、職人技・素材・デザインなど、さまざまな観点から究極の品質と耐久性を求めています。自分の胸に手を当て、『そのランプや椅子は、ずっと見ていても飽きないだろうか?』と自分に問いかけます」とソマは言います。「デンマークの名作となるためには、最高品質のデザインでなければなりませんから」
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ピカソじゃなくてゴッホとかじゃないかなぁ……
(確認したら消してもらって構わないコメントです)