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フランク・ロイド・ライトによる、車椅子の施主のための先進的な住宅
フランク・ロイド・ライトが設計した「ローラン邸」は、アクセシブル・デザインが美しさと機能を両立できることを、時代に先駆けて証明しています。
Gwendolyn Purdom
2019年6月8日
ユニバーサル・デザインを専門とするカリフォルニアの建築家、エリック・ミキテンは、1952年に米イリノイ州ロックフォードに完成したフランク・ロイド・ライト設計のローラン邸(Laurent House)を、アクセシブル・デザイン(障害のある人もない人も、高齢者もそうでない人も、共に使いやすい「共用のデザイン」)の驚くべき一例として紹介しています。
アメリカでは、1990年に米国連邦議会が障害のあるアメリカ人法(以下ADA)を可決されましたが、この住宅はADA制定よりも30年以上前からありました。そして、ライトが体の不自由な施主のために特別に設計した、唯一の建築なのです。
アメリカでは、1990年に米国連邦議会が障害のあるアメリカ人法(以下ADA)を可決されましたが、この住宅はADA制定よりも30年以上前からありました。そして、ライトが体の不自由な施主のために特別に設計した、唯一の建築なのです。
フランク・ロイド・ライトが設計したローラン邸(米イリノイ州ロックフォード)写真:Nels Akerlund
ミキテンはローラン邸についてこう語ります。「この家は私が常々、人に伝えようとしていることを非常に良く体現しています。つまり、デザインの質を落とさずに、障害者や高齢者が自立した生活を営むことができる住宅を建てることは可能だ、ということです」
3ベッドルーム、2バスのこのユーソニアン住宅には、他のライト建築のような知名度はありません。しかし、ライトが「小さな宝石」と呼んだこの家は、車椅子を使用する施主のために思慮深く設計され、訪問客やミキテンのような建築家たちを今日までインスパイアし続けています。
ミキテンはローラン邸についてこう語ります。「この家は私が常々、人に伝えようとしていることを非常に良く体現しています。つまり、デザインの質を落とさずに、障害者や高齢者が自立した生活を営むことができる住宅を建てることは可能だ、ということです」
3ベッドルーム、2バスのこのユーソニアン住宅には、他のライト建築のような知名度はありません。しかし、ライトが「小さな宝石」と呼んだこの家は、車椅子を使用する施主のために思慮深く設計され、訪問客やミキテンのような建築家たちを今日までインスパイアし続けています。
時代に先駆けて
1948年、ケニスとフィリス・ローランは、ライトに自宅の設計を依頼するにあたり、障害のある退役軍人へ給付される1万ドルの障害者用住居改造のための連邦補助金を費用に充てました。
この家は、夏は日差しを避け、寒い時期は家があたたまるようにするため、細長いフットボールのような形になっています。ケニスが快適に暮らせるように、構造は平屋建てです。低いドアノブと照明スイッチ、最低36インチ幅(約91センチメートル)の広い戸口、ドロップダウン式キャビネットが設置され、寝室と廊下には車椅子を方向転換する際に充分なゆとりがあります。
ローラン邸財団の創設者であり社長であり、今は亡きローラン夫妻の長年の友人であったジェリー・ハインゼロスは、「全ての作り付け家具の下にはフットレストが入るのに十分なスペースがあるので、ケニスは車椅子のままで家具を快適に使うことができるのです」と語りました。
1948年、ケニスとフィリス・ローランは、ライトに自宅の設計を依頼するにあたり、障害のある退役軍人へ給付される1万ドルの障害者用住居改造のための連邦補助金を費用に充てました。
この家は、夏は日差しを避け、寒い時期は家があたたまるようにするため、細長いフットボールのような形になっています。ケニスが快適に暮らせるように、構造は平屋建てです。低いドアノブと照明スイッチ、最低36インチ幅(約91センチメートル)の広い戸口、ドロップダウン式キャビネットが設置され、寝室と廊下には車椅子を方向転換する際に充分なゆとりがあります。
ローラン邸財団の創設者であり社長であり、今は亡きローラン夫妻の長年の友人であったジェリー・ハインゼロスは、「全ての作り付け家具の下にはフットレストが入るのに十分なスペースがあるので、ケニスは車椅子のままで家具を快適に使うことができるのです」と語りました。
ローラン夫妻が細心の注意を払って維持してきたこの邸宅は2015年、ADA制定25周年を記念する賞に輝きました。そして、この家は、そのままの状態でも現代のADA基準の約90パーセントを満たしていたと評価されました。全てカスタマイズすることで、機能とデザインが調和しているのです。
「この家は、アクセシブルな家だと言われなければ分からないはずです。照明スイッチに手を伸ばした時に『あれ、何となく少し低い気がするな』と思い、ようやく気が付く程度でしょう」とハインゼロスは語ります。
「住まいのバリアフリー」で家族に配慮した家をつくるには?
「この家は、アクセシブルな家だと言われなければ分からないはずです。照明スイッチに手を伸ばした時に『あれ、何となく少し低い気がするな』と思い、ようやく気が付く程度でしょう」とハインゼロスは語ります。
「住まいのバリアフリー」で家族に配慮した家をつくるには?
スタイルを犠牲にしない
この昨日とデザインの調和こそが、自身も車椅子を利用しているミキテンや他の建築家らが施主と共に日々取り組んでいる、現代のアクセシブル・デザインの核心です。
ルイジアナ州のAccessibility by Designのスティーブンとレイチェル・コービルは、出入り口を広くしたり、入りにくいバスタブの代わりによりアクセスしやすいシャワーに交換するというような単純な微調整が、施主にとって大きな助けになると言います。
また、手すりを兼ねたトイレットペーパーホルダーなどの、現在利用可能な多機能製品を活用しながらローラン邸を手本にリフォームすることで、殺風景になることなく、よりデザインに重きを置くことができます。
車椅子にやさしい、障害物と角のない明るい住まい
この昨日とデザインの調和こそが、自身も車椅子を利用しているミキテンや他の建築家らが施主と共に日々取り組んでいる、現代のアクセシブル・デザインの核心です。
ルイジアナ州のAccessibility by Designのスティーブンとレイチェル・コービルは、出入り口を広くしたり、入りにくいバスタブの代わりによりアクセスしやすいシャワーに交換するというような単純な微調整が、施主にとって大きな助けになると言います。
また、手すりを兼ねたトイレットペーパーホルダーなどの、現在利用可能な多機能製品を活用しながらローラン邸を手本にリフォームすることで、殺風景になることなく、よりデザインに重きを置くことができます。
車椅子にやさしい、障害物と角のない明るい住まい
アクセシブルな恩恵
ミキテンいわく、施主や設計者らがローラン邸から学ぶことができるもう一つの教訓は、初めからユニバーサルデザインを念頭に置いてプロジェクトに取り組むことの重要性です。「デザインの展開とそれが敷地からどのような影響を受けるかについて考える必要があります。同時に、どうやって人が入るのか、どのように動き回り、どのように使うのかを考えます」と彼は言います。「スケッチの一本一本の線が両方のビジョンを描いていなければなりません」
開放感、アクセスしやすい家具などのユニバーサルデザインの原則を家の中に取り入れることで、ミキテンやコービルのような建築家は、車椅子を使う友人から高齢の親戚まで、誰をも歓迎するローラン邸のような場所を施主が障害者かどうかに関わらず提供できるのです。
またレイチェル・コービルによると、米国の高齢者人口の増加が住宅の価値を高める可能性もあるとのこと。「家を新築する際、あるいはリフォームしてから売りに出す場合、それがアクセシブルな家であれば需要は大きいでしょう」と彼女は言います。「需要が価格を押し上げ、今後5年間で間違いなく上昇するでしょう」
定年後を自分らしく楽しむための家づくりとは?
ミキテンいわく、施主や設計者らがローラン邸から学ぶことができるもう一つの教訓は、初めからユニバーサルデザインを念頭に置いてプロジェクトに取り組むことの重要性です。「デザインの展開とそれが敷地からどのような影響を受けるかについて考える必要があります。同時に、どうやって人が入るのか、どのように動き回り、どのように使うのかを考えます」と彼は言います。「スケッチの一本一本の線が両方のビジョンを描いていなければなりません」
開放感、アクセスしやすい家具などのユニバーサルデザインの原則を家の中に取り入れることで、ミキテンやコービルのような建築家は、車椅子を使う友人から高齢の親戚まで、誰をも歓迎するローラン邸のような場所を施主が障害者かどうかに関わらず提供できるのです。
またレイチェル・コービルによると、米国の高齢者人口の増加が住宅の価値を高める可能性もあるとのこと。「家を新築する際、あるいはリフォームしてから売りに出す場合、それがアクセシブルな家であれば需要は大きいでしょう」と彼女は言います。「需要が価格を押し上げ、今後5年間で間違いなく上昇するでしょう」
定年後を自分らしく楽しむための家づくりとは?
魂のためのデザイン
ローラン邸は、ローラン邸財団が隔月で主催する公開ツアーや、個人で訪れることができます。訪れるた人たちは、今でも夫妻とライトとのやりとりや、ライトの当初の構想を細部まで窺い知ることができます。
1959年、ライトが没前に手がけた増築部分を除き、ローラン夫妻は2012年に亡くなるまでの間、全て原型のまま使っていました。2014年の公開前に行われた修復作業は、ライトのビジョンをより鮮やかに実現させています。
アメリカに行ったら訪ねてみたい。フランク・ロイド・ライトの名作住宅
ローラン邸は、ローラン邸財団が隔月で主催する公開ツアーや、個人で訪れることができます。訪れるた人たちは、今でも夫妻とライトとのやりとりや、ライトの当初の構想を細部まで窺い知ることができます。
1959年、ライトが没前に手がけた増築部分を除き、ローラン夫妻は2012年に亡くなるまでの間、全て原型のまま使っていました。2014年の公開前に行われた修復作業は、ライトのビジョンをより鮮やかに実現させています。
アメリカに行ったら訪ねてみたい。フランク・ロイド・ライトの名作住宅
訪問者たちは、ライトの思慮深く先進的なデザインを、家の動線のみならず、あらゆるところに見つけるようです。
「この家のデザインがすごいのは、家の遠景やプロポーションがケニスの目の高さに合わせられているところにあります。家具でさえ、座っているときの目線がケニスの目の高さか、それ以下になるように設計されています。この家の中では、ケニスが最も背が高い人になるのです」とハインゼロスは語ります。
「ライトは、住む人の活力を引き出してくれるような心に訴えかける何かが、家には必要なのだと知っていたようです。ケニスは生前『この家とともに60年も過ごしましたが、様々な工夫がなされているので、毎日上機嫌でいられる』と語っていました」
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「この家のデザインがすごいのは、家の遠景やプロポーションがケニスの目の高さに合わせられているところにあります。家具でさえ、座っているときの目線がケニスの目の高さか、それ以下になるように設計されています。この家の中では、ケニスが最も背が高い人になるのです」とハインゼロスは語ります。
「ライトは、住む人の活力を引き出してくれるような心に訴えかける何かが、家には必要なのだと知っていたようです。ケニスは生前『この家とともに60年も過ごしましたが、様々な工夫がなされているので、毎日上機嫌でいられる』と語っていました」
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