構造:木造2階建て+塔屋 敷地面積:727.31平方メートル(220坪) 延床面積:60.70平方メートル(18.36坪) 設計:中村雅子/株式会社タジェール 施工:株式会社郡司建築工業所
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ロフトの階段を上った先には、見晴らし台が! 澤野夫妻の共通の趣味は天体観測・天体写真撮影。寒い日には、ここに望遠鏡を置いて、遠隔操作でリビングから星座を観察しているそう。撮影した星の画像は、プロジェクターを使って、和室やリビングの壁をビッグスクリーンに見立てて、映し出して楽しんでいるという。
見晴らし台への階段
ダーチャ・エム・ウシクは、約220坪の敷地に対して、広さわずか18坪ほどの住宅である。小さな家なのに豊かな空間をつくった晩年の巨匠ル・コルビュジエらに思いを馳せながら、中村さんが行き着いたのが、昭和初期の詩人にして建築家の立原道造が設計した5坪の週末住宅「ヒアシンスハウス」だったという。「ヒアシンスハウスのように凝縮された美しさを追求し、簡素ながら素材や空間、そのほかのディテールにも気を配りました。むこうは5坪でこちらは18坪ですが、建物の形はヒアシンスハウスに似る結果となりました」と中村さん。
ロフトからは1階のLDKを見下ろせる。ここにも人が腰掛けることを想定して、座ったときにちょうどよい高さに手すりを設置してある。この手すりや屋上へ続くスケルトン階段は、スチール製ではなく、肌触りのよい木でつくって白色にペイントしている。1階と2階をつなぐ木製の階段の手すりも、動線に合わせて丁寧に角度を付けた優れものだ。 リビング同様、スイッチは床から70cmの高さに設置した。これは、肘を曲げずに手が届くちょうどよい高さでもある。スイッチ、コンセントとも欧米仕様の横向きを採用。形状や設置場所にまで気を配ることで、狭小スペースを広く見せている。
洗面脱衣所とトイレの境も、開閉でスペースを取られないよう引き戸に。 床は一見するとタイルのようだが、転んでも危なくないクッションフロア。奥には点検口が設置されているが、職人の腕がよいため目立たない。
浴室の窓からも菜園が眺められる。照明、開口ともあえて通常より低めに設置したのは「和室同様、浴室は座って過ごす空間のため、視線が低くなるからです」と中村さん。天井が高く見え、落ち着いた空間をつくりだす効果もあるという。由紀子さんいわく、ご主人の誠さんは自宅の浴室よりも、ここのほうが気に入っていて、一日に何度も入浴されるそう。 浴室と洗面・脱衣所・トイレは、バリアフリー仕上げ。リビングと脱衣所の境は、スクリーンで仕切れるようにしている。
和室側からの眺めも格別だ。目を惹くのが、ブルーの壁に開けられた丸窓。開口の先には、ロフト部分にかかる白いスケルトン階段も見通せる。そのため奥行き感のある空間が生まれている。 実はこの部分のデザインを何度も検討し直したという中村さん。単にアクセントとして丸窓をつけたのではないという。「法規上、1階のキッチン袖壁から天井までを不燃仕上げにする必要があったのですが、その壁だけをつくろうとするとプロポーションが悪くなってしまいます。そこでブルーの壁をリビングの中央付近まで延ばし、圧迫感をなくすために、丸穴を開けることにしました」
和室はリビングから小上がりにしたので、腰掛けにもなる。障子は太鼓張り(組子の両面に障子紙を張る)にすることで、桟の陰がうっすらと浮かび上がり、落ち着いた雰囲気を醸し出している。春から夏にかけては、この窓から喜久子さんが大切にしているラン科のエビネの花々を愛でることもできるという。鴨居の上部には間接照明が設えてある。 畳縁(たたみべり)は、色の選択肢の多い化繊で、淡い緑色を選び、縁(へり)の幅も細めにしたので、狭い空間でも圧迫感を感じない。
北欧風の建物に、違和感なく溶け込んでいる和の空間。外国人の友人たちが、特に喜ぶスペースだそう。吊り押入れは、郡司建築工業所の腕の見せどころで「荷重に耐えうるように底面を補強しているので、人が乗っても大丈夫です」と郡司政美さんは太鼓判を押す。パイン材の床までは50cm空けたので、視線が抜け「広々と感じます」と由紀子さん。扉は越前和紙張り。短冊型の引手は、わざわざ京都から取り寄せたもの。長押(なげし)の上部には溝を設けているので、ハンガーなどを掛けられる。照明用コンセントやガス栓も、床に埋め込み、すっきりとした印象に。
スカンジナビア風の明るいブルーが、アクセントカラーとして効果的に使われているLDK。「似たような色を見つけると、ついつい買ってしまいます」という由紀子さん。いまやフライパンやカトラリーなども同系色で揃えている。 天井と壁の色味を微妙に変えることで、片流れの屋根のきれいな斜めのラインを強調している。また電源スイッチを、通常より低い位置(床から70cmの高さ)に設置することで、余白の多い壁面をつくり、壁に飾った額が映えるように工夫されている。電子レンジと炊飯器を置いた棚は、中身が取り出しやすいように手前にも引き出せる。
テラスは、傷みにくいコンクリート造で、表面を水性ペイントでブルーに塗装してある。色を加えることで、明るくなるだけでなく「表面がツルツルになるので、土もつきにくく、お掃除も楽です」と由紀子さんは言う。 玄関の窓掛けは、表と裏のデザインが違う布を中村さんがユザワヤで見つけてプレゼントしたもの。「ちょっとマリメッコ風で気に入っています」と由紀子さん。
建物の向かって右側が菜園。この日も収穫した巨大な冬瓜、栗、柿などがテラスのテーブルに並び、自家栽培したかぼちゃを使って由紀子さんがパンプキンパイを焼いてくださった。 中村さんがデザインした砂利敷きの駐車スペースは、意匠性もさることながら、ここで採れたての野菜を使ってバーベキューをして、芝生の方に移動して食べられるように計画されている。
ベンチにもなる南側の出窓に腰をかける喜久子さん(左)と由紀子さん(右)。 由紀子さんが手にしているのは、家づくりの参考にしたジュウ・ドゥ・ポゥム著『北欧ストックホルムのガーデニング』(主婦の友社)。その他にも、アイデア収集のため、ロシアや米国の雑誌にもたくさん目を通したそう。
建物の外壁の色は、クリーム色を検討していたが、オールドブルー(色あせたシックな青色)に変更した。由紀子さんと建築家の中村さんで、アントニン・レーモンドが設計した青山にある旧エロイーズ・カニングハム邸の外壁を見て決めたそう。「この色のほうが大人っぽくて、木々の中で映えます。ロシアのダーチャにもよく使われている色です」
なんかイイ感じ(外壁の色、形、テラス)
構造:木造2階建て+塔屋 敷地面積:727.31平方メートル(220坪) 延床面積:60.70平方メートル(18.36坪) 設計:中村雅子/株式会社タジェール 施工:株式会社郡司建築工業所
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