現代のインテリアに生き続ける、ル・コルビュジエの影響
1920年代まで遡るル・コルビュジエの先駆的なデザイン思想は、現代のインテリアにも深い影響と感銘を与え続けています。
1920年代のヨーロッパには先鋭的な建築家やデザイナーが集まり、伝統から解き放たれた新しいデザインと建築的な表現を生みだしました。ル・コルビュジエの名で広く知られるシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(1887〜1965)は、ヴァルター・グロピウス、マルセル・ブロイヤー、ミース・ファン・デル・ローエ、シャルロット・ペリアンを含む多数の同志と共にそのグループに参加し、現代にも通用するピュリスムの美学と思想を築きました。
「住宅は住むための機械である」という宣言で有名なル・コルビュジエですが、彼は伝統的な住宅のあり方に反旗を翻し、プレファブリケーションや大量生産、新しい技術と素材、そして抽象的なデザイン表現をとりいれた革命的なビジョンを近代住宅に見出しました。彼は製造や施工から生活様式にいたるまで効率性を追求し、現代にも通用する新しいインテリアデザインのあり方を定義づけたのです。
ル・コルビュジエが掲げたピュリスムがどういったものなのか、そしていま私たちが住む家やそのつくり方にどのような影響を与えたのか、見ていきましょう。
モダニズム :「新世界」の住宅
モダニズム建築は第1次世界大戦直後の混乱の中、ヨーロッパ諸国が社会やインフラを再建する必要がある時代に生まれました。建築家やデザイナーはユートピアのビジョンを描き、デザインを通して社会再建に貢献しようとしたのです。彼らは美的、道義的、社会的に都市空間を改善し、より良い生活を実現するために「形態は機能に従う」という大命題に沿って質の高い空間やモノをデザインしたのです。
バウハウスやデ・ステイルといったグループ、学派やデザイン集団が台頭し、古き規範やモチーフを除いた新しい美学を提案しました。古いデザインとは対照的に、彼らは抽象性、簡素さ、明快さをデザインに求め、またそれがユートピアを実現する上での筋道だと考えていたのです。
写真:ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸の内観、ル・コルビュジエ作、パリ(1923ー25)
クレジット:Flickr ユーザー Leon (クリエイティブ・コモンズ利用)
モダニズム建築は第1次世界大戦直後の混乱の中、ヨーロッパ諸国が社会やインフラを再建する必要がある時代に生まれました。建築家やデザイナーはユートピアのビジョンを描き、デザインを通して社会再建に貢献しようとしたのです。彼らは美的、道義的、社会的に都市空間を改善し、より良い生活を実現するために「形態は機能に従う」という大命題に沿って質の高い空間やモノをデザインしたのです。
バウハウスやデ・ステイルといったグループ、学派やデザイン集団が台頭し、古き規範やモチーフを除いた新しい美学を提案しました。古いデザインとは対照的に、彼らは抽象性、簡素さ、明快さをデザインに求め、またそれがユートピアを実現する上での筋道だと考えていたのです。
写真:ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸の内観、ル・コルビュジエ作、パリ(1923ー25)
クレジット:Flickr ユーザー Leon (クリエイティブ・コモンズ利用)
ル・コルビュジエについて
スイス生まれでフランスで主に活躍した建築家、デザイナー、画家、都市計画家、作家、そしてモダニズムの立役者であるル・コルビュジエはキャリアを通じて、特に人口密集が問題になっていた都市部の生活環境の改善に尽力しました。初期のコルビュジエはピュリスムの理論構築(幾何学による純粋形態、新しいテクノロジーや素材の活用)に励み、後にいくつかの戸建住宅作品として結実させました。
1920年、コルビュジエはアメデエ・オザンファンと共に定期刊行紙「エスプリ・ヌーヴォー」を創刊し、近代建築の新たなコンセプトの探求と発信をしました。
1923年には同紙の原稿を編纂したマニフェスト『Towards a New Architecture』(建築をめざして)を英語で発表し、建築家たちに新しい生活のデザインを促すとともに、新しい技術や機能・構造合理性のシンプルさを意味する”エンジニアの美学”を推奨しました。コルビュジエによれば、住まいは合理的であるほど美しいのです。
写真:ル・コルビュジエ、クレジット:Flickr ユーザー orionpozo、(クリエイティブ・コモンズ利用)
スイス生まれでフランスで主に活躍した建築家、デザイナー、画家、都市計画家、作家、そしてモダニズムの立役者であるル・コルビュジエはキャリアを通じて、特に人口密集が問題になっていた都市部の生活環境の改善に尽力しました。初期のコルビュジエはピュリスムの理論構築(幾何学による純粋形態、新しいテクノロジーや素材の活用)に励み、後にいくつかの戸建住宅作品として結実させました。
1920年、コルビュジエはアメデエ・オザンファンと共に定期刊行紙「エスプリ・ヌーヴォー」を創刊し、近代建築の新たなコンセプトの探求と発信をしました。
1923年には同紙の原稿を編纂したマニフェスト『Towards a New Architecture』(建築をめざして)を英語で発表し、建築家たちに新しい生活のデザインを促すとともに、新しい技術や機能・構造合理性のシンプルさを意味する”エンジニアの美学”を推奨しました。コルビュジエによれば、住まいは合理的であるほど美しいのです。
写真:ル・コルビュジエ、クレジット:Flickr ユーザー orionpozo、(クリエイティブ・コモンズ利用)
エスプリ・ヌーヴォー館
1925年にコルビュジエはパリ万国博覧会においてエスプリ・ヌーヴォー館を完成させています。それは「建築をめざして」の思想に命を吹き込み、コルビュジエの考えを体現するマニフェストとして完成されたモデルハウスでした。
それは建築・デザイン・家具・装飾やアートワークを通してコルビュジエが探求したピュリスムの集大成でもあったのです。
コルビュジエは過剰を排し、視覚的にも物理的にも明瞭な、洗練された美学をつくりあげました。彼は住居において、規格化やプレファブリケーション、工業製品がもつ実用性に裏付けられた快適性を示そうとしたのです。その過程で彼はインテリアにおける“あたらしい精神(=エスプリ・ヌーヴォー)”を反復性・直線性・非歴史性に見出しました。
1925年にコルビュジエはパリ万国博覧会においてエスプリ・ヌーヴォー館を完成させています。それは「建築をめざして」の思想に命を吹き込み、コルビュジエの考えを体現するマニフェストとして完成されたモデルハウスでした。
それは建築・デザイン・家具・装飾やアートワークを通してコルビュジエが探求したピュリスムの集大成でもあったのです。
コルビュジエは過剰を排し、視覚的にも物理的にも明瞭な、洗練された美学をつくりあげました。彼は住居において、規格化やプレファブリケーション、工業製品がもつ実用性に裏付けられた快適性を示そうとしたのです。その過程で彼はインテリアにおける“あたらしい精神(=エスプリ・ヌーヴォー)”を反復性・直線性・非歴史性に見出しました。
モダンインテリア
1929年においてなお、コルビュジエはエスプリ・ヌーヴォー館がモダニズムにおける転換点であり、建築史における画期的な出来事であったと考えていました。その言葉通り、彼はその後1世紀以上も続くインテリアデザインの潮流を生みだしたのです。
次にエスプリ・ヌーヴォー館の主な特徴と、それがいかに現代のインテリアにも取り入れられているかを見ていきましょう。
1929年においてなお、コルビュジエはエスプリ・ヌーヴォー館がモダニズムにおける転換点であり、建築史における画期的な出来事であったと考えていました。その言葉通り、彼はその後1世紀以上も続くインテリアデザインの潮流を生みだしたのです。
次にエスプリ・ヌーヴォー館の主な特徴と、それがいかに現代のインテリアにも取り入れられているかを見ていきましょう。
内部と外部の繋がり
大きな窓は、外の環境を室内に引き込む力を持っています。開口は視覚的にも空間的にも内外を連続させ、空間のゆとりや流れを強調します。
大きな窓は、外の環境を室内に引き込む力を持っています。開口は視覚的にも空間的にも内外を連続させ、空間のゆとりや流れを強調します。
換気と自然採光
大きな開口によって自然光をふんだんに取り込み、十分に換気することができます。また枠やパネルを規格化することで製造コストを抑えることもできるのです。
大きな開口によって自然光をふんだんに取り込み、十分に換気することができます。また枠やパネルを規格化することで製造コストを抑えることもできるのです。
大きな空間
空間はフレキシブルで開かれた、直線や平面による明瞭なつくりが理想的です。大きな空間は人が活動や移動するゆとりを生み、さまざまな用途に使うことを可能にします。また、大きな空間は、小分けにされた空間に比べて明るく掃除もしやすいため、エネルギー効率も良く清潔に保ちやすいといえます。
空間はフレキシブルで開かれた、直線や平面による明瞭なつくりが理想的です。大きな空間は人が活動や移動するゆとりを生み、さまざまな用途に使うことを可能にします。また、大きな空間は、小分けにされた空間に比べて明るく掃除もしやすいため、エネルギー効率も良く清潔に保ちやすいといえます。
ユニバーサル・スタイル
インテリアデザインは伝統、歴史、国民性とは切り離し、空間やモノの幾何学的な基礎に着目し、直方体を意識した建築構成であり、雑然性を排除したユニバーサル・スタイルであるべきです。
インテリアデザインは伝統、歴史、国民性とは切り離し、空間やモノの幾何学的な基礎に着目し、直方体を意識した建築構成であり、雑然性を排除したユニバーサル・スタイルであるべきです。
実用的な家具
家具は装飾的ではなく実用的であるべきです。軽量かつフレキシブルとすることで、移動や収納しやすいつくりとします。加えて、シンプルな線形と薄いフォルムは空間にゆとりや開放感、流れを生みます。
家具は装飾的ではなく実用的であるべきです。軽量かつフレキシブルとすることで、移動や収納しやすいつくりとします。加えて、シンプルな線形と薄いフォルムは空間にゆとりや開放感、流れを生みます。
規格化、プレファブリケーション
室内には多くの収納を設け、さまざまなものに対応できるようにします。収納は製造時の効率と経済性を考慮し、規格化されたモジュールとしてつくることが理想的です。
室内には多くの収納を設け、さまざまなものに対応できるようにします。収納は製造時の効率と経済性を考慮し、規格化されたモジュールとしてつくることが理想的です。
素材の美学
美しさは建築的な統一感、プロポーション、工業性から生まれます。また、クロムメッキの光沢やコンクリートや革のつやなど、素材がもつ質感も空間の美しさにつながるのです。
美しさは建築的な統一感、プロポーション、工業性から生まれます。また、クロムメッキの光沢やコンクリートや革のつやなど、素材がもつ質感も空間の美しさにつながるのです。
ミニマリストの装飾
壁面はまっさらなキャンバスとし、厳選された絵画や彫刻、また他の装飾品が映える背景とするべきです。
壁面はまっさらなキャンバスとし、厳選された絵画や彫刻、また他の装飾品が映える背景とするべきです。
No.B9 トーネット・チェア
エスプリ・ヌーヴォー館では、アウグスト・トーネット氏によるトーネット・チェアが置かれています。コルビュジエ本人が褒め称えたこの肘掛椅子は彼の多くの作品中で使われており、曲木が描く洗練されたカーブとミニマルで直線的な空間が人間味深い対比を生んでいます。
絶対に知っておきたいモダニズムの傑作住宅10選
名作建築:コルビュジエのモダニズム建築遺産、8作品の誕生秘話
エスプリ・ヌーヴォー館では、アウグスト・トーネット氏によるトーネット・チェアが置かれています。コルビュジエ本人が褒め称えたこの肘掛椅子は彼の多くの作品中で使われており、曲木が描く洗練されたカーブとミニマルで直線的な空間が人間味深い対比を生んでいます。
絶対に知っておきたいモダニズムの傑作住宅10選
名作建築:コルビュジエのモダニズム建築遺産、8作品の誕生秘話
1910年代後半から1920年代にかけてモダニストの波がひろがる一方で、多くの住宅は伝統スタイルのままでした。
ガス灯に照らされる室内は伝統、歴史、ステータスを感じさせる「古き良き」もので構成されていました。例えば落ちつきと重厚感あふれる木や布張り/革張りの家具、柄模様のカーペット、ファブリック製品、長いドレープカーテン、そして所狭しと並ぶ小物たちです。建物としては小さな窓が多く、埃や塵を捕らえる建具がついていることが一般的でした。
写真:19世紀 ヴィクトリア朝のインテリア
写真クレジット: Wikimedia コモンユーザー Jorge Royan