鎌倉の景色を取り込み、空気感を満喫できる建築家の自邸
大きな方形屋根に包まれた開放的な正方形の建物。畳敷きのLD、オープンな浴室、シームレスにつながる回遊性のある空間など、心地よさを大胆かつ繊細に追求した住まい。
Miki Anzai
2018年11月7日
建築家の石井秀樹さんの自邸は、鎌倉の鶴岡八幡宮からほど近くの丘陵地の中腹に、周囲の自然と溶け込むように佇んでいる。2階のLDKは360度ガラス張りで、周囲の心地よい風や光、木々の景色を全面から取り込んでいる。このような大胆なデザインを導き出せたのは、立地に依るところが大きかったという石井さん。石井邸へたどり着くには、車の往来の多い公道から脇にそれ、大谷石の細く長い階段を上がるしかない。車両は進入できず、約20軒の住人以外ほとんど人が通らないエリアなのだ。また隣家とも段差があるので、視線を遮断したかったという。
秋晴れの日に、鎌倉駅から続く繁華街を抜け石井邸を訪ねると、市内の喧噪がぴたりと消え、まるでタイムスリップしたかのようだった。「この静かな空気感を丸ごと味わえるように」と自邸を計画した石井さん。1階のプライベート空間は、開口を極力小さくしているので、ほの暗い1階から2階に上がった瞬間、目の前に広がるパノラマの大自然に圧倒された。
秋晴れの日に、鎌倉駅から続く繁華街を抜け石井邸を訪ねると、市内の喧噪がぴたりと消え、まるでタイムスリップしたかのようだった。「この静かな空気感を丸ごと味わえるように」と自邸を計画した石井さん。1階のプライベート空間は、開口を極力小さくしているので、ほの暗い1階から2階に上がった瞬間、目の前に広がるパノラマの大自然に圧倒された。
坂道の前面道路から見た外観。外側の合計8本の鉄骨柱で、大きな方形屋根を支えている。そのため、建物内部に視線を遮る柱が一切ない。黒焼き杉の外壁の1階とガラス張りでオープンな2階は、外階段でもつながっている。開放的でありながら、大きな屋根に包み込まれているため、不思議と安心感も得られる。土地の形状や周囲の環境を丁寧に読み解き、細かく計算することで、決して広くない傾斜のある土地に、こんなにも快適な住まいを誕生させることができるのか、と驚かされた。
どんなHouzz?
所在地 : 神奈川県鎌倉市
家族構成:40代の建築家とインテリアコーディネーターのご夫妻
延床面積:95.22平方メートル(1階・2階/各47.61平方メートル)
設計:石井秀樹建築設計事務所
構造:鉄骨造2階建て
竣工:2016年6月
工事費:4500万円
どんなHouzz?
所在地 : 神奈川県鎌倉市
家族構成:40代の建築家とインテリアコーディネーターのご夫妻
延床面積:95.22平方メートル(1階・2階/各47.61平方メートル)
設計:石井秀樹建築設計事務所
構造:鉄骨造2階建て
竣工:2016年6月
工事費:4500万円
1階のエントランスホールには、2階から光が差し込み、片持ち階段を設置した手塗りの漆喰壁に、美しい陰影をもたらしている。
階段:オーク材の踏板は、株式会社ストローグのコネクタを利用し、鉄骨造の躯体に強固に接合した。
玄関内照明と郵便受け:ケヤキで製作し、漆喰の壁にぬくもり感を加えた。
階段:オーク材の踏板は、株式会社ストローグのコネクタを利用し、鉄骨造の躯体に強固に接合した。
玄関内照明と郵便受け:ケヤキで製作し、漆喰の壁にぬくもり感を加えた。
1階の平面図
風致地区条例で定められた壁面後退を確保してギリギリに納まる6.9m×6.9mの正方形の建物を、敷地のほぼ中央に配置した。なんと中央の大きなブラックボックスの中が、驚きの収納構造になっている。両サイドに通り抜けられるウォークスルークローゼット、全身ミラー付き靴収納、トイレ、洗濯・乾燥機収納、洗面スペース設備機器などが組み込まれている。
風致地区条例で定められた壁面後退を確保してギリギリに納まる6.9m×6.9mの正方形の建物を、敷地のほぼ中央に配置した。なんと中央の大きなブラックボックスの中が、驚きの収納構造になっている。両サイドに通り抜けられるウォークスルークローゼット、全身ミラー付き靴収納、トイレ、洗濯・乾燥機収納、洗面スペース設備機器などが組み込まれている。
ベッドサイドの小窓からは、ほどよい光が洩れ込む。ちょうどよい高さで、隣家の緑や大谷石も眺められる。窓の位置に合わせて、ベッドのヘッドボードは低めにデザインした。
ベッドの反対側に置いたテーブルも、石井さんがデザインした。お気に入りのハンス・J・ウェグナーのYチェアとマッチするように、高さや椅子と机の脚の底のデザインを合わせている。天板と脚は、L字で組み継ぎされている。
オイル仕上げのオーク材の床は、木目を出す「浮造り(うづくり)仕上げ」を施し、V目地の幅と深さを通常より大きく取っている。板を張る際にも、それぞれが少し段差になるように厚みも変えている。また、床と壁の間も5mmほど浮かせた。「こうすることで、空間全体に陰影がつき、表情に厚みを出せます」と石井さん。
玄関脇の小窓は、明かり取りでもあり、腰掛けにもなる。引き込み式の網戸や障子も付いている。
エントランスの床は敷瓦。このエリアとオークの床との境に、あえて段差をつけている。「床や窓にちょっと腰掛けられる場所があるだけで、空間の自由度、居心地のよさがぐっと増します」と石井さん。
エントランスの床は敷瓦。このエリアとオークの床との境に、あえて段差をつけている。「床や窓にちょっと腰掛けられる場所があるだけで、空間の自由度、居心地のよさがぐっと増します」と石井さん。
玄関の腰掛け用スツールは、シューメーカーチェア。その横の靴べらは、まるで椅子とセットのようだが、佐藤ナオキのデザインによるmarui360°/シューホルン。傘立ては、無印良品のもの。
玄関から階段下のコーナを回り込むと、風呂場の概念を180度ひっくり返される空間が目に飛び込んで来た。バスコーナーに壁や段差などの仕切りが一切ないのだ。石井さんいわく、まさに「泉」のような存在である。
「1日のうち入浴時間は短いのに、家の中で浴室が占めるスペースがかなり取られてしまいます。このように思い切ってオープンにすれば視線が通り、空間全体に広がりを与えられます。湿気も浴室として密閉するからこもってしまいますが、この大開口から湿気が外に逃げていくので、室内が湿っぽくなることもありません」
「1日のうち入浴時間は短いのに、家の中で浴室が占めるスペースがかなり取られてしまいます。このように思い切ってオープンにすれば視線が通り、空間全体に広がりを与えられます。湿気も浴室として密閉するからこもってしまいますが、この大開口から湿気が外に逃げていくので、室内が湿っぽくなることもありません」
窓を全開すると、デッキ・テラスと一体化する。竹のパーゴラが日差しと近隣からの視線を遮ってくれる。夜も外のライトをつければ中が見えない。まさに露天風呂のような極楽スペースだ。
浴槽:十和田石張り。十和田石はカビが苦手とするアルカリ性のため、掃除もしやすい。洗い場の床は、排水溝方面にゆるやかな勾配をつけているので、水が溢れることはない。浴槽を白いシャワーカーテンで囲むこともできる。
シャワー:「デザインが美しいメタル蛇腹のシャワーホースを付けたかった」と石井さんが探し回った末に見つけたフォンテトレーディングの製品。
浴槽:十和田石張り。十和田石はカビが苦手とするアルカリ性のため、掃除もしやすい。洗い場の床は、排水溝方面にゆるやかな勾配をつけているので、水が溢れることはない。浴槽を白いシャワーカーテンで囲むこともできる。
シャワー:「デザインが美しいメタル蛇腹のシャワーホースを付けたかった」と石井さんが探し回った末に見つけたフォンテトレーディングの製品。
2階へと誘う階段。途中の壁には、人と明るさに反応する人感センサーを埋め込んでいる。「夕方帰宅して2階に向かうと、正面のイサム・ノグチの照明が自動的に点灯し、迎えてくれます」
視線を遮る柱や壁のない、圧巻のLDK。開口高はちょうど目線あたりの1.6mに抑えられ、漆喰仕上げの大きな天井が建物を覆うようかぶさっている。そのせいで開放感がありながら、包まれているような安堵感が味わえる。外の景色は、立って見たとき、ソファに腰掛けたとき、畳に座ったときとで、それぞれ見え方が違うのも楽しめる。軒の深さは約90cm。屋根を支える柱には、マットな溶融亜鉛メッキリン酸処理が施されているので、視線の邪魔にならない。全面ロールすだれを下げると、一気に和の雰囲気になる。
椅子:ハンス・J・ウェグナーのCH25(2脚)、豊口克平のスポークチェア、長大作の低座椅子。
ソファ:アルフレックス 椅子はすべて座面を低いものを選び、外を眺めやすくしている。
ダイニングテーブル:脚の部分が特徴的な石井さんオリジナルデザイン。
コーヒーテーブル:イサム・ノグチ(ライトウォールナット)
椅子:ハンス・J・ウェグナーのCH25(2脚)、豊口克平のスポークチェア、長大作の低座椅子。
ソファ:アルフレックス 椅子はすべて座面を低いものを選び、外を眺めやすくしている。
ダイニングテーブル:脚の部分が特徴的な石井さんオリジナルデザイン。
コーヒーテーブル:イサム・ノグチ(ライトウォールナット)
キッチンカウンターは長さ4m以上あり、レンジフード、冷蔵庫、食洗機、米びつなどはすべてビルトインされている。カウンタートップはベルギーBEAL社の左官材「モールテックス」。漆喰天井との質感も相性抜群だ。カウンター後ろのキャビネットも、電子レンジや食器類などがぴったりフィットするように石井さんがデザインしたもの。「きちんとした収納をつくってあげることで、片付けることが習慣になり、きれいに暮らせます」と石井さん。
レンジフード:米国ベスト社のカウンター埋め込み、昇降タイプ。
水栓:グローエ
レンジフード:米国ベスト社のカウンター埋め込み、昇降タイプ。
水栓:グローエ
夜はまるで星空の下にいるような感覚すら覚える。幻想的な世界をつくりだしているダウンライトは、しっかりとキッチンやテーブルに光を注ぐ。美観も考えて、高さや間隔を揃えて設置されている。
浴槽には壁も段差もつけていないので、テラスを眺めながら極上のリラックスタイムを過ごせると石井さんは言う。
徹底的に枠や線を排除し、造作家具などすべての材料とデザインが選び抜かれた石井邸。まさに建築家ならではの創意工夫が詰まった家だ。「平面が正方形という縛りの中で、どれだけ表現できるか、プロトタイプ化してみたかった」という石井さん。どの場所にも「機能性とデザイン性」「自由さ」を大胆かつ繊細に追求していて、とにかく居心地がよかった。取材を終えて感じたことは、空間構成、収納、動線をうまくつくることができれば、ものを散らかさず、美しく快適に過ごせるということ。設計の妙だけでなく、暮らしのあり方についても学ぶところがたくさんある家だった。
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徹底的に枠や線を排除し、造作家具などすべての材料とデザインが選び抜かれた石井邸。まさに建築家ならではの創意工夫が詰まった家だ。「平面が正方形という縛りの中で、どれだけ表現できるか、プロトタイプ化してみたかった」という石井さん。どの場所にも「機能性とデザイン性」「自由さ」を大胆かつ繊細に追求していて、とにかく居心地がよかった。取材を終えて感じたことは、空間構成、収納、動線をうまくつくることができれば、ものを散らかさず、美しく快適に過ごせるということ。設計の妙だけでなく、暮らしのあり方についても学ぶところがたくさんある家だった。
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私が常に建築デザインで気を配っている一つに「住て」の気配を感じる「開放感」「空気感」というコンセプトがあります。
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「光」「風」「風景」「闇」「音」など自然界の気配を取り込めませんが、
内部の間仕切りを全てに於いて「ガラス」にすることで外部より内部に開放感を持たせてスケルトンノベ―ションを現在、施工が進行しております。
完成は年末になりますが、春先より打ち合わせを重ねに重ね可なりな面でご理解を頂けるお施主様に出会った事に感謝しております。
今回拝見させて頂きます、建築家の自邸ではやりたいことには制約も無く取り組めるところに醍醐味とやりがいがある事と思います(建築法規を除く)
但し、プロゆえに拘りが拘りを連鎖して決めかねる場面も当然あったかと思いますね・・・(笑)
要は仕事であれば決断をスケジュールに沿って粛々と決めて行かねばなりませんが自邸に於いてはある意味「納得」と言う作業がエンドレスに近いですからね!
私自身もプライベートな「アトリエ」を湘南の茅ヶ崎に構えていますので是非、機会があれば一度拝見させて頂きたいですね~!?