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ウィリアム・クライセルのツインパームス:現代のアメリカンドリーム
斬新なパームスプリングスの住宅開発地区は今年で60周年を迎える。リゾート地としても人気のエリアが持つ、色褪せることのない魅力を探ってみよう。
Colin Flavin
2018年9月26日
2018年は、建築家ウィリアム・クライセルの最高の功績であるツインパームスの完成から60周年を迎える記念すべき年だ。ツインパームスとは、カリフォルニアの砂漠地帯にあるパームスプリングスの南側に位置する、90戸の分譲地のこと。
この開発プロジェクトは、第二次世界大戦後に急増した中流階級層を惹きつけるために、新しいタイプの住宅開発を目指していた進歩的な建設業者と、熟練の建築家との最高の組み合わせで行なわれた。クライセルは「私がやりたかったことの、全ての結果がここにはある」と語っている。
この開発プロジェクトは、第二次世界大戦後に急増した中流階級層を惹きつけるために、新しいタイプの住宅開発を目指していた進歩的な建設業者と、熟練の建築家との最高の組み合わせで行なわれた。クライセルは「私がやりたかったことの、全ての結果がここにはある」と語っている。
ツインパームスにある、自身が設計を手がけた家の前に座るウィリアム・クライセル。『Palm Springs Modern Living』用にジェームズ・シュネップフが撮影。
戦後の南カリフォルニア中流階級のためのモダニスト
ウィリアム・クライセルは1924年に上海で生まれ、まだ小さい頃に父親が映画配給の仕事に就いたのを機に南カリフォルニアへ移住した。クライセルはロサンゼルスにある南カリフォルニア大学で建築学を学び、そこで級友であり、大規模住宅開発業を営むジョージ・アレクサンダーの息子でもあるロバート・アレクサンダーと出会った。
クライセルは第二次世界大戦中、中国での海外任務に就いていた間は休学していたものの、戦後に復学し1949年に卒業した。
帰国してから、クライセルは南カリフォルニアの深刻な住宅不足に気づく。クライセルがその後すぐに一緒に仕事をすることになるアレクサンダー・コンストラクション社のロバートとジョージ・アレクサンダーには、帰国した米兵とその家族に必要な住宅を安価で大量に建設するノウハウがあった。建築家に通常与えられるエリートの役割を拒否していたクライセルは、このテーマでその後のキャリアを展開していく。
リチャード・ノイトラやドナルド・ウェクスラーといった南カリフォルニアの仲間たちとは異なり、クライセルは富裕層向けの注文住宅の設計は退屈に感じた。パートナーのダン・パーマーとともに建築家としてのキャリアをスタートさせてから1年も経たないうちに、彼は一貫してトラクトタイプ(同じような戸建住宅がならぶ分譲地)の住宅建設に携わる。クライセルにとっては、ひとつの業者だけを相手にして数百の住宅を建てていくほうが、住まい手一人ひとりをクライアントにして1戸ずつの住宅を建てていくよりもよかったのだ。
トラクトハウジングにありがちな単調さとは異なり、クライセルの設計はモダンなセンスにあふれていた。1950年代初めに、彼はアレクサンダー親子とともに南カリフォルニアのトラクトハウス開発プロジェクトで働き始め、標準的な間取りとさまざまなオプションを組み合わせる技術を完成させていった。それはまるで、自動車産業で実施されたこととよく似ていた。この戦略で、数十戸あるトラクトハウスに個性を生んだのだ。
戦後の南カリフォルニア中流階級のためのモダニスト
ウィリアム・クライセルは1924年に上海で生まれ、まだ小さい頃に父親が映画配給の仕事に就いたのを機に南カリフォルニアへ移住した。クライセルはロサンゼルスにある南カリフォルニア大学で建築学を学び、そこで級友であり、大規模住宅開発業を営むジョージ・アレクサンダーの息子でもあるロバート・アレクサンダーと出会った。
クライセルは第二次世界大戦中、中国での海外任務に就いていた間は休学していたものの、戦後に復学し1949年に卒業した。
帰国してから、クライセルは南カリフォルニアの深刻な住宅不足に気づく。クライセルがその後すぐに一緒に仕事をすることになるアレクサンダー・コンストラクション社のロバートとジョージ・アレクサンダーには、帰国した米兵とその家族に必要な住宅を安価で大量に建設するノウハウがあった。建築家に通常与えられるエリートの役割を拒否していたクライセルは、このテーマでその後のキャリアを展開していく。
リチャード・ノイトラやドナルド・ウェクスラーといった南カリフォルニアの仲間たちとは異なり、クライセルは富裕層向けの注文住宅の設計は退屈に感じた。パートナーのダン・パーマーとともに建築家としてのキャリアをスタートさせてから1年も経たないうちに、彼は一貫してトラクトタイプ(同じような戸建住宅がならぶ分譲地)の住宅建設に携わる。クライセルにとっては、ひとつの業者だけを相手にして数百の住宅を建てていくほうが、住まい手一人ひとりをクライアントにして1戸ずつの住宅を建てていくよりもよかったのだ。
トラクトハウジングにありがちな単調さとは異なり、クライセルの設計はモダンなセンスにあふれていた。1950年代初めに、彼はアレクサンダー親子とともに南カリフォルニアのトラクトハウス開発プロジェクトで働き始め、標準的な間取りとさまざまなオプションを組み合わせる技術を完成させていった。それはまるで、自動車産業で実施されたこととよく似ていた。この戦略で、数十戸あるトラクトハウスに個性を生んだのだ。
ツインパームス開発地区にある住宅はどれも、異なるルーフラインと考えられた建物の配置により、同じものはひとつもない。エクステリアの色も家ごとに異なるが、どれも砂漠地帯の環境によく馴染んでいる。 ヘンリー・コネル撮影
パームスプリングスの大衆向けモダンデザイン
第二次世界大戦前、パームスプリングスはセレブや裕福な資産家たちの保養地として知られている。しかし、戦後に中流階級層が急増すると、それまでより資力に乏しい家族も別荘を求めるようになった。すでにロサンゼルスで住宅建設業者としての成功を収めていたアレクサンダー・コンストラクション社は、1955年にパームスプリングスへ参入し、そのすぐ後に街の南端にある区画を購入した。そして住宅開発の設計担当に、クライセルを雇ったのだ。
アレクサンダー親子はクライセルに対し、モダンな区画にするよう依頼した。当時、ツインパームス以前の住宅はほとんどすべて、同じような形のランチ様式家屋(アメリカ郊外によくみられる平屋の住宅)で占められていた。アレクサンダー親子は、ロサンゼルスのブレントウッド地区にクライセルが自分用に建てた、柱と梁がむき出しの構造と、屋内と屋外の境界線を曖昧にするガラス壁を特徴とするモダンな住宅を目にしていた。クライセルは、ロサンゼルスのサンフェルナンド・バレーでのトラクトハウスプロジェクトでも、アレクサンダー親子と一緒に仕事をしていた。そこで彼はモダンでありながら効率よく立てられるデザインを生み出すスキルを見せつけていた。
土地の取得とローコスト建設が得意なアレクサンダー親子と、モダンデザインへの全体的なアプローチが出来るクライセルが手を組むことで、手頃な現代のアメリカンドリームを提供することができたのだ。ツインパームスとして知られる住宅開発は1956年から1958年まで段階的に建設が行なわれ、パームスプリングスで最初にモダン住宅を成功させた区画となった。
パームスプリングスの大衆向けモダンデザイン
第二次世界大戦前、パームスプリングスはセレブや裕福な資産家たちの保養地として知られている。しかし、戦後に中流階級層が急増すると、それまでより資力に乏しい家族も別荘を求めるようになった。すでにロサンゼルスで住宅建設業者としての成功を収めていたアレクサンダー・コンストラクション社は、1955年にパームスプリングスへ参入し、そのすぐ後に街の南端にある区画を購入した。そして住宅開発の設計担当に、クライセルを雇ったのだ。
アレクサンダー親子はクライセルに対し、モダンな区画にするよう依頼した。当時、ツインパームス以前の住宅はほとんどすべて、同じような形のランチ様式家屋(アメリカ郊外によくみられる平屋の住宅)で占められていた。アレクサンダー親子は、ロサンゼルスのブレントウッド地区にクライセルが自分用に建てた、柱と梁がむき出しの構造と、屋内と屋外の境界線を曖昧にするガラス壁を特徴とするモダンな住宅を目にしていた。クライセルは、ロサンゼルスのサンフェルナンド・バレーでのトラクトハウスプロジェクトでも、アレクサンダー親子と一緒に仕事をしていた。そこで彼はモダンでありながら効率よく立てられるデザインを生み出すスキルを見せつけていた。
土地の取得とローコスト建設が得意なアレクサンダー親子と、モダンデザインへの全体的なアプローチが出来るクライセルが手を組むことで、手頃な現代のアメリカンドリームを提供することができたのだ。ツインパームスとして知られる住宅開発は1956年から1958年まで段階的に建設が行なわれ、パームスプリングスで最初にモダン住宅を成功させた区画となった。
開発地区内の住宅はそれぞれ、40フィート(約12メートル)四方の間取りで建てられている。当時としては比較的ゆとりのある間取りとみなされており、寝室3つとバスルーム2つを備えていた。コンパクトさと無駄のない建設費は、アレクサンダー・コンストラクション社の影響を受けている。
単調ではない繰り返し
ローコストを実現するために、クライセルはいくつかの主要なデザイン原則にこだわった。同じ約12メートル四方の間取りを90回使用することにより、建設のスピードが大幅にアップした。基礎を例にとってみても、職人たちがレイアウトを学ばなければならないのは1度だけで、その後はそれを繰り返すことによって得られる効率性は想像に難くない。同じ図面を使用して、クライセルはキッチンやドア部品など工場で生産される部品の大半も作ることができた。
正方形の間取りは、隣接する区画で図面を90度回転させることができる、大変工夫に富んだものだった。道路との関係で玄関の位置を変えることにより、それぞれの家に独特な外観が生まれた。さらに柱と梁がむき出しの構造を用いることで、ひときわモダンな印象を生み出すだけでなく、材料と労働力の最も効率的な利用を実現したのだ。
単調ではない繰り返し
ローコストを実現するために、クライセルはいくつかの主要なデザイン原則にこだわった。同じ約12メートル四方の間取りを90回使用することにより、建設のスピードが大幅にアップした。基礎を例にとってみても、職人たちがレイアウトを学ばなければならないのは1度だけで、その後はそれを繰り返すことによって得られる効率性は想像に難くない。同じ図面を使用して、クライセルはキッチンやドア部品など工場で生産される部品の大半も作ることができた。
正方形の間取りは、隣接する区画で図面を90度回転させることができる、大変工夫に富んだものだった。道路との関係で玄関の位置を変えることにより、それぞれの家に独特な外観が生まれた。さらに柱と梁がむき出しの構造を用いることで、ひときわモダンな印象を生み出すだけでなく、材料と労働力の最も効率的な利用を実現したのだ。
間取り
左側の中庭から入る間取り:家の左側にある中庭を通って玄関に向かう。中庭の左には車庫、プールは家のちょうど裏手にある。立面図では、宙に浮いたようなバタフライルーフが通りに面している。
左側の中庭から入る間取り:家の左側にある中庭を通って玄関に向かう。中庭の左には車庫、プールは家のちょうど裏手にある。立面図では、宙に浮いたようなバタフライルーフが通りに面している。
正面から入る間取り:このタイプでは、従来の間取りに近く、玄関が通りに面している。プールは家の左側、車庫の裏手にある。立面図からは切妻屋根であることが見て取れる。
右側の中庭から入る間取り:家の右側にある中庭を通って玄関に向かう。中庭の右には車庫、プールは家のちょうど裏手にある。立面図からは拡張バタフライルーフが車庫と家をつなげているのがわかる。
プールは車庫の裏手にあり、正面から入る間取りの家のリビング・ダイニングルームから出るつくり
トータルデザイン
クライセルは建築家であると同時に、偉大な造園家ガレット・エクボに学んだライセンスを持つ造園家だった。景観デザインに関する知識のおかげで、クライセルは土地全体について考える特有の視点を持ち、ツインパームスの929平方メートルある区画のそれぞれを、隅々まで余すところなく利用する方法を模索した。
約149平方メートルの家に加え、開発地区にあるそれぞれの土地には車庫、家と車庫をつなぐ屋根付の通路、そしてプールがあった。これらが敷地計画の構成要素となり、クライセルはこれらの配置を変えることで外観に多様性を持たせ、それぞれの家に注文住宅のような特別さを加えることができたのだ。
敷地全体をデザインするクライセルのアプローチは、植栽にまで及んだ。彼はそれぞれの土地に1対のヤシの木を植え、それにより最終的にこのエリアはツインパームスと呼ばれるようになった。
トータルデザイン
クライセルは建築家であると同時に、偉大な造園家ガレット・エクボに学んだライセンスを持つ造園家だった。景観デザインに関する知識のおかげで、クライセルは土地全体について考える特有の視点を持ち、ツインパームスの929平方メートルある区画のそれぞれを、隅々まで余すところなく利用する方法を模索した。
約149平方メートルの家に加え、開発地区にあるそれぞれの土地には車庫、家と車庫をつなぐ屋根付の通路、そしてプールがあった。これらが敷地計画の構成要素となり、クライセルはこれらの配置を変えることで外観に多様性を持たせ、それぞれの家に注文住宅のような特別さを加えることができたのだ。
敷地全体をデザインするクライセルのアプローチは、植栽にまで及んだ。彼はそれぞれの土地に1対のヤシの木を植え、それにより最終的にこのエリアはツインパームスと呼ばれるようになった。
ツインパームスにある、デボラ・ルーメンズ&マイク・リー邸の中庭
囲われた中庭の入口は、親密でプライベートな空間を生み出し、オーナーのガーデニングに対する興味を刺激する。
囲われた中庭の入口は、親密でプライベートな空間を生み出し、オーナーのガーデニングに対する興味を刺激する。
クライセルはこの中庭に、日光を遮る直線的な格子を取り入れた。
ルーメンズ&リー邸の寝室にある大きなガラスは、屋内と屋外のシームレスなつながりを生み出している。
すべてにおいて流動的な空間
間取りは正方形であるものの、箱のような印象はない。屋根を支える柱と梁でできた構造により、室内に流れるような空間を大きくとることができている。この構造システムにより大きな窓、採光窓、そして室内と庭をつなぐスライド式ガラスドアも可能となった。さらにはこの建設手法により、室内の壁はすべて非耐力壁になっているため、新たなオーナーが壁を取り除きたい、間取りを変更したいと希望した場合にも対応できる。
すべてにおいて流動的な空間
間取りは正方形であるものの、箱のような印象はない。屋根を支える柱と梁でできた構造により、室内に流れるような空間を大きくとることができている。この構造システムにより大きな窓、採光窓、そして室内と庭をつなぐスライド式ガラスドアも可能となった。さらにはこの建設手法により、室内の壁はすべて非耐力壁になっているため、新たなオーナーが壁を取り除きたい、間取りを変更したいと希望した場合にも対応できる。
高いルーフラインが、平屋の住宅に存在感を与えている。
多様なルーフライン
おそらく、ツインパームスの最も記憶に残る特徴は、遊び心にあふれる多様なルーフラインだろう。ここでも、正方形の間取りは天才的だと思わされる。屋根の縁が自然と図面の長い側に沿っていく長方形の間取りのように、正方形だと、特定の様式や方向にとらわれないからだ。クライセルは、バタフライルーフ、切妻屋根、傾斜屋根、拡張バタフライルーフというように、それぞれの家のスタイルや屋根の傾斜にバリエーションをつけた。
標準的な住宅の設計では、空調の配管やその他の設備を、天井と垂木の間にできる屋根裏の空間に通す。クライセルはこうした配管や空調用ダクトをすべて、コンクリート床板の中に配置した。そうすることによって、住宅設備に影響を与えることなく、家ごとの屋根のデザインを変えることができたのだ。
さらに、屋根裏の空間から配管を取り除くことにより、屋根の構造を露出した状態を可能にした。むき出しの構造は、富裕層向けの注文住宅で見られるものではあったが、トラクトハウスでは初めてだった。
多様なルーフライン
おそらく、ツインパームスの最も記憶に残る特徴は、遊び心にあふれる多様なルーフラインだろう。ここでも、正方形の間取りは天才的だと思わされる。屋根の縁が自然と図面の長い側に沿っていく長方形の間取りのように、正方形だと、特定の様式や方向にとらわれないからだ。クライセルは、バタフライルーフ、切妻屋根、傾斜屋根、拡張バタフライルーフというように、それぞれの家のスタイルや屋根の傾斜にバリエーションをつけた。
標準的な住宅の設計では、空調の配管やその他の設備を、天井と垂木の間にできる屋根裏の空間に通す。クライセルはこうした配管や空調用ダクトをすべて、コンクリート床板の中に配置した。そうすることによって、住宅設備に影響を与えることなく、家ごとの屋根のデザインを変えることができたのだ。
さらに、屋根裏の空間から配管を取り除くことにより、屋根の構造を露出した状態を可能にした。むき出しの構造は、富裕層向けの注文住宅で見られるものではあったが、トラクトハウスでは初めてだった。
ルーメンズ&リー邸の屋根は、パームスプリングスの青い空をバックに印象的なシルエットを描く。
バタフライルーフ
このルーフデザインは、家の中央付近の低い位置から端へ向かってせり上がっているため、まるで重力に逆らっているかのように見える。この家の場合、低くなっている位置がダイニングエリアの上方で、そこからキッチンとリビングに向かって持ち上がっており、天井の高さに加え、同じ空間内での天井の傾斜にも劇的なバリエーションを生み出している。屋根はたった4本の梁で支えられている。
クライセルは、約2.1メートルしかない外壁に高さを出すため、壁の上と屋根の間に採光窓を並べて配置した。屋根は文字通り、壁のないところに浮き上がり、室内に明るさを生み出している。主寝室には高さ約2メートルの外壁がプライバシーを守る一方で、採光窓からはたっぷりの自然光が室内に射し込む。
クライセルはパームスプリングスの砂漠環境をうまく利用した。この屋根のかたちは、寒冷な地域では屋根の低い位置に氷ができ、雪が流れ込むために頭痛の種となってしまう。
バタフライルーフ
このルーフデザインは、家の中央付近の低い位置から端へ向かってせり上がっているため、まるで重力に逆らっているかのように見える。この家の場合、低くなっている位置がダイニングエリアの上方で、そこからキッチンとリビングに向かって持ち上がっており、天井の高さに加え、同じ空間内での天井の傾斜にも劇的なバリエーションを生み出している。屋根はたった4本の梁で支えられている。
クライセルは、約2.1メートルしかない外壁に高さを出すため、壁の上と屋根の間に採光窓を並べて配置した。屋根は文字通り、壁のないところに浮き上がり、室内に明るさを生み出している。主寝室には高さ約2メートルの外壁がプライバシーを守る一方で、採光窓からはたっぷりの自然光が室内に射し込む。
クライセルはパームスプリングスの砂漠環境をうまく利用した。この屋根のかたちは、寒冷な地域では屋根の低い位置に氷ができ、雪が流れ込むために頭痛の種となってしまう。
通りから見た、正面に玄関のある切妻屋根の家の外観
切妻屋根
切妻屋根はよく見かける屋根の形状だが、クライセルの手にかかるとダイナミックで住宅の上に浮いているように見える屋根になった。バタフライルーフと同様、外壁は高さは約2メートルしかない。切妻壁にはガラスがはめ込まれ、自然光を室内にもたらすと同時に、室内にいながらサンジャシント山脈を眺めることができる。
切妻屋根
切妻屋根はよく見かける屋根の形状だが、クライセルの手にかかるとダイナミックで住宅の上に浮いているように見える屋根になった。バタフライルーフと同様、外壁は高さは約2メートルしかない。切妻壁にはガラスがはめ込まれ、自然光を室内にもたらすと同時に、室内にいながらサンジャシント山脈を眺めることができる。
切妻屋根の家のリビング
切妻屋根の家では、リビングの天井がスキー小屋を連想させるシンプルな傾斜になっていて、石でできたオリジナルの暖炉が山小屋のような雰囲気をさらに盛りあげている。
切妻屋根の家では、リビングの天井がスキー小屋を連想させるシンプルな傾斜になっていて、石でできたオリジナルの暖炉が山小屋のような雰囲気をさらに盛りあげている。
この家の傾斜屋根は、車庫の傾斜屋根と合わさって、実際よりもずっと大きな家のような外観を作りだしている。
拡張バタフライルーフ
これは、ミッドセンチュリー時代に人気だった屋根の形状で、一番低い約2メートルの高さから、一番高い約3.6メートルの高さまでがシンプルな傾斜になっている。クライセルは、傾斜屋根の面白いバリエーションとして、向かい合う住宅の屋根と車庫の屋根を傾斜させ、ふたつの屋根が通路の上でつながるようにし、大きめのバタフライルーフといった見た目にし、これを拡張バタフライルーフと呼んだ。
拡張バタフライルーフ
これは、ミッドセンチュリー時代に人気だった屋根の形状で、一番低い約2メートルの高さから、一番高い約3.6メートルの高さまでがシンプルな傾斜になっている。クライセルは、傾斜屋根の面白いバリエーションとして、向かい合う住宅の屋根と車庫の屋根を傾斜させ、ふたつの屋根が通路の上でつながるようにし、大きめのバタフライルーフといった見た目にし、これを拡張バタフライルーフと呼んだ。
同じ住宅の裏庭から見た拡張バタフライルーフの外観。ふたつの屋根の作る翼の間に、山々が見事におさまっている。
改装したツインパームス住宅、2つの例
ツインパームスの住宅の特徴は、オープンなリビング・ダイニングエリアや屋内と屋外の生活を取り入れる、すべてがワンフロアにまとまっている、など、現代のライフスタイルにも合うものがとても多い。寝室ですら、当時としてはゆったりと作られていて、主寝室は約3.9×5.5メートル四方、ゲスト用の寝約3.8×3.9メートル四方の広さがある。しかし、住宅の設備のいくつかは改装を必要としている。ここでは、21世紀バージョンのリノベーションを行なったクライセルの住宅2例を紹介する。
1. クライセルの協力を得て実施したリノベーション
新築当時、ツインパームス住宅のキッチンはすべて壁で完全に囲われていた。キッチンは家事エリアとしてはっきりと区別され、家族や娯楽のスペースの一部とはみなされていなかった。開発地区でリノベーションを行なった住宅の多くでは、キッチンの間にある壁を撤去し、キッチンそのものも新しくしている。
クリス・メンラッド邸のキッチンのリノベーションでは、写真のとおり、かつて壁だった部分をカウンターにして、ダイニング側には席を設けた。ペグボードでできたキャビネットの扉と、繊細なスチールが高級家具のアクセントとなり、1950年代の雰囲気を醸し出している。
ツインパームスの住宅の特徴は、オープンなリビング・ダイニングエリアや屋内と屋外の生活を取り入れる、すべてがワンフロアにまとまっている、など、現代のライフスタイルにも合うものがとても多い。寝室ですら、当時としてはゆったりと作られていて、主寝室は約3.9×5.5メートル四方、ゲスト用の寝約3.8×3.9メートル四方の広さがある。しかし、住宅の設備のいくつかは改装を必要としている。ここでは、21世紀バージョンのリノベーションを行なったクライセルの住宅2例を紹介する。
1. クライセルの協力を得て実施したリノベーション
新築当時、ツインパームス住宅のキッチンはすべて壁で完全に囲われていた。キッチンは家事エリアとしてはっきりと区別され、家族や娯楽のスペースの一部とはみなされていなかった。開発地区でリノベーションを行なった住宅の多くでは、キッチンの間にある壁を撤去し、キッチンそのものも新しくしている。
クリス・メンラッド邸のキッチンのリノベーションでは、写真のとおり、かつて壁だった部分をカウンターにして、ダイニング側には席を設けた。ペグボードでできたキャビネットの扉と、繊細なスチールが高級家具のアクセントとなり、1950年代の雰囲気を醸し出している。
別角度から見た、メンラッド邸のキッチンリノベーション。彼は既存建築を尊重し、採光窓のすぐ下にウォールキャビネットを吊るすことで自然光が差し込むスペースを残している。
メンラッド邸の前庭に対してクライセルが行なったデザインは、ガレット・エクボのカラフルな庭園を想起させる。
メンラッドは2007年のリノベーションについて、クライセルにコンサルティングを依頼した。当時、半ば隠居状態だったクライセルだが、最終的には協力することを決めた。
住宅の当初のディテールや色づかいを共有することに加え、クライセルは既存のヤシの木と住宅の形状に見合う、見事な前庭をデザインした。このデザインで使用した耐乾性素材は砂漠環境に調和している。重なり合う曲線と対照的な砂利により加えられたアクセント、そしてきれいに配置されたサボテンからは、エクボの影響が見て取れる。
クライセルの妻コリンが後にメンラッドに語ったところによると、クライセルはこのプロジェクトに参加できてメンラッドに感謝していた。再びデザインにかかわれたことで夫がどれだけ幸せだったか、コリンにはわかったそうだ。クライセルはその10年後、2017年に亡くなった。
メンラッドは2007年のリノベーションについて、クライセルにコンサルティングを依頼した。当時、半ば隠居状態だったクライセルだが、最終的には協力することを決めた。
住宅の当初のディテールや色づかいを共有することに加え、クライセルは既存のヤシの木と住宅の形状に見合う、見事な前庭をデザインした。このデザインで使用した耐乾性素材は砂漠環境に調和している。重なり合う曲線と対照的な砂利により加えられたアクセント、そしてきれいに配置されたサボテンからは、エクボの影響が見て取れる。
クライセルの妻コリンが後にメンラッドに語ったところによると、クライセルはこのプロジェクトに参加できてメンラッドに感謝していた。再びデザインにかかわれたことで夫がどれだけ幸せだったか、コリンにはわかったそうだ。クライセルはその10年後、2017年に亡くなった。
メンラッド邸のリビングルーム。こげ茶色の梁が、白い天井との見事なコントラストを生み出している。
クライセルは、それぞれの家の中と外の塗装に複数の選択肢を用意して、オーナーはその中から選べるようにした。ペンキはアースカラーで、砂漠地帯の景観を引き立たせるためのものだった。
メンラッドは自宅のリノベーション用に、クライセルと協力して当初の色の組み合わせを再現しようと試みた。こげ茶色は構造梁に使われ、天井の色との明確なコントラストによって住宅の骨組みに視線が集まる。
クライセルは、それぞれの家の中と外の塗装に複数の選択肢を用意して、オーナーはその中から選べるようにした。ペンキはアースカラーで、砂漠地帯の景観を引き立たせるためのものだった。
メンラッドは自宅のリノベーション用に、クライセルと協力して当初の色の組み合わせを再現しようと試みた。こげ茶色は構造梁に使われ、天井の色との明確なコントラストによって住宅の骨組みに視線が集まる。
ルーメンズ&リー邸のリビングの天井、梁、壁は白く塗られ、構造をさりげなく強調し、オーナーのアートコレクションを引き立てる背景になっている。
2. インテリアデザイナーのカップルにより、明るく生まれ変わった家
インテリアデザイナーのデボラ・ルーメンズとマイク・リーは、ツインパームスの自宅のリノベーションに異なるデザインの方向性を選んだ。梁、天井、壁を真っ白に塗装し、磨き上げられたコンクリート床のライトグレーとのコントラストが生まれている。
2. インテリアデザイナーのカップルにより、明るく生まれ変わった家
インテリアデザイナーのデボラ・ルーメンズとマイク・リーは、ツインパームスの自宅のリノベーションに異なるデザインの方向性を選んだ。梁、天井、壁を真っ白に塗装し、磨き上げられたコンクリート床のライトグレーとのコントラストが生まれている。
ルーメンズ&リー邸のコンクリート床
新築当初は、住宅の主要な部屋には毛足の長い絨毯が敷かれていた。その絨毯の下に、コンクリート平板の下地床があった。
ルーメンズ&リー邸のリノベーションでは、家主が絨毯を撤去し、コンクリート平板を滑らかになるまで研磨してからコーティングした。この丈夫な床は、暑い夏の日にはとりわけ快適だ。
新築当初は、住宅の主要な部屋には毛足の長い絨毯が敷かれていた。その絨毯の下に、コンクリート平板の下地床があった。
ルーメンズ&リー邸のリノベーションでは、家主が絨毯を撤去し、コンクリート平板を滑らかになるまで研磨してからコーティングした。この丈夫な床は、暑い夏の日にはとりわけ快適だ。
ルーメンズ&リー邸の大きく、新しくなった浴室
ツインパームス住宅の元々の浴室は約1.5×2.1メートル四方で、私たちが慣れ親しむようになった宮殿のような浴室よりもずっと狭かった。ルーメンズとリーは、自宅の浴室を隣接する吹き抜けのスペースまで拡張したので、浴室の広さが約1.5×3.6メートル四方となった。さらに、作り付けの家具と仕上げも新しくした。
ツインパームス住宅の元々の浴室は約1.5×2.1メートル四方で、私たちが慣れ親しむようになった宮殿のような浴室よりもずっと狭かった。ルーメンズとリーは、自宅の浴室を隣接する吹き抜けのスペースまで拡張したので、浴室の広さが約1.5×3.6メートル四方となった。さらに、作り付けの家具と仕上げも新しくした。
ルーメンズ&リー邸の寝室
高さのあるバタフライルーフが、ベッドの上に浮かんでいるように見える。白い天井と羽目板を用いて、ルーメンズとリーはクライセルのデザインにアクセントを加える素晴らしいコントラストを生み出した。
このスペースは、プライバシーと自然光、そして山々の眺めが完ぺきなバランスとなっており、クライセルの才能がよくわかる。
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