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ネリ&フー:装飾も空間にまつわるストーリーの一部
パワフルな建築家カップルが語る建築、装飾、東洋と西洋の影響、そして理想の家とは。
Rafael F. Bermejo
2018年8月26日
上海を拠点とする建築家カップルである、リンドン・ネリとロザンナ・フー。Houzzは2018年初め、デザイン分野で一気に知名度を高めた二人にインタビューをする機会を得ました。デザイン、装飾、建築への考え方とコラボレーションプロセス、そして二人が今住んでいる家についても、話を聞きました。
ネリ&フーの理想の家では、景色がまるで絵画のように装飾の一部になり、パブリックとプライベートが相互につながっているのではないのかと感じています。家具はあまりなく、使われている素材そのものが情緒を刺激するように選ばれているような気がします。お二人の作られる建築やプロダクトなどからのイメージですが、これについてどう思われますか?補足や、違っている部分はありますか?
ロザンナ・フー(RH):良い表現ですね。私たちがすべきことは、そのアイデアを実際の図面にすることなんです。
リンドン・ネリ(LN):私も同意しますし、的確です。ただし、もしもそのようなアイデアがあっても、何らかの実体として現実のものにならない限り、それには何の価値もないのです。
つまり個別のプロジェクトとしては、あなたが先ほどおっしゃった感覚を実際に体験する必要があります。言葉を足せば、家具で飾るというのは偶然の結果ではなく、意図的な決断を必要とします。個人的な意見ですが、家においては、立面図(建物外観の2次元で表された面)よりも、断面図(建物を縦方向に切った2次元で表された面)が重要です。たいていのひとはファサード、つまり建物の外見に注意が向きます。けれどもこれは建築家としては興味の涌かない部分で、私たちが興味を持っているのは断面であり、空間のあいだの変化なのです。
ロザンナ・フー(RH):良い表現ですね。私たちがすべきことは、そのアイデアを実際の図面にすることなんです。
リンドン・ネリ(LN):私も同意しますし、的確です。ただし、もしもそのようなアイデアがあっても、何らかの実体として現実のものにならない限り、それには何の価値もないのです。
つまり個別のプロジェクトとしては、あなたが先ほどおっしゃった感覚を実際に体験する必要があります。言葉を足せば、家具で飾るというのは偶然の結果ではなく、意図的な決断を必要とします。個人的な意見ですが、家においては、立面図(建物外観の2次元で表された面)よりも、断面図(建物を縦方向に切った2次元で表された面)が重要です。たいていのひとはファサード、つまり建物の外見に注意が向きます。けれどもこれは建築家としては興味の涌かない部分で、私たちが興味を持っているのは断面であり、空間のあいだの変化なのです。
ネリ&フーが2015年からクリエイティブディレクターを務めている〈ステラワークス〉のためにデザインした《インダストリーコレクション》の椅子
そのことはご自宅にも反映されていますか?ご自宅はどのような感じですか?
LN:私たちは上海のフランス租界に住んでいるんです。3階建てと平屋の家、2つが対峙し、L字型、私の名前のLの字のように向かい合っています。手入れをしないので荒れ放題ですが、大きな庭と小さなゲストハウスもあります。私たちの家は箱の集まりのようなもので、一つの部屋に入り、そこからまた他の場所に移動するのです。それぞれの部屋のなかでの動線はありません。
そのことはご自宅にも反映されていますか?ご自宅はどのような感じですか?
LN:私たちは上海のフランス租界に住んでいるんです。3階建てと平屋の家、2つが対峙し、L字型、私の名前のLの字のように向かい合っています。手入れをしないので荒れ放題ですが、大きな庭と小さなゲストハウスもあります。私たちの家は箱の集まりのようなもので、一つの部屋に入り、そこからまた他の場所に移動するのです。それぞれの部屋のなかでの動線はありません。
《ラン》。2018年ミラノサローネ国際家具見本市の〈ガン〉のスタンドでのネリ&フー
お二人ともアメリカに住み、勉強し、仕事をされていました。ご自宅では西洋文化と東洋文化が混ざり合っていますか?また、今日の住宅についての考えをお聞かせください。
RH:今の家は一般的にとても西洋的だと思います。「モダン」というのは西洋のコンセプトだからです。私たちの家にはモダンなキッチン、モダンな浴室、そしてモダンなシャワーがあり、その多くは世界中から集めたものです。私たちの手がけた住宅もいろいろな文化に影響を受けています。私たちの家具のコレクションをご覧いただいてもわかるように、たとえばいくつかの椅子はイームズやヤコブセンのものだけれども、ジャワ島やフィリピンの椅子やベンチ、そしてテーブルもあります。私たちの家では西洋の要素も東洋の要素も同じように表現されています。
お二人ともアメリカに住み、勉強し、仕事をされていました。ご自宅では西洋文化と東洋文化が混ざり合っていますか?また、今日の住宅についての考えをお聞かせください。
RH:今の家は一般的にとても西洋的だと思います。「モダン」というのは西洋のコンセプトだからです。私たちの家にはモダンなキッチン、モダンな浴室、そしてモダンなシャワーがあり、その多くは世界中から集めたものです。私たちの手がけた住宅もいろいろな文化に影響を受けています。私たちの家具のコレクションをご覧いただいてもわかるように、たとえばいくつかの椅子はイームズやヤコブセンのものだけれども、ジャワ島やフィリピンの椅子やベンチ、そしてテーブルもあります。私たちの家では西洋の要素も東洋の要素も同じように表現されています。
《ラン》のディテール
LN:上海のフランス租界にある家々は1930年代にフランス人によって建てられました。建物は西洋のタイポロジーに従っています。ですが興味深いことに間取りにはアジアの要素が加わり、隣人がのぞけるような庭になっているのです。(フランス租界の路地裏に面した住宅はパブリックとプライベートのスペースが融合していることで知られています。)私たちの家は、形式言語は西洋だけれどもエッセンスは東洋という、これぞ上海といったスタイルです。
LN:上海のフランス租界にある家々は1930年代にフランス人によって建てられました。建物は西洋のタイポロジーに従っています。ですが興味深いことに間取りにはアジアの要素が加わり、隣人がのぞけるような庭になっているのです。(フランス租界の路地裏に面した住宅はパブリックとプライベートのスペースが融合していることで知られています。)私たちの家は、形式言語は西洋だけれどもエッセンスは東洋という、これぞ上海といったスタイルです。
〈ステラワークス〉のためにデザインしたトライポッドテーブル
仕事上でのお二人の役割は?またお互いをどのようにサポートしていますか?
RH:彼は足していくのが好きで、反対に、私は編集したり切り捨てるのが好きです。作り方が違うので、うまく一緒に仕事ができます。
LN:プロジェクトで力を入れすぎたなと感じたら、彼女に渡し、編集をしてもらいます。図面を通じてお互いをわかり合えていると思っています。彼女が話す内容を私が描くことも、またその逆のときもあり、面白い形のコラボレーションです。
仕事上でのお二人の役割は?またお互いをどのようにサポートしていますか?
RH:彼は足していくのが好きで、反対に、私は編集したり切り捨てるのが好きです。作り方が違うので、うまく一緒に仕事ができます。
LN:プロジェクトで力を入れすぎたなと感じたら、彼女に渡し、編集をしてもらいます。図面を通じてお互いをわかり合えていると思っています。彼女が話す内容を私が描くことも、またその逆のときもあり、面白い形のコラボレーションです。
2018年ミラノサローネ国際家具見本市での〈ステラワークス〉のためのネリー&フーのインスタレーション
Houzzは建築、デザイン、そして装飾に興味を持っています。ネリ&フーにとっての「装飾」とは何ですか?
RH:おもしろい……こうやって質問されたのは初めてです。
LN:ちょっと待ってください……あなたの質問を整理しようとしているのですが……たとえば、私たちが装飾を信じない、または装飾することを避けている建築家であるとします。その場合、空間を作り、椅子であれ照明であれ、物を集めることは装飾ではないということになります。物と空間の両方の価値を認めるには、両方に息づいてもらう必要があります。私が「装飾」という言葉を使わないのは、まさに空間を信じているからなのです。もしも、単にインテリアを面白く見せるために、花をここに、物をそこに、黄色をこの角に、そして白をこの角に配置する、といったことが「装飾」だと考えておられるなら、私たちはあなたのいう「装飾」はしていないでしょう。ですが、もしもあなたが物と色の対話、何かしらの物語を伝えるようなインテリアを望んでいるのであれば、それはまさに私たちがやっていることです。
Houzzは建築、デザイン、そして装飾に興味を持っています。ネリ&フーにとっての「装飾」とは何ですか?
RH:おもしろい……こうやって質問されたのは初めてです。
LN:ちょっと待ってください……あなたの質問を整理しようとしているのですが……たとえば、私たちが装飾を信じない、または装飾することを避けている建築家であるとします。その場合、空間を作り、椅子であれ照明であれ、物を集めることは装飾ではないということになります。物と空間の両方の価値を認めるには、両方に息づいてもらう必要があります。私が「装飾」という言葉を使わないのは、まさに空間を信じているからなのです。もしも、単にインテリアを面白く見せるために、花をここに、物をそこに、黄色をこの角に、そして白をこの角に配置する、といったことが「装飾」だと考えておられるなら、私たちはあなたのいう「装飾」はしていないでしょう。ですが、もしもあなたが物と色の対話、何かしらの物語を伝えるようなインテリアを望んでいるのであれば、それはまさに私たちがやっていることです。
ネリ&フーのプロジェクト、中国・上海にある《ウォーターハウス》
RH:先程言った通り、誰も私たちにこの質問をしたことがありませんでした。私たちのような建築家にとって、表面的な装飾、つまりアドルフ・ロースが定義したところの「ornament」は、ほぼ犯罪です。けれども一方で、本当の装飾とは何かを考えると、デザインプロセス全体におけるひとつの過程のように思われます。最終の過程なのです。最初は構造および建築に関係のあるすべてのことから始め、そして最終ステージが装飾です。装飾は歴史とも深い関係を持っています。古代文化での壁への装飾の仕方を考えてみてください。つい先日カンボジアにいたのですが、彼らの寺院における壁の装飾方法、対話……つまり私が言いたいのは、装飾は歴史の一部であり、空間の一部であるということです。そこに置かれて終わり、といったものではありません。装飾も深いコンセプトになり得ます。すべては見る側の認識によるのです。
LN:その通りです。私たちは装飾をしないといっているわけではありません。空間および日常生活における対話に取り入れられた、空間的な質を伴う装飾には価値があります。
こちらもあわせて
パトリシア・ウルキオラがつくる変幻自在のデザインの世界
空間やデザインが私たちを魅了する理由とは?
RH:先程言った通り、誰も私たちにこの質問をしたことがありませんでした。私たちのような建築家にとって、表面的な装飾、つまりアドルフ・ロースが定義したところの「ornament」は、ほぼ犯罪です。けれども一方で、本当の装飾とは何かを考えると、デザインプロセス全体におけるひとつの過程のように思われます。最終の過程なのです。最初は構造および建築に関係のあるすべてのことから始め、そして最終ステージが装飾です。装飾は歴史とも深い関係を持っています。古代文化での壁への装飾の仕方を考えてみてください。つい先日カンボジアにいたのですが、彼らの寺院における壁の装飾方法、対話……つまり私が言いたいのは、装飾は歴史の一部であり、空間の一部であるということです。そこに置かれて終わり、といったものではありません。装飾も深いコンセプトになり得ます。すべては見る側の認識によるのです。
LN:その通りです。私たちは装飾をしないといっているわけではありません。空間および日常生活における対話に取り入れられた、空間的な質を伴う装飾には価値があります。
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