サステナブルな森づくりへ。注目があつまる国産材家具
木製家具の材がどこから来ているのか、気にしたことありますか? 家具を選ぶ前に、日本の森について考えてみましょう。
渡辺安紀 |Aki Watanabe
2018年9月4日
ここ数年日本のトップ家具メーカーが中心となって国産材を使った家具づくりを積極的に進め、その魅力を一丸となって発信している活動がある。背景には付加価値の高い家具づくりを通じ、日本の森林を守っていきたいという思いがある。2回にわたって日本の林業の現状を振り返りつつ、各社の取り組みを紹介する。
伐採されない木々
日本では戦後、建材や燃料に利用する目的でスギやヒノキといった針葉樹が、すでに生えていた広葉樹を伐採して大規模に植林された。だが都市への人口流入にともなう新築木造住宅着工数の減少や、輸入自由化、為替制度の変更もあり、針葉樹の市場価値は低下した。その結果、山を管理する林業従事者たちは経済的に立ち行かなくなってしまった。伐採し活用するはずだった木々は適切な手入れがされず伸び放題となっている。
日本では戦後、建材や燃料に利用する目的でスギやヒノキといった針葉樹が、すでに生えていた広葉樹を伐採して大規模に植林された。だが都市への人口流入にともなう新築木造住宅着工数の減少や、輸入自由化、為替制度の変更もあり、針葉樹の市場価値は低下した。その結果、山を管理する林業従事者たちは経済的に立ち行かなくなってしまった。伐採し活用するはずだった木々は適切な手入れがされず伸び放題となっている。
なぜ森を維持管理する必要があるのか?
ここ数年の豪雨による災害からも実感するように、各地で土砂災害が起きやすくなっている。その原因のひとつが痩せてしまった山だ。自分たちの命を守るためにも、地球温暖化に歯止めをかけるためにも豊かな森を再生する必要に迫られている。
ここ数年の豪雨による災害からも実感するように、各地で土砂災害が起きやすくなっている。その原因のひとつが痩せてしまった山だ。自分たちの命を守るためにも、地球温暖化に歯止めをかけるためにも豊かな森を再生する必要に迫られている。
安定的な森林運営のために
元気な山をつくるためには伐採→木材利用→植林→育成の仕組みづくりが欠かせないが、木が育つには年月と人の手がかかる。山を長年にわたって管理する林業従事者が安定的な経営を確立できるようにしなければならない。そのためにも国産材を付加価値の高いものに積極的に利用することが求められている。そこで木を使った高付加価値製品を作ることができる家具メーカーにも大きな期待が寄せられているのだ。
元気な山をつくるためには伐採→木材利用→植林→育成の仕組みづくりが欠かせないが、木が育つには年月と人の手がかかる。山を長年にわたって管理する林業従事者が安定的な経営を確立できるようにしなければならない。そのためにも国産材を付加価値の高いものに積極的に利用することが求められている。そこで木を使った高付加価値製品を作ることができる家具メーカーにも大きな期待が寄せられているのだ。
旭川デザインウィーク2018で開催された「国産材家具サミット」での登壇メンバー、左から〈カンディハウス〉の染谷哲義氏、〈カリモク家具〉の池田令和氏、〈JDN〉の山崎泰氏、〈フォレストリンク〉の白鳥芳洋氏、〈天童木工〉の永坂英樹氏、〈ワイス・ワイス〉の野村由多加氏、〈飛驒産業〉の森野敦氏
国産材家具サミットとは?
2016年から日本を代表する家具メーカーが中心となって6月の旭川デザインウィーク(ADW)と9月の飛驒の家具フェスティバルで「国産材家具サミット」が定期的に開催されている。競合でもある各社が一緒になって開催するこのイベントは、家具業界だけでなく、インテリアやライフスタイル業界の関心をひき、2017年には11月の東京での展示会 IFFT/インテリアライフスタイルリビングでも企画された。
サミット登壇企業は国産材家具づくりに積極的に取り組んでいる〈カリモク家具〉、〈カンディハウス〉、〈天童木工〉、〈飛驒産業〉、〈ワイス・ワイス〉の5社(50音順)。各社の国産材家具づくりの最新状況を共有し、課題について語り合うトークイベントだ。6月に行われたADWでは、東京都港区の「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」に携わる〈フォレストリンク〉代表理事 白鳥芳洋さんをゲストスピーカーとして招き、各地の取り組みを紹介した。明日、9月5日から始まる「飛驒の家具フェスティバル」で7回目になる。
国産材家具サミットとは?
2016年から日本を代表する家具メーカーが中心となって6月の旭川デザインウィーク(ADW)と9月の飛驒の家具フェスティバルで「国産材家具サミット」が定期的に開催されている。競合でもある各社が一緒になって開催するこのイベントは、家具業界だけでなく、インテリアやライフスタイル業界の関心をひき、2017年には11月の東京での展示会 IFFT/インテリアライフスタイルリビングでも企画された。
サミット登壇企業は国産材家具づくりに積極的に取り組んでいる〈カリモク家具〉、〈カンディハウス〉、〈天童木工〉、〈飛驒産業〉、〈ワイス・ワイス〉の5社(50音順)。各社の国産材家具づくりの最新状況を共有し、課題について語り合うトークイベントだ。6月に行われたADWでは、東京都港区の「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」に携わる〈フォレストリンク〉代表理事 白鳥芳洋さんをゲストスピーカーとして招き、各地の取り組みを紹介した。明日、9月5日から始まる「飛驒の家具フェスティバル」で7回目になる。
コンテスト情報サイト『登竜門』やデザイン情報サイト『JDN』を運営する〈JDN〉取締役の山崎泰さんは「国産材家具サミット」をコーディネートしている。きっかけは2016年に開催された林野庁の補助事業、「ウッドファニチャージャパンアワード2016」だった。このイベントで山崎さんは東京・青山の〈スパイラル〉での木製家具の展示に関わった。イベントには現在の「国産材家具サミット」に参加することになる各社が一同に会していた。
「このイベントは “日本の木製家具” という切り口でしたが、さらに国産材の利用に意欲的な方々に多く集まっていただくことができました。これまで国産材を使った家具づくりに個別に取り組んできた各社が一緒に動き、発信することでもっと伝えられることがあるはずという話になり、僕はそれを期待を込めて応援しています」と山崎さん。
「このイベントは “日本の木製家具” という切り口でしたが、さらに国産材の利用に意欲的な方々に多く集まっていただくことができました。これまで国産材を使った家具づくりに個別に取り組んできた各社が一緒に動き、発信することでもっと伝えられることがあるはずという話になり、僕はそれを期待を込めて応援しています」と山崎さん。
旭川デザインウィーク2018で開催された「国産材家具サミット」より、左から〈JDN〉の山崎泰氏、〈カリモク家具〉の池田令和氏、〈カンディハウス〉の染谷哲義氏
安定供給という課題
期待が高まる国産材の家具への利用だが、課題となっているのは家具の材料となる木材の安定的な供給体制の確立だ。工房が得意とする単品や小規模な製造であれば問題はなくても、いつ注文しても同じ品質の製品を納品しなければならないカタログモデルの家具を生産するには、「まだまだ安定供給が確保されているとはいえません」と山崎さん。「柔らかくて傷がつきやすいから家具には向かないと長年言われてきたスギやヒノキといった針葉樹を家具の素材として使うという課題は、曲木加工をルーツにもつ〈飛驒産業〉や成形合板で業界をリードする〈天童木工〉の技術開発と、志を同じくするデザイナーたちによってさまざまな解決策が提案されていますし、〈ワイス・ワイス〉は東日本大震災の被災地の方達が作ることができるスギの椅子を発表しています」
安定供給という課題
期待が高まる国産材の家具への利用だが、課題となっているのは家具の材料となる木材の安定的な供給体制の確立だ。工房が得意とする単品や小規模な製造であれば問題はなくても、いつ注文しても同じ品質の製品を納品しなければならないカタログモデルの家具を生産するには、「まだまだ安定供給が確保されているとはいえません」と山崎さん。「柔らかくて傷がつきやすいから家具には向かないと長年言われてきたスギやヒノキといった針葉樹を家具の素材として使うという課題は、曲木加工をルーツにもつ〈飛驒産業〉や成形合板で業界をリードする〈天童木工〉の技術開発と、志を同じくするデザイナーたちによってさまざまな解決策が提案されていますし、〈ワイス・ワイス〉は東日本大震災の被災地の方達が作ることができるスギの椅子を発表しています」
一方広葉樹を主材料に家具づくりをしているのは〈カリモク家具〉と〈カンディハウス〉だ。〈カリモク家具〉は北海道や秋田にある資材工場で国産材を集めて長年取り組んできた。しかし業界全体では広葉樹は流通網が整っていないため、各産地とメーカーのつながりのなかでしか取引きできていない状況だという。
供給量以外にも、家具に使える適正な樹齢のものが毎年安定して確保できるかというとそれも不透明だ。
供給量以外にも、家具に使える適正な樹齢のものが毎年安定して確保できるかというとそれも不透明だ。
国産材を使った家具の普及にむけて
「海外のデザイナーは日本メーカーのものづくりの丁寧さに必ずと言っていいほど驚きます。一方で、丁寧すぎるという指摘もあります。これについての正解は一つではなく、狙う市場と、そこに届ける価格帯や流通の設定があって、それらを満足させるのに必要十分な丁寧さは一体どの辺りなのか? というバランスの問題、それぞれの会社の事業戦略だと思います」と山崎さん。「むしろ難しいのは “国産の家具” “国産材を使った家具” という存在や意味を知ってもらうことだと感じています。この家具はどこで作られているのか? この木材はどこの国のものなのか? という問いかけがもっと一般的にならないだろうかと考えています。そのための情報発信やコミュニケーションにおいては、まだまだできることはありそうです」
「海外のデザイナーは日本メーカーのものづくりの丁寧さに必ずと言っていいほど驚きます。一方で、丁寧すぎるという指摘もあります。これについての正解は一つではなく、狙う市場と、そこに届ける価格帯や流通の設定があって、それらを満足させるのに必要十分な丁寧さは一体どの辺りなのか? というバランスの問題、それぞれの会社の事業戦略だと思います」と山崎さん。「むしろ難しいのは “国産の家具” “国産材を使った家具” という存在や意味を知ってもらうことだと感じています。この家具はどこで作られているのか? この木材はどこの国のものなのか? という問いかけがもっと一般的にならないだろうかと考えています。そのための情報発信やコミュニケーションにおいては、まだまだできることはありそうです」
国産材家具サミットに参加している企業は自社のショールームやショップをそれぞれの地元だけでなく東京にもかまえ、独自にイベントを行うなどこうした取り組みには積極的だ。もともと家具流通は地域の卸売業が強かったのだが、小売のあり方の変化とともに流通構造が崩れた経緯がある。メーカー自ら消費者へ情報発信することが求められる時代だ。「とはいえ、各社事情も異なり、広報の専任担当者を設置できている企業のほうが少ない」と山崎さん。国産材家具を広く知ってもらい、使ってもらうためには製品のデザインや品質と共に、ユーザーの関心を引き付ける “仕掛け” が求められている。
次の記事では国産材家具サミットに参加している企業の取り組みと、国産材を使った家具を紹介する。
参考資料:平成29年度森林・林業白書(林野庁)
平成29年度全国の土砂災害発生状況(国土交通省)
次の記事では国産材家具サミットに参加している企業の取り組みと、国産材を使った家具を紹介する。
参考資料:平成29年度森林・林業白書(林野庁)
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安藤貴昭建築設計事務所の安藤貴昭です。
この度は記事に弊社設計の「A-HOUSE」の写真を取り上げていただきありがとうございました。
私も家具だけでなく、建築本体にも出来るだけ国産の木材を使いたいと思っています。
houzzにも掲載している「上祖師谷ハット」では、柱や梁、フローリングのみならず、キッチンや本棚といった造作家具まで国産の杉を使い現場加工で作りました。竣工後5年経ちますが、今でも杉の香りが残っています。
今後は国産の広葉樹の活用にも取り組んでいきたいと思っています。
そのためにも森や林業についての勉強が必要ですね。
A=HOUSE
上祖師谷ハット
https://www.houzz.jp/pro/takaaki-ando